表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天国のお土産  作者: トニー
第一章:クァボ男爵領の惨劇
10/160

1-09. 子熊、なの

 (ギーク! ダメっ、まつの!!)


 僕は叫ぶ。

 強権発動。今すぐ飛び掛かろうとしたんであろう足を止める。


 ガクンッ。急制動。

 あ、ちょっと足の筋とか痛い。


 「ギ、なんダ?! 食いものだゾ、喰わせろ!」


 わーい、ワイルド。

 もうちょっと気にすべきことがあるんでない?


 本能のままに、ナンでもカンでも咥えこもうとするの、ちょっとは控えてほしいです。

 慎みとかね、躊躇いの風情とかね、そういうものも大事なのです。


 そんなことばっかりじゃ何時かそのうち、デカすぎるモノを無理に呑み込もうとするあまり、いろんなところがブチブチッてイッちゃう日が来ますです。

 そんなことになっちゃったら、もう一生取り返しがつかないのですからね。


 (待つの。どう見てもあれは子熊なの。親が近くにいるはずなの!)


 親熊注意ー、熊はキケンー。


 小鬼ギークと熊とじゃどちらが強い?

 それはわかりませんが、餓鬼と熊なら、熊が勝つ。


 王都観光の時、コロシアムで戦わせるのを観た。

 齧りついた餓鬼を力任せに振りほどき、叩き潰していた。


 そこら中にモンスターの血が飛び散って、あまり上品とも趣味のいいイベントとも思えなかったが、どうしてか今王都では一番の人気興行だというから不思議だね。


 そんなわけで、熊は警戒すべき相手だろう。

 人間の大人の男性であっても、単純な腕力勝負じゃ、熊相手は分が悪かったりするらしいし。


 まして熊の上位種だというブラッディベアとか、その更に上位の鬼熊(オーガベアー)だとかになってくると、退治には騎士団が駆り出されて、凱旋パレードあげて帰ってくる類の相手になる。


 そんな相手が待ち構えているかもとなれば、条件反射で飛び掛かるのは迂闊に過ぎるというものだ。


 つかその無鉄砲さで、よくこれまで生き延びてこれたな。

 結局何歳(いくつ)なのか聞きそびれたままだけど。


 あ、いや駄目だったから、捕まって切り捨てられる破目になったのだっけね。


 「グゥ、ナンだ? 喰えないのか?! オレハ腹が減ったゾ!」


 この野郎。

 知ってるよそんなことは。

 不本意ながら同じ体なんだから。


 (そのうち何かは食わせてやるからッ。だからちょっとは堪えてほしいの!)


 脳裏に思い浮かべる《地図》の周辺探索で、付近をくまなくチェックする。


 チェックするが、不審なものは見つからない。

 うーむ、おかしい。


 子熊もまた、水を飲みに来たようだった。

 あんなにかわいいのに。

 あんな水飲んじゃだめだよー。体壊すよー。


 物陰から観察を続ける。

 ストーカーだね。子熊かわいいからね。危ないね。


 (尾行なの。バレないように、跡つけてほしいの)


 ひとしきり喉を潤して満足したのか、子熊が踵を返したのを見て、ギークに指示。

 ちょっと難易度高いか? がんばれ。


 子熊にマーキングを付けたから、周辺把握の範囲から外れない限り見失うことはない。

 ないんだけど、この周辺把握のレンジ、そこまで広範囲をカバーできるわけじゃない。ぼーっと突っ立ていたらあっさりと見逃してしまう。


 「ギィ、面倒ダ。なぜ今スグ喰わない」


 一応、指示には従ってくれるようだが、とにかく不満らしい。

 考え方が刹那的過ぎると思うの。


 寝床云々の会話の時には、いちおう何か考える頭はあるんだなと見直したんだけどなー。

 何だろうこのちぐはぐさ。


 まあどっちにしろ、食いものが思考の中心に居座って、不動な感じなのは変わってないけどね。


 (親熊の元に帰るんだと思うから)


 (親熊をマーキングできれば、そこから先はすごく楽になるの)


 情報を制する者はチートなんだぜ。

 チートしたいだろ? しようぜチート。


 跡をつける。

 跡をつける。


 尾行。

 ストーキング。


 こそこそ?

 いや、擬音としてもう普通にザクザクだしガサガサだし、こいつ(ギーク)隠れる気ないだろ。

 へたくそ過ぎるわー、このド素人めー。


 子熊はやはり時折、こちらの方を気にして振り返ってくる。

 そうだよね、気になるよね。気にしないで。


 うん、気にしないで。


 ああ、子熊かわいい。

 これはもう見逃すしかないんじゃなかろうか。


 お腹は確かにペコペコですが。

 別にかわいいこの子熊ちゃんじゃなくったってー。


 下草を掻き分けて、跡をつける。

 そして洞穴発見。あーあ。


 巣穴かな。巣穴だよね。

 木立の根元に、黒い穴がぽっかりと。


 子熊は、一拍立ち止まってから周囲をきょろきょろ。

 そして駆け足気味に、暗がりへと姿を眩ました。


 木の陰に身を潜めつつその姿を見送って、それから洞穴へとゆっくり近寄る。

 親熊、気配なし。はて、なぜに?


 「ココ、寝床にスルか? 中々、イイ場所だ」


 なるほどそうね。

 まあ、親熊がいないのならね。


 うーん。

 とりあえず、奥へ、踏み入ってみますか?

[INFO] 地図(ギフト)に、マーキング(子熊)を追加しました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ