アナザーストーリー:引っ越し
アナザーストーリーとなっているけどあんまり番外編ぽくないかも?
ギルム防衛戦から5日、追加人員派遣日まで残り1日となったその日(第17部雪ノ下の手記参照)。
「よし、お前ら。引っ越しするぞ!」
『おおっ‼︎』
第1、第7小隊の面々+監視役は大空の号令の元に仮設駐屯基地の引っ越し作業を行っていた。
「天幕は畳んだら第1高駆動車に、武器弾薬等の装備は第2高駆動車、私物は第3高駆動車、第4には生活必需品を載せろ。人間は軽装甲車だ」
「了解〜」
「ういっす」
「分かりました」
野郎共が元気良く返事を寄越す。女性陣には先にシリウス辺境伯より譲渡された屋敷の掃除に向かって貰っていた、ちなみに避難民の方々も有志でそれを手伝ってくれている。
「神木」
「なんだ大空?」
「屋敷の方を見てくる、ここの指揮は頼んだ」
「しゃあーねな、分かった行ってこい。無理すんなよ」
作業着に鉢巻姿で神木は馬鹿程重い弾薬の詰まった木箱を持ち上げる。……作業着に鉢巻って何かなあって感じなのに何故神木がすれば良い感じに見えるのだろう……、これがイケメンだけが成せる技か⁉︎恐るべしイケメン⁉︎
「……うん、まあ行ってくる」
「ってどうやっていく気だ?」
「俺は走るぜ!どこまでも‼︎」
「おい待て、どこまでも行くな。せめて馬借りてこい」
なんか大空がはっちゃけたのを神木が冷静に突っ込む。なんだかんだあるが基本2人の仲は良いのだ。
「馬か……、乗れるけどどこで借りたら良いんだ?」
「確か門の詰所近くに厩があるらしいからそこで借りたら良いと思う」
「了解、頼んだ」
まず正門付近にある詰所を目指して歩き出す。そこに居た兵士の青年に馬を借りる事にした。
「ありがとさん、借りるよ」
「どうぞ、戻られた時はここに来て下さい」
「了解、失礼するよ」
「では」
青年は敬礼し大空も馬上ながら敬礼する、馬を走らせ城門を抜け屋敷を目指した。
「へぇ、かなり賑やかになってきたなぁ」
市街地に入り馬を歩かせながら大空はそう呟く。今彼が歩いている通りは目抜通りであり出店や商店が立ち並んでいる通りであり、つい最近までは1つも開いていなかったのだが戦争の脅威が遠ざかりまた再び活動を始めたらしい。まだ入城できる商人や旅人などの人も少ないが練り歩く人もちらほらいる様だ。あらかた冒険者の人だろう。
「あ、『英雄』さんじゃないか」
「『英雄』様こんにちは」
「おはようございます、サー」
「……いやいや、そんな大仰な呼び名は良いですから普通に呼んでくださいよ……。まぁ……馬の上からで悪いけどおはよう」
「よお『英雄』の兄ちゃん、良い林檎が今朝入ったんだ。持ってきな!!」
果物屋の親父がそう言って赤い大きな林檎を2つ程放ってくる。それを大空は片手ずつで受け取ると彼に向って礼を言った。
「ありがとう親父!また酒でも奢るよ!」
「楽しみにしとくぜ兄ちゃん!!」
齧り付いた林檎はシャキシャキといい音と立てながら食べられる。溢れる果汁もおいしく食べるのが止まらない。
「うん、日本で食べた林檎より美味しいかのもしれないな。……しかもこれ種無しみたいだ」
シャリシャリポリポリと林檎を齧っているといつの間にか目的地である屋敷についていた。
「………やっぱりでかいよねぇ……、こんなの無償提供して貰って良いもんなのかね?」
目の前にある屋敷は築5年、屋根裏部屋合わせて3階建ての一軒家。しかもCH-47JAチヌーク1機ならば着陸できる程の広さを持った庭付き+αと大盤振る舞いときたものである。くれと言いっておいてなんだが、ほんとに貰っておいて良かったのだろうか?ちょっと不安になる大空であった。
「ツバサ様」
「「お兄ちゃん!」」
「あ、大空二尉」
「やあ、掃除と片付けの方はどうですか?」
こちらに気付いたらしく向かって来たサラ、レオ、エミリヤ、雪ノ下三尉に彼はそう聞いた。
「既に終えました。定期的に手を入れておられた様ですのですぐに、後は荷物等を運び込むだけです」
「手が早くて助かりますサラさん。ありがとうございます」
「……どういたしまして」
サラの頬が若干ほんのりと赤く染まるが大空は気付かない。
「む……、好敵手登場?」
それに気付いた雪ノ下がそう呟くがそれは大空の持っていた林檎に気付いた銀狼族の子、レオとエミリヤの声に被せられて大空には届かなかった。
「あ、お兄ちゃんそれ林檎じゃない?」
「良いな~、頂戴お兄ちゃん!」
「あ、レオばっかりずるい!!私だって欲しいよお兄ちゃん!」
喧嘩になりそうな2人を落ち着かせると大空はサラからどこからか取り出された分からないが果物ナイフを借りるとシャリシャリと刃を滑らせ林檎を切っていく。
「………良し、と」
切られていく林檎を見て2人は目を輝かせ始める、出来上がったのは6羽の林檎の兎だった。
「凄い凄いっ!!凄いよお兄ちゃん!」
「可愛いっ、可愛いよお兄ちゃん!」
「はい、美味しく食べてね」
「「うん!!いただきます!!」
2人はご機嫌にそれを口に入れ頬張る、嬉しそうなので良かった。あと、
「はい、2人にも」
「え?」
「いいの?」
サラと雪ノ下にも1羽ずつ渡す。
「だってあんなに欲しそうな顔をしてたじゃないか」
そう言って大空は微笑んだ。サラは受け取ったその林檎の兎をじっと見つめると、
「ツバサ様、今度時間があればこの『林檎ウサギ』の作り方を教えて頂けませんか?」
「良いですよ、簡単なのですぐ出来るようになるとはおもいますが」
「それでも教えて下さい」
「構いませんよ、ではまた今度」
「はい」
彼女は微笑む、一瞬大空はその微笑みの美しさに見とれてしまった。そんな大空を現実に戻したのは、
「たいちょ~?着きましたよ。どうしましたか?」
引っ越しの荷物を満載した高駆動車を運転してきた比企谷だった。
「うん?……いや、なんでもない。んじゃあ運び込みするぞ」
『りょか~い』
大空は引っ越しの指揮と運び込みに戻る、太陽はまだまだ高かった。
◆◇◆◇◆◇◆
夕方、
「良し、終了」
『終わったあ~』
皆ようやく終わった運び込みに庭の芝生に寝転ばる、夕暮れの風は涼しく青々とした芝生は柔らかかった。
「ふう~、なんとか無事終了かな?」
「ああ、これで駐屯基地の体際が整った訳だ」
「そうだね」
大空の隣に木製のコップを持った神木が座る。どうやらサラやユミィ達が配っているようだ。
「ところで、ソレ何の飲み物?」
「ん?これか?こいつはフルーツジュースらしいぞ。他にも色々とあったがな」
「へえ、じゃあ取って来ようかな」
「どうぞツバサ様」
「あ、ありがとうサラさん」
取りに行こうと身を起こすといつの間にか側にサラが現れコップを差し出していた。中身は林檎ジュースらしい。一口飲むととてものど越しが良く美味しい味がした。
「うん、美味しい」
飲み干して回りを見回すと皆楽しそうに笑っていた。それを見て大空も微笑む。
こんな、平和な日が続けばいいんだけど………無理なのかな……
そんな大空の思いは笑い声に消される、その未来を思った思いは当たらずとも遠からず着々とやって来るのだった。
次、新章です。