非正規戦
デ、データが消えてしまった……、再構築に時間がかかりました。すみません。しかもかなり駆け足で分かりにくいです。
『こちら第一小隊おくれ』
「こちら第七小隊、どうした?」
『後方車より右側に多数の黒煙を確認。距離はあるがおそらく戦闘によるものと思われる』
「ふむ……、地図によるとそこには街と砦があるらしい。スタイリシュアかアルタクルスのどちらかに攻められているのかもしれないな」
「おそらくアルタクルスでしょう。あの位置からすればスタイリシュアが落とす戦略的価値は無いですから」
「だとさ、神木」
『なるほど、なら一応後方の警戒を強めよう。とはいえアシュリード君達が行動を一緒にしてくれるお陰で随分行動が楽になったな』
「ああ、現地の情報に戦況、2ヶ国の動きを予想できるからな。できれば巻き込まれたく無い」
俺はそう言って双眼鏡を覗く。今の所問題は無い、が油断はできない。車隊の先頭を走る上異世界である、何が起こるか予測できない。しかもこの車両にはアシュリード達異世界で初めてできた友であり仲間の彼らが乗車している。彼らを傷つける訳にはいかない。
『しかしまあ、案外海自達のいる海の場所が近かったのが意外だったな』
「そうだね、あと2日掛かると考えてたけど実質1日弱程度だったからね。しかも地図のお陰で最短経路も確認できた」
『まあ山越えがあるがな』
「仕方ないさ、どのルートを使ってもあの山は越えなきゃならないんだから」
あの山とは魔の森手前南側にある『ステラス山脈』の事で高さはそれなりに高いが街道は整備されており、まず目指している辺境伯領まではほぼ一本道だ。まあ定番の魔物達が道中出るが(すでにもう出た)ロクヨンでも十二分に撃退でき、それ以前にアシュリード達が強いのであっという間に殲滅されている。つまり戦闘とはそれぐらいしか起きていないが今は戦時中だ、治安は悪化し魔物の討伐は冒険者組合主導で行われているが冒険者の大半が防衛戦争に参加している為全体的にその量は増えてきている。まして盗賊や軍と遭遇する可能性もあり得るのだ。
「大空隊長、ちょっと賑やかすぎやしませんか?」
「まあいいんじゃないのとっつぁん?見張り除いた5人(栗原、柊、アシュリード、シア、ミオ)は相変わらず暇なんだから」
「まあ……そうですかね……?」
「しんみりと重い空気よりは随分マシだよ」
俺は振り返りながら言う。が、そこにいたのは柳准尉ではなかった。柊ニ曹だったのである。
「隊長」
「え?あ、はい」
「隊長もやりませんか?私は絶対負けませんよ!」
「いや……、見張りがあるし…」
「残念です……」
俺が断ると柊がシュンとしたので何故か正しい筈の俺がここでは悪者かの様な目で見られる。
なあ、これは俺が悪いのか?俺が?
心の中でそう呟きながら俺は『ノート』を開く。
決して逃げた訳ではないぞ、決して。
俺は『ノート』に書き込まれている文字を読む。そこには日本語でも英語でもない言語の文字と下に訳の日本語が綴られている。そう何故か言葉は日本語で通じるのに言語の文字だけは全くの別物だったのだ。よって俺達は全くと言っていいほど地図に書いてある地名が読めなかった。
「隊長〜、俺もトランプがしたいっす」
「前も聞いたなソレ、諦めろ。休憩の時はして良いから」
「ええ〜」
「ごねるな。いい年して」
「まだ隊長より若い21っすよ?まだまだ若いっす」
「比企谷ニ曹、それでももう成人だぞ?」
比企谷はまだ拗ねているがしっかり運転している事よりただ単に暇潰しに気晴らしがしたかっただけらしい。なんかいい様に使われた様な気がしないでもないが、
「ん?前方、煙を確認。これは……砂煙か?」
『こちら第一小隊、確認した。おそらくこれは……』
「騎馬が走る際に立つ砂煙と考えるのが妥当かな?」
神木の言葉をアシュリードが継ぐ。トランプをしていた筈の彼もまた双眼鏡を覗きながら
丘の先に立つ砂煙を確認する。
「総員警戒、LAVはキャリバーをいつでも撃てるように装填しておけ。比企谷」
「なんすか?」
「丘ギリギリまで行ったら止めろ。偵察に行く」
「了解っす」
「アシュリード君」
「はい、なんでしょう?」
「アレが軍の可能性は?」
「あり得ます、が治安が悪化しつつあるので盗賊団や傭兵崩れの可能性も否定出来ませんね」
「なるほど、分かりました」
俺は64式小銃の薬室の銃弾を送り込み安全装置を掛け直す。装填された弾丸は実弾、引き金を引けば7.62×51㎜の弾丸が射程400メートルを一瞬で走破し敵を殺害する。
「隊長、着きました」
「分かった。総員対地対空警戒を厳とせよ。偵察に行く、援護してくれ」
『了解』
俺は扉を開け外に降りる。丘の頂上に伏せ俺は望遠鏡を覗いた。
◆◇◆◇◆◇◆
「これは……酷い」
丘の先、距離にして約200メートル先には馬車の集団があった。馬車約3両に護衛と考えられる集団が4つある、が相手は馬に乗った騎馬隊30騎と歩兵20であっという間に蹂躙され結果は見るまでも無く明らかだ。しかもその内の1台は2台を棄てて1組の護衛を連れて逃走し残された3組の護衛集団も壊走を始めたのだ。
「まずいな、あのままじゃ背後からグサリだ」
「あの馬車は……まさか⁈」
呟く俺の隣で望遠鏡を覗いていたシアが驚きの声を上げる。それにアシュリードも双眼鏡を向け舌打ちをした。
「くそっ、あれは奴隷商の馬車だ。ノアニール・マグナ領内は奴隷売買禁止の筈、混乱に乗じた人攫いか⁉︎」
「なに⁉︎奴隷商だって?」
「はい、おそらく3代目の馬車は奴隷の輸送馬車です。何年か前まで奴隷売買が禁止されてなかった頃に見た事があるので間違いないかと、こんな堂々と領内を移動してるなんて⁉︎」
シアとアシュリードは拳を地面に打ち付ける。
「オオゾラさん‼︎あのままではおそらく攫われた人達が危険です。救出に力を貸してください‼︎」
「分かってる。神木‼︎聞いたな?」
『無論だ。奴隷売買なんざ許される事なんかじゃない、いつでもいけるぞ』
「分かった。とっつぁん」
『了解です。小銃突撃後LAVによるキャリバーの十字砲火を具申します』
「採用!総員戦闘用意‼︎」
『『了解!』』
「アシュリード君、シアさん早くHNVへ‼︎突撃します」
俺は2人を急かすが2人はこちらを向きお辞儀する。
「ありがとうございます」
「構わない、仲間の頼みなんだから」
「……ありがとう」
そう言って俺達はHNVに乗り込む。俺はすぐに無線のスイッチを入れた。
「総員聞け、これより前方約200メートル先にいる奴隷商の馬車を襲撃する敵性勢力を殲滅、排除する。
今から言う事はおそらく君達には許容できないかもしれない。だが聞いて欲しい。
俺達は殺戮者だ、自衛隊は正義の味方なんかではない。国を、人を守る為に自分の手を汚す、人を殺す覚悟がある者だけが銃を構えろ。覚悟が無い者は支援にまわれ、覚悟ある者を支えろ。
繰り返す、俺達自衛隊は正義の味方では無い、俺達は殺戮者だ。以上だ」
俺は無線を切る。言うべき事は言った、あとは彼ら次第だ。
「大空対長」
「どうした、柳准尉?」
俺は振りかえらない。小銃を膝に乗せア(安全)からタ(単射)にレバーを移動させる。
「今から行われるのは『戦い』ですか?」
「いや、一方的虐殺だ」
「何故するのですか?」
「仲間の頼みであり救けるべきだからだ」
「それが……正義の味方でも無い我々がすべきことですか?」
「そうだ、それが自衛隊だ」
柳准尉は目を閉じる、そして目を開いた。
「了解です。やりましょう、我々が、隊長がその道を選んだのなら我々はそこを進むだけです」
「すまない」
『馬鹿が……、言われなくても覚悟はみんな出来てる。行くぞ』
「総員、戦闘開始‼︎」
比企谷がアクセルを踏み込みHNVとLAVは急発進を行う。
「LAVは散開、クロスポイントに移動しろ‼︎比企谷、ハンドルそのまま‼︎撃て‼︎」
「了解‼︎ファイア‼︎」
単射で放たれる弾丸が馬車の周りにいた敵性勢力をなぎ倒していく。慈悲無き弾丸、死んだ理由すら分からずに多くの歩兵達の命が散らされ消えていった。
『こちらLAV、クロスポイントに到達、撃ち方始め‼︎』
キャリバーの断続した発砲音が絶え間無く響き騎兵達が成す術もなく馬や人を撃つ抜かれ倒れていった。
「撃ち方やめ‼︎停車後降車、敵性勢力の生死を確認しろ。着け剣しておけ」
『大空』
「なんだ神木?」
『お前は馬車の方を頼んだ。後始末はコッチでしておく』
「了解、お前ら周囲の警戒を頼む。無駄玉は撃つなよ?」
「「「はっ‼︎」」
俺は馬車の扉に近づく。案の定扉には閂とやたら硬そうな南京錠がはめられていた。閂や扉を軽く叩いたり弄ったりするが簡単には開きそうにない、そこに柊ニ曹が報告にやって来た。
「隊長、敵性勢力完全に鎮圧。周囲警戒中です」
「了解、所属は?」
「アシュリード君達が確認してくれていますが少し掛かるかと」
「そうか……、ところでこの南京錠に鍵は見つかったか?」
「残念ですがまだです。いっそ破壊した方がよろしいのでは?」
「そうだな、これならロクヨンでも破壊可能か……、出来そうだな」
俺は硬そうな南京錠を眺めつつ触りながら少し考える。
しかしまあ、鍵の発見は絶望的かな……?
おそらく鍵は先に逃げたあの馬車に乗る奴隷商が持っている可能性が高い、2台目には衣類や装飾品等換金性の高そうな物とかなりの量の金銀貨が積んであったらしいので十中八九そうなはずだ。
「仕方ない……破壊しよう。どうせ投棄する馬車だし」
そう俺は呟き扉を軽くノックした。
「扉付近にいる方は奥に退避して下さい‼︎今から錠前を破壊します‼︎」
そう呼びかけると中で人が動く気配と音がし、しばらくして動く音が消えてから俺は鍵に銃口を向け呟く。
「……跳弾だけは変にしないでくれよ?」
引き金を引き絞り何発の弾丸が鍵に食い込み破壊する。合計4発なんてどんな硬さだよ……。閂を外し重そうな(マシで重い)扉を開く、暗闇の先には少女(?)達がいた。
「みなさん、大丈夫ですか?」
小銃を片手に俺はそう言った。中にいた彼らは固まって動かない、忘れてたが下手したら俺達盗賊とかと勘違いされてるんじゃ?それはさすがにまずいので名乗っておいた。
「我々は日本陸上自衛隊です。あなた方を助けに来ました」
「……助けに…来た?」
一番近くにいた汚れてくすんではいるが灰色の髪を持った女性が聞き返す。
「はい、自衛隊の名の下にあなた方を保護、道中にある都市まで護送します」
俺の言葉に彼等は涙を流し歓喜した。
「先輩、先輩っ、えぇーん」
「良かった、本当に良かった……」
一番近くにいた灰色の髪の彼女に淡い金髪の少女が抱きつき涙を流した。
『隊長、少しお話が』
「悪いが後にしてくれないか?あとアシュリード君達と一咲を呼んでくれ」
『分かりました』
馬車から降り俺は彼らを待つ、嬉しいことにすぐに来てくれた。
「『隷役の枷』の解除ですか?できますよ。多分分かればツバサ殿達でも可能です」
「そんなもんのなのか?」
「あくまで構造が分かっていればですけどね」
幸い必要な工具はピッキングだった為すぐに準備できた。
え?なんですぐに準備できたかって?嫌だなぁ〜、企業秘密ですよ企業秘密。
「ここはこうなっているのでこうすれば……」
カチリ
「ほら、外れます」
そう言ってアシュリードは淡い金髪の少女の枷を外す。
まあやり方は分かったが外すのはやすぎだろ!
ちなみに俺の前には灰色の髪の女性がおり、もう間もなく外れる。
「えっと、……こうだ!」
カチリ
「外れた……」
彼女は解放された自分の首を撫で、再び瞳を潤ませる。そんな彼女達に俺はかけるべき言葉を持ってはいない、彼女達と同じ位置に立たずに言った言葉など届く筈がない、伝わる筈がない、だから俺は励ましの言葉より誘導の言葉をかけた。
「枷が外れた方から前の馬車にいる女性自衛官の所に行き指示を受けて下さい。お願いします」
指した右手の先には柊、栗原、川崎がおり分かりやすい様に手を振っている。その時、
「ん?」
不意に作業服の裾が引かれ俺は振り返る。そこには可愛らしい三角形の耳を頭に乗せた男の子と女の子がいた。
「分かった、今すぐ外すよ?動かないでね?」
俺の指が首の枷に触れた瞬間男の子はビクリと震える。俺はできるだけ優しく触れながら枷を外し、隣の女の子の枷も外した。
「はい、お終い。もう大丈夫だよ?」
そう言って俺が外した枷を地面に捨てた時、男の子は口を開いた。
「お兄ちゃんは僕達の事が嫌いじゃないの?」
「嫌いじゃないよ」
「どうして?」
もう一人の女の子も口を開く。俺は膝を突きながら2人の目を見た。
「君達は何も悪い事をしていないから、何の罪も無いから、嫌いになる理由なんて無いよ……」
俺は微笑んだ。上手く笑えているか分からない、でも満足な答えを出せなかった自分が悔しかった。
トン
その時、2つのものが胸に当たった。目の前には小さな三角耳が4つ、それは男の子と女の子の頭だった。
「お兄ちゃんっ、お兄ちゃんっ」
2人は泣きながら服にしがみつき、涙が服に幾つも染みを作り出していく。抱き締めてあげる資格など俺には無い、それでも俺は優しく頭を撫でたり背中をさする。がどうやら正解だったらしい、4つの耳がピクピクと動いていた。
「レオ、エミリア⁉︎」
「「お母さん?」」
向こうから1人の女性が走って来た。まだ首の枷が外れていないので逸れてからずっと探し回っていたらしい、
「⁉︎、すみません⁉︎」
「気にしないで下さい、あと失礼します」
「え?」
驚く彼女の首の枷の鍵穴に金属棒を突っ込みすぐ解除する。あっという間に外れた枷に彼女は大きな目を瞬きながら驚く。
「あ、あの‼︎」
「気にしないで下さい」
俺は微笑みながらついでに2人を彼女の元に返す。彼女は2人の子供を抱きしめながら大空を見る。
「またねお兄ちゃんっ!」
「後でね、お兄ちゃんっ!」
2人は涙を拭きながら俺に手を振る。それを見た彼女は深く俺に礼をしてから馬車に2人と手を繋ぎながら向かう。俺はそれを少し眺めてから踵を返す、そこに通信が入った。
『大空隊長、南方約500メートルの丘に人影約7つを確認、おそらく伝令かと思われます。指示を仰ぐ』
「撃てるか?」
『もちろん、この得物なら』
「殺れ(やれ)、情報を渡す訳にはいかない」
この時、俺の声からは感情の一切が掻き消され聞く者を恐怖させる強さを持っていた。
『了解、狙撃します』
簡素な返事、その声からもまた感情は掻き消されていた。通信が切れてから俺は南にある丘を見た。まだ残っている敵の方角を、
◆◇◆◇◆◇◆
「なんという事だ、偽装騎馬隊が全滅するなど……⁉︎」
「隊長、本隊に連絡するべきでは?」
「そうだな……、伝令兵!本隊に連絡、『魔導伝令』で急いで連絡しろ!」
「了解」
隊長である男は側にいた魔導士に伝令を飛ばすように命令する。
「『伝令、伝令!こちら第二部隊偵察隊!偽装騎馬隊が全滅した。繰り返す、偽装騎馬隊が全滅した‼︎っ⁉︎』」
彼は唐突に口を噤む、隣にいた筈の隊長の顔が吹き飛んだからだ。
ダンッ……ダンッ……ダンッ…
血と脳漿が彼の顔を彩り、『死の音色』が響き響いた数だけ仲間が頭を破裂させられ死んでいく。
「『ひいぃっ、い、嫌だ!死ぬのは嫌だああぁぁ‼︎……がっ⁉︎』」
再び響いた音色に彼の悲鳴は強制終了させられる。
こうしてその丘で動く者は誰一人といなくなった。
◆◇◆◇◆◇◆
「全9発命中、内ヘッドショットが5発。全滅したと思われるが確認を要請する」
『了解、良くやった。3人ほど確認に行かせる』
「お願いします」
得物のスコープから目を離し狙撃体勢を直しながら俺は報告をする。俺は車両から少し離れた狙撃ポイントにいた。
『そうだ空木、褒美とはなんだが獣人種の人達と後で会っていいぞ』
「まじっすか⁉︎やったぜ、異世界サイコー‼︎」
『あはは、ほどほどにね。じゃあ後、確認に行った者の援護は頼む。あと得物の使い勝手はどうだ?』
「まあまあっすね、無いよりはマシってとこです」
そう言って俺は得物であるドラグノフ狙撃銃に目を落とす。
ドラグノフ狙撃銃、旧ソビエトが開発したセミナオート狙撃銃であり、これは近年非正式採用だが一部の隊に自衛隊カスタムのSVD-Jが試験配備されている物で最大射程600の本格的な狙撃銃だ。
『そうか、残弾は厳しいだろうがなんとか節約してくれ』
「了解、分かりました」
『頼んだ』
そうやって通信を終えてから俺は軽く伸びをするそれからまた再びスコープを除くのだった。
◆◇◆◇◆◇◆
全9発の発砲音と狙撃手からの報告を受けてから俺はHNVに戻る。今から行われるのは今後の方針を決める重要な会議、もちろん隊長だけでなく副隊長もが集まっている。
「報告してくれ」
「では……、被害者の方ですが、人種が計7人で内女性が4人、獣人種が計16人で内女性と子供が計9人の合計23人です。健康状態についてはやや栄養失調気味、男性には暴力の痕があり現在石田、川崎2名による処置を行っています」
「……続けてくれ」
「はい、獣人種についてなんですがどうやら種族が分かれるようで聞いただけで、『銀狼族』、『兎族』、『猫族』の4種族が確認できました。あと……」
不意に柳准尉が噤む。
「どうした?」
「いえ、大丈夫です。それが彼等は『難民』だとの事です」
「『難民』?」
「はい、彼等の出身は対岸にある旧大陸にある獣人王国らしく長年人種主上主義であるアルタクルスとは敵対関係にあり、その過程で逃げて来たところで人攫いにあった模様です」
「チッ、くだらない主義を掲げやがって」
神木が鋭い舌打ちを鳴らす。どうやら珍しく凄く怒っているらしい。
「神木ニ尉の意見に賛成だが、今は続けてくれ」
「はい、一番の問題である彼らの受け入れについてですがこの国は多民族多宗教国家、それも米国より本国に近い国な様なので申請さえすれば移民として受け入れ可能だとアシュリード君が言っていました」
「なら護送先はえっと……確か『ギルム』でも大丈夫か?」
「はい、辺境都市なので特に多種族が集まりやすい為差別は無いはずだとの事です」
「ならそれで良いよな神木」
「もちろんだ」
神木も頷くこの一件はこれで解決だがまだ重要な事が残っている。
「で、問題のこの部隊については?」
「アシュリード君曰く、十中八九アルタクルス『正規』兵との事です」
「根拠は?」
「はい、まず一つ目、統率がとれ過ぎている。二つ目、装備か良すぎる。三つ目、編成。最後に『偵察・監視』を行う部隊があるからだそうです」
「まったくまあ、予想通りと言うべきかねえ?」
「最悪な方でな」
思わず全員からため息が漏れる。実は排除した部隊が『正規』の軍であり、アルタクルスの物である予想はされていたがあくまでそれは想定の中で最も最悪な結果である。
「……まあ、そのアレだ。やるしかないだな」
「……お前はそれしか無いな…。まあそれしか無いのが事実なんだが」
俺と神木が同意したのでこれで今後の方針が決定した。
「では保護対象者の収容、準備が出来次第出発する」
「了解‼︎」
解散しそれぞれは指示を飛ばしに行くが俺は助手席に座わり空を見上げた。太陽は頂点を過ぎてすぐ、まだまだ1日は終わらない
◆◇◆◇◆◇◆
天蓋の中に1人男が寝転がっている。そこに1人の伝令兵が飛び込んできた。
「で、伝令‼︎大変です閣下‼︎」
「何事だ?」
「だ、第二部隊が全滅、偽装騎馬隊と偵察隊両隊が全滅しました‼︎」
「なに?」
彼の目がすぐに覚醒し机に広げられた地図に目を落とす。
「第二部隊はどこにいた?」
「第二部隊は本日ステラス山脈向こう、『本陣』より西に配備されていました」
「……ならそれをやった者は今頃この辺りか?」
彼の指がある地点を指す。場所はステラス山脈頂上、彼の予測は当たらずとも遠からず確かに『自衛隊』が付近にいる地点だった。
「どうなさいますか?」
「……ならそれを『ギルム』に誘い込め」
「何故ですか?」
「戦力を分散する訳にはいかない、まとめて叩く」
「御意」
伝令兵は天蓋から飛び出る。彼は地図を睨み呟いた。
「さて……、鬼が出るか蛇が出るか?」
彼の呟きは誰にも聞かれることなく静寂に消えた。
武器詳細
ドラグノフ狙撃銃〈自衛隊カスタム仕様〉:ソビエト連邦が開発したセミオート狙撃銃であり自衛隊仕様にカスタマイズされた物。名称は元の名称SVDに識別を入れたSVD-J。実在はしない。