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アルヌスの旭日旗  作者: 神倉 棐
第2章 首都へ
23/27

伝書鳩の手紙



旭基地に大空が帰投した日より4日後、彼はその時機上の人となっていた。


「…………」


「…………」


「…………」


無言、話題が無ければ話す事も無い、それ以前に話し相手すら居ないのだから当たり前だろうがとにかく彼の乗るチヌークは静かだった。


「はあ……」


地球だった頃より蒼い空を眺めながら大空はつまらなそうにため息を吐く。まあ、実際に代わり映えの無い空ばかりなので本当につまらないのだが、


「ああ〜、暇だなぁ……。本でも持って来れば良かった……」


あまりの暇さにそんな呟きが漏れる。ちなみに今チヌークには武器弾薬一式プラスガソリン等の燃料+(プラス)紙やペン等の消耗品が満載されており実を言うと大空の輸送はついでだったりする。なお空輸されている武器一覧の中には迫撃砲だったりC4だったり狙撃銃だったり色々やばそうなのがあったりするがまあ……置いとこう。


……本気でギルム陥す気なんじゃ無いだろうか?いやで今のままでもきるけど、十分できますけどこれまで使ったら跡形残らんぞ、マジで。


背中が冷たなくなる想像を1度打ち切り大空は再びため息を吐く。正直、今自衛隊が保有する戦力だけで一都市どころか一国陥すことすら可能である。だが今はそんな事誰も望んではいない、国1つを焦土と化して誰が得するのだと言うのか。力だけでは何も得られない、押さえ付けるだけの力では何も救えない。


『間も無く日立ニ尉と雪ノ下三尉のF-35Bが通過します。なおギルム到着まで残り10分です』


「お、ジェットエンジンの音だ……。通り過ぎるな」


大空は窓の外を見る、何の変哲も無かった蒼い空に黒点が2つ現れた。そして目にも留まらぬ速さで通り過ぎる。2つの銀翼がチヌークの右横を飛び抜けて行った。


「やっぱりジェット機は早いな……」

『大空特務一尉、日立、雪ノ下両機より入電。『これより我ら旭基地に帰投す、貴官のギルム帰還を喜ばしく思う』以上です』


彼女達からの通信メッセージに大空は少し驚く、だが直ぐに微笑むと彼はパイロットに向けこう言った。


「こちらからも通信はできるか?」

『可能です。どの様に?』

「激励感謝する、貴女方の翼に勝利の風があらん事を、と」

『了解です、今送信終わりました』

「ありがとう」


パイロットからの答えに大空は感謝を示す。


『特務一尉、ギルムが目視できました。間も無く到着します』


窓から下を覗くと森の奥にギルムが見える、4日振りの訪問に大空は少し気分を高揚させるのだった。



◆◇◆◇◆◇◆



ギルム駐屯地、中庭

そこに4日振りに帰還する大空を出迎える為に神木二等陸尉と日向特務一尉が立っていた。他にも今仕事が無い者やシフト的に空いている自衛官もおり当たり前というかなんと言うかだが無論サラもメイド服をきっちりと着こなして立っている。


「お、来た来た。久しぶりの帰還だな」

「ですね、大空ニ尉がいないと何かと大変ですから」


神木の呟きに日向がそう答える。2人は大空がいない僅か4日間でかなり友好を深めた様だ。神木は大空に伝えるべき事案を2つふと思い浮かべるがそこにチヌークのプロペラが空を叩く音が響く、空の彼方にあった黒点が徐々に形作っていった。


バラバラバラバラバラッ


駐屯地直上を旋回すると陸自迷彩のチヌークは中庭に作られたヘリポートに降下を始める。中庭が見える正門には沢山のギルム市民の人々が空飛ぶ巨大な建造物に驚いている。中には拝んでいる人までいる位だ。

おいそこの君、説明よろ。え?無茶なって?やれ、上官命令だ。

神木が裏で隊員に市民に対する事情説明を押し付けているとその間にチヌークは中庭に着陸していた、後部開閉扉が開き大空が現れる。


「大空翼特務一尉、只今ギルムに帰還致しました。久しぶりだなみんな」

「そちらこそだ大空」

「そうだな、とにかく帰って来たぞ」


大空は神木達の前まで歩いてくる。


「さて、帰って来て早々だが幾つか話があるんだがそっちは?」

「こちらもだ。2つ、重要な話が1つと厄介なのが1つだ」

「ならそちらが先に頼む」

「重要な方だが俺とお前がノアニール・マグナ国王から首都への『招待状』が届いた。それに伴い先にアリサ殿が首都に出発された」

「『招待状』?」

「ああ、簡単に言えばノアニール・マグナは自衛隊を取り込むつもりだ」



◆◇◆◇◆◇◆



大空ギルム帰還前日、


バサバサバサッ


まだ朝早い時刻、1羽の鳩が領主の館にあるとある部屋のバルコニーに降り立つ。それが事態を急展開させる事になるとはまだ誰一人知る事なく。



◆◇◆◇◆◇◆



コツコツ、コツコツ


「ん……?こんな朝早く何かしら……?」


バルコニーの窓が何かにコツコツ突かれる音にアリサは眠りから覚める。いつもなら既に起きて剣の素振りでもしている時間だが昨夜は首都に送るはずの報告書第二弾を仕上げたり騎士団からの報告書をまとめたりしていて寝る時間が遅くなり、結局寝坊してしまったのだ。


「うぅ…………眠い……、折角いい夢だったのに……」


ん?どんな夢だったかって?嫌ですね、セクハラです。

ともかく彼女にとって良い感じな夢が見れていたのだがそれはこの音によって中断されてしまった。しかも結構良い所で、


「…………」


快眠と良い夢を邪魔されたアリサは多少不機嫌に憎き音が聞こえて来るバルコニーの扉を開く。


「……せいやっ」


ガシャン、バシ


不機嫌に開いた扉に柔らかく水分を多く含んだ物がぶつかる音がする。正面には何も無かったので彼女は視線を足元に下ろす、そこには……


「ん?鳩?」


開かれた扉の衝撃によりのびてしまった例の鳩が居たのだ。アリサは屈んで鳩を指で突く。


「死んで……ないよね?」


つんつん突ついていると若干動いたので死んではいない事が分かり、ふと彼女の視線はその鳩の足に付いている1本の筒に向けられた。


「筒?て事はこの子は伝書鳩なのかしら?とにかく中身を確認しなきゃ」


彼女は鳩を手に乗せて室内にある鳥籠に1度入れてからその足に付いている筒を取り外す。中には厳重封印された紙が入っていた。


「………………」


書かれた内容を彼女の黒い瞳が素早く目を通していく、署名まで確認してから彼女はため息を吐いた。


「……はあ、やっぱり……か。お父様」


紙を畳み彼女は机に置かれていた鈴を鳴らす。直ぐに侍従長であるシルビアが現れた。


「旅装束を、シリウス伯とツルッペルン伯、あと神木中尉を呼んで下さい」

「承りました。イリス、伝令を。騎士団の方にはどういたしますか?」

「了解しました」


スッと現れたイリスが返事をし再び何処かに消える。アリサはシルビアからの問いを答える為に口を開いた。


「最後に回します、今回は急ぎですから騎士団を連れては無理です」

「どちらに?」

「『首都』へ」

「分かりました。手配いたします」

「お願い」


シルビアは扉から姿を消し少しして別の従者が彼女の旅装束を持って来る。それに彼女は袖を通しながら『首都』のある南を眺める。次に彼女のするべき事はそこにあった。



◆◇◆◇◆◇◆



数分後、

朝早くからアリサに呼び出されたシリウス、ツルッペルン、神木の3名はシリウス伯の執務室にいた。


「急な呼び出しでしたが何かあったのでしょうか?」

「我々も分かりません、ついさっきまで寝ていましたので」

「私も〜、だからまだ眠い……ふぁぁあ」

「自分はまだ大丈夫ですがね……」


未だ眠た気な2人に神木は苦笑いを零す、そこに旅装束に身を包んだアリサがやって来た。


「朝早くからごめんなさい。急を要する事態が起きたの」

「急を要する事態ですか?」

「ええ、まずこれを見て」


彼女は今朝届いたばかりの紙を3人に見せる。


「……これは」

「……確かに」

「……う〜ん、そうですね」

「でしょう?」


彼女が見せた内容がこれだ。


『先日報告書に書かれていた異世界の軍人の方々について感謝と歓迎を行いたい。できれば指揮官の方だけでも我々の首都にお招きしてくれ、これは議会決議にて決定された事でもある。なお異世界の方々が首都に来られる際にギルム辺境伯とツルッペルン伯も同行して頂ける事を頼む。


永久中立都市群ノアニール・マグナ国王

ファーブル・マグナ・ノアニール』


かなり簡素で威厳なんて殆ど無い文面だが最後に付け加えられている名前だけが場違いの様に目立っている。


「……国王直筆ってことはコレ王命じゃないですか」

「そうなります、……まあ文面には威厳もへったくれもないですが」

「辛辣だね……」

「可哀想に……」

「事実です」


サラッとアリサ達がそんな事を言うがそれに神木は慌てる。


「ちょっ⁉︎良いんですかそんな事言っちゃって?不敬罪とかならないんですか⁉︎」

「ならないですよ、だって私のおと……コホン。なんでも無いです」


アリサが可愛く首を傾げた後何かを言いかけて止める。今「おと……」って言ったよね?まさか……ね?うん、スルーしとこう。こういうのは大空が担当だ、押し付けよう。


「ま、まあ、そんな事は置いておいてですね。これは少しマズイですね」

「はい、まだ議員及び貴族に根回しが全然できてません。このままではぶっつけ本番で交渉を行わなければならなくなります」


今何を言っているかと言うと、簡単に言えば

自衛隊とノアニール・マグナにはそれぞれ要求がある訳で、自衛隊には大空が掲示した条件が、ノアニール・マグナには『自衛隊』と言う異世界の軍隊を取り込みたいと言う思惑があるのだが、現状においてノアニール・マグナが自衛隊(大空)が出した最低限の条件を全て呑む可能性が低くく良い交渉が行えない可能性があるのだ。その為アリサや辺境伯であるシリウスやツルッペルン達によって議会議員及び貴族達に根回しを行ってもらう予定だったのだがあまりにも議会の動きが早くこのままではその時間が全く無くなってしまうのだ。


「ここは苦肉の策ですが、大空中尉が帰還されるまであと1日あります。おそらく貴方方がギルムを出発なされて首都に到着できるのは最低でも2日後でしょう。私は急いで首都に戻り少しでも根回しを行います」

「しかし……どうやってお戻りになるつもりですか?どれだけ馬をとばしても半日は掛かります。護衛を連れてとなると……」

「なので私一人で行きます。危険なのは百も承知ですがそうでもしなければ……」


「ちょっと待ったぁっ‼︎」


そんな声と共にいきなり部屋の扉が開け放たれ4人とも振り返る。


「話は聞かせて貰ったわ。神木二等陸尉、良い案があるわ‼︎」

「……日立三尉、いきなりなんですか。あと盗み聞きしてたんですか貴女」

「いえ、偶々通り掛かったら思い詰めた様な声が聞こえてきたから興味本意で聞いてただけとかそんなんじゃ無いわよ」

「…………盗み聞きしてたんですね」


朝からフルスロットルな日立三尉に神木はガックリしている。


「ところで良い案とは?」

「良くぞ聞いてくれました!それはね、高駆動車で送って貰うのよ。それならとばせばおそらく3時間くらいで着くはずよ」

「さ、3時間ですか?」

「ええ、高駆動車1台に自衛官4人くらい護衛に連れて行けば丁度良いと思うわよ」


日立三尉はそう言ってアリサの肩に手を置く。


「大丈夫よ、私達が付いてるわ。頑張りなさい」

「はいっ‼︎」


何これ……なんかのドラマ?げんなりとしてしまった神木だが日立三尉の案はそれ程悪くはない。よって即決で彼は実行する事を決めた。


「……隊員の選出と計画書は用意します。ノアニール・マグナからの正式要請という事にしておきますが良いですね?」

「よろしくお願いします」

「そうと決まれば私は駐屯基地に戻ります。用意が出来ましたらこちらに来て下さい」

「分かりました」


神木は執務室から出る。アリサの準備が整い自衛隊側の準備も整って彼らが出発したのはそれから4時間後の正午間近だった。



◆◇◆◇◆◇◆



「……て感じだな」

「成る程、アリサさんが……ね」

「あと護衛として出したのは柊、川崎、比企谷だ」

「女性メインの編成だね。うわ〜比企谷きつそうだな」

「……運転できる奴で志願したのあいつだけだったんだよ。まあ柊は様子見でだな」

「ああ、密偵候補だもんね彼女。忘れかけてたけど」

「尻尾出せば儲け物って感じだな。あ」


神木は何か思い出したかの様な顔をする。


「どうしたんだよ?」

「密偵で思い出したんだが……」

「何?どうしたの?」


大空が首を傾げる。神木は、


「あと厄介事についてなんだがいやそれがな、サラさんが……」

「サラさんが?」

間者スパイを捕まえた」

「は?」

「いやだからサラさんが間者捕獲しちゃった」

「はあああぁっ⁉︎」


随分な厄介事があった事が大空にばれた瞬間だった。


進まない……。

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