〝満花〟の王国に栄光を
お久しぶりにございます。
間が空きまして、ふわりとかるめの番外編を。
それは、このフィンフィール王国に吹く風が、今よりも古きものであった時。
眩き白の王城の中、城下を見渡すことの出来る物見のひとつに、彼はいた。
吹き抜ける風に、薄緑の長髪を弄ばせたまま、その深い緑瞳は花々が美しい城下ではなく、手の内で開かれた本に向けられている。
穏やかな声が、歌をうたうように、ふと紡がれた。
「【太陽で満たして 空を掲げ 月を抱きて 水に眠れ
いと慈悲深き 森と手を取り 花を愛でて 大地で生きよ
我らが心は 太陽と共に 我らが尊きは 空と共に
我らが絆は 月と共に 我らが愛は 水と共に
結ばれ紡がれるは 緑の言の葉 花の歌
我らが王国に栄光を 満花の王国に栄光を】」
――それは、この国の国詩だった。
この時よりもなお古き、建国当時に紡がれた詩。
建国王と、王妹殿下、そしてこの土地に元より生きし、先住の者たちを記した言の葉。
王とその妹と、先住の者が結んだ、絆と愛、そして未来を謳う歴史の一端。
「……美しき花満つこの王国が、永久なる未来も咲き誇り続ける為に」
彼は、そう続けた。
やわらかな微笑みと、穏やかな声音には、心底からの祈りと――慈しみが、込められていた。
「僕が……僕の子孫たちが、その力となれるように――」
風が、吹く。
薄緑の長髪をなびかせ、満花の繁栄を願う彼は、愛しげな笑みをいっそう深める。
そして、吹き抜ける風に乗せるように、高らかに紡いだ。
「〝満花〟の王国に、栄光を!」
発せられた言の葉が、高く高く舞い上がる。
気高き太陽を輝かす、蒼穹へ。そしていつか、やがて昇る月と、大地にたゆたう水の中へ……。
否、あるいは。
「――フレイリーフの花の加護を、この国に!」
この花満つる大地の、始まりより続く。
深く慈悲深き、緑の森へと――。
次話より、第二部の開始となります。
ブランク解消のリハビリを行いつつ、また少しずつ書き進めて参りますので、ゆったりとお待ち頂ければ……。
それと、よろしければ、今日の活動報告にご意見を頂きたく。
ポツリでもそろりでも構いませんので、ぜひコメントを下さいませ。




