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アルヌスの旭日旗  作者: 神倉 棐
第1章 自衛隊彼の地にて戦えり【ギルム編】
10/27

ギルム攻防戦

作戦については次回明かそうかと、ちなみに考えたのはメインが大空で詳細を詰めたのは神木となっています。が、現場指揮の大空は偶に作戦無視して対応するので作戦通りになるのは序盤だけです。


配置構成は

東門→第1近衛騎士団、1偵察ワンリコン

西門→シリウス本陣勢、2偵察ツーリコン

北門→第2近衛騎士団、3偵察サンレコン

南門→ツルッペルン勢、自衛隊本隊

それ以外→自衛隊護衛・誘導隊

となります。


「うわあ……凄いな。10,000ぐらいいるんじゃないか?」

「聞いてないな、作戦じゃここに来るのは少数精鋭なんじゃなかったか?」

「ま、相手の将が馬鹿なんじゃないの?とはいえ10,000は予想外だな。多くとも3,000と考えてたが」


視界を埋め尽くさんばかりに人、人、人、人がもう黒い波にも見える。

えっと、こういう時はなんて言うのか?人がゴミの様だ?

心の中でソレはジ◯リじゃねえか!と突っ込みつつ(使う時も間違っている)俺は距離を測る以外使う必要の無くなった双眼鏡を片付ける。


「さて、神木。配置は?」

「問題ない、完了済みだ。突撃破砕線(FPL)は100に設定してある」

「OK、全隊員に通達する。間もなく我々は自衛隊初の戦争に突入する、が戦っているは前線で引きトリガーを引く者だけではない。引く者を助ける後方支援の者も護衛対象を護衛する者もまた共に戦っている事を忘れるな。最後に総員、なんとしても生き残れ!これは命令だ」

『了解‼︎』


通信機から帰る部下からの返事に俺は目を瞑る。再び開けた時、既に覚悟は決まった。


「戦争の……始まりだ」



◆◇◆◇◆◇◆



『全隊員に通達する。間もなく我々は自衛隊初の戦争に突入する、が戦っているは前線で引き金を引く者だけではない。引く者を助ける後方支援の者も護衛対象を護衛する者もまた共に戦っている事を忘れるな。最後に総員、なんとしても生き残れ!これは命令だ』

『了解‼︎』

「「お兄ちゃん……」」

「……」


レオ、エミリア、セラ、ユミィ達は自分達が中庭に作り上げた自衛隊は一時駐屯地に置かれた無線の前でツバサの全隊員に向け発した通信を聞いていた。それを聞いて人それぞれ、レオ、エミリアは心配そうな顔を、セラ、ユミィは手を組み祈りを捧げた。


神よ、あの方を、あの方々自衛隊の人々に加護と祝福をお与え下さい……。


セラは神に彼の、彼らの無事を祈る。それを見たレオとエミリアも手を組み自分達の信仰する神に祈りを捧げ始めた。



◆◇◆◇◆◇◆



「……なあ川崎」

「なに?」


テントの外から見ていた護衛の川崎と佐藤は小銃に手を添えながら話す。


「俺さ、人殺しは初めてしたんだ」

「そう、私もよ」

「でさ、さっきまで引き金に触れる事も出来なかったんだ」

「……」


川崎は黙って佐藤一曹の話を聞く。彼女は軍医だ、本来負傷した兵の為前線で居なければならない。だが先の戦闘で人を殺し小銃が持てなくなっていた、だから神木と大空の判断で直接戦闘に参加しない護衛対象の護衛の任が任された。


「でもさ、助けたあの人達がさ、あれだけ前線で戦っている奴らの事の無事を祈ってくれてるのに俺はここで居ていいのかって思っちまったんだよ」

「……そうね。でも大空隊員はここで護衛を務める者も戦いに参加する者だと言ったわ、……確かに私達は前線に出る事はできなかった。でもそれならせめてこの護衛の任だけでも完璧に遂げなければいけないと思う」


私は第七小隊の大空隊長は甘い(やさしい)人だと思う。確かに引き金を引く人や後方支援をする人は戦闘に参加していると言えるだろう、だがこの護衛という任は私は絶対に参加しているとは言えないと思う。


「そうだな。確かにうちの隊長は味方に甘いからな、納得できないかもしれないがそれがあの人の“戦う者の定義”なんだよ」

「っ⁉︎一咲一曹⁉︎」


突然会話に割り込んで来た人間に2人は驚く。第七小隊隊員、一咲 いちざきなぎ一曹は普通科隊員だが同時に整備もこなせる整備兵であり『空自』の誘導、通信の為に護衛として残った者だ。またこの護衛任務における責任者でもある。


「悪いな、驚かせちまって。だが覚えといてくれ、あの人は“現実の見える”理想家なんだ。現実を見て、それにあった理想を謳う。今回だってそうだ、最初から前線に出られない者が出るのは過去2回の戦闘から予想できた、でも下げる訳にはいかない。前線に出る者の士気にも関わるし一番は君達の気持ち(モチベーション)にも関わってくる、だから隊長は初めから出られない者は護衛にまわすと決めてたんだ」

「……」


私達は唖然とする。普通現場の指揮官はそこまで考えるだろうか?少なくとも私にはできない、私なら現場について考えるだけで手一杯、周りの、しかも後方で自分達の様に『使えない』存在にそこまで気を配り手を回すだろうか?いや、確実に無理だ。

私はあの隊長を頭に思い浮かべる。至って平凡な顔に困った時に頰を掻く癖、甘いくせに誰か危害を加えようとする者には徹底的に手を下すあの冷たさ。無茶ばかりし心配ばかりさせるのに何故か付いて行きたいと思わされるカリスマ性、不可能を否定し全てを肯定してしまいそうなあの強さと弱さも、どうやっても自分と同じ人間だとは思えない。だから隊を組んだ時から隊にいる彼に私は聞いてみた。


「……一咲一曹、教えて下さい」

「ん?なにを?」

「大空隊員は『何者』ですか?」


私の問いに彼は腕を組む。少し悩んでから彼は答えた。疑問形だが、


「うーん、伝説の教官に鍛えられた『英雄』?」



◆◇◆◇◆◇◆



その頃、


ドスッ


「うおっ⁉︎」

「頭引っ込めとけ、幾らてっぱちでも当たれば痛いぞ」

「はいはい」


隣に突き立ち小刻みに揺れる矢を横目に見ながら俺は双眼鏡を覗き接近する敵軍との距離を測る。残り210、FPLまではあと110あり攻撃のタイミングにはまだ早い。実際はこの距離でも届くがわざわざ現時点で手の内を晒す必要は無い。タイミングでいえば弓でも精度の上がる100から、更に狙うのは部隊を率いる隊長級を優先し、狙撃手スナイパーには大将のみを狙う様作戦が決められている。


『1偵察ワンリコン、第七小隊隊長送れ』

「こちら第七小隊隊長、どうした?」

『東門にて第1近衛騎士団と敵軍が交戦開始、しかし大将旗は確認できず』

『2偵察、こちらも交戦開始、そして発見できず』

『3偵察、こちらも同じくです』

「了解、ありがとう。任務を続行してくれ」


まずいな……


3人の報告に俺はそう思う。東西北の門で見つから無いとなれば残るはここ、南門しかなくなってしまう。しかもここにはおよそ10,000が居るのだ、下手すれば砂漠の砂の中から一粒の塩の粒を見つけるのと同じ位難しいものとなる。


「第七小隊隊長、偵察リコン送れ」

『こちら偵察、なんすか?』

「敵軍司令官がここに居る確率が高まった。見つけ次第狙撃を行う事を許可する」

『了解』


偵察リコンである空木そらきには悪いがこの数ではもはや作戦通りタイミングを計るとは言っていられない。とりあえず大将を討ち取れば大半において勝負はつく、また今回自衛隊おれたちにおける勝利条件は『殲滅』ではなく『撤退』させる事であり、その為大将をとり一気に総崩れにしてしまうのが一番容易である。しかしそれに重要となるのがタイミングとなるのだが今の現状ではほぼ不可能に近い。ただ大将首1つ討ち取っても直ぐに軍を纏め直される可能性があるからだ。

そこで取られたのが今回の作戦である『部隊長級を優先して狙う』事である。“幾ら頭と手足があってもそれを繋ぐ神経が無ければ動かす事はできない”これに則り神経、つまり中間管理職である部隊隊長を消し手足、つまり下っ端である兵をまともに動かせなくさせるのだ。更に言えば優秀そうな司令官は残してできるだけ無能そうなのを狙う様にも言っている、これは馬鹿だけを残すと下手すれば退き際を逃し全滅まで特攻突撃とかされるのは迷惑だからであり、同時に残しておく副将などの頭を上手く御してもらう為でもある。まあ副将が馬鹿でないなら越した事ではないのだが、


『距離残り170』


部下からの報告に俺は思考を一時停止させ体勢を整える。


「総員小銃の最終チェックが終わり次第安全装置解除、合図と共に発砲せよ」


俺は銃に一瞥を向けると手元を見ずに安全装置を解除する。その時背にする土嚢袋の壁に矢が突き刺さる。左右ではツルッペルン領兵が盾に隠れながら矢を射る。まだこちら側に大きな被害は出ておらず、また落とし穴の効果があったらしく進行速度はあまり早くない。


『カウント開始、残り150、140、130、120、110、100‼︎戦闘部隊FPLに到達‼︎』

「了解、攻撃開始。撃ち方始め!」

「撃ち方始め‼︎」


ズダダダダダッ


キャリバー2丁による一斉掃射により先頭集団の出ばなを挫き小銃の狙撃により先鋒隊の部隊長と思われる人間達が馬から撃ち落される。


「次ッ、両翼射撃部隊狙え!キャリバーは騎馬隊だ」

『了解』


すぐさま4つずつの銃口が両翼に向けられ発砲される。残弾に余裕が無い為、節約しつつの狙撃だったので必然的に正確な射撃になった。それによりめぼしい(馬鹿そうな)指揮官は一掃し終わり次は兵力を削る行動を起こす。


「作戦第2段階に移る。ツルッペルン女伯に連絡を、敵軍を密集させます」

「分かりました」


側で弓を射っていた兵がまばらに降り注ぐ矢に気を付けながら少し離れた向こう側にいる彼女の元に進んで行く。途中彼の紙一重で真横に矢が突き立ち冷や冷やしたのは別に関係のある話ではない。


「ツルッペルン女伯、ツバサ殿が作戦第2段階に入るとの事です」

「……分かったわ、了解と伝えておいて」


彼女はそう返事をし城壁の内側に設置されたあるモノを見る。よくもまあこんな事を思いつくものだ。下には2人の自衛官がおり装置の準備を行いながら彼らの隊長の合図を今か今かと待ち続けている。そう考えている間に伝令の兵は彼女の側を離れ彼の元に折り返していた。


「ツバサ殿、ツルッペルン女伯は了解との事です」

「分かった。なら第2段階に入ろ……」


俺の言葉が終わる前に少し離れた位置で狙撃していた隊員の大きな声の報告が遮った。


「前方10時の方向より破城槌の接近を確認‼︎」

「なに⁉︎ならLAMを持ってこい!」

「了解!」


組み立て式だがかなり大きい破城槌がゆっくりと近づいて来たのだ。しかもご丁寧に鉄の盾を装備した騎士兵が先行している。が、それも予想圏内だ、俺は部下から手渡されたLAMの発射準備を行う。弾頭の突起を引き出し安全装置を外す。最後に、


「後方の安全確認よし」


背後に誰もいない事を確認してからスコープに目標物を入れる。狙うは槌そのもの、当たり所が良ければ全て破壊可能な位置に向け、


「ファイア‼︎」


ほぼ反動無く弾頭が一直線に発射される。弾頭は狙った位置に正確に飛んで行き、


「伏せろ‼︎」


ズドォッン


大空の声に反応、分かっていた者が即座に伏せたその瞬間着弾した弾頭が大爆発を起こす。それなりに近い距離で撃ったので少量の爆風とそれに飛ばされた原型を留めぬ木の破片が身を隠した城壁や積み上げた土嚢を打つ。破片は大小様々あり直撃すればその鋭さで身体に突き刺さり致命傷を負っただろう。

頭を上げた時、その直撃を受けた敵軍がどうなったかは言うまでもない。前衛のほとんどが致命傷ないし大小それぞれの怪我を負い戦闘不能になっていた。


「うっ……」


血の海となった門前の有様には戦歴の兵であるツルッペルン領兵達であろうと気分が良くなくなる程だ。が、対して自衛隊の隊員達は冷静だった。俺を含めたここに居る10名は過去2回の戦闘において自分の意思で引き金を引き、敵を殺す事を乗り越えられた者だけだ。人殺しに抵抗が無い訳ではない、それでも守るべき『モノ』を守る為に血に染まり、泥を被る覚悟を持つ者だけなのだ。

だからこそ彼らは動じなかった。再び指揮官を優先して狙う作戦と瀕死で苦しむ者を楽にする銃撃が再開される。しばらくは両軍共にまともに動けないだろう。

そんな中、たった10丁の小銃が命を刈り取る音が唯一、静かに響き続けた。



◆◇◆◇◆◇◆



夕暮れ、アルタクルス全軍は1度朝出撃した地点まで後退していた。


「……」

「……」

「……」


張られた天幕テントの中では軍議が開かれていたが、誰も口を開かない。そして中にいる者の表情は様々だ。怒りで赤い顔をする者もいれば恐怖で青い顔をする者もいる、ちなみに言えば私の顔はどちらでもなく普通の顔だ。まあ内心は少し焦っているのだが、


まずいな、兵には悪いが元々兵が削られるのは『予定通り』なのだがその速度が速すぎる。


昼間の攻城戦において南門だけでも負傷者は4,762人であり内致命傷及び重傷者は過半数に上る2,947人、死者は897人だがこれは恐らくまだ増え少なくとも1,000を超えるはずであるが問題はそこでは無い。

問題は2つ、まずはあの貫通と爆烈の魔法により精神的・心的外傷トラウマを受け戦えなくなったのが死者、重傷者を除き10,000の内5,000を超え豚公爵の私兵は7,000から一挙に2,000と少しにまで激減してしまったのだ。他の門を攻めた部隊の総戦闘不能者でも4,000弱なのだ、これがどれだけ重大な被害を受けたかは一目瞭然である。正直ここまで来るのに当初は5日を予定していた、事実侯爵兵は士気が低く練度も低い、無理やり引っ張って来た民兵を即席で編成した付け焼き刃。練度が高く陸戦における大陸最強と謳われる近衛騎士団(陸軍)相手では分が悪い所ではない。

そして2つ目、各隊の部隊長が多く消されている事だ。今回戦場に出ており、しかも馬に乗っていた部隊長達全体の4分の3があの貫通魔法によって討ち取られているのだ。ただここで不可解なのは討ち取られた隊長の大半は素行不良や柄が悪かったり問題を多く起こしていた無能な者が多く、優秀だったり部下に慕われていたりした隊長はかなりの確率で生き残っている点でありこれがまだこの軍が崩壊していない理由だろう。だが兵も減ったとはいえ兵を指揮する隊長が兵の減少を上回る勢いで減っており現在全部隊を指揮を浸透させるのはほぼ不可能になってしまっている。

これは自衛隊からすればただてさえ少ない残弾の節約の為の苦肉の策だったのだが思いの外効果が出ていた。が、彼らがそんな事を知る由もない。バルツァーは敵が狙ってこれをやっているとするならかなり頭の回る悪魔だと思う。

幾ら兵がいようと、幾ら将がいようと実行する隊長がいなければそれは数の多いだけの『烏合の衆』でしかないからだ。


「……どうすべきか」


確かにいくらか過程は変わったが予定は変わらない。殿下に賜った命を成就させるだけ、あとそれに必要なのはそれなりの『戦果』、わざわざここまで来たのだ。ノアニールには少しは出血して貰おう。


「ロマノフ公、今度こそ……少数精鋭による『夜襲』を具申します」


それから数分後、アルタクルス精鋭部隊総員8,000名による夜襲が採択されるのだった。




武器紹介(追記)

LAM:発射時後方へカウンターマスと呼ばれる重量物を撃ち出す事での反動を相殺する無反動砲である。パンツァーファースト3の事であり、余談だが自衛隊においてはその価格から『空飛ぶ日産マーチ』の名称で親しまれている。

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