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天国のお土産  作者: トニー
第五章:王都と怪盗
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5-07. 魔法のギフトとは、なの

 神は、愛する子等に、斯様に仰せられたそうである。


「復讐するは我にあり」


 悪を裁くのはわたしの仕事である。お前達は自らの敵を赦しなさい。

 あなたの下着を取ろうとする者には、上着をも取らせなさい。

 右の頬を打たれたならば左の頬も差し出しなさい。

 

 そうであれば、悔い改めぬ罪深きものには、神が人知を超えた苛烈な罰を課してくださいます。

 善行を積むあなたの寛大さは、彼の頭に燃え盛る炭火を積むことになるでしょう。


 ああ、神様ありがとう。私は悔い改めます。

 これからは怒りに囚われることなく、清く正しく生きていきます。


 呪詛諸毒薬じゅそしょどくやく 所欲害身者しょよくがいしんじゃ 念彼観音力ねんぴかんのんりき 還著於本人げんじゃくおほんにん

 或遇悪羅刹わくぐうあくらせつ 毒龍諸鬼等どくりゅうしょきとう 念彼観音力ねんぴかんのんりき 時悉不敢害じしつぶかんがい

 若悪獣圍繞にゃくあくじゅういにょう 利牙爪可怖りげそうかふ 念彼観音力ねんぴかんのんりき 疾走無邊方しつそうむへんぼう

 玩蛇及蝮蠍ぐゎんじゃきゅうふくかつ 気毒煙火燃けどくえんかねん 念彼観音力ねんぴかんのんりき 尋聲自回去じんじょうじえこ

 雲雷鼓掣電らんらいくせいでん 降雹濡大雨ごうばくじゅだいう 念彼観音力ねんぴかんのんりき 応時得消散おうじとくしょうさん

 衆生被困厄しゅうじょうひこんにゃく 無量苦逼身むりょうくひつしん 観音妙智力かんのんみょうちりき 能救世間苦のうくせけんく


 おしまい。





 しかし、思い出す。

 エデナーデの司祭や、侍祭のビッチーなクソどもは、ミアに何と言ったのか。

 神の愛から目を背けた、愚かな罪人め。

 汝は神の愛から離れたものである。


 奴らはそう、ミアを罵った。

 そして断罪したのだ。


 ならば僕は、我に復讐を任せよと説かれた愛し子に非ずだろう。

 故に、何事も自ずから為さねばならないはずだ。

 然らば須らく。目には目を、歯には歯を。


 十戒の八を破り、十を果たさぬ生臭共め。

 お前たちの金庫を空にして、かわりに石塊でも詰めてやろうか。


 ミアを見殺しにしくさった、無為無能な神に期待することなど何もない。

 僕が強烈無比にして、呵責容赦無しな劫罰を下してくれる。


 うふふふ、うふふふふふふ、、、


 罰であるからには、金額の問題ではないよね?

 奴等は僕の手持ちの現金をほぼ全部むしり取っていったのだし。

 まあそれは、自分から払ったものではあるのだが。


 関係ないね。ここで相応しきは割合換算さ。

 王都教会の金庫あらかたを頂戴するつもりで臨もう。

 くらえ因果応砲。エネルギーの充填はいつでも120パーセントだ。


 そうしてこれより、謎のレオタード美女三姉妹による怪盗奇譚が幕を開ける!

 ナタリアが色気担当の長女。ギークこと師匠が勝気美人の次女。

 河童がボーイッシュでファザコンな三女役ってことで良いかな? 三女役はテンテンの方がいいか?

 どっちにしても三女役がちまっこ過ぎるが、まあ時代の趨勢というやつでドンマイだよね。


(お館様の窮地を他所に、ご主人様が妄想の世界に逃げ込んでいる気がするのであります)


 河童にツッコミを食らう。

 なぜバレたし。


(なんのことなの? さっぱりなの。僕はこれからの行動計画を、まじめに練っていたの)


 換金失敗事件の後、ナタリアとは普通に合流できた。


「ああ、相方が迎えに来たようだな。助祭殿、悪いがこれで失礼させてもらう。これ以上何かあるなら組合の方に申し立てを願おうか」


 師匠の姿になって、河童を連れてコロシアムに向かったところ、何やら教会の関係者っぽいのと揉めていたようだったが、ギークの姿に気付いたナタリアがそう言って、


「ぐ、ロルバレンの小娘め。いいだろう、組合には正式にクレームを入れてやるからな。覚悟しておけ」


 助祭だという中年エロオヤジが、悔しそうにそんな捨て台詞を吐いたくらいで、すぐに解放された。

 どうやら事前に仕込んでおいたおまじない(・・・・・)が功を奏したものらしい。


「仕事という体裁にしておいたのは正解だったな。さもなくば面倒なことになっていたところだ」


 城外のいつものキャンプ地に行くぞとナタリアが言って、ギークが頷く。

 城門に向かって移動する途中、ナタリアがそう零した。


「火焔竜巻を巻き起こして大暴れしたと聞いたが? それでもお咎めなしで済んだのか」


 ギークが尋ねると、ナタリアが首を傾げた。


「なんのことだ? いくらオレでも、金属武器なしでそんな真似は出来んぞ?」


 やっぱりかよ。

 どういうことだ河童よ。


(火花の渦がくるくる回っていて綺麗だったのであります)


 わざとか? わざとだな?

 ええい! そこに直れ。そのカッパッパーな性根を叩き直してくれる!


「……、いや、なんでもない。無事でなによりだ。工作が役に立ったな」


 ナタリアにとって、ギークをコロシアムのトーナメントに参加させるのは、組合から請けた仕事だった。

 その体裁で、ナタリアに付き合ってもらった。


 正式な契約に基づく仕事であれば、何か揉めた場合に、狩人組合からの保護を受けられる。

 組合に仲裁や裁定を任せることができる。それを宛てにしての、一種の偽装工作であった。


 エロ助祭「なんで変装なんてしていたんだ! 怪しいぞ! ちょっと拷問されろ!」

 ナタリア「そういう依頼だったからだ。理由は特に聞いていない」

 エロ助祭「なんでそんな胡散臭い仕事を仲介したのか!」

 狩人組合「損害賠償請求のお申立てでしょうか? それでしたらひとまず被害額の算定をお願いいたします。お支払い前には当方でも査定を行わせていただくことになりますので、金額の根拠となる資料の提示をお願いいたします。金額の折り合いがつかない場合は裁判になります。裁判となる場合は慣例により……」

 エロ助祭「もう結構だ!」


 まあ、そんな感じだね。万が一のためのおまじない(・・・・・)だ。


 狩人組合へは、適当な浮浪者に小銭を渡して、代理で依頼をさせた。

 浮浪者に協力を依頼したのは悪徳爺フラッゲン姿のギーク。

 ついでに言うと、そうすればいいだろうという悪知恵も悪徳爺由来だ。

 呆れてしまう。


 雇った浮浪者が、初め依頼料を持ち逃げしようとしやがったから、<<地図>>で追跡して邪眼で拘束して、次にやったらどうなると思う? と脅しつける一幕があったりした。

 小水を漏らしやがったのと、そもそも組合に仕事を依頼する者にしては汚らしすぎたので、河童のストックから服を一式恵んであげた。

 感謝してほしいものだね。


 城外のキャンプに戻って、一息ついた。

 暖かい飲み物で喉を潤す。

 そうこうしているうちにテンテンが寄ってきてナタリアにじゃれつき出した。


「さてそれでは、話を聞かせてもらおうか。まずは、なぜ生きているのか、からだ」


 そして詰問が始まった。

 つまり、河童が言うお館様の窮地というのはそれのこと。ナタリアの追及に対する釈明である。

 状況証拠があって、そして嘘が付けないとなると、言い逃れるには限度があった。


「つまりお前は実は妖鬼デーモンオーガではなく、妖鬼と似たような能力を使うことができる夜叉ヤクシャだというのか。隠形を為す力や、死を回避する能力までもを保持しているというのだな?」


 ギークの方から積極的に情報の開示はしていない。

 よって、ナタリア側の解釈で、諸々すべてが、詳細不明なモンスターである夜叉の種族特性だと、最終的にはそのように理解されたようである。

 もうすこし掘り下げて来るかと思ったが、ギーク自身に対しての追及は存外軽く、そこで終わった。

 何故ならどちらかというと、


「そしてフレデリカは銀魔法、時空操作スペースタイム・マジックが使えるというのか」


 河童の<<収納>>に対する喰いつきの方が大きかったからである。


「俄かには信じ難い話だ。<<収納>>となると四段階目という話だが、大魔法使いマーリン以来ではないか」


 ナタリアも魔法使いだものね。

 魔法には人一倍の興味があるということなのでしょう。


「俺には良く分からんが、フレデリカが使えるのは銀魔法とは少し違うそうだぞ?」


 銀魔法というものとは、少し違うのであります。

 そんな河童の発言を受けて、ギークが言う。


「劣化版、若しくは機能特化版というところじゃないのか?」


 しかしこれにナタリアが疑義を呈する。


「機能特化版だと? そんなギフトがあるとは聞いたことがないな」


 赤魔法、炎熱操作(ヒート・マジック)

 黄魔法、振動操作バイブレーション・マジック

 青魔法、電撃操作スパーキング・マジック

 黒魔法、精神操作(マインド・マジック)

 白魔法、生命操作(ライフ・マジック)

 銀魔法、時空操作スペースタイム・マジック


 数多あるギフトの中でも高い知名度を誇り、それに反して希少さでも群を抜く。

 それが魔法・・と呼称される六種のギフト群である。


 他のギフトと何が違うのか。

 敢えて言うならば何も違いはしない。


 お互いに依存関係があるわけではなく、それぞれは完全に独立したギフトである。

 同類項で括られる理由も、魔法シリーズと呼ばれて特別扱いされる理由も、ギフトの側には何もない。


 六種いずれも、習熟するに従って性能だけでなく、発動形態のバリエーションが増えるギフトであるとされている。

 しかしその特徴は、例えば<<地図マッピング>>がそうであるし、別に魔法六種に限定された特質とは言えないだろう。


「銀魔法の場合、<<収納>>だけというのは成り立つまい。

 一段階目の<<走査>>で、亜空間に存在する事物を察知できるようになる。

 二段階目の<<接続>>で、亜空間に干渉できるようになる。

 三段階目の<<追放>>で、物品を亜空間に放り出すことができる」


 この六種だけに通用する特別な共通項は、結局は名称くらいなものである。

 それは呼ぶ側の都合だ。この六種のギフトは、つまりそう呼ばれたから魔法とされたのに過ぎない。

 だがそれでも、この六種のギフトは特別なのだ。


 かつて大魔法使いと呼ばれた人物がいたからだ。

 伝説上の人物。

 大魔法使いマーリン=アースべりア。


 この六種のギフトは、その人物が保有していたものとして広く知られている。

 六種の魔法が使えたから、マーリンは大魔導士だったわけではない。

 彼が大魔導士だったから、その彼が保有していたギフトが魔法だとされたのである。


 なお、マーリンは他に二種のギフトを保有していたとされている。

 しかしそちらには先に名前が付いていたので魔法とは呼ばれなかった。

 つまり魔法ギフトは、マーリンが最初に確認された保有者で、マーリンから始まったものである。


「そして四段階目の<<収納>>で、亜空間に物品を単に放り出すだけではなく、自在に出し入れすることが可能となる。一段階目から三段階目があってこその四段階目であって、四段階目が単独で成り立つわけはない」


 ナタリア、異常に詳しいな。

 僕もミアと一緒にギフト関連の書物は結構な量を読み漁ったけれども、そこまで具体的なことは書いてなかったぞ。

 なんでそんなことまで知っているのか。


 そして河童よ、そんなことはあり得ないとか突っ込まれたんだが、どういうことなのか説明せよ。


(ナタリア氏がいうものと、作用機序のレベルでの差異はないのであります。ただ、私の時空間干渉機能は、ナノマシン用に最適化チューニングされたものではないであります。だから私の収納を銀魔法ギフトと称するのは正確ではないということであります。別に特定機能に特化していると言う意味ではないのであります。むしろ銀魔法の方が最適化されている分、効率が良い反面で、脱獄ジェイルブレイクをしない限りは応用力には乏しくなるのであります)


 うん? うーん、分かんないような、分かんないな。

 正確には銀魔法ではないけれども、銀魔法と同じことができるということを言っているのかな?

 脱獄とか、どこから逃げるつもりだ。河童は囚人なのか?

 さては煙に巻いて誤魔化そうとしているな?


「悪いが良く分からん。とにかくその、亜空間? とやらに物を仕舞ったり出したりということができるらしい。今後、フレデリカを背負う時には、車椅子はそっちに収納してもらおうと思う」


 そう言って、ギークが車椅子に載っていた河童を背負う。

 それとほぼ同時に、さっきまで河童が載っていた車椅子が掻き消えるように無くなった。


「……見事なものだ。こうも当然のように使えるのであれば、いつか五段階目にも至れるかもしれないな」


 それを見て、ナタリアが感想を言う。


「五段階目に至れば、<<転移テレポート>>が使えるそうだ。任意の場所に、物品または自分自身を一瞬で運ぶことができるとされている。実現できればさぞかし便利だろうな」


 ああ、人類の夢のひとつですね。

 ドアを開ければ女の子が入浴中なのね。


(当然、今でもできるのであります。しかし今回、車椅子を運ぶのにそんな機能を使う必要はなかったであります)


 おい、ちょっと待てコラ。


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