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アルヌスの旭日旗  作者: 神倉 棐
第1章 自衛隊彼の地にて戦えり【ギルム編】
13/27

ギルム攻防戦:夜明けに輝く銀翼

新年明けましておめでとうございます。拙い物語ですが今年もよろしくお願いいたします。


銃声も当初と比べ少なくなり夜戦が開かれてからもう1時間は過ぎた。


『隊長、残弾が予備弾倉マガジンのみになりました』

「1班と交代、2班は後方支援にまわれ」

『了解』

「神木、敵との距離は?」

『約120、1時間掛けてジリジリと近付いてきてるな。1班の残弾も厳しいだろ?』


俺は壁上で銃撃を続ける1班を見る。既に再配分された残弾は予備含め50発を下まわっているのだ。幾ら弾薬を節約してもこれが限界だった。


「ああ、かなり厳しいな。予備を解放してこれだからな、このままじゃ夜明けまでに弾丸たまが尽きる」


夜明けまで残り1時間半、おそらく軽く見積もっても残り半時間で弾丸が尽きてしまう。まだキャリバーはほとんど撃っておらず弾丸は残っているがこいつはまだ用があるので使えない。


手札もまだ切れないからな……。


手札を切れば1時間は時間を稼げる、がそれを使うと手が無くなってしまうのでまだ温存しなければならない。それ以前に有効射的圏内にすらまだ入っていないのだ。


『こちら2偵察ツーリコン、西門も押され気味だ。どういたしますか?』

「こちら第七小隊隊長、完全に押され始めたら信号弾を撃て。急ぎ救援に駆けつける」

『了解』

「空木」

『こちら偵察リコン、なんすか?』

「見つかったか?」

『残念ながらまだですね。西門にはいないようです』


空木の報告に俺は腕を組む。同時侵攻が行われた西門、南門のどちらかにいると思うのだがなかなか大将は見つからない。が、西門最高指揮官らしきものは見つけたらしい。馬に乗りながら的確な指揮を飛ばし前進後退を繰り返し着々と攻め込んでいるらしい。


「どこの将かわかるか?」

『捕虜によりますとアルタクルスの中で最もここに近い辺境領の伯爵らしいです。名前はバルツァー伯、部下からも慕われ今回の遠征では大将とは不仲であると噂らしいです』

「ほう」


やけに詳しく返ってきたがそれだけ有名という事だろう。とはいえこれで場所は絞れた。空木を南門に移動させる。


『大空、残り100だ。第二段階に移れよ』

「ああ、1班及び後方支援班は射出機カタパルト発射用意‼︎」

『了解‼︎観測弾発射用意!』

『第1、第2、第3 射出機カタパルト観測弾装填』


それなりの大きさの『樽』が射出機カタパルトにセットされる。中身は夜光塗料に似た『ヒカリゴケ』と言うコケだ、日光を吸収し夜間その光を放出、発光する便利なコケで街灯などに使われているらしい。

偶々(たまたま)欲しい物に該当する物があって良かった、流石にV8(暗視装置)だけじゃ着弾点の観測はしにくいからね。


「撃ち方用意」

『撃ち方用意、標準合わせ』


隊員達とツルッペルン領兵が手分けしてカタパルトの発射用意を行う。いつの間にか息ピッタリだな。


『準備完了!』

「了解、撃ち方始め!」

『撃ち方始め!観測射開始!』


バコンッ、バコンッ、バコンッ


3つのカタパルトから観測弾が放たれ樽は敵陣に落下する。落下の衝撃で樽は砕け散り中身が周りに飛び散った。暗視装置が無くともよく見える。


『全弾目標に着弾!』

「了解。投擲弾A装填、効力射に移れ」

『投擲弾A装填!装填完了』

「撃ち方始め、発射後次弾装填」

『撃ち方始め‼︎』


すぐさま効力射が開始、『手榴弾の詰まった』樽が敵陣に飛び込んで行く。落下の衝撃で樽は破損しピンの抜かれた手榴弾が広範囲に転がる。バネが跳ね上がり次の瞬間殺傷性の高い爆発が至る所で発生、敵陣中は阿鼻叫喚の地獄画図と化した。


……見えないだけまだマシだな。夜で良かったよ、昼だったら……想像したくはないな。


今が昼で日が出ていたと考えゾッとする。がこれでは終わらない。この第二段階は『二段構え』の殲滅用作戦、二段目は更にえぐい。


「……投擲弾B装填、撃ち方用意」

『投擲弾B、撃ち方用意‼︎』

「弓兵隊整列‼︎『火矢』つがえ‼︎」


壁上に並びつがえられた12本の火矢が綺麗に整列する。次の投擲弾は単体では意味が無い、火矢、つまり『火種』がセットで無ければ効果が現れないのだ。

これでもうお分かりだろうが樽の中身は『油(ガソリン含む)』だ。着弾後火矢を放つ事により発火、爆破炎上させるつもりなのだ。


『投擲弾発射準備完了‼︎』

「……撃ち方始め‼︎着弾後火矢放て‼︎」

『撃ち方始め‼︎』


バカン、バカン、バカン


1発目が発射、すぐさま2発目が装填され打ち上げられる。樽の数は計9つ、3発目が打ち上げられこれで終了だ。


「火矢放て‼︎」


ツルッペルン女伯の号令に合わせ今度は引き絞られていた12本の火矢が一直線に放たれる。さすが精鋭、100メートルの距離を物ともせず正確に油のばら撒かれた地点に突き立った。


ズドゴォォオオンッッ


油に混じったガソリンに引火し辺り一面で大爆発が起きる。一瞬だけだが南門だけは午前4時ごろでありながら昼の様な明るさに包まれた。


ゴオオオオォォォ


遅れて爆風と熱波、爆炎と業火が南門前を埋め尽くす。


「ぎゃあああぁぁぁぁッ⁉︎」


地獄の業火に焼かれ死に切れず炎に苦しむ者の悲鳴が戦場を埋め尽くした。


タンッ


俺は炎に巻かれのたうちまくっていた兵を撃ち抜く。


「弓兵は下がれ、矢では届かない。介錯は俺達がする」

「……そうさせて貰うわ、ごめんなさい役立てなくて」

「気にしなくていい、……彼らを苦しめたのは俺達だ。なら楽にしてやるのも俺達の仕事だ」

「分かったわ……無理しないでね?」

「部下に言ってやってくれ、俺なんかよりな」

「……」


彼女は目を瞑り首を横に降る、だが何も言わずそこから離れていった。


俺はいい、俺は耐えられる、だが部下は、神木達がそうだとは限らない。


1人、俺は壁上で1人ずつ自らが苦しめた人々の介錯を行い続けた。



◆◇◆◇◆◇◆



彼女は思う。彼は危険だと、彼は悲しい人だと。だが「何故?」と思う。何故あれだけ悲しみと残酷さを感じながら自分以外の、部下や友人、挙げ句の果てには他人である私達にまで何故気を使えるのか?あの残酷さを、あれ程の死を見ながらどうして私達に微笑めるのか?あれ程……辛そうな顔をしながら。

彼は強い、だがその強さは彼自身を蝕んで行く。心が傷付こうが壊れそうになろうが彼は誰かを安心にする為に、護り導く為にソレを押し殺し微笑み笑う。

ソレは人を確かに惹きつける、だがそれは残酷で悲しい英雄の姿だ。彼女は彼をそんな英雄にしたくなかった。


「……どうすればいい?」


彼女はそう呟きながら炎に塗り潰された夜空を眺めた。



◆◇◆◇◆◇◆



「……終わりか」


俺は顔を上げる。最後の1発を撃ち尽くした小銃をそのままに未だ燃え盛る平野を見渡す。悲鳴も呻き声も無くなったそこは先程と打って変わり火の爆ぜる音しかしない静寂に包まれている。


『……大空』

「ん?どうした神木?」


俺は壁にもたれかかる様にして座る。


『……無理すんなよ』

「……善処するさ」

『してねぇから言ってんだろうが……』

「ははは……、大丈夫さ」

『信じれねぇなぁ……、前科があり過ぎる』


今日の神木は心配性らしい、がそうなるぐらい心配させてるんだから仕方ないのかもしれない。


「ありがとな」

『ふん……、ありがたく受けといてやるさ』


ま、減らず口は減らないみたいだけど。


『隊長⁉︎』

「どうした比企谷⁉︎」

『西門より信号弾‼︎不味いです、西門が破壊、突破されました⁉︎』

「なんだと⁉︎」


凶報はまだ続く。


『更に西門が占拠され第1近衛騎士団が後退、押されています‼︎』

「くそぉっ!もうすぐ夜明けなんだぞ!分かった救援に向かう。石田、宮部、田中、柊は付いて来い!HNVをまわせ。あととっつぁん銃貸して」

「了解、弾倉4つ残ってますんで分けてください」

「ありがと、行くぞ‼︎」

「「「「了解‼︎」」」」


急ぎHNVに乗り込み西門に向け走り出す。大空以下5名は戦場と化した西門に向かい車を走らせた。



◆◇◆◇◆◇◆



西門が破られた理由わけを知りたいならしばらく前にまで時間を巻き戻さねばならない。それは大空が1人壁上で介錯を行い始めた頃まで遡る。


「くっ、敵軍はなかなかやりますね……。被害は?」

「30人が討死、倍は負傷しています」


それを聞いてアリサは手を握りしめる強さが上がる。夜襲からおよそ2時間、その間に30もの騎士の生命いのちが散りその倍の騎士達が傷付き戦えなくなっている。既に1割が削れた現状においてこの数はかなり痛い数字だ。


「南門は?」

「被害ゼロ、先程の轟音も彼の提出した作戦第二段階を発動した物だそうです」

「……さすが自衛隊ね、シャルルも大変そう」

「団長、我々の方が今遥かに大変ですよ……」

「そうでした、敵はかの有名な『フェンリルの昏鷹』バルツァー辺境伯爵。相手に不足なしです」

「些か分が悪い気もしますがね……」


副団長の彼がそう呟きアリサがそれを咎めようとしたその時、


ズガアァァンッ


「きゃっ⁉︎」

「むっ⁉︎」


突然の巨大な破砕音と衝撃がその身を襲った。揺れも音も近い、必然的にそれがどこで起きたのかは予想出来る。そしてその予想は伝令に飛び込んで来た若い騎士によって正しいのだと決定付けられた。


「たっ、大変です‼︎もっ、門が破られました‼︎」

「なんですって⁉︎何があったの⁉︎」

「それが……」

「団長っ、後退を‼︎前衛が破られました‼︎」

「くっ⁉︎何が……、それより後退です‼︎第二防衛線まで後退します‼︎」

「御意‼︎後退だ後退しろ!」


前衛が食い破られ中衛をも突撃を受けた第1近衛騎士団は第二防衛線に後退する。が、追撃が激しく幾つかにばらけてしまった。


「団長、不味いですね。戦いながら下がってたら裏道に出てしまいました」

「ふう、ふう……、とりあえず追っ手は潰しました。慎重かつ早急に第二防衛線にいる部隊と合流しましょう。着くまでの間に『何故、どのようにして』門が破られたのか報告して下さい」

「分かりました。あれは今から少し前の話です……」



◆◇◆◇◆◇◆



門が破られる少し前の事、


「おい蓮尾……どう思う?」

「何が?」

「敵の動きだよ」

「敵の動き?」


2偵察ツーリコンである吉田三曹、蓮尾一士両名は高い建物の屋上にて敵の動きを観察していた。その為バルツァーの指揮するアルタクルス軍の不可解な動きに気付けたのである。


「ん?さっきから門に対する攻撃がされていない?」


そう、壁に梯子を掛けるわけでも破城槌で門を壊そうとする訳でもない。一撃離脱を繰り返し壁上の兵を削る程度の事しか先程からしていないのだ。


「怪しいな……これは」

「だろう?だがどうするか?あの団長さんに報告してもなぁ……」

「隊長も駄目でしょう。今第二段階実行して介錯の真っ最中でしょうから」

「だよなぁ……はあ」


自分達が報告にでても信じて貰えるか、例え信じて貰えてもそれを彼女達が扱い切れるかどうかは分からない。2人共彼女達第1近衛騎士団を信用はしているが信頼はしていなかった、これは向こうでも言える事で最悪信用すらされていないかもしれない。

故に2人は報告を行おうかどうかで悩んでいた。


「ああ……、駄目元でしてみっか?」

「そうしますか……」


2人は戦場から目を離す。その一瞬の間に戦場に現れたある部隊に彼等はすぐには気付けなかった。


「ん?なんだあの騎馬隊?」

「どこだ?」


ほんの少し目を離した隙に現れた僅か7騎の騎馬隊に2人は嫌な予感を感じる。普通『ただの』騎馬隊が僅か7騎で現れるだろうか?


「嫌な予感がする……蓮尾一士、安全装置は外しておけよ」

「ラジャ、……同感です」


銃口を騎馬隊に向ける。すぐに嫌な予感が的中する事になった。


騎兵戦術ランスチャージ?いやあれは普通のじゃない⁉︎」


槍から騎手、騎馬に至るまで全体をゆっくりと赤、青、緑、各色の光が覆い異様な圧力プレッシャーが掛かる。


「あれが『魔力』ってやつか?」

「やばいですよ……、あれ絶対『普通の』攻城兵器より遥かに威力はありますよ?」


そうこうしている内に騎馬隊は走り出す。そのスピードはあり得ないぐらい『速い』。初速でゆうに原付ぐらいスピードが出ている。


「くっ⁉︎撃て撃て‼︎少しでも減らさなきゃ抜かれるぞ‼︎」


焦りもあり弾丸をケチる余裕もさらさら無い、初めから連射のレにレバーを合わし2人は掃射する。


「なに⁉︎あれ弾かれてないか⁉︎」

「槍とか金属製品に当たったの全部弾かれてますよ⁉︎どんな魔法だよ‼︎」


鎧や兜に当たった弾丸は弾かれ全くと言っていいほど効いていない。が直接肉体に被弾した物は確かに効いているらしい、2騎が崩れ落ちた。


「くそ……遠過ぎて当たらねえ……」

「馬を狙って下さい‼︎足止めだけでも……うわぁ⁉︎」


途中馬を撃ち抜いたあと2騎を除いた3騎が西門に突撃する。轟音と揺れが彼等を襲った。


「チッ!やられた‼︎蓮尾信号弾発射、俺達も退くぞ‼︎」

「了解!いけ‼︎」


バスンッ


空に信号弾が打ち上げられ辺りがその光に照らされる。僅かに東の空が白み始めたがその光は十分に目立った。


「こちら2偵察ツーリコン‼︎仮設駐屯基地へ、西門が突破された!これより第二防衛ラインまで後退する‼︎」


吉田は仮設駐屯基地に連絡を入れ蓮尾を連れて後退した。これは第1近衛騎士団が後退を始める数分前の話だった。



◆◇◆◇◆◇◆



「……と言うことです」

「分かりました……、そんな方法で門を突破するなんて……」

「あらかじめ自衛隊が4騎を仕留めてくれていなければ更に被害が出ていたでしょう。最悪後衛、本陣まで貫かれていたかもしれません」


本陣まで貫かれていた場合、今自分はここまですら後退出来なかっただろう。最悪の事態が予想でき、そうならなかった事に安堵の息が出た。


「……気を抜かず後退しましょう。挟まれたら一巻の終わりです」

「分かり……」

「いたぞ‼︎敵だ‼︎」

「団長‼︎敵襲です!殿下だけでも先にお逃げ下さい。ここは我々が食い止めます!」

「しかし……」


狭い裏路地に現れた数十人の敵兵、短槍を装備している相手に対し騎士剣しかないこちらの騎士とは確実にこちらが不利だ。


「お逃げ下さい殿下‼︎貴女さえいればなんとかなります!さあお早く‼︎」

「くっ、すみません‼︎先に行きます、どうかご無事で‼︎」

「「「御意」」」


彼女は背後を守る為踏み止まった部下を後にし裏路地を走る。だが運命はそう甘くない、再び敵兵が現れ彼女の行く手を阻んだ。


「はあぁっ‼︎」

「死ね‼︎」


ガキンッ


敵兵の剣を騎士剣で受け受け流しながら斬る。1人2人、何人も相手にしていたが走っていた事も女性である事もあり速い段階で体力が切れる。


「覚悟‼︎」

「くっ‼︎もう……駄目……」


何人目かの相手に剣が弾き飛ばされ衝撃で壁に叩きつけられる。振り上げられたその剣に彼女は死を覚悟した。



◆◇◆◇◆◇◆



「くそっ、アシュリードどっちだ⁉︎」

「コッチです‼︎剣戟の音が近い!」

「分かった!総員着け剣‼︎死ぬなよ!」

「了解、隊長こそ!」


HNVから降り移動中に合流したアシュリード達と共に大空達は第1近衛騎士団団長であるアリサ救出の為に急ぐ。西門周辺ではいたるところで敵兵と騎士達が戦い血の匂いが充満しつつある。


「ぎゃあぁっ⁉︎」


大空の射撃で敵兵を片付けひたすら走る。なかにはかなり若い兵もいたが気にする暇など無く撃ち殺した。


「ツバサ殿いた‼︎」


アシュリードの声に俺は横路を見る。そこには剣を振り上げられ絶対絶命のアリサが壁にもたれ掛かっていた。


くそっ、位置的に小銃での狙撃は無理だ。


このまま撃てば射線に重なるアリサごと撃ってしまう。迷っている暇は無かった。


「やらせるかよっ‼︎」

「ぐはっ⁉︎」


俺は走り銃剣を敵兵に突き刺す。


「死ねぇっ‼︎」


喉笛を切っ先で切り裂き息の根を止める、噴水の様に吹き出た真っ赤な血が大空の顔や身体を紅く染めた。


ダンダンダンッ


残りの兵を撃ち殺し他の兵はアシュリード達が斬り裂いた。


「大丈夫ですかアリサさん?」

「え?あ……ツバサ殿?」

「良かった、無事そうですね……」


彼女の肩に手を置きながら俺はそう言う。目立った怪我は無く、命に別状は無さそうだ。


「ツバサ殿!ツバサ殿!」

「うわ⁉︎アリサさん⁉︎血が付きます⁉︎」


彼女は俺に抱き着いた。突然の事に驚くがそれよりも血が付いてしまう事が俺は気になった。


「大丈夫ですアリサさん、落ち着きましたか?」

「グス……、はい、大丈夫です」


やっと落ち着いた彼女に俺は安堵する。少しまだ目が潤んでいるので完全に大丈夫ではないだろうが、


「アリサさんはアシュリード達と第二防衛ラインまで下がって下さい。俺は少しやる事があります、いいですね?」


彼女は頷く。俺はそれを見届けてから立ち上がった。


「アシュリード、西門まで誘導してくれるか?」

「もちろん、最後まで付き合うよ」


彼は頷きながら快諾する。俺は腰のベルトに挟んだ信号弾を片手で撫でた。


「ありがとう。お前らすぐ戻る、第二まで退いて待っとけ。いいな?」

「隊長、ご無事で」

「もちろんだ、任せろ」


俺とアシュリードは西門を目指して走り出す。出会った者は敵であれば斬り殺し更に血を被る、それを見た敵兵は彼を『鮮血』と呼び味方は『真紅』と呼び、恐れ讃えた。


「ハアァァァッ‼︎」

「せいッ!」


2人は中央を突破し西門に出る。かなりの兵が門の内側に侵入しているが3分の2はまだ外側にいた。


『ザッ……隊長、『信号弾』を』

「了解、発射ファイア‼︎」


腰に差していた信号弾を上空に打ち上げる。西門にいた全ての者の注意は一瞬全てそれに惹きつけられた。


キイイイイィン……


その時、久しぶりに聴く懐かしく、待ち望んだその『音』に耳にした。

夜明けの光が大地を差し照らす。


『ザザッ……、こちら航空自衛隊特別編成飛行隊。これより作戦行動に移る』

「了解、こちら第七小隊隊長。援軍感謝する、グットラック」


ゴオオオオォォォンッ


夜明けを背にし、それを反射する銀翼の彼等は、辺境都市【ギルム】の空を駆け抜けた。

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