やがて――温かな陽だまりの中
大変お待たせしました!
陽光溢れる、午後の王城庭園。
色とりどりの花々が咲き乱れるそこに、数人の侍女と一人の近衛騎士を従えた、青年と少女の姿があった。
「あら……? このお花、萎れてしまっているわ」
凛とした、それでいて優しげな声音。
一見して十六歳ほどに見える少女は、落ち着きと若々しさの間の雰囲気をまとい、白を基調としたドレスを揺らして、そっと地面へと顔を寄せた。
伸ばされた腕は細く白く、身体は年齢相応に育ちながらも、華奢さがぬぐえない。小さな肩から前へと零れた、癖の無い白に近い白金の髪が揺れ、美しくも可愛らしいと称すべき美貌に揃う、澄んだ湖のような青瞳が、萎れた花をその中に映した。
次いで、
「おや、本当ですね。――元気にしてあげなくては」
と、穏やかな声を響かせた青年が、そっと少女に寄り添った。
彼女に対し、頭一つ分高い細身をかがませ、地に片膝をつける仕草は優雅の一言。白の貴族服の上に重ねた濃緑のロングコートの背で、ゆるくまとめられた少し癖のある明るい薄緑の長髪が揺れる。どちらかと言えば女性的な綺麗さをみせる端正な顔と、そこに揃う穏やかで静かな深緑の瞳が、柔らかな微笑みをそっと浮かべた。
美しくも儚げな少女と、落ち着いた雰囲気を放つ青年が、互いに伸ばした手の先。そこにある萎れた花へと、優しくも力ある言葉が紡がれる。
「〈治癒〉」
癒しを示す、柔らかな白の光。
かざされた互いの掌から注がれるその光は、少しずつ、萎れた花を元気に戻して行く。
静かに後方にて控える侍女と近衛騎士が見守る中、二人分の手がそっと引かれる。
そこには、傍の花々と同じように咲き誇る、美しい花があった。
「まぁ、綺麗!」
「元気になって、良かったですね」
「えぇ!」
ぱっと笑顔を浮かべる少女に、微笑みを返す青年。
見守る侍女と近衛騎士も笑む中、二人はそっと立ち上がり、顔を見合わせ微笑んだ。
「さぁ、次はあちらを見に行きましょう? フレイ」
「はい。そうしましょう――ティリア」
そうして青年が上げた左腕に、そっと右手を絡ませ寄り添う少女。
互いの腕を組むその行為は、王侯貴族が学ぶ確かな礼儀作法の一つであり、同時に準成人である十二歳を越えた者が行うべき、時として一人の大人としてさえ見られる、立派な振る舞い。
加えて、男性が女性の右側、女性が男性の左側に寄り添うということは、その二人が特別な間柄にあるという、証。
親友であっても配置を逆にしなければならないその立ち位置の意味は、すなわち――恋人。あるいは婚約者。あるいは、夫婦。
優しい緑をまとう青年と、澄んだ水花をまとう少女は、婚約者であった。
わずか九歳の頃より、共に八年の月日をこの王城で過ごし、共に今年の誕生日をむかえて十八歳になれば、晴れて結婚をする。
方や、悪徳貴族ゼルロース侯爵家の長男。
方や、高貴なるこのフィンフィール王国が第二王女。
様々な要因から、多くの者たちに心配されながら成長をしてきた二人の仲を、悪く語る者はもういない。
二人のことを知る多くの者たちは、すでに未来は安寧であると、そう笑顔で語り合っているのだから。
病弱ではなくなり、立派な青年へと成長したフレイと、恐怖を克服し、見事な王女へと成長したティリア。
眩い晴天の空の下。
たくさんの花々の間を歩み、互いに微笑み合う二人を、今日もまた、穏やかな時が包んでいた――。
更新はゆっくりになると思いますが、青年期編、進めてまいります!