ギルム攻防戦:裏方編
「こちら航空自衛隊特別編成飛行隊。これより作戦行動に移る」
『ザッ……了解、こちら第七小隊隊長。援軍感謝する、グットラック』
彼はその通信が途切れると今度は部下に指示を飛ばす。
「いいかお前ら、反転後アフターバーナー点火しつつ、空対空ミサイルを城壁外敵性勢力に発射、バルカン砲を撃ち込み辺境都市直上をローパスしろ。できるだけ派手にな!」
『了解‼︎』
隊長機以下5機が元気に返事を返す。残り2機の2人はため息を零した。
『日立一尉……』
『あなた……』
最後尾を飛行するF-35Bに搭乗する女性陣、雪ノ下楓三尉と彼の妻日立冬由ニ尉である。彼女達は直接戦闘に参加せずギルムにいる第一、第七小隊に物資を補給する為と、ある人物に対する召喚命令を通達する為にここまで飛んで来ていた。無論相手は今回の元凶である『彼』だ。
『日立一尉ってやっぱり戦闘機に乗ると人変わりますよね……、いつものF-3じゃ無くても……』
『降りたら普通なんだけどね……』
『いえ……十二分に熱いですよ?』
苗字から分かる様に日立秋夜一尉と日立冬由ニ尉は夫婦である。しかも同じ隊で今回は違うがいつもはF-3の同乗パイロットでありそれはもうラブラブで熱い。出会いや付き合い、結婚まで壮絶なラブコメがあったりなかったりする……らしく千歳では有名(ほぼ伝説)である。
「……冬由、雪ノ下、任務に戻れ……」
『『ッ⁉︎了解しました‼︎』』
女性陣のヒンヤリしどこかズレた会話が耳に痛くなった日立はそう言う。聞いてて何故か恥ずかしくなってくる。
そうこうしている内に隊は反転、正面には壁外にいる敵性勢力が見えた。
「よし……、行くぞ!攻撃開始‼︎」
『空の覇王』と呼ばれた男、日立秋夜。この空戦後、その名は異世界であろうと関係無く世界へと轟いた。
◆◇◆◇◆◇◆
一方その頃、レオポルド海峡沖に海上自衛隊第十三護衛艦群所属アカギ、みらい、さくら、こんごう、みょうこうの5隻が航行していた。その中で彼が乗艦しているのは新型であるきい型イージス護衛艦みらいである。
「神ヶ浜航海士長、CICより連絡、航空自衛隊特別編成隊が作戦を開始しました」
「了解、艦長、合流海域に向け反転します」
「了解した。航海士長、よろしく頼む」
「旗艦さくら、反転しました。アカギ、こんごう、みょうこうも反転開始しました」
「了解、船首回頭120。反転せよ」
「面舵一杯、通常船速」
灰色の艦隊は隊列を崩す事なく反転、来た海路を進む。夜明けの光を浴びる船体は巨大で全長約200メートル以上はある。俺は艦橋の窓から差し込む日光に目を顰めた。
眩しいな……、全く、あの野郎は……無事だよな?
頭に浮かぶのは今回の『元凶』である男の顔。学友だが悪友でもある平凡な彼の顔を思い浮かべそう思う。いや、あの正反対の秀才が一緒なら大丈夫だ。同期の中で未だ恋人も結婚もしていない腐れ縁のこの3人組に神ヶ浜は苦笑する。こんな所(異世界)まで一緒にやって来るなんて最早『腐れ縁』としか言えないだろう。
「反転完了、合流海域に向かいます」
「了解、各員警戒を厳とせよ」
艦長の言葉に彼の注意は現実に引き戻される。ここは敵地かも分からない海域、この世界に転移してから全艦の警戒態勢は『厳』のままで最近確保されつつある基地付近であろうとCIC(戦闘指揮所)は特にピリピリとした緊張感が漂っている。
早く陸でゆっくりしたいもんだ……。
基地だろうとまだ警戒態勢は『厳』のままだが久しぶりに立てるであろう陸地が異世界の物だろうと、彼、神ヶ浜伊奈帆は待ちどうしく感じるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆
ギルム領主の館中庭、そこにある仮設駐屯地にて。無線機前にした一咲一曹はどうにか飛行隊が間に合った事に安堵しながら館のメイドさんが出してくれた紅茶を啜っていた。
「はあ……なんとか間に合った」
「凄い音でしたね……」
「だから言ったでしょ、『耳を塞いでおいた方が良い』って」
「そうですが……」
「あ、あとイリスさん」
話し相手兼紅茶を淹れてくれたメイドさんであるイリスに向き彼は言う。
「あと何往復かしますよ?」
「先に行ってください‼︎」
ゴオオオオォォォ
バシュバシュッ
ズドオォンッ
耳を塞いてなお響いてくる轟音に彼女は震え上がる。(ちなみに一咲は通信用のヘッドホンをしているので無事)つい彼女は側にいた一咲に抱きついてしまった。
「ちょっ、イリスさん⁉︎」
「怖い……ってはっ⁉︎」
抱きつかれた一咲もだが無意識に抱きついた彼女もまたパニックになる。
「ししし失礼しましたっ‼︎」
「いい、いやいいんだけどね……」
余談だがこの会話内容は無線を通して第一、第七小隊各員だけで無く飛行隊、はたまたはアカギにまで漏れているのだが今回は触れないでおこう。主に一咲と彼女、イリスの為に。
閑話休題、
この天幕とは違う天幕にいる避難民、セラやユミィ、レオやエミリア達は交代で来た自衛官である比企谷と栗原は言われた通りしっかりと耳栓(特に獣人の人は耳が良い為)をした上で耳を手で押さえ防音対策をしていた。
「……何も聞こえない」
が、耳を押さえているだけの比企谷と栗原の渋い顔からかなりうるさい事になっていることが彼等にはありありと分かった。
そう言えば彼等には耳を塞いて置くようにとは言って無いようでしたね。
彼女は夜明け直前に自衛官達が耳を塞ぐように言った後自分達が言う通り塞いでいたのを屋敷のメイド達が不思議そうにしていたのを思い出す。実際はその後ちゃんと耳を塞いでおくように連絡されていたのだが天幕の中にいた彼女が知る訳もなく、そう思っていた。
一方、自衛官である比企谷と栗原はと言うと。
「……かなり割れたな」
「割れましたね……」
2人は呟き最後の一言が被る。
「「窓ガラスが……」」
2人はため息を吐く。戦闘機がアフターバーナーを点火した状態で速度が音速を超えると『ソニックブーム』つまり衝撃波が発生する。その衝撃波は地上近くで発生すると至る所にある『窓ガラス』を破壊、つまり割ってしまうのだ。そして先程の爆音に混ざりかなりの量の窓ガラスが割れる音がしたのだ。どうやらあれ程窓は開けて衝撃波の影響を受けにくいようにと説得したかというのに、……総被害金額が幾らにのぼるのだろうか?
この世界において窓ガラスはそんなに高価では無い、だがそれは普通のガラスにおいてはだ。貴族の館にはめられた高級ガラスはもちろん高い、それが全て割れたのならとんでもない金額にのぼる可能性があった。下手したら平民の年収の3倍ぐらい……。
とまあそれを防ぐ為にせめて窓だけは開けておくように言ったのだが実行されなかったらしい、先程けたたましく鳴った薄く硬い物が割れる音が何よりの証拠である。
「はあ……」
一応隊長(大空の事)にも聞いてもらえなかったら仕方ないと言われてはいるが2人の気分は相変わらず重かった。
兵器紹介
F-35B:第5世代ジェット戦闘機に分類されるステルス機でありこの機体は垂直離着陸が可能である。
きい型イージス護衛艦2番艦 さくら:2018年度就役の新型イージス護衛艦。第十三護衛艦群における旗艦を務めるが現実においてきい型艦は存在し無い。
こんごう型イージス護衛艦1番艦 こんごう:1993年度就役のこんごう型護衛艦の1番艦。艦名は金剛山に因み、日本の艦艇としては3代目。
こんごう型イージス護衛艦3番艦 みょうこう:1996年度就役のこんごう型イージス護衛艦3番艦。艦名は妙高山に因み、日本の艦艇としては2代目。
きい型イージス護衛艦3番艦 みらい:2019年度就役の新型イージス護衛艦。
用語集
CIC:戦闘指揮所の事、日本ではクリーンCと呼称する。Combat Information Centerの略。