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アルヌスの旭日旗  作者: 神倉 棐
第1章 自衛隊彼の地にて戦えり【ギルム編】
20/27

ギルムでの動き

祝20部


大空が旭基地に出発して1日、辺境都市ギルムでは各所にて幾つかの動きがあった。


中心街から少し離れた所にあるこの館、ギルム駐屯地もまたその1つである。


「…………さて、どうしたものかねぇ」

「何がですか日向特務一尉?」

「ん?ああ、悪い。独り言です」


日向は思わず漏れた独り言に反応した雪ノ下にそう言う。彼女は幾つかの書類を纏め、丁度ひと息つこうと眼鏡を外したところだった。


「雪ノ下三尉は戦闘機乗りですが目が悪いのですか?」

「いえ、どちらかと言えば遠視気味でこの眼鏡がないと少し違和感があると言うか見にくいんですよ。あと視力は両目共に2.5です」

「成る程、凄いですね。自分は両目共に1.5ですよ」

「そうなんですか」


2人は息抜きを兼ねてそんなたわいのない話を続ける。その時部屋に扉をノックする音が響いた。


「失礼します」

「あ、サラさんにユミィさん」

「『コーヒー』と言う物を持ってまいりました。いかがてしょうか?」

「いただきます。雪ノ下三尉はどうします?」

「私もいただきます。ミルク多めで」

「かしこまりました」


辺境伯の館のメイド服をまとったサラとユミィがティーカップを用意し中にインスタントコーヒーの粉を入れポットから白湯を注ぐ。湯気がゆっくりと立ち上り同時にコーヒーの香りが鼻腔をくすぐる。


「どうぞ、お召し上がり下さい」


スッと音も無く目の前にほんのり湯気立つコーヒーのカップが置かれる。無音かつ気配を感じさせず行われたその動作に雪ノ下は少し驚いた。が、それは置いといてサラ達が入れてくれたカップに口を付ける。


「!美味しい……」


本当にこれがあの『普通』なインスタントコーヒーなのだろうか?インスタントコーヒーなのが信じられない程美味しく入れられたそれに雪ノ下は驚きが隠せなかった。


「な、なんでこんなに美味しいんだろう……」


しかもミルクの量は雪ノ下の好みピッタリのドンピシャである。これで驚かなかったら人ではないだろう。(注、雪ノ下談です)


「お口にめしましたか?」

「へ、あ、はい!美味しいです、凄く」

「ありがとうございます」


サラは一礼する。その礼すらも精錬され計測されたかのように美しく人の目を奪う。ちなみに何故サラとユミィ達が女中メイドなんかをやっているかというと大空が旭基地に出発する前日に……


「ツバサ中尉、仕事下さい」

「良いですよ。何をします?」

「ではメイドで」

「分かりました」


的な感じで(実際にはもっと丁寧な感じで相談があった)彼女が大空に許可を取り付けて、わざわざ必要な物をシリウス辺境伯から借りてまで仕事を始めたのだ。……まあ活躍具合からして正しい選択だっただろうが、


「サラさん淹れるの上手いですね」

「お褒めに頂き感謝します。ツバサ中尉にご指導頂いた甲斐がありました」

「大空ニ尉が?」

「はい、以前このインスタントコーヒーという物を作っているのを目にしその場でお教え頂きました。ご本人は簡単だと仰っておられましたがなかなか難しいですね」


そりゃそうでしょ、貴女みたいに本気ガチでインスタント作る人なんか居ないです。


わざわざスプーンすり切り何杯でお湯は何度で量は……、と彼女程きっちりする人絶対とは言い切れないが多分ほぼいない。ちなみに大空は感覚でポンポン入れてそれなりに美味しく作れるので確かに彼からすればかなり簡単なのだが普通の人は違うので気をつけた方がいい。


「ところで避難民の方々はどうでしょうか?」


雪ノ下はそう言えばと口に出す。大空達が保護した避難民はサラ達を含めて23名、大半が女性と子供だった為大空はまず全員をこの屋敷に住まわせる事にした。男性は警備員として、女性は女中として雇い子供達は屋敷で教育を受けさせたのだ。


「皆ツバサ中尉に、貴方方に感謝しています。子供達もいつも授業が楽しみだと言っていました」


サラは銀狼族でやたらと彼に懐いているあの2人を頭に思い浮かべる。そう言えば彼は何故か子供達に懐かれやすい様だ、避難民の子供達はもちろんここギルムの子供達ともいつの間にか懐かれている様だったからだ。


「なら良かった。少なくともあの子達には幸せになって欲しいですから」

「そうですね、今いる隊員は29人で警備員として雇った銀狼族の男性が3人に兎族が2人、猫族が1人で女中としているのが人族が4人で銀狼族が4人、兎族が2人と銀狼族の子供が2人の計47人。残りの人族男性2人は冒険者だった為組合ギルドに今居ますね。かなりの大所帯ですな」


隊員が増えたし弾薬も補給できた、これだけの戦力が有れば多分ギルムは半日で陥せるだろう。これは少しまずいかも知れない。小銃を持った武装隊員が27人……考えるだけで嫌になる、この世界では強過ぎるのだ。その為下手に動かせば思わぬ刺激をする事にもなりそうで相変わらずの悩みの種である。


「ともかく、大空ニ尉が帰って来るまでにはどうにかしましょう。……そのせいで私達が過労死してしまいそうですが」

「言えてますね、まあ程々に頑張りましょう」


2人は再び書類との戦いに戻る、またその部屋ではペンが紙を滑るカリカリという音だけご響くのだった。



◆◇◆◇◆◇◆



辺境伯の屋敷にて、館の主人であるシリウス辺境伯と第1近衛騎士団団長であるアリサは優雅に紅茶を飲みつつ机を挟んで向かい合っていた。


「……はあ」

「どうしました?アリサ様」


アリサの零したため息にシリウスは反応する。先程から既に4回はため息をついているのでどうしても気になったのだ。


「いえ、その……久しぶりにマッチャが飲みたいなぁ……と……ね」

「好きですね、マッチャ。確かにあれは癖になる口当たりですが中々飲める物でもありませんからね」

「陸輸なら1年、海輸なら半年、空輸なら3ヶ月も掛かりますし、値段も高いですから中々飲めないんです……。母が送ってくれるのも7割は紅茶になってしまって全部首都に保管しているものですからどこでも飲めないんです……」


アリサのテンションが右肩下がりの一途を辿るのを見てシリウスは苦笑いを浮かべる。昔からの付き合いだがこの感情の分かりやすさは25年経っても相変わらずらしい。


「そういえばアリサ様、首都から手紙が届いておりましたよ」

「首都からですか?」

「はい、今朝伝書鳩で。ええと、こちらですね」


シリウスは1度席を立ち執務机の引き出しから1枚の紙切れを取り出す。小さく折り畳まれていたらしく幾つもの折れ線が紙に走っていた。


「中は一応私が確認させて頂きました、第6近衛騎士団団長の『彼のあのかた』からです」

「『王宮騎士団』の『剣聖』殿からですか?何でしょうか?」

「詳しくはお読み下さい」


シリウスは手紙を手渡す。それをアリサは目で読んでいった。


「……アルタクルスとスタイリシュアが停戦、しかもアルタクルスから和平条約の打診があったですって?」


アリサはその内容に驚く、まずアルタクルスとスタイリシュアの停戦がありえなく早い。なんせまだ開戦から3ヶ月も経っていないのだ、間違いなくこの2ヶ国戦争の中で最短で停戦を迎えた戦争である。あとアルタクルスから和平条約の打診があったという点だ。一体どういった風の吹き回しでこうなったのか予想だにつかない。……いや、原因は彼ら、異世界から来た軍『自衛隊』の所為かもしれない。あの鉄の飛竜に天駆ける銀剣、大地を駆ける鉄の馬車に『小銃』と呼ばれていた弓を遥かに超える強さを持つ武器、僅か小数人であれ程の軍事力チカラを持つ彼らとやり合いたいというぶっ飛んだ戦争狂バトルジャンキーは流石にいないだろう。少なくとも自分はやりたくないしあの時判断を失敗ミスしなかった自分を大いに褒めてやりたいぐらいだ。


「色々と不可解な点もありますが停戦と和平条約はこちらにとっても良い事です。なので外務卿も条約締結に賛成との事です」

「ラシアン卿が?なら締結交渉の実行は議会で承認されるわね。戦争嫌いの内務卿も賛成に回るだろうし」

「軍務卿も賛成するでしょう、陸戦は良いとして空海戦では完全に後手に回ります。戦力不足からしてサンクレット卿も望まないでしょう」

「確か息子に代替わりしたのだっけ?なら……彼ね」

「ええ、貴方と同じ『議会派』で一応婚約者候補ですね。貴方の」


さらっと落とされた彼女が知らない事実の爆弾発言にアリサは一瞬停止プリーズする。対して落とした張本人はしれっとした顔をしていた。


「えっと……今なんて?」

「貴方と同じ議会派です」

「からかわないで、そこじゃなくてその後!」

「一応貴方の婚約者候補ですね」

「…………本当に?」

「ええ、本当です」

「マジかぁ…………まだ結婚したくないんだけどなぁ……」


アリサの呟きにシリウスの顔が引き攣る。


「アリサ様、今貴女何歳だと思ってるんですか?」

「え?25になりましたよ?」

「え?じゃないですよ、世間からしたら十分な売れ残りです。母上からも父上からも結婚する様催促されているでしょう⁉︎されてますよね?行き遅れますよ⁉︎」

「うっ……」


あまりの剣幕と気にしている事を突かれアリサは若干後退る。貴族社会において結婚における適齢期は17から20歳、最悪でも25歳を超えると行き遅れとなりあまり世間帯としてもよろしくはない。つまり今アリサは妥協点と行き遅れの丁度狭間にいるのだ。よって今を逃せばもしかしたらこれから先ずっと貰い手のいない事を覚悟する必要も出てくる。言葉通り『独身貴族』って奴である。


「で、でも私だって恋愛とかしてみたいしぃ……」

「それで昔マグナ学園に無理に通ったのに男っ気無く4年を過ごしたのは誰ですか⁉︎周りはみんな恋仲しにといて」

「ぐふっ……それに今騎士だし……」

「……辞令で幾らでも辞めさせれますよ」

「この人でなしっ、職権乱用だぁ⁉︎」

「貴女ですから問題ありません」


シリウスの断言にアリサは撃沈する。


……私だって貴女には恋愛をして政略結婚なんてして欲しくはないんですけどね、貴女が『普通』の貴族だったらまだ良かったんですが……。


シリウスは撃沈し落ち込んでいるアリサを見る。この国でも珍しい白銀髪に極東の民特有の黒瞳、体型はボンキュボンと出るべきところは出ているし引っ込んでところは引っ込んでいる為バランスは良い。言動がきつい訳でもないし性格がねじ切っている訳でもない、なのになんでこんなにもてないのかと言うと簡単には彼女が騎士団に所属しておりその中でも高位に位置する名剣士であるからである。刀、双剣、大剣、槍、斧、弓なんでもごされ、日頃使っているのは騎士剣だが持たせればどんな武器でも戦える天性の才能……悲しかな言い寄った男は全て彼女に決闘を挑んでこてんぱんにやられてしまい逃げて行き周りの男もそれにつられて逃げて行くという悪循環で結局彼女周りに男が1人もいなくなってしまったのだ。まあその代わり男達は『お淑やかで自分が守ってやりたいって思える人が良い』と気付いて彼女の周りのお淑やか系女子がそいつらと恋人ができまくるという一件もあったのだが今は置いておこう。

こほん……、つまり彼女剣さえ持たせねばかなりの才女なのだ。


「…………彼なら貰ってくれるかしら」

「?、彼とは?」


撃沈したアリサがぽつりと呟くがシリウスには誰かは分からない。……なんとなく誰かは目星が付きそうであるが、


「え〜、おほん。アリサ様?まさか我々の『英雄』ではありませんよね?」

「……サ、サア、ナンノコトヤラ……」

「…………」

「…………」


アリサはわざとらしく目を背ける。確かに事情を知らない彼なら彼女を貰ってくれるかもしれないが問題は向こうの意思である。出合頭早々色々やらかしたのだ、間違いなく第一印象は悪い。


「…………頑張って下さい」

「……うん」


色々とかわいそうになってきたので一応シリウスはアリサに応援エールを送る。取り敢えず友人の為にまず情報から集めようと思うシリウスであった。



◆◇◆◇◆◇◆



ギルム某所、とある建物のとある一室にて、


「……やっとギルムに入れましたね」

「はい、中々厳重な警戒態勢が敷かれていましたからね。城門を抜けるだけでかなり大変でした」


目深かにフードを被った影が4つ、机を囲んで集まっている。声からして最初に声を掛けた影は女、次に声を出した影は男だと思われる。


「副隊長、これからどうしますか?」

「先ずは情報収集からしましょう。アレについてどんな些細な事でも構わないので情報を集めて下さい」

「了解っす、多分噂ぐらいならすぐ集まると思いますが」


男は腕を組みながら1番最初に声を掛けた影、副隊長にそう言う。影は頷いた。


「真実については私が探ります。今夜にでも辺境伯の館にでも忍び込みます」

「……危ない綱渡りですね。まだ厳戒態勢が敷かれているでしょう」

「それでもやるしか無い、アレについては一刻も早く情報を集めなきゃ駄目な気がするの……」

「副隊長の悪い予感はよく当たるからね……」


男の影の言葉に副隊長を除いた他の影も頷く。


「確か……『自衛隊』だったか?」

「ええ、あの貫通魔法と爆裂魔法、天翔る銀剣について、それらを使役する自衛隊についての調査が私達の作戦目的です」

「あれは凄いよね、戦争についての既存の概念が全部吹っ飛ぶよ?」

「そんなになんすか?」

「そうよ、あの威力てあの連射性、小翼竜ワイバーンを遥かに超える機動性にその速度、既存の軍事概念のままあれらと戦えば火を見るよりも明らかに負ける事になる」

「マジっすか……」


事の重大さに男は驚く、中々キレる人材を連れて来たはずであったがどういう訳かこの男の影はそれに気付かなかったらしい。


「はあ……とにかく、黒髪の男『ギルムの英雄』については最優先で探りなさい。兵士曰くその男がその『自衛隊』でも重要人物らしいから」

「了解」

「わかりました」

「了解っす」


彼女の言葉に他の3つの影は頷く。


「では……次の合流は明日の朝で」


4つの影は音も無くそこから消える。残ったのは彼らが囲んでいた机に載った蝋燭ろうそく1本だけで、その火もいつの間にか綺麗に消されていた。



◆◇◆◇◆◇◆



夜、辺境伯の館の一室、半月の月光を浴びて白銀髪の女性は紅茶おちゃを飲んでいた。そこに……、


コツ……


「やっぱりあの中にいたのね……、もう1人は無事?」

「……はい、無事です。自衛隊の、ツバサ=オオゾラ中尉に救けて頂きました」


彼女は現れ礼をする、月光を反射して髪が銀色に輝いた。


「で、貴女はどうするの?王女付き侍従隊副隊長、サラ」

「私は……」


彼女、サラは今まで居た影から月の光の照らす位置まで進んで来る。


「私は、お暇を頂きたいと思います」

「……侍従隊を辞めると?」

「はい、顔も割れてしまいました。任を果たせなかった私はもはや侍従隊から去るしかありません。それに……」

「……それに?」

「それに、私は彼に付いて行きたい。私を、ユミィを救けてくれた彼に、自衛隊に恩返しがしたいんです」


彼女はサラの瞳を見る。その緋い瞳は揺れる事無く彼女の瞳を見ていた。それを見て彼女は諦めのため息を零す。


「はあ……貴女は彼という主を見つけちゃったのね?」

「はい……、命を掛けて仕えたい。そんな主を」


サラの表情が少し崩れはにかむように笑う。ほんのり色付いた頰が白い月光に映えてとても綺麗に見えた。


「良いわ、許します。代わりにユミィを連れて行きなさい、ユミィの方は出張扱いにしておくから後で本人に意思を聞きます」

「ありがとうございます、これが……最後になる『報告書』です。先の任務についてと自衛隊について私が調べた事をまとめてあります。これからの交渉に役立て下さい」


サラは何処からとも無く取り出した紙の筒を側にあった机に置く。サラが背を向けて部屋を去ろうとした時彼女によって呼び止められた。


「サラ」

「はい、なんでしょうか?」

「持って行きなさい。餞別です」


月の光を反射する何かが放物線を描き彼女の胸元に飛んで来る。サラはそれを片手で受け止めるとそれが何かを見た。


「これは……」


手の中にあったのは銀のロザリオだった。


「貴女銀は大丈夫でしょ?お守り。髪とも合うでしょう」

「……そう言われなかったらただの嫌がらせです。……今までありがとうございました、アリサ様」


煌めく涙を零しながら彼女は再び礼し、今度こそ部屋から完全に気配が消える。たった1人になった部屋で彼女、アリサは、


「……あ〜あ、新しい宿敵ライバル登場かも……ね」


そう呟き月明かりを頼りに彼女の残した最後の『報告書』に目を通すのだった。


筆が進まない……、どうしよう……。

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