2018、[2.4]全国同時多発テロ
パパパパパッ
「伏せろッ」
倒れる様にして伏せた背後の壁には幾つもの弾丸が着弾し削れる。
「おい、生きてるか?」
「……生きてるわ馬鹿、何人やられた?」
「追加で2人、防弾チョッキのお陰で骨が折れたぐらいだ」
「ちっ、残り3人か。敵はまだ4人にこっちには救出した人質が2人いるっつうのに」
奥吉野発電所のダム発電は現在停止中、制御室はテログループにより占拠されダム爆破と人質、重火器を武器に政府は脅迫されていた。ただのテロなら警察の機動隊や特殊部隊が出れば良かったのだが敵は一筋縄ではなかった。かつてアメリカで起きた同時多発テロ、それに則りこのテログループは全国の23の火力、水力、原子の発電施設を同時占拠し対策部隊を拡散させたのだ。それにより地元警察だけでは対応できないので自衛隊に出動要請が出たのだが、
「まったく、面倒なことを……。こんな事やっと三尉に上がった奴にやらせる事じゃないだろ」
「しかないだろ。後詰めのはずの俺達が何故か先に到着して人質救出しちまったんだから」
「……にしても敵さんも考えたな」
「確かに、全国同時多発テロ何て馬鹿みたいなテロをやろうなんて誰も思いつかない。しかも選んだ場所が的確過ぎる」
ここの様に水力発電施設の場合はダムの破壊、火力発電の場合は燃料タンクの爆破、原子力発電の場合は原子炉のメルトダウンを狙う等切り札としては最凶であり、間違いなく民間に多大な被害が及ぶものばかりである。それも周囲に市街地や都市等の近い場所が狙われている。
タタタタタッ
また銃声が響き今度は相方の隠れる壁が抉られる。的確かつ精密な掃射、相手が素人ではない事が明らかに分かる。
『ザッ……、こちらブラックⅣ。爆発物を解除』
「こちらブラックIII、人質は開放したが3人が負傷。応援頼む」
『了解、ブラックⅠとⅡは目標に足止めを喰らっている。しばらく耐えてくれ』
「了解……、だってっさ」
「完全にまずいな、護衛対象がいる上戦力も不足。突破できそうにない」
「ダクトは?」
弾幕が途切れた一瞬に俺は立ち上がり相方とは反対側の壁に隠れる。
「危険だ。それにそこから援軍や敵が来る可能性がある、鉢合わせすれば確実に全滅だ」
「まったく、人を撃った事がない俺達が出動ってのもそもそもおかしいんだがな」
『お前ら生きてるか?』
「リーダー、生きてます。被弾者は?」
『制御室に引きずってある。応急手当は人質だった発電所職員に手伝ってもらってあらかた終わった。お前らは?』
「そこに行くまでの通路で敵対勢力と応戦中、……リーダー」
俺は一拍置く。
『なんだ』
「閃光発音筒の使用許可を、敵を確保します」
『……死ぬ気か?』
「勝機はあります。敵は4人、閃光発音筒で視覚と聴覚を奪った後出来る限り殺さずに戦闘能力を封じます」
『相手が乱射すればどうするんだ』
「おそらくありません。敵が手練れであれば同士討ちをさけて撃たないはずです、逆にそれでも撃ってくるなら玉切れの時もう1発破裂させます」
『……分かった。チャンスは1回、失敗すれば即時中止し防御に徹しろ。いいな?』
「ありがとうございます教官」
無線の向こう側が静かになる。少しして、
『馬鹿者……リーダーと呼べ』
「了解、リーダー。突撃します」
俺は相方に合図を送る。弾倉を替えるための僅かな瞬間を狙って閃光発音筒が敵の隠れる通路の角に音も無く転がされる。
カッ
次の瞬間通路は強力な閃光と爆音に塗り潰された。
「ぐああっ⁉︎」
「はあっ‼︎」
89式小銃に多用途銃剣を着剣し敵のど真ん中に突っ込む。1人は後頭部を銃床で殴りつけ気絶させ、もう1人は銃剣で右肩を貫く。抜けない銃剣をそのままに小銃だけを引き抜きもう1人の腹部に掃射、銃を投げ捨て最後の1人を投げ飛ばす。
ぱんっ
「ぐっ‼︎」
背後で向けられていた拳銃を相方が撃ち落とす。そのまま左腕と足を撃ち抜き動けなくした。
「大空っ、使え‼︎」
「サンキュー‼︎神木」
投げ飛ばした相手と間を詰める俺に相方は自分の銃剣を鞘ごと投げてよこす。
「くそっ」
「させるかっ」
ホルスターから引き抜かれた拳銃が向けられる前に抜刀、居合いの用量でその手を跳ね上げる。切断はできなかったが血飛沫が俺の顔を彩った。
「せいっ」
大柄な男を組み敷き首を絞める。程なくして最後の1人も気絶した。
「はあ、はあ、……制圧完了。敵勢力を無力化できました」
『よくやった。厳重に拘束しろ』
「了解」
『ブラックⅠ、戦闘を終えた。すぐそちらに向かう』
『ブラックⅡ、こっちらも終えた。合流する』
相方が小銃を突き付けつつ俺が手早く拘束、情報を吐く前に死なれては困るので応急手当を行いついでに武器を鹵獲していく。
「……装備品はテロリストが手に入れやすい共産国製の物が大半、中には違う国があるけど……」
「問題はどこのテロリストだ?ISISか?」
彼らの持ち物をあさり中から携帯電話を引っ張り出し履歴を見る。見事に使い捨てで連絡先はひとつしかない、これがボスか。
「くそ、この自衛隊が」
「ん?気絶してなかったんだ」
日本語を話すテロリストの男は言う。
「貴様らに忠告してやる。この国はもう終いだ、何故なら……」
男の話に俺と相方はいかぶしながらそいつを見る。だがその内容を言おうとした瞬間男の頭に風穴が開き血が飛び散る。
「っ⁉」
振り返った先にいたのは、遅れてきたブラックⅠでもⅡでも無い、警察の特殊部隊の一団だった。
「失礼、あなた方がこれを?」
「はて、何のことでしょう?我々はあなた方の安全を確保する為テロリストを始末したまでです」
「つまり聞かれてまずい話だったのか今のは?」
「お答えしかねます。後そこにいる者の身柄はこちらで確保しますがよろしいですね?」
つまり今聞いたことは無かった事にしろという事か。
特殊部隊の者達が銃を手に他のテロリスト達を連れて行く。
「答えを聞く前に連れて行くって事はこっちに拒否権は無いという事だな?」
「……そうなります」
「なら好きにすればいい……こちらは負傷した仲間や被害者の相手がある……」
「ご協力感謝します。大空三等陸尉、神木三等陸尉」
リーダーである男は頭を下げるとすぐにそこから消える。そして23にのぼるテロ全襲撃地が自衛隊、警察機動隊及び特殊部隊に制圧されるのはそれから4時間後だった。
後日、俺達はこの史上最悪の事件の解決立役者の1人として表舞台に立たされ、口止めという事を含めて二尉に昇進する事になる。
武器詳細
・89式小銃:自衛隊の正式装備で銃剣の着剣が可能。
・閃光発音筒:強烈な閃光と爆音により付近の人間に一時的な失明、眩暈、難聴、耳鳴りなどの症状と、それらに伴うパニックや見当識失調を発生させて無力化させる為の手榴弾の一種。別名スタングレネードやフラッシュバンと呼ばれる。