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アルヌスの旭日旗  作者: 神倉 棐
第1章 自衛隊彼の地にて戦えり【ギルム編】
19/27

特地幹部会議

遅れました、では投下です。


「はあ、はあ、はあ……大空…速すぎ……」

「ふう……、お前が遅いだけだ。まったく……体力が落ちたんじゃないか?教官が居たら半殺しにされてるぞ?」

「はあ、はあ……そりゃ…そうかもね。ふう、ぞっとしないよ」


置いてけぼりにされたはずの大空の息は余り上がってはいなかったが逆に置いて先に走った神ヶ浜は既に息が切れている。それもそうだろう、大空は陸自なので常に走ったりしているが神ヶ浜は海自の護衛艦勤務なのだ。その時点で身体能力で差が出ている。


「ふう……、やっと落ち着いた。あ〜喉乾いた」

「大丈夫かよ?これは本格的に弛んでるな。鍛え直すか?陸自だったら問答無用で細マッチョだぞ?」

「……考えとくよ、後ろ向きに」

「嫌ってことだな。まあ護衛艦勤務なんだから仕方ないかも知れんが最低限鍛えとけよ」

「分かってるよ。あって困るのは体重が増える程度だからね、……女性に対しては大問題かもしれないけど」


神ヶ浜はそう言って戯けて見せる。2人はプレハブ造りの本部の中に入った。受付をやっている女性隊員を横目に奥にあった階段を登る。


「ところで今お前はどこ所属なんだ?前は横須賀基地だったはずだけど」

「今は第13護衛艦群所属きい型イージス護衛艦【みらい】で航海士長をやってる」

「きい型って確か新型イージス護衛艦だったか、みらいって事は3番艦だな」

「よく知ってるね、……まあ有名か」

「本家アメリカを超えると言われる新型イージス護衛艦、一部じゃイージスじゃなくてミニイージスじゃないかって言われてるからな。で、実際は?」


改良と開発は日本の十八番オハコである。


「……一応守秘義務があるから答えないよ。日本らしいっちゃ日本らしいけどね」

「……事実かよ」

「さて、なんの事かな?」


神ヶ浜はそうはぐらかす。分かりやすいのか分からないのか……よく分からないな。


「んで、なんで中東エリアに行く部隊の護送を第13護衛艦群がやってたんだ?」

「…………」

「だんまりか……またきな臭い事だな」


神ヶ浜はため息を吐く。


「あんまり言いたくはないけど俺もそう思うよ。でも『アレ』があってから内閣も防衛省も戦闘って言葉に敏感なんだよ、世論も安全保障について不安を持ってるだから……」

「例え自衛官の命を捨て駒にしようと、明らかなオーバーキルであろうと戦力を投入するのか?盲目反戦平和主義陣営を秘密裏に検挙まで空母を大量建造する事か?違うだろ、多少ならば問題無かった。今回はやり過ぎだ、激動する国際社会から見て確かに必要だったのかもしれない、だがこれじゃ何も『変わってない』じゃないか」


『人は過去を繰り返す』

どれだけ大切なモノを失おうが、どれだけ辛く悲しい思いをしようが人は忘れてしまう。そしてまた再び大切なモノを、無くしてはならないモノを無くしてしまう。人は過去から未来を変える事はない、変えられない。半世紀も前の事すら忘れ、つい十数年前の事すら忘れてまた多くの命が失われてしまった。


「………………」

「……すまん、お前に言うべき言葉で無かった。お前に責任を問うものではなかった」

「いいさ……、大体の自衛官がみんなそう思ってるからね。思ってないのは一部の政治家と民衆だけだよ」


神ヶ浜はそう言って立ち止まる。目の前には『会議室』のプレートが掛けられた扉があった。いつの間にか目的地に着いたらしい。


「さて、大空。開けるけど覚悟はいい?」


神ヶ浜は扉をノックする為右手の甲を扉に近づけながら最終確認を行う。


間違っても変な事言わないようにしよう……、あと神ヶ浜の『多分大丈夫だ』と言う言葉に引っかかるんだが……当たって砕けるしかない(いやいや砕けたら駄目だろ……)かな。


「ああ、開けてくれ」


大空が頷いたのを見ると彼は扉をノックする。


「神ヶ浜三等海尉です。大空二等陸尉をお連れしました」

『入室を許可する、入りなさい』

「失礼します」


扉が開け放たれ2人は中へと足を踏み出す。大空は武器を手に戦う戦いとはまた別の闘いへと赴くのだった。



◆◇◆◇◆◇◆



会議室の中はプレハブの鉄板が剥き出しのシンプルな、悪く言えば殺風景な空間だった。…………まあそこに並べられた長机やパイプ椅子に彼らが座って居なければ、


「陸上自衛隊新和歌山駐屯地、第7小隊所属隊長 大空おおぞら つばさ二等陸尉です」


敬礼した手の指をぴっちり額に添え敬礼の見本の様な礼をする。緊張でガッチガチである。


「ご苦労だ、大空二等陸尉。そこのパイプ椅子に腰を掛けてくれ、ああ神ヶ浜二等海尉は隣のパイプ椅子に頼む」

「はいっ」

「ははは、そんなに緊張しなくともいいぞ大空ニ尉。別に君をこの場で裁こうと言う訳ではないのだ」

「り、了解です」


1列に並んだ3人中央に座る初老の男性がそう言って大空の緊張を和らげる。まあそれでもまだカチカチなのだが、


「ではこちらも名乗ろう、横須賀基地所属第13護衛艦群旗艦きい型イージス護衛艦【さくら】艦長の沖田おきた 広嗣ひろつぐ一等海佐だ。この中で最年長となる」

「自分は横須賀基地所属第2潜水群極秘旗艦【やまと】艦長の海江田かいえだ 士郎しろう二等海佐です」

「前も紹介したが俺は千歳基地所属第3飛行隊隊長の日立ひたち 秋夜しゅうや一等空尉だ。前はF-35Bだったが基本搭乗機はF-3だからよろしく頼む」


3人の自己紹介がひと通り終わる。若干緊張が緩んだところで沖田は口を開いた。


「さて、では本題に入ろう」


俺は居住まいを正す。


「まずは君が異世界に来てやった事を振り返ろう。報告によると拉致された人物の保護及び護衛、その後辺境都市ギルムにて3度の戦闘と貴族とのパイプを築いてきた。という事かな?」

「はい、そうです」

「拉致されていた人間は人と獣人であったというのは間違いないかね?」

「その通りです、報告の通り人族獣人族合わせて計23人。一応友好的関係は築けています」

「では次だ、ギルムにおいて行われた3度の戦闘については?」

「1度目は約300の騎馬隊でギルム入城中のもあり迎撃するしかなく個別自衛権を行使しました。2度目以降は我々自衛隊における個別自衛権の行使とギルム『市民』の救援要請を受け集団的自衛権を行使しました」

「なるほど、3度目は夜戦でかなり危ない戦闘だったそうだね」


東門が突破され第1近衛騎士団が突き崩されかけた時の事を言っている様だ。確かにあれは危なかった、第二防衛線(最終防衛ライン)目前での市街地戦にまで突入してアリサ救出もかなりヤバかった間一髪の事だったのだ。下手したら彼女も隊員も死んでいたかもしれない。今回は偶々上手くいっただけなのだ。


「はい、航空自衛隊の援軍がなければ第1近衛騎士団は突き崩され市街地戦が拡大していたでしょう。我々自衛隊もまず自分を含めた5名で現場に急行しましたがそれでも危険な状態でした」

「ならば君を含めて5人がそこで戦死する可能性が十分にあったと言う事かな?」

「その通りです」

「そう分かっていて連れて行ったのかね?」

「もちろんです。あの時、近衛騎士団団長である人物の保護も急務であった為時間と戦力、生還率から鑑みて現場において最良の選択としてはこれしかありませんでした」


後悔はしていない。例えあいつらを危険に晒したのだとしても、それでも1番生還率の高い最良の選択はできた筈だ。俺はそれだけは否定しないし譲るつもりもない。


「……『最良の選択』か、なら君の中で『最悪の選択』は何だったのかね?」

「自分一人で出る事、多くの隊員を同行させる事、そして何も『守る事ができない事』です」

「ほお……」


沖田艦長はそう呟きながら髭のないシワの刻まれた顎を撫でる。目付きが一瞬鋭くなったのを大空は見逃さなかった。


「ほお、成る程ね……。『守る事ができない事』か」


うんうんと頷き沖田は側にいる2人と視線を交わす、2人も頷いた。


「合格だ。やはり聞いた通りの人物の様だ」

「?」


沖田はそう言って頷く。正直大空はそれについていけていない。聞いた通りってなんなんだろう?誰に聞いたのやら。


「では海江田ニ佐と日立一尉も次前に決めた通りにしてもいいかな?」

「もちろんです沖田一佐、彼ならば大丈夫でしょう」

「自分もです。確かに軍規違反は多いですがここ『特地』では間違いなく必要な事でした。それに彼が作ってきたパイプは評価に値するでしょう」

「なら大丈夫そうだな。大空二等陸尉、君に人事処分を言い渡す。多数の軍規違反より減俸6ヶ月に第7小隊の隊長の任を解く、なお三尉に降格だ」

「……はい」


ぐっ……予想はしていたが減俸と隊長の解任、降格の3つ、トリプルパンチはやはりキツイ……。せめて免職にならなかっただけまだマシなのだろうが、


「しかしだ。君がこの異世界、これからは『特地』と呼称するが特地で行ってきた事は評価に値する。よって特務一尉に昇級、新設される特地偵察隊隊長を命じる。君の同僚の神木ニ尉は第1小隊の隊長の任を解き同じく特地偵察隊副隊長に命じておく。陸地、つまり国との折衝は君に任せる。ただ重要な決め事にはこの特地幹部会議に提出する事、簡単に言えば外交に関しては君に一任する」

「い、一任ですか?私には荷が重いかと……」

「その為の神木ニ尉と日向特務一尉だ。日向特務一尉は外交に関しても優秀だから重宝してくれたまえ」

「り、了解です」


……聞いてない、降格したと思ったら昇級ってなんだよそれ⁉︎てか一佐が勝手に昇級させて良いのか?まあ防衛省うえと上層部(幕僚)とは異世界転移で音信不通だし現地で階級が1番上なのは沖田一佐だから大丈夫なのか……な?


「という事は第1から第7小隊と特務小隊は解体し統合ですか?」

「その通りだ。高駆動車6両、軽装甲車3両、10式戦車3両、90式戦車2両の計75人が特地偵察隊の内約となる。整備兵を入れれば80だがね」


マジか……、今までの4倍じゃねぇーか。


「ともかく、受けてくれるかな?」


……うん、断れないねコレ。ああっ、もうどうにでもなれ‼︎


「大空特務一尉、特地偵察隊隊長の任承ります‼︎」

「よろしい、大空特務一等陸尉。次回からは君にもこの幹部会議には参加してもらう、君がギルムに戻るのは3日後を予定しているのでその際神木ニ尉達に今回の辞令について連絡してくれ。以上だ」


沖田、海江田、日立がパイプ椅子から立ち上がる。


「これで第5回特地幹部会議を終了する、解散」


5人は礼をする。こうして大空は昇格し同時に特地陸上自衛隊のトップとなる事になったのだが……この時の大空はそこまで気が回っていなかったのだった。



あと1話上げたらアナザーストーリーを入れてみようかな?

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