表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フレイリーフの花言葉  作者: 明星ユウ
番外編 時花が見せる――花の王国の過去語り
31/34

まどろむ遠い日の記憶

明けましておめでとうございます。

今年もどうぞ、よろしくお願い致します。


年初めに『フレイリーフの花言葉』番外編を、お楽しみ頂ければ幸福です。

 



 ――光。

 部屋の窓から差し込む陽光が、彼の顔を照らすのに、むずかることもなく、ただその瞳がうっすらと開かれた。

 温かな光で満たされた部屋は、彼にとってとても心地よく、開かれた深緑の瞳はしかし、すぐに閉じ気味になって行く。


 と、そこに、カチャリ……と小さく響く、扉の開閉音。


 しずしずと入ってきたのは、薄緑の髪を綺麗に後頭部で纏めた、落ち着いた雰囲気の女性だった。

 女性は、淡い、しかし深い緑色のドレスを揺らし、うとうとと瞳を閉じたり開いたりしている彼の傍まで歩み寄ると、やわらかな微笑みを浮かべ、そっと彼の様子をうかがう。

 彼は、目の前に現れた女性をぼうっと見上げ、次いでその女性が抱いている花束を見つけて、深緑の瞳を瞬いた。

 女性が抱える幾輪もの花は、どれも一様に、淡い緑色の花弁を揺らしている。

 彼は、なぜかその花に感じるものがあり、ぷにぷにとした小さな右手を、その花へと伸ばしてみた。

「ふふ」

 途端に零れた女性の笑みに、伸ばした手を花に届かせる手前で、彼の瞳が女性の顔へと移る。

 円らな深緑の瞳に見つめられ、女性は愛おしげな表情をそのままに、彼の小さな頭を優しくなでた。

 その優しい触れ方に、彼はとてもうれしくなり、きゃっきゃと幼い笑い声を響かせる。

 女性もまた、彼が可愛らしく笑うのに、明るい緑の瞳を細め、優しく微笑んだ。


 そうしてしばらく、彼の頭を愛おしげに撫でた後、女性は再び静かな所作で彼の傍を離れると、近くの机に置かれていた花瓶に緑の花束を挿し飾る。

 彼は、不思議とその様子から目が離すことができず、女性と飾られた緑の花を、じっと見つめた。


 窓から入り込む穏やかな陽光が、淡い緑の花弁に金光の彩りを与える。


 それは、言葉としては、幼すぎるが故に思い浮かばなかったけれども。


 その花が、とても優しく輝いているということが――ただ強く、彼の記憶に刻まれた。



第二部のはじまりも、お待ち頂ければ嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ