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アルヌスの旭日旗  作者: 神倉 棐
第2章 首都へ
25/27

出発

ノアニール・マグナ首都へ向けての道中。


その日の空は晴れた。憎たらしい程晴れた、汚れていない空は元の世界ではなかなか見れない純粋な蒼色だった。


ガタゴトガタゴト


その時、俺は神木とシリウス辺境伯、ツルッペルン女伯達と共に馬車の中で揺られていた。


「………………」

「………………」

「………………」

「………………」


『………………』


うっ、気不味い……


ガタガタ揺れながら馬車は進んでいるが馬車の中では誰一人喋らない。寝ている訳ではない、みんな起きているのだが……


話す話題が無いんだよな……あといくつか問題も有るし。


まず話す話題が無い、異世界人がしかも貴族様と何を話せば良いんだよ。天気の話とか続かんわ、「良い天気ですね〜」「そうですね〜」の二言で済むわ‼︎それに首都からの緊急招集でシリウス辺境伯とツルッペルン女伯は事務仕事で首が回らない状態で確認すべき書類を山程馬車に持ち込んで目を通している位である。


……声掛けれねーよ、これじゃあさ。


懸命に仕事をしている2人を見て雑談なんかできるか?俺には出来んよ、小心者だし。あと手伝おうにも機密が多いらしく見てはいけなさそうなので少しばかり負担を減らしてやる事もできない。本当済みません。


「…………」


沈黙、仕方ないとはいえこれだけの人数が居て2時間以上無言とは案外キツイ。そこに、


「失礼します。ツバサ大尉お茶の準備が整いました」

「サラさん、ありがとう。シリウス伯にツルッペルン女伯、息抜きにお茶としましょう。サラさんが淹れてくれた紅茶は美味しいですよ」

「……ん?ああ、分かりました。頂きます」

「おお、嬉しいですね。喜んで頂きます」

「では」


丁度堪え兼ねたその時サラの登場により沈黙は破られる。2人は書類を片付けサラが差し出した紅茶の注がれたカップを手に受け取った。適度なお湯の熱さにほっこりしつつ彼女が注いでくれた紅茶を飲む、馬車の中だろうが彼女の紅茶は変わらず美味しかった。


「美味しいですね」

「ええ、とてもね」

「ありがとうございます」


彼女は揺れる馬車の中で綺麗に一礼する。身体が揺らぐ事もなければその手に持ったティーポットからお湯が溢れる事もなく見事な重心移動だった。


「……ああ良いわ〜、ウチにもサラくらい出来る従者メイドがいたら良いのに〜」

「あれ?ツルッペルンにも居ませんでしたっけ?確か……ロッカさんでしたか?」

「ロッカねぇ……あの子色々できるけどお茶を淹れるのは壊滅的に下手なのよね……。貴方の所には万能メイドの鬼教官シルビアが居るじゃない、そっちの方が羨ましいわ」

「……シルビアは隠し事できないんだよ。しかも祖父の代からウチに仕えてくれてるから下手すれば私より領民の知名度高いんだよ?小さい子に指を指されて「あ、シルビア。その人だれ?」って言われるの結構キツイんだぞ?精神的に」

「…………キツイわね、それ」

「うん」


せっかく和んでいたのにシリウスのカミングアウトに馬車の中がなんとも言えない暗い雰囲気に包まれる。先程の沈黙も中々気不味かったがこのカミングアウトもまた中々気不味いものだった。


「まあ……あれだ。シリウス伯、どんまい」

「ええ……、ご愁傷様とだけ言っておくわ」

「ああ、ありがとう……」


大空とツルッペルン女伯がシリウス伯を慰める。


「そう言えばツバサ大尉、ツルッペルンとは呼びにくくないですか?これからは公私共にシャルルと呼んで下さいませんか?」

「え?」

「それなら私もシリウスでなくクロノと呼んで下さい。呼んでくれなければ社交の場で『ギルムの英雄』の二つ名をばらしますよ?」

「シリ……クロノ殿、それは脅迫ですよ?全く……分かりました。シャルル殿もこれでいいですか?」

「はい」

「ええ」

「はあ……」


2人の脅迫じみた要求に大空が折れる。クロノはニコニコしているしシャルルの方はウフフと笑っていた。


はあ……散々だなぁ…


大空はため息を溢すと気を使ってくれたのかサラがもう一杯紅茶を入れようとポットを傾ける。その時、順調に進んでいた馬車がいきなり急停車をした。


「あ」「きゃあ」


突然の出来事にサラが体勢を崩す、そしてそのまま大空に覆い被さるように倒れ込んでしまった。


ムニッ


何やら丁度いい大きさのクッションが大空の顔面を当たる。


「あんっ」

「げ……まさか……」


大空の顔が引きつる。そう大空の顔に直撃していたのは倒れ込んで来たサラの胸だったのだ。

柔らかかったな……じゃない‼︎一応俺のせいではないが謝らねば……死ぬかもしれん。


「す、済みません……サラさん……」

「…………」


珍しく顔を真っ赤に染め上げたサラが起き上がる。この時大空は1度死を覚悟した。


「…………こちらこそ……(べ、別に良いのに……嬉しいから)」


真っ赤な顔をサラはぷいっと逸らしそう答える。大空は死ななくて済んだと心の中で盛大にため息を吐いた。


「こほん……こちら大空、何があった?」

『たいちょー、盗賊です。距離300、どうしますか?』

「排除する、できれば捕まえたい所だけど無理なら各自の判断で射殺を許可する。まず第1に自分の命に大切にしてな」

『了解です』


大空は神木達を見るがなんだか冷たい目で見られている事に気付き少したじろぐ。


「な、なんですか?……こほん、盗賊が出ました。これより迎撃行動に移りますがよろしいですか?」

「じー、別に構いませんよ。自衛隊にお任せします」

「じー、私もです」

「じー、俺もそれで良いと思う」

『じー』


何だ、俺が何をしたと言うんだ……。あれは完全に事故だろうが、あと自分で効果音付けんなよ……。


まるで針の筵かの様な空気に大空は耐え切れなくなり側に立て掛けてあった64式小銃を手に馬車から逃げ出す。なお現在馬車を護衛しているのは騎士団数騎と自衛隊特地偵察隊の高駆動車2両に軽装甲車両1両でありパッと見そこまで戦力があるようには見えない。が見えないだけで89式小銃装備の自衛官1個小隊が車両に乗車しており恐らく100前後ならばものの数分で殲滅できる。因みに大空だけが64式小銃なのは大空が64式を気に入っているからでもあり僅かながら残っている64式の弾丸を消費する為でもある。


「あ、たいちょー。こっち来たんですか?こっちで適当に処理しても良かったんですがね~」

「あほう、お前らだけに殺らせる訳にいくか。いくら非常事態だからとはいえお前達に押し付けられる訳がないだろ」

「たいちょー優しいですね」

「そうか?栗原、俺からすればこれが普通だ。人殺しを何とも思わなくなればそいつはもうこちら側には帰ってこれない、それだけは部下には起きて欲しくはないんだよ」


もはやこの世界に来て大空は人を殺さずに生き残ることは諦めた。確かに殺さずとも生き残れるかもしれない、だがその先に自分が、部下達が自分として生きていけるかは……正直分からない。力に屈し、自治と自由を奪われ、奴隷のように生きることになるかもしれない。ならない保証はない、ここは異世界、元の、地球での常識は通じない。だからと言ってその心配があるからと先に攻撃をするつもりはない、自分達がするのは自らの自治と自由を守り、基本的人権を尊守するだけである。その過程で人を殺すことになろうと大空は止まるつもりは無い、この世界にやって来て、俺達には立ち止まる猶予等与えられていないのだから。


『距離残り100、目標一時停止しました』

「一応降伏勧告、所在を明らかにして投降するなら拘束、抵抗するなら迷わず撃て」

『了解です』


『こちら日本国陸上自衛隊特地偵察隊です。直ちに降伏して下さい、さもなければ殲滅します』


拡声器を使い石田が盗賊達に降伏勧告を出す。盗賊達は突然鳴り響いた降伏勧告に驚いたものの構わず攻めて来た。僅か十数人、馬が数騎に装備は貧弱、相手にもならず至近距離まで寄せてから1人残らず射殺した。余りにも呆気なく、それは虐殺とも言えない一方的なものだった。


「…………」

「たいちょー、全員の埋葬終わりました」

「んー、ご苦労様。10分後にはまた中継の街に出発するからそれまで休憩しといてくれ」

「分かりました」


栗原は敬礼すると元々乗っていた高駆動車に戻る。大空はまた煙草を吸っていた。


「……………………」


過去2回、あの時々と同じ様に紫煙が蒼い空に昇って行く。


「ツバサ大尉」

「ん?サラさんか、どうしました?」

「…………無理はなさらないで下さい。ツバサ様は……いえ済みません、私には出過ぎた事でした」


サラは何かを言い掛けて口を噤み下を向く。どうやら自分は知らぬ間に彼女にまで心配を掛けていた様だ。


「……無理はしてないよ。これからする事になるかもしれないけど、でも……心配してくれてありがとうございます。サラさん」

「……はい」


無理をしているつもりはない。部下を、命を預かる者として当たり前の事をしているだけだ。そしてこれから先、部下を、大切な人を守る為にもし無理をする事になればその時は……


大空はそこまで思い微笑む、彼は今だ心配そうなサラの頭を撫でた。


「行きましょうかサラさん」

「……はい」


その時はほんの少しで良い、背さえ押してくれれば。


2人は馬車へと戻る。日は未だ高い、その日はまだ始まったばかりだった。

進まねー……、どうしよう……。

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