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天国のお土産  作者: トニー
第五章:王都と怪盗
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5-06. あてが外れて金欠、なの

 胡散臭いストーカーをやり過ごしたので、ナタリアに合流しようかと思った。

 ナタリアのマーカーは未だコロシアムの中だ。


 負傷等はしていないようだが、河童の言をその通りに信じれば、火焔竜巻を纏って大暴れと言うことだったから、今頃やばいことになっていないとも限らない。

 あれでナタリアは強かなやり手ウーマンなので、そこまで致命的な状況にはなっていないだろうと思うのだが。

 だがしかし、その前に。


(とりあえず悪徳爺の姿で(このまま)コロシアムに向うの。賭札を換金するの)


 せっかく悪徳爺フラッゲンの姿になっている。換金を先に済ませておこう。

 コロシアムのトーナメント初日、ギークの五連勝一敗に有り金を張った賭札である。

 さすがに殺されるとまでは思わなかったが、賭けとしては見事の大当たり。

 これで暫くは、現金の心配は不要になるだろう。


「ナタリアとは合流しないのか?」


 ギークに尋ねられる。したいです? もちろんしますが。


(換金が終わってからでいいと思うの。ナタリアと合流したら、きっと身動きが取れなくなるの)


 諸々問い詰められるだろうことは間違いない。

 本日中は解放されないことまで懸念される。


 賭札の換金期限がいつまでなのか、そういえば確認を忘れていたけれど、どうあれ早いに越したことはないだろうと思う。

 とっとと済ませてしまおう。


(私はこの状態で待機していればよいでありますね? なるべく早く戻ってきてほしいのであります)


 木樽の中から河童が言う。

 師匠の姿の時と悪徳爺の時で、どちらの時でも河童を引き連れていては、師匠と悪徳爺の間に何らかの関係があるのがバレバレである。

 従って後者の時は、なるべく河童とは別行動を心掛けていた。


(了解なの。なるべく早く戻るの。あ、革袋を出してほしいの)

(承知したのであります。お館様、ちょっと失礼するのであります)


 ギークの右手前方の空間に、いつもの革袋がパッと出現した。

 出現直後から落下しようとするところを、ギークが掴んで肩に担ぐ。

 さあでは、いざ行かん。


 お金銭カネ~♪

 お金銭カネ~♪

 僕的には、それはもうあって当然のものだからね。

 ここ数日、懐が寂しくなってきていてえらくストレスだった。

 良さそうだと思ったものが売っているのに、買えないのだ! なんてこった!


「ミイ、うるさいぞ。少し黙れ」


 お金銭を讃える歌を即興で歌っていたら、ギークに窘められた。

 ブゥ。お金銭がガッポリなんだぞぅ? 浮かれて何が悪い!

 お金銭の価値をバカにするなー。


 換金が済んだら、どうしよう。

 もう河童の義肢も完成しているはずだから、受け取りにいきたいね。

 手持ちが心許なかったので、トーナメント最終日以降の引き取りとしておいたのだ。


 乏しくなってきた備蓄の諸々も補充したい。

 久しぶりに湯船に浸かる形のお風呂にも入りたいかな。

 主に僕の観賞用として、シルクの下着とかも購入しておきたいし。

 あとはねー、それからねー。


 ギークがそれを望むなら、金銭の一部を手形に換えて、モーソンの孤児院に送金してもいい。

 でも正直なところ、僕はあの孤児院にどこまでのことをしたらいいのか、見極めがついていない。そもそもギークがどう思っているのか、いまひとつ分からないのが困りどころ。

 その辺り、ギークは悪徳爺を取り込んで以降、ますます混沌として分かり辛くなった。


 ほわんほわんほわん。

 僕の脳裏にコミカルなギークが登場。


 天使な師匠が、ギークの左の耳から清らかな声で勧善を囁く。

 あ、やめて師匠。耳に息が、あんっ。


 しかし悪魔な悪徳爺、右の耳からドス黒い悪意を吹き込んでくる。

 ぎゃー、やめろぅ、ケガされるー!


 さて、僕のポジションはどこだろう。

 角の上かな?


 まあきっと、そんな綱引きが行われているに違いない。

 ギーク自身がもともと悪漢だから、そこに悪徳爺の悪影響が加わったことで、ギークの中で師匠由来の篤志が大変危うい状況と目されるわけだ。


 ギークの正体は鬼畜生だ。ミアを貪り喰らって殺した餓鬼の一匹だ。

 いつか葬るべきミアの仇。むしろ師匠の遺志を継いで、孤児たちに施しをとか、そんなことを言っていた状態が異常だったのだ。


 それだけ、師匠が偉大なる天使だったということであろう。

 しかしそれでも、二対一では分が悪いのに違いない。

 僕がなにか師匠の力になれればいいのだけれど。



 わー、わー、がやがや。


 コロシアムの窓口には、賭札交換の人だかりができていた。


 なんだコノヤロー! ふざけんじゃねぇぞテメー!

 どけコラ! ブッ殺す! おうゴラやってみィや! 死ねやワレ!


 なんだか怒号が飛び交ったり、喧嘩騒ぎが起きていたり。

 あたかも無法地帯の様相である。


 誰か行列整理とかしたらどうなんだ。

 面倒なので僕はご免だけれど。


「おい、これに並ぶのか?」


 やや辟易した体で、ギークが聞いてきた。うーん。

 並びたくはないけれど、並ばないとお金銭がもらえない。

 仕方ないです。お願いします。


(換金できたら、今日はごちそうにするの。ここは堪えどころなの)


 説得成功。

 とりあえず、それっぽいところに並んで順番を待つことにする。

 横入りが多いな! 腹立たしい。


 ギークは、基本的には僕の意向を尊重してくれている。

 文句はちょくちょく返ってくるが、相手にされないことは殆どない。

 何故だろう? 実はよくわからない。


 僕は、やりようによっては、きっとギークを殺せる。

 そのことはもうギークにもバレてしまっているだろう。

 しかしそれは即ち自殺にしかならない。言う事聞かないと自殺しちゃうぞ?

 いやいや、そんなことを恐れて、唯々諾々と従うキャラでもないだろう。


 俺様を誰だと思っている?

 知らねーよ。クズな横入り野郎だろ?


 目の前で横入りしてきたバカがいた。

 ギークはその襟首を引っ掴んで、後方に放り捨てた。


 ひっくり返った後で、血相を変えて詰め寄ってきたのを、ギークが眼光一閃に黙らせる。

 僕は別に邪眼なんて使っていない。使うまでもない。

 ギークの一睨みには十分な凄味と迫力がある。

 バカは真っ青な顔でへたりこんだ。


 イライラ。イライラ。

 行列が進まない。待たされるのは嫌いだ。慣れていない。

 貴族はこんな風に待たされたりは、滅多にはしないものだからだ。


 とりあえず落ち着こう。冷静に。

 深呼吸でもして、ちょっと別のことなどを考えようか。

 邪眼発動で目の前の人混みを全員金縛りにしてみるとか。


 呪詛諸毒薬、所欲害身者、念彼観音力、還著於本人。

 ひとーをー、のろはばー、あなー、ふたつー。


 別のことを考えよう。別のこと。

 そして僕はクラナスのことを思い返した。


 クラナスだ。クラナスはいい匂いがするのだ。

 僕は彼女が大好きだ。ミアももちろんクラナスが大好きだった。


 クラナスと最初に出会ったのは、ミアがまだ幼少の頃だった。

 七歳くらいの時だったと思う。たぶん、それくらいの頃だった。

 ミアのただ一人の理解者で、凛々しく美しく、優しい騎士。


 侍女を務めていたけれど、クラナスは騎士だった。

 僕は上級騎士だろうと予想していた。

 クラナスは自分の思い出話をしたがらなかった。

 それでも王立学校を主席で卒業したと聞いてはいた。

 何課程かは明言しなかったが、それは騎士課程に決まっているだろう。


 女の身で、王立学校を主席で卒業する。

 それはもうきっとすごい事のはずだ。正直ピンとはこないのだが。


 でも、クラナスは相当に強いのは確実だった。

 僕がギークの負けに張ったのは、別に八百長を狙ったからではないのだ。


 ミアがおねだりして、クラナスに模擬戦をお願いしたことがある。

 いつの事だったかは忘れたけれど、相手は若手の護衛騎士だった。

 歯牙にもかけない感じで軽くあしらっていたから、ミアが途中で止めた。

 相手を務めてもらった若者が、どうにも気の毒だったからだ。


 しかしそれでも、ギークならそれなりに粘るだろうと踏んでいた。

 それがまさかの瞬殺だった。

 盲目になってしまっているし、もしもの時はギークをこかそうとか考えていたのがバカみたいだ。


「そう言えば、あの女の<<破邪顕正(光ったの)>>が何なのか、お前は知っているのか?」


 ギークも退屈だったからだろうか、クラナスのことを考えていた模様。

 珍しく、気が合うじゃないか。


(聖騎士の固有ギフトなの。反則技(チート)なの)


 うみゅう、、、問い詰めたい。クラナスを問い詰めたい。

 どういうことなの。


 問い詰めようにも、<<地図>>上にクラナスのマーカがない。

 外されてしまったらしい。これもきっと、<<破邪顕正>>の効能のひとつだろうと予想される。


「聖騎士ってのは、、、ああ、強い騎士ってことか」


 どんな理解? ていうか、それどっちの知識?


(教会に素質と勲功の両方を認められた超エリートなの。聖騎士には三つの固有ギフトが授けられるの。<<破邪顕正>>はそのひとつなの。聖騎士にしか授与されないスペシャルなの)


 僕は人の名前を覚えるのが苦手。

 でも、聖騎士の名前は全部覚えている。そのハズだ。

 けれど、聖騎士の名簿にクラナスの名はなかったと思う。


 クラナスって、そうだとすると本名じゃないのかな。

 偽名だったのだとすると、ちょっと寂しい。


「どういう技だ?」

(光るの)


 聞かれたので、確定事項を即答した。


「……、……、それだけか?」

(違うと思うの。でも、光ること以外はよく知らないの)


 ああでも、<<地図>>のマーカが外されたことを考えると、解呪の力があるのも確定かな。

 ギークが呆れたようなジェスチャーをした。


「やれやれ、騎士についちゃあ、詳しいんじゃなかったのか?」


 ムウ。不愉快である。


(いろんな物語に出てくるギフトなの。でもその都度で効果だとされているものが全然違うの。負傷者を癒やしたり、結界を破ったり、呪いを解いたり、飛躍的に身体能力を向上させたり、モンスターを弱体化させたり、聖剣を造ったり、地獄の穴を塞いだりなの。どれが本当なのかさっぱりなの)


 いくら何でもその全部が真実だとは考え難いのだけれども、どの物語が誇張だとも言い難い。

 クラナスに尋ねたい。クラナスのバカ。クラナスのバカ。


「ほう、、、因みに他のふたつというのは?」

(<<天駆>>と<<天啓>>なの。<<天駆>>は空を飛べるの。<<天啓>>は<<直感>>のハイパーバージョンなの)


 <<直感>>と違い<<天啓>>の場合は、ふと脳裏に浮かんだアイディアというか、予感というかが、<<天啓>>によるものだということが分かるらしい。

 そしてその予感は外れないそうだ。


 攻略方法を考えなければならない身としては、たまったものではないね。

 どうやって裏をかいたらいいのか、皆目見当がつかない。


 そして無念だ。クラナスが聖騎士だと分かっていたら!

 抱っこしてもらって、空とか飛べたかも知れないのに。

 クラナスのバカーッ バカーッ バカーッ

 ふぅ。いや、いけないいけない。

 そうじゃない。


 ようやく順番が回ってきた。ギークが窓口に賭札を差し出す。

 札を確認した窓口の青年はえらく事務的な口調で、舐めたことを囀った。

 

「お支払いは出来かねますね。申し訳ございません」


 あ?

 何を言っているのかな?


 自分の内臓の色とかちょっと見てみたかったりとかするのかな?

 ちょっと大金だからって出し渋っていると、こっちから引きずり出しちゃうぞ?


 説明を求める。


「あちらの結果表にもあります通り、最終戦のエキシビジョンマッチは、勝者のコールがかかる前に、挑戦者であるハンターが退場してしまったことで無効試合、両者引き分けという判定になっております」


 そういって、別の場所に貼り出されていたトーナメントの対戦成績一覧を指さした。


「従ってオーガの戦績は最終戦、黒星ではありません。この札はハズレということになります」


 ふーん。

 ほー。

 そういうことをしますか。


 さすが背後に教会がいるだけのことはあるね。

 さすがだよ教会。教会さすがだよ。


 勝者コールされて初めて勝敗確定?

 そんなルールいつできたんだコラ。お前ら本当に毎試合そんなことやってたか?

 やってねえよな。そんなこと気にしてなかったけど、やってなかったと思うね。


 こっちが抗議する力もない庶民だからって調子くれてんじゃねえぞワレ。

 口ン中に指突っ込んで、奥歯ガタガタ言わしたろかコゾー。


 グルルルル。

 明らかに、どういう結果にしたら運営側の儲けが一番大きいかで、恣意的に勝敗を決めている。

 腐れ外道め。勝負事を穢す奴は悪だ。悪だよな? 許し難い悪逆無道である。


「だ、そうだが、どうする?」


 半眼のギークが小声で訊いてくる。

 意訳すれば、暴れるか? もとい暴れていいか? という問いだな。

 ゴーサインを出したいところだが、まあ落ち着け。暴れても意味があるとは思えない。


(ぬにゅぅ、いったん退くの。この事務員をどうしたところで、どうにかなるわけでは、ないの)


 もちろん許せないのだが、この事務の男が働いた悪事ということではないだろう。

 一旦は、引き下がろう。ここで騒いでも衛兵を呼ばれるだけだ。


 しかしここで入金がないとなると、手持ちの資金がだいぶ乏しい。

 参ったな。


投稿前の読み返しが追い付かなくなって来たのでペースダウンします。ごめんなさい。

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