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アルヌスの旭日旗  作者: 神倉 棐
序章
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接触


夜、森の中を進み5つの影があった。


「……本当か?こんな戦争が始まりつつある場所の近くで野営してる訳の分からない一団があるっていうのは?」

「ああ、間違いない。テントが2つ貼られて焚き火が4つ、変わった馬車らしき物で周りを囲っている」


前を進む金髪の筋肉質の男が言うが後ろにいる黒髪の細めの男は信じていないように言った。


「変わった馬車みたいなのってどういう風に変わってるの?」

「いや、それが馬を引くハーネスが付いてないんだ。あと馬もいない」

「じゃあどうやって動かすんだ?スタイリシュアには蒸気機関っていうのがあるらしいが馬車レベルまで小型化は出来ていないしアルタクルスの魔導馬車もそんなに生産量が多くないと聞いたが」


少女の様な声の質問に答えた男の声に更に男は疑問をぶつける。


「静かに!見えた……」


今まで話していなかった女性の声が彼らを制止する。黒髪の彼女は焚き火の内側に目を凝らした。


「……見張りは8方向に1人ずつ、計8人ね。服装は……深緑の服に黒いブーツか?装備は……黒い……杖?みたいなのにやたらと長いナイフが1つ……装飾は無い鎧ね」

「変な奴らだな。槍や弓も無いのか?」

「ええ、野営の中にもそれらしきものは見えない。無防備過ぎない?」


彼女は隣に来た先程の細めの男に言う。どうやら彼がこのグループのリーダーらしい。


「一応俺たちだけでも制圧できそうだが……人数は?」

「少なくとも20人ぐらいかしら……、奇襲して勝てるかどうか?」

「いけるだろ?ナイフ1つで俺たちの武装に対抗できる訳が無い」


彼は腰から銀の柄を取り出す。魔力を送り込めば即刀身が構築される仕様の刀だ。


「確かにいけるだろうけど……、何人か怪我するかもしれ無いわよ?あの黒い杖が魔法道具かもしれないのに」

「……そうだな。どうするか……」


彼がそう呟いた時、見張りは視界から消えていた。



◆◇◆◇◆◇◆



時は少し前まで遡る。テントの中で俺と神木はこれからについて話していた。


「さて、どうする?」

「どうするって走り続けるしかないだろ?携帯燃料はあと約2日分、戦闘糧食レーションはあと4日分、飲料水は随時補給してるが隊員の士気が今は右肩下がり、正直言って最悪だけどね」

「戦闘装備は隊員全員が小銃の検査の為に在庫の六四式小銃、弾数は一人当たり100発程度。LAMは3発にキャリバーが2丁、弾数は2つ合わせて3,500発。予備兵装としてナイフが1人1つに手榴弾が3個。予備のライフルが1丁に専用弾が40発、暗視装置が16台だ」

「4台足らんぞ」

「既に破損だ。大谷二曹と宮部二曹、お前の所の比企谷二曹、栗原三曹が夜間警備の際害獣と交戦した際に全部壊れた。お前の所の一咲一曹に修理は依頼済みだ」


ぬけぬけと神木は言うが一応一咲一曹は俺の部下である。


「おいおい、そんな顔すんなよ。皺が寄るぞ」

「まったく変わらない奴だな。で、害獣については?」


大空の目が鋭くなる。


「見た感じ狼だがサイズはかなり大きい、ロクヨンを3発喰らってやっとやつけられたらしい。あと群で行動していたそうだ」

「厄介だな……、でそれは食えるのか?」

「食料にできるかだが……微妙だな。美味くもなければ不味くも無い、硬めの肉で焼いただけだがそれなりに程度だ」

「お前が食ったのかよ……」

「そうじゃなきゃ信用できんだろ?一応引っ張ってきたのは2匹で解体済みだ、後で見とくといい」


流石神木、無駄が無い。


「後は合流するまでだが……」

「それは計算済みだ。おそらくここから長くて約2日程西に行った距離に海自と空自はいる」

「よく分かったな」

「通信があった時に距離と方位だけはしっかり伝えてるんだ。あとは平均時速に走行時間をかけて海自イージス艦の最高通信領域距離から引けば大体分かる」

「まじかよ……」


神木の天才っぷりに半分俺が引いていた時、見張りをしていた柊二曹から無線が入った。


『隊長、森の中に人影を確認。おそらく5人です』

「敵か?」

『分かりません、車内にいる私は気付かれてい無いでしょうが比企谷二曹はおそらく捕捉されてます』

「比企谷二曹、正当防衛においてのみ発砲を許可する。命の危険が迫れば自己の判断で撃っていい」

『了解』

『隊長、1人顔が確認できました。1人は女性、長い黒髪で制服らしい服装です』

「……どうする神木」

「……そうだな……」


神木は考え込むがすぐ結論を出した。


「友好的接触を試みてみよう。やっと人に会えたんだ、それで無理なら強制排除しできれば捕虜にしよう」

「分かった。柊二曹、そちらに行く。変化は?」

『ありません』

「了解、比企谷を車内にひっこませておけ」


俺は立ち上がりテントの入り口の布をめくる。神木も付いて来た。


「小銃は置いていくぞ、相手を刺激する可能性がある」

「ああ、分かった」


2丁の小銃がテントの中の銃架に置かれる。用心の為一応安全装置は掛けておいた。


「柊二曹、今着いた。状況は?」

「……変わりません。森の中です」


俺と神木は頷く。そして細心の注意を払い彼らに声を掛けた。


「私達は日本国陸上自衛隊第一、第七小隊です。私は第七小隊隊長、大空といいます。話し合いがしたいので森から姿を出してください」


森からは何も帰ってこない。


「……もしかして言葉が通じないのかも…」

「……あり得るな。異世界だしな」


とりあえずもう1度日本語で話しかけてみる事にした。


「私達は日本国陸上自衛隊です。戦闘の意志はありません。姿を出してください」


「……」


「……駄目か?」

「いや、いけたみたいだよ」


目を凝らすと森から1人の男が現れた。やたらがたいのいい金髪の男だ。男は警戒するようになんと日本語で話した。


「ニホン?ジエイタイ?一体どこの軍だ?何故この戦場にいる?」

「戦場?」


金髪の男の『戦場』という言葉に俺は思わず聞き返してしまった。だが今思えば辻褄が合う、街道で人っ子ひとりとして会わなかったのは近くに戦場があり危険だからだ。


「そうだ。永久中立都市群ノアニール・マグナ領内平野を中心としこの付近では機械文明国スタイリシュア公国と魔法文明国アルタクルス帝国の泥沼の戦争が起きている」

「ノアニール・マグナ?スタイリシュア?アルタクルス?しかも魔法だって?」

「……異世界説完全立証だな。どうする?俺達の母国はもはや存在しないぞ」


母国、つまるところ日本が存在しないという事は今ここにいる自衛隊を庇護する国家が存在しないという事を意味し、補給が不可能となる。そして、


「魔法って……ファンタジーの世界じゃないか」


俺は頭を抱える。お約束だが魔法等の非科学文明が発達した場合、科学の発展は阻害され成長しない。つまり自分達が持つ衣服1枚ですらこの世界では超過科学技術オーバーテクノロジーなのだ。しかも世は戦乱の時代、この世界では命は驚く程軽い、つまり自分達は殺す事に躊躇する事をこの世界の人間は躊躇無く行うのだ。


「最悪だ……」

「……全くだ。全員に実弾配給が必要になる…」

「……でも問題は撃てるかだよ」

「無いよりはマシだろう…」


神木も苦虫を噛み潰した様な顔で言う。自分達はもう人を撃った事も殺した事もある、だが他の隊員は別だ。殺される覚悟も『殺す覚悟』も無い者が大半だ、ここで生き残る為に必要なのは『殺す覚悟』でありそしてその苦悩と罪悪感をどうするかだ。


「……とりあえず俺らと戦うつもりは無いんだな?」


話に入れず蚊帳の外だった金髪の男は気まずい雰囲気になりつつあった2人の間に割って入る。


「ああ、こちらは非戦闘員に対して先制攻撃をかけるつもりも無いし専守防衛が基本だからね」

「信じていいんだな?」

「それはこっちに聞く事じゃ無いんじゃないか?」


俺は思わず思った事を呟く。あくまで俺達を信じるか信じないかは自分達でなく彼らが決めるべきだからだ。それを見て金髪の男は笑う。


「全くだ。それを自分から言うんだから信用できるだろう。紹介が遅れたが俺はレオンだ、よろしく頼む」

「よろしく、ついでに森にいるあと4人にも紹介してくれないかな?よければこちらでもてなすよ?」

「なんだ、気付いてたのか?分かった、話してくる」

「ありがとう、こちらはここで待っておくよ」


そう言うとレオンは森の中に戻っていく。俺と神木は一旦上手くいった事に互いに見合わせ頷く。


「総員、起床。現地住民と接触、友好的接触が出来た。おもてなしの準備をしろ」

『ザッ、了解です』


こうして野営陣地は少し騒がしくなるのだった。



◆◇◆◇◆◇◆



一方、野営陣地がおもてなしの準備を始めたその頃、レオンは一通り仲間にジエイタイについて話していた。


「カクカクシカジカという事なんだが……」

「……バカ、何で勝手にそこまで決めたんだよ……」


彼の報告にリーダーである黒髪の男は大きなため息を吐く。確かに彼はレオンの事を信頼している、だがせめて1度ぐらいは確認してから決めて欲しかったのだ。


「……そのなんだ、すまん」

「いいさ、とりあえずそのジエイタイとやらは歓迎するって言ってるんだよね?」

「ああ、今もそこで待ってる。ちなみにこちらの位置は既に捕捉しているようだぞ」

「この暗い森の闇の中をですか?」


黒髪の女性がレオンの言葉に疑問を示す。今夜は月夜だが森の中は月の光も届かない闇の中である。いくら夜目の効く彼女であっても全員の位置を捕捉し把握する事はできない、ある意味当然の疑問だった。しかしこれにレオンは、


「みたいだが原理はさっぱり分からん」


と、しょうもない事に言い切った。これには他のメンバーも呆れ顔になる。


「……ともかく、行ってみようよ〜。私ここで長く居たくない〜」

「贅沢言うなよ…、戦場だぞ?」

「だって〜」


他2名も騒ぎ出したことなので彼は決断を出す事にした。まあ他に選択肢は無かったのだが、


「しょうがない、……行こう。あまり待たせるのもどうかしている」

「やった〜」

「ただし」


彼女の嬉しそうな声に彼はあえて言葉を重ねた。それにその声を出した彼女は怪訝そうな顔で彼を見る。


「ただしだ、あくまでいざとなったら戦闘を行ってでも脱出できるように気を抜かない事。いいな?」

「「「「了解」」」」」


彼は立ち上がり森から出る。少し先に2人の男が互いに話し合いつつ独り言の様に呟いていた。


「お?来たかな?」


2人の内1人がこちらを見る。


「「……え?」」


こちらを見た男と自分の声がハモった。それはものの見事にハモった……。それに周りにいた全員が目を丸くする。何故なら……、


「「えっと……、僕(俺)?」」


……まるで鏡を写したかの様にそっくりな顔をした自分がいたのだ。


(注)全体的に暗く、特にレオン側からは大空側が逆光でよく見えていませんでした。


武器紹介

64式小銃:戦後初の国産自動小銃で後継の89式小銃に更新されたが予備装備として現在でも現役である。

LAM:ドイツ、ダイナマイト·ノーベル社製を導入したものでありまたの名をパンツァーファウスト3という。

キャリバー:陸上自衛隊車両の主要車載機関銃の一つ、UH-60Jなどのヘリコプターにも搭載される。

暗視装置:V8(ブイエイト)のこと。


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