まどろむ遠い日の記憶
明けましておめでとうございます。
今年もどうぞ、よろしくお願い致します。
年初めに『フレイリーフの花言葉』番外編を、お楽しみ頂ければ幸福です。
――光。
部屋の窓から差し込む陽光が、彼の顔を照らすのに、むずかることもなく、ただその瞳がうっすらと開かれた。
温かな光で満たされた部屋は、彼にとってとても心地よく、開かれた深緑の瞳はしかし、すぐに閉じ気味になって行く。
と、そこに、カチャリ……と小さく響く、扉の開閉音。
しずしずと入ってきたのは、薄緑の髪を綺麗に後頭部で纏めた、落ち着いた雰囲気の女性だった。
女性は、淡い、しかし深い緑色のドレスを揺らし、うとうとと瞳を閉じたり開いたりしている彼の傍まで歩み寄ると、やわらかな微笑みを浮かべ、そっと彼の様子をうかがう。
彼は、目の前に現れた女性をぼうっと見上げ、次いでその女性が抱いている花束を見つけて、深緑の瞳を瞬いた。
女性が抱える幾輪もの花は、どれも一様に、淡い緑色の花弁を揺らしている。
彼は、なぜかその花に感じるものがあり、ぷにぷにとした小さな右手を、その花へと伸ばしてみた。
「ふふ」
途端に零れた女性の笑みに、伸ばした手を花に届かせる手前で、彼の瞳が女性の顔へと移る。
円らな深緑の瞳に見つめられ、女性は愛おしげな表情をそのままに、彼の小さな頭を優しくなでた。
その優しい触れ方に、彼はとてもうれしくなり、きゃっきゃと幼い笑い声を響かせる。
女性もまた、彼が可愛らしく笑うのに、明るい緑の瞳を細め、優しく微笑んだ。
そうしてしばらく、彼の頭を愛おしげに撫でた後、女性は再び静かな所作で彼の傍を離れると、近くの机に置かれていた花瓶に緑の花束を挿し飾る。
彼は、不思議とその様子から目が離すことができず、女性と飾られた緑の花を、じっと見つめた。
窓から入り込む穏やかな陽光が、淡い緑の花弁に金光の彩りを与える。
それは、言葉としては、幼すぎるが故に思い浮かばなかったけれども。
その花が、とても優しく輝いているということが――ただ強く、彼の記憶に刻まれた。
第二部のはじまりも、お待ち頂ければ嬉しいです。




