第1話「ノクターン・インターン」
プロローグ
まず最初に読者諸氏には断わっておこう。この物語にドラゴンなどの数多のモンスター、未知のダンジョン、幻の財宝を求めて剣士や武道家や僧侶がひしめき合う世界、そういったものを期待するなら別の物語を探すことをオススメする。この物語の舞台は、あなたの住むこの世界とほとんど変わらない科学文明の世界の中に、ほんのちょっと魔法が混在する魔法科学文明の世界である。
ガスや電気の代わりに魔法が使われているだけで、朝ごはんの風景やメニューはあなたの家とそう変わらないだろう。学生は普通に授業を受け、部活に汗を流し、卒業したら働く。ただし、科目の中には魔法の基礎を学ぶものが存在する。サラリーマンもOLも専業主婦も、こちらとほとんど変わらない。大きく違うとすれば、空には箒や絨毯が激しく往来していることくらいだが、これもバイクや車が置き換わったものと思ってほしい(当然、この手の飛行魔法にはそれぞれ免許が必要であり、こちらと似たような法律が存在する)。
さらに言えばこの物語の主人公は、世界を救う勇者や、きらびやかなドレスを翻す魔法少女などではない。中小企業で働く平凡な魔法OLが、再開発を巡る陰謀から下町を守るために奮闘するという、魔法バトルファンタジーとしてはごくごくありふれた設定だろう。もしそれでも興味をお持ちなら、まずは彼女の大学・就活時代から話を始めよう…
1
「…つまり、今の魔法時代の最も偉大な発明は『株式魔法』であると言えます」
郊外のある大学の講義室で、老教授のか細い声が昼下がりの陽気に消え入る。10人ほどしかいない学生達の中で、ある者は机の下のゲームに余念がなく、ある者はスヤスヤと眠っている。
「人々は魔力を魔法企業に提供する。魔法企業は新たな魔法グッズの開発に力を注ぎ、そのうちの一部を"株主"たちに優先的に"配当"することで魔法を発展させてきたわけで…つまり…」
老教授の言葉に合せて魔法で空中に浮いたペンがホワイトボードの上を走るが、この魔法は持ち主の筆跡を正確に再現するため、教授のクセの強い文字はほとんど古代文字か魔法陣のようだった。この退屈な授業は学生達にとってはまるで"時間を遅らせる魔法"に感じられた。
「誰だよ、基礎魔法史なんか取ろうって言ったの」
「今時あのくらい小学生でも常識だぜ」
一部の学生たちがこれみよがしに呟いたが、老教授は何の反応もせず話を続ける。注意するほどの情熱もないのか、あるいは本当に聞こえていないのか。
「インターンに行ってるサキが羨ましいぜ…今頃新しい魔法グッズでも作らせてもらってるかもな」
2
魔法都市トーキョー。
科学と魔法の融合した世界にあって、より独創的に進化した摩天楼。超高層ビルの合間を縫うように絨毯や箒が飛び交い、人々は慌ただしく移動し続けている。
そしてその片隅、前時代の遺物を色濃く残す経済特区、通称シタマチ。路地の片隅にある駄菓子屋では、小さな子供たちが魔法のカードゲームに興じている。ある子供が机の上にカードを出すと身長10cmくらいの「ウォリアー」が現れ、同じく10cmくらいの「突撃イノシシ」をオノで叩き斬った。机の上の”戦場”を除けば、ごくごく平和なシタマチの昼下がりだ。
「学生!!クレーム品の処理しとけっつったろ!?」
その平和を切り裂くように、野太い男の声がシタマチ中に響き渡った。
「すみませ~ん!!」
小さなオフィスビルの中を、中学生と間違えられてもおかしくない小柄な女性が慌ただしく走り回る。女性が小瓶を手に取り、魔力を込めて蓋を開けると、瓶の口から小さな火がついた。
「『火打瓶』…最も簡単な炎魔法の一種で、燃焼能力は低いものの一部のスモーカーにコアなファンを持つ逸品…」
女性は瓶を机に置くとメモを取った。
「開けるな!!」
「!?」
もう一度男の声が響いた時には、瓶から出た大量の煙がオフィス内を覆った。たちまち火災報知器が作動し、魔法スプリンクラーから発せられた水が今度はオフィス中を水浸しにする。
「クレーム品ってことは、欠陥商品だと…ちょっと考えりゃわかるだろ!!」
「ごめんなさ~い!!」
この女性、赤坂サキは魔法企業「まほうカンパニー㈱」にインターンシップ参加している大学生。月並みの魔力しか持たず、特別優れた魔法を持っているわけでもない、どこにでもいる若者。中学生ほどの低身長にコンプレックスを持つが、交友関係は割と広い(もっとも、友人からは小動物と認識されているのかもしれないが)。
「ここの掃除は全部やっとけよ!!」
サキの教育係、靖国カオル(通称ヤス)が再度怒鳴った。まるでヤクザのような容姿とケンカっ早い性格を持ちながら、まほうカンパニー㈱の営業部長。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
サキは慌てて周りの机を拭き始めた。
「気にしないで。ヤスさんはちょっと言い過ぎるから…」
同僚の北大路キヨシが爽やかに指を振ると、サキの目の前にハンディ掃除機が現れた。サキ曰く、少女漫画からそのまま飛びだしてきたような、絵に書いたようなイケメンに、サキの心がときめかない筈もなかった。
「あ、ありがとうございます!!」
サキは掃除機を取ろうとしたが、すぐに目の前から消えてしまった。
「余計な手助けはするな」
今度は靖国が魔法で掃除機を消したらしい。
「外回りだ、行くぞ北大路」
「ごめんね、頑張ってね」
靖国とともに去り行く北大路が指を振ると、サキの手の中に何かが握られた。
「赤坂さん」
「ふぇっ!?」
惚けていたところに不意に後ろから声をかけられ、サキは驚いた。そこには経理担当の女性社員、水戸シズカが不機嫌そうに立っていた。サキ曰く、いわゆるインテリメガネのキツそうな先輩。
「せっかく作っていた株主優待券が水浸しだわ。これ作り直してね」
水戸はくしゃくしゃになった紙の束を渡した。
「優待券…こんなに?」
「大事な新製品のサンプルよ」
シズカはすたすたと立ち去る。
3
その晩
シャワーを浴びているサキの指にはお気に入りの魔法の指輪が光っている。まほうカンパニー㈱製の魔法グッズの一つで、魔力を込めると指輪からシャンプーが出てくる魔法『泡天国』(ヤス命名)が使えるのだ。サキはこの魔法を気に入っているが、このシャンプーには特別な効能があるわけでもなく、ネーミングのせいもあり売上はイマイチである。
〔今日も怒られちゃった…会社ってムズカシイ〕
サキが湯船に浸かりながら呟くと、『無料通信魔法MIND』によって親しい友人たちにメッセージが伝わった。『短文投稿魔法』と人気を二分する若者のコミュニケーションテレパシーツールである。
〔サキらしくないよ、元気出して〕
何人かの友人からのメッセージが帰ってくる。
〔なんでそんなに厳しい会社にしたの?〕
〔それが…トーキョー魔法ツリーから徒歩3分のアットホームな会社って聞いてたんだけど〕
〔アットホーム通り越してすでに社蓄じゃんよ〕
〔魔法ツリーは結局近すぎてよく見えないし…〕
〔早めに飛行免許を取るんだな。絨毯サイコー〕
〔インターン終わったらみんなでドライブ行こうよ〕
〔お、いいね〕
友人達は盛り上がるが、サキはそんな気分ではなかった。サキは黙って風呂から出た。
「あ、そういえば…」
ベッドに横になったサキは北大路からもらった紙を広げると、そこには北大路のMINDアカウントが記されていた。
「うぅ…感激…」
〔えっと…今日はすみませんでした。明日から頑張ります〕
サキのメッセージが新たな宛先に向けて発信される。
ほぼ直後、サキの目の前に可愛い熊の立体映像が現れ、両手で大きな丸を作った。
4
数日後
〔さて、今日のサキは何をやらかしたかな?〕
友人の誰かが呟く。
〔残念、これからデートなの〕
仕事終わりながらいつもより念入りにお洒落をしたサキは駅前で北大路を待っていた。
〔何てこった、明日は飴が降るぜ〕
「ごめんね、待った?」
そこに北大路が現れた。
「いえ、だ、大丈夫です」
言葉とは裏腹に、サキはガチガチに緊張している。
「それじゃ、行こうか」
北大路は自然にサキの手を取る。
「あ!?」緊張したサキは誤って『泡天国』のシャンプーを出してしまい、二人の手は泡に包まれた。
「すみません、変な意味じゃなくて!!」
サキは慌てて指輪をポケットにしまった。
「…それ、基本設計は僕がやったんだよ。ちょっと懐かしいな」
北大路は爽やかな笑顔を見せながらハンカチで手を拭き、もう一枚取り出してサキに渡した。
「北大路先輩…カッコよすぎる」
摩天楼トーキョーの中でも一際高くそびえ立つ魔法電波塔、トーキョー魔法ツリーの展望レストランに二人はやってきた。
「こんな高級そうな所…私初めてで…」
「気にしないで…先行投資さ。輝かしい将来の大魔女への、ね」
北大路はサキをエスコートし、席につかせる。
「良かった、元気になったみたいで」
料理を食べながら北大路が笑いかけた。
「あ、いえ…(完全に先輩のおかげですけど)」
サキはまた緊張した。
「ちょっと刺激は強いけどね、やりがいある仕事場だよ」
「はい、私もそう思います。私の父もシタマチの小さな魔法会社をやってたんですが、何だか似てるんです」
サキは少し俯いた。
「お父さんは、今…?」
北大路が遠慮がちに聞く。
「昔事故で亡くなりました。魔法の合成に失敗しちゃって…」
「…ごめんね、変なことを聞いてしまって」
サキの言葉を北大路が遮ろうとした。
「でも私、今でも父を誇りに思っています」
サキは力強く言い、『泡天国』の指輪を取り出した。
「この魔法、何だか父を思い出すんです。小さい頃に父に頭を洗ってもらった記憶…?」
サキはかすかに目眩がするのを感じた。
「大丈夫?やっぱり疲れてるんじゃ…」
北大路の言葉はサキの耳には最後まで届かず、意識が遠のいていく…
5
「…あれ?」
サキが次に目を覚ましたのは真夜中のまほうカンパニー㈱のオフィス内だった。
「何でここに…?」
サキが辺りを見回した。数日間のインターンシップとはいえもはや見慣れた職場だったが、これほどの静寂は初めてだった。
「何だ、起きちゃったんだ」
そこに北大路が現れる。
「先輩…?」
サキは北大路の違和感に気づき、少しこわばった。
「…できれば手荒にはしたくなかったんだけど」
北大路が指を振ると、どこからか現れたロープがサキの両手を背中で縛った。
「え、なに!?」
「シナリオに大きな変更はない…インターンの学生がイジメに耐え兼ね、自ら会社を爆破して報復、とね」
北大路がニヤリと笑った。
「そんな、何でこんな!?」
サキは必死に身をよじったが、ロープは外れない。
「冥土の土産に教えてあげよう。僕は元々ここの社員ではない」
北大路がサキを見下ろした。
「まさか…産業スパイ、とか…?」
「こんな会社にスパイする価値なんかないさ。僕はある組織の依頼で、シタマチの中小企業を潰すために潜入していたのさ」
北大路の笑顔はだんだん醜悪になっていく。
「そんな…」
「信頼を得るための潜入も結構長かったな…筋肉バカのご機嫌を取ったり、三流学生のために優しい先輩を演じたり…だがそれももう終わりだ」
北大路は踵を返し、出口に向かう。
「どうしよう…そうだ!!」
サキは必死に身をよじり、ポケットの中に『火打瓶』が入っているのに気づいた。
「これでロープを…!?」
サキは何とか指だけで瓶を開けたが、瓶からは大量の煙が噴き出てくる。
「これ、不良品!!」
サキは驚いた拍子に、同じポケットに入っていた『泡天国』のシャンプーも出してしまう。するとシャンプーでロープが緩み、サキは解放された。
「お前、何をした!?」
北大路も異変に気付いた時には辺り一面煙に包まれていた。しかし次の瞬間には魔法スプリンクラーが作動し、辺りの煙がかき消されていく。
「大人しくしててくれれば、楽になれたものを…」
北大路は激しくサキを睨み、ゆっくりと歩み寄った。
「誰か…助けて…!!」サキが呟いた。
「言っておくがテレパシーは無意味だ。君も学生なら、カンニング防止用の妨害結界を知っているはずだ」
北大路がさらに近づく。
「何かないかな…?」サキは慌ててポケットの中を探った。
「手が自由に?…シャンプー?」
北大路はサキの後方の壁に手を突き出し、顔をぐっと近づけた。ほんの数時間前なら、サキにとっては至福の胸きゅんイベントだったかもしれない。しかし今の北大路は明らかにサキの敵だ。
「そうだ、思い出した…ずいぶん前のターゲットに赤坂魔法堂とか言うのがあったな」
北大路は醜悪な笑顔を見せつける。
「お父さんの…会社!?」
「あそこは社長も社員もバカだったから、ずいぶんやりやすかった。お前も確か会ったことがあるが、まぁ覚えていないだろう…今のオレは整形魔法で全く別人だからな。ちなみにその『泡天国』は、お前の親父が作りかけてたアイデアをいただいたものさ」
「そんな…!!」
サキは怒りと悲しみを込めて北大路を睨み返す。
「ま、バカの作ってた製品は所詮たいして売れなかったがな」
「許せない…!!」
サキは必死にポケットの中を探る。
「だったらどうする?」
「…これよ!!」
サキはポケットから新たに作った株主優待券を取り出した。魔法株主には定期的に、新魔法のサンプルなどが優待券として届けられるのだ。
「知ってるさ…今年の優待券は『果物を瞬時にフレッシュジュースにする魔法』のサンプルだろう?人体には無害だ」
「…!!」
「しかも…字が違っている。やはりバカの娘か」
北大路は紙面に書いてある文字が"優待剣"になっていることに気づいた。
「ジュースでも何でもいい…あなただけは許せない!!」
サキが優待券に魔力を込めると強い魔法の光が放たれた。
「何だ!?」
北大路は慌ててサキを解放し、後退りする。
「え、これって…?」
光が治まった時サキの手にはただの紙切れではなく、まさしく"優待剣"と呼ぶべき剣が握られていた。
「バカな…あんな魔法グッズ、この会社にはないはずだ!?」
北大路が初めてたじろいだ。この魔法科学文明世界においても、”剣”などというものは明らかに異分子だった。
「これならひょっとして…!!」
サキは優待剣を握りしめたが、全身が緊張で震えていた。
「ははっ…どんなに優れた武器だとしても、使い手がお前じゃ無意味だな。それでフルーツを刻むつもりか?」
北大路は冷静さを取り戻し、剣の間合いを確認しながら様子を見ている。
「お願い、何でもいいから力を貸して…!!」
サキが優待剣にもう一度魔力を込めると、剣の先から大量のシャンプーが吹き出した。
「何っ!?」北大路は不意に全身にシャンプーを浴び、目にシャンプーがしみてしまった。
「これって…!?」
サキは床に投げ出された『泡天国』の指輪が魔力で光っているのに気づいてはいない。
「妙な真似を…!!」
北大路はサキに向かって行こうとするが、スプリンクラーの水と大量のシャンプーで足を滑らせた。
「しまっ…!?」
北大路は机の角に頭をぶつけ、そのまま動かなくなった。
「け、け、結果オーライ…!!」
サキはその場にへたり込み、そして優待剣はいつの間にか消え去った。
〔えぇ、どうやら失敗したようです〕
まほうカンパニー㈱の近くのビルの屋上から、全てを見ていた1人の女性。
〔使えないやつだ…〕
テレパシーの話し相手は男性らしい。
〔興味深いことに、特殊な魔法の波動をキャッチしました〕
女性の持つ端末からデータが送られる。端末の待機画面には「hedge fund」と書かれたマークが浮かんでいる。
〔禁術…シタマチの一企業に?〕
男性は送られたデータに目を通す。
〔案外、本業より儲けられるかもしれませんよ?〕
間もなく空からパトジュー(パトロール絨毯)が集まってきたため、女性はその場から一瞬で消えた。
6
翌日だけは、いつもの講義室に退屈な空気は流れていなかった。
「昨日サキがお手柄だったらしいよ」
女学生の持つ情報端末には、インターネット情報サイト"mahoo!"のニュースが映し出されていた。
「どうかな…偶然が重なっただけじゃねーの?」
別の学生の呟きは確かに的を得ていた。ただしニュースの内容はサキが会社に居残り中にボヤを防いだことになっており、北大路のことは全く触れられていなかった。
「あー…君たちの学友から少々活躍した者が出たようだが、決して真似をしないように」
「!?」
老教授は初めて授業以外のことを話し、学生たちは驚いた。
「今この世界にある魔法のほとんどは、人を傷つけないように設計されている。あるいは免許が必要だったり…しかし時に強力過ぎ、悪意ある者なら人を傷つけることも可能な魔法、いわゆる禁術も存在するわけで…」
老教授は躊躇しながら説明しているようだった。
「…つまり、そういう悪意ある者がいる、と?」
サキの友人グループから離れて一人で座っていた女学生が手を挙げて質問した。これもこの教室では初めての出来事だ。
「いや、そういう可能性の話をしたまでで…しかし、魔法犯罪を犯す者というものは、どこにでもいるわけで…」
老教授の声はどんどん小さくなる。
「そうですね。どこにいるかわかりませんね」
女学生は席に座り、小型端末を取り出した。
〔たとえば、こんなところにね…〕
昨晩と同じく、端末の画面には「hedge fund」のマークが浮かんでいる。
〔…大人をからかうものではない。我らの存在は極秘だ〕
昨晩の話し相手はいつも通り教壇に立ち、表面上は退屈な基礎魔法学の授業を行いながら、秘密の専用テレパシーで会話を続けていた…
7
時は流れ…大学を卒業したサキは朝の支度をしている。今日からまほうカンパニー(株)の正社員。心踊るサキが指を振ると、新たなお気に入り魔法『朝一絞』が机の上のフルーツをジュースに変えた。
あの一件で『泡天国』は一時的に知名度が上がったが、「ネーミングが悪い」「子供が真似をして困る」と保護者団体からの抗議が殺到し、販売を終了した。それ以降の商品も泣かず飛ばずだったが、サキはまほうカンパニー(株)を誇りに思っていた。
「私が…シタマチの中小企業に一花咲かせてみせる!!」
サキはジュースを一気に飲み干すと、元気よく家を出た。
〔社会人一日目、行ってきます!!〕
エピローグ
いかがだっただろうか、魔法OLサキの物語は。しかし残念なことに、この物語はこれから始まると言っても過言ではない。なにしろ厳密に言えば、最後の最後を除けばサキは「魔法OL」ではなく「魔法就活生」に過ぎないからだ。強いて言えば、サキには”秘密の禁術”が宿っているのだが、これの詳細についてはまたの機会に。
もしあなたがこの続きを読むことを望むなら、近い将来またお目にかかろう。繰り返すようだが、この物語には世界征服を狙う魔王も、伝説の武器も、血湧き肉躍る大冒険もないだろう。代りに出てくるのは、シタマチを狙う謎の再開発事業団や、オリンピック誘致を目指すトーキョー都知事や、ゆとり世代まっしぐらの新米魔法OLくらいのものだ。きっと次もごくごくありふれた平和な物語が待っているに違いない…