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天国のお土産  作者: トニー
第五章:王都と怪盗
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5-09. 義肢の取付と妙薬、なの

 カチカチ カチカチ

 クキッ


 キリキリ キリ


 カチャカチャ



 河童の肘、そして膝の先端に、それぞれの義肢が取り付けられていく。


 うーむ……

 これは……


 僕は、いいのかなー、と思いながら、ギークの目を通してその光景を眺めていた。

 義肢といっても、腕は人形劇に使う様な、掌や指先が球体関節である人形の腕だ。

 そして足は、いちおう先端にシューキーパ的なものが取り付けられてはいるものの、基幹ベースは単なる木の棒だった。防腐防水の加工で塗装はされているが、それだけだ。


「フゥ、他にはないかね? やれやれ、こんなに注文が細かい客は、ワシャ初めてじゃわい」


 河童の注文はギークが代弁したわけだが、こっちをもうちょっととか、補強がどうだとか、確かに色々と言っていた。木の棒は木の棒なので、取り付け方であるとかに関する注文の様だったが、なんにせよ色々注文を出して、その結果でこれであるから、まあこれでいいのだろう。

 いいのかな? どう見ても、これはアレなのだが……


(フレデリカ、後で軍手とワークパンツを買いに行くの)


 なんとなく、言ってみる。


(ああ、それはいいでありますね! 被り物は、へのへのもへじのズタ袋と麦わら帽子、或いはハロウィンカボチャの、どちらをご要望でありますか?)


 いや、なんだ……

 テンション高いな。うん。

 まあ、嬉しいのであろうな?


 よし、今日からフレデリカのことは、河童でなく、案山子と呼ぶことにしよう。

 河童案山子でも可。


 いっそのこと、マジで被り物かぶせようかな。

 その方が、組合とか、城門を出入りするときとかに、これは人形なのか、ナマモノなのかで、いちいち不審がられずに済むやもしれない。

 ああこれ、考えてみたら、悪くないアイディアな気がしてきた。


(ご主人様、ちなみに冗談でありますので、そのように考え込まれるのは心外であります)


 あら残念。悪くないアイディアな気がしてきたところだったのに。

 ……今後、何か機会があれば再度検討するとしよう。



 金銭がない。現在の所持金は空っぽを通り過ぎてマイナスだ。


 河童の義肢、製作を依頼した職人に約束した引き取り期日になってしまった。

 しかし、悪辣非道な教会の奸計に嵌ったために、手持ちは寂しい。

 やむなくナタリアから借金をすることになった次第である。


「すまないな、ナタリア。来月までには返せると思う」


 ギークの頼みに、ナタリアは実に気前よく金銭を貸してくれた。


「なに、全く構わんとも。無理に金銭という形で返してくれなくてよいぞ」


 体で返せと目が言っていたね。

 因みに、賭博の話はナタリアにはしていない。

 伏せるまでもなく、なんの追求もなくポンと貸してくれたので、余計なことを喋る必要がなかったのだ。

 もう、なんというか舌なめずりをするような感じだった。


「ミイ。わかっているだろうが……」


 ええ、はい、分かっております。

 ナタリアが借りを返せと言ってきた場合には、そうそう断れないですよね。

 分かっておりますとも。


 しかしなんだ、ギークは意外と義理堅いところがあるよな。これも師匠の薫陶かしら?

 義理堅いのはとても良いことだ。良い行いには良い報い、悪の行いには悪の報い。

 恩義を尊重してこそ因果応報の理も立つ。復讐仇討ちの名分も力を持つというものである。


(別に、今回のことがなくても、ナタリアには色々と借りがあるの。そもそも、Bランクハンターに「世話になっている」立場である以上、借り入れは嵩む一方なの。このままハンター稼業を続けるなら、はやくBランクにあがって、ナタリアと対等にならないといけないの)


 水は高いところから低いところに流れる。ナタリアの方が高ランクである以上、ナタリアからギークに恩を売るのは容易いことだ。そしてその逆が難しいのは自明である。

 組合からの情報は大抵ナタリアの耳に先に入るのだし、およそ何かあった際の融通もランクが高い者の方が効きやすいのだから。そして社会や組織における権能的な意味では、ギークにできることは大抵ナタリアにもできるわけで、つまりナタリアとハンターとして行動を共にしている状況では、受けた恩義の返済はどうしたって儘ならないということになる。


 そんな感じの熱弁を振るう。だから仕方ない。

 今はありがたく感謝しておくのが吉だ。


(博打で身を持ち崩して、それでお金銭を借りるというのは、なにかちょーっと、違う話であるかと、当機は愚考するのであります)


 ジト目な河童のツッコミはスルー。色即是空。

 なんのことか僕にはわかりません。言い包めようなんてしていません。


 職人に礼を言って、前金として支払済みだった分を差し引いた残金を支払う。

 この料金が適切なのかどうかは、僕には良く分からない。僕基準でいうと端金に思えてならないのだ。

 ギークに尋ねれば、師匠基準でいえば高すぎるが、悪徳爺基準だとちょっと高いものの王都ならこんなものか、というところのようだ。

 小銭でケチケチするのは好きじゃない。明らかに法外というのでなければ、別に良いだろう。

 そもそも定価なんてものがあるわけではないのだし。


 店を出て、次の目的地に向け、河童を乗せた車椅子を押してギークが移動する。

 僕は道案内。この先をー、しばらく道なりなのー。


 王都はさすが、出歩いている人が多い。

 こんな寒い日に、わざわざ外に出て、みんな一体何をしているのだろうか?

 モンスターの襲撃があったわけでもないのに、バタバタ駆け回っている人がいるのが僕には不思議だ。


 街中を進みながら、河童に尋ねる。


(で、義肢それの具合はどうなの?)


(現時点では、ただの木の棒であります。これから、脚部優先で侵食強化と増築のプロセスを開始するであります。申し訳ないでありますが、今しばらくは自立できないことをご容赦いただきたいであります)


 やっぱりなんだか、思っていたもの、期待していたものとは違うような気がしてならない。

 いや、義肢の話ではなく。まあ、実は薄々、そんな気はしていたのだけれど。


「どれくらい掛かるものだ? そのプロセスとやらには」


 プロセスねえ。プロセスと言えば、王都でプロセスチーズなるものが売っているのを見たよ。

 普通のチーズと何が違うのかと店員に尋ねたら、普通よりはるかに長持ちするものなのだそうだ。

 さすが王都というところか。珍しくて便利なものが色々と売っている。

 手持ちが乏しいせいで色々と買い込めないのが非常に不満だ。


(期間でありますか? 最低限で半年くらいかと思うであります。あ、でも魔素濃度の高い場所であれば、所要時間は短縮が可能であります)


 長いな! ギークならその間に小鬼から夜叉になれるぞ!


(フレデリカ、やっぱり妙薬でスパーンと治ったりは、しないものなの)


 僕が尋ねる。もともとは、河童の妙薬目当てでフレデリカの身代を確保した僕である。

 どうも、その点は期待外れな感が否めないのだが。


(妙薬……? 補修剤のことでありますか? 適切なものがあれば、それは機能回復までの時間短縮にはなると思うでありますが、即時性の高いものは基本的に応急措置向けでありますし、どちらにしても今はストックがないであります)


(……、……、その補修剤というものは、自分以外の、他人の、抉られた目の玉とかでも、復元できたりするものなの?)


(??? 補修剤は物品の修理に使うものであります。誰かの身体の欠損を補う用途では、使用できないであります)


 なにかこう、話がかみ合わない感じなのはもはや今更として、ダメっぽいな。

 まあね、<<収納>>便利だしね。今更期待外れだからじゃあさようならってつもりはないけどさ。


 きっと河童は河童でも、フレデリカは種類が違うんだろうな。

 というか今更だが、河童が銀魔法なんて言うギフトを使えるのは言うまでもなくおかしい。

 そして河童なら持っているはずの妙薬を持っていないということだと、つまり


(もしかして、フレデリカは河童ではないということなの?)

(ご主人様、意味不明であります。私は河童ではないと、以前にも申し上げたであります)


 ……、……、……。

 だからつまり、妙薬は妙薬で、もっと普通の河童を別に探せばよいのだ。そうしよう。

 妙薬を持っているのが河童。持っていないフレデリカはフレデリカ。

 というわけで、次の獲物は河童だな。河童はフレデリカに非ずだ。


 フレデリカはフレデリカですね。ええ、もう彼女は河童じゃありません。

 彼女はきっと河童を卒業したのです。

 実際の河童と紛らわしいし、今後河童と呼ぶのはやめておこう。

 その甲羅とか頭の皿っぽいのとかは、きっとファッションなのでしょう。

 変な趣味です。紛らわしいのでやめて欲しいですね。


 そんなことを考えながら、ギークを道案内。そして目的地に到着した。

 目的地は、王都狩人組合の本部である。建物は大き目だが、実にご立派とは、ちょっと言い難い。


 エデナーデは木造や総煉瓦造りの建物が多かったが、王都は石造りの建物が多い。

 どうもこの灰色というか、くすんだ色合いの建物は好きになれない僕である。

 味気ないというか、遺跡みたいと言うか。彩りが足りていないよね。


「ああ、丁度いいところで来たな」


 目的地にてナタリアと合流した。

 僕らは丁度いいところに来たらしい。何の話だ。


陰府シェオルだが、オレはともかくカニーファの挑戦については難色を示されてしまったよ。別に明確なルールがあるわけではないのだが、まあ確かにCランクが挑むような場所ではないからな」


 王都から北西に数日歩いた場所にも、陰府シェオルに至る廃坑があるということだった。

 廃坑と呼ばれているにもかかわらず、そこは霊鉄霊玉の主要な産出場所でもある。


 だから大抵の場所で、陰府シェオルに通じる廃坑は、領主の管理下に置かれている。

 勝手には入れない。無断で侵入するなら、盗掘者扱いで指名手配を受けてしまうそうだ。


 陰府シェオルに至る廃坑はモンスターの巣窟でもある。

 だから、必然に採掘を請け負うのもハンターということになる。

 少なくとも王都北西の廃坑については、王都の狩人組合本部が領主から管理を委託されていた。

 そして一定量の採掘ノルマを課せられている状況だということだった。


 よって、現在地から最寄りとなるそこに潜ろうと思えば、狩人組合の許可が必要となる。

 すぐに向かうかどうかはともかく、僕らがフレデリカの義肢を受け取りに行っている間、ひとまず許可を得るには何が必要かをナタリアが確かめておく手筈だったのだ。


「つまり、Bランク以上のハンターしか、廃坑には入れないというわけか」


 ナタリアからの報告を聞いて、ギークが言う。


「王都所属のCランクハンターであれば、それこそBランクが付き添えば、許可は下りるようだな」


 ナタリアが応える。なにそれ、差別じゃん。差別反対。


「しかしお前の場合は、港町モーソンの組合から、Bランク昇格試験を受ける目的で王都に来たという体裁だからな。堅実に実績を稼いで、昇格試験の受験資格を得ることこそを目指すべきじゃないのか、というのが組合の言い分だ」


 あら。


「まあ、建前だろうな。採れた霊鉄霊玉の類は全て組合に納品しなければならないルールなんだそうだが、余所に拠点がある無名ハンターに許可を出すと、持ち逃げしかねないと警戒されたようだ。似顔絵が各支部に回覧されるBランク以上と違って、Cランク以下のハンターの指名手配は難しいからな」


 おいおい、苦笑するしかないけち臭い理由だな。

 まあ、それはナタリアの推測なんだろうけれど、無根拠で言っているわけでもなさそうだった。


 さて別に、僕自身としては、陰府シェオルに急ぎの用事はない。

 ナタリアに借りが返せるなら、付き合うのも吝かではありません、くらいのモチベーションだ。


 組合がそういう立場であるなら、言う通りBランクになってからゆっくり挑めばいいだろう。

 逃げるものでもないのだろうし。


 それはともかく、僕は妙薬持ちの河童狩りに行きたいのですが。


「そこで、ここにいい依頼がある。王獣グリフォン狩り(ハント)だ。こいつを見事にこなせれば、Bランク昇格にむけた、王都での実績稼ぎとしては申し分あるまい」


 ナタリアさーん。僕の声を聴いて―。

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