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聖者の街の蒼い穹  作者: kim
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絶縁じょう~父へ

 絶縁じょう~父へ

 6さい・ロムールにて 


 あたしが『絶縁』なんてムズカシイかん字を知ってるのは、父のせいだ。

 あたしにも父がいた。

 そのことをこの年になってはじめて知った。


 あれは半年まえの、とってもアツいナツの日。

 おばあちゃんのおはかまいりに行った日のコト。


「おばあちゃん、むこうでも元気にしてますか?

 あたしはらいねんしょうがっこうに入ります。」

 おばあちゃんのおはかの前にりょうひざをついて、手を合わせていた。

「おばあちゃんのおかげで、たくさんホメられるコドモになれました。」

 なみだがでる。

「ありがとうございます。」

 目をギュッとつむって、りょう手をむねのまえでグッとくんで。


 どのくらいそうしてたな。

 ふと、

 ガタン!

 ヨコで、とつぜん大きな音がした。


 目をつむっていたから、おどろいてビクンと体がふるえた。

 あわてて右を見ると、しらないオジサンが立っていた。

 これでもかってくらい目を見ひらいて、アホみたいにポカンと口をひらいて。

 足もとには、たぶん手からおちたバケツがたおれていて、こぼれた水がじめんをぬらしていた。

 ようしゃなくてりつけるギラついたマナツのタイヨウが、いっしゅんでじめんの水をじょうはつさせて、シンキロウのようにゆらめいていた。


「スコール…?」

 オジサンはしらない名まえをつぶやいた。

 すぐにおそってくるようなようすはなかったけど、フシンシャかもしれないから、すぐににげられるようにみがまえた。


 しばらくのあいだ、オジサンはアタシのことをじっと見つめていた。

「あの…どちらさまですか?」

 あたしはチンモクにたえられなくなって、きいた。

「そうだよな。そうだ、生きてるわけないんだ。」

 オジサンはようやく口をひらいた。

 タイヨウを背にしたおじさんのカゲがあたしの足もとまでのびていた。


 あたしに言ったのだろうか。

 首をかしげてオジサンを見た。

 下から上に目せんをうつした。

 なんど見てもしらないヒトだ。


 黒くのびたカゲがあたしをのみこんでいきそうで、みぶるいがした。


「お嬢さん。お名前は?」

 オジサンがきいてきた。

 あたしは少しこわくなって、クチビルをかんだ。

「あ、ゴメン。

 そりゃ、警戒するよね。

 僕はデルヴィ・ヴィクセン。

 知ってるヒトにすごく似てたから、つい…」

 しどろもどろに言いわけするオジサンは、なんだかおかしかった。

 つい、ふきだしてしまう。


「はは…なんだか、恥ずかしくなってきた。」

 とつられてわらうのを見てたら、ワルいヒトではない気がした。

「あたしはディルサ。」

「そっか。

 暑いから熱中症にならないようにね。」

 まるでおばあちゃんに言われるみたいなことを言われた。

 少しなつかしく、かなしくなった。


「あ、こんなトコにいたのか。捜したんだぞ。」

 左の方から、なじみの声がきこえた。

「あ、お兄ちゃん。」

 まっ白のシンカンギをきて、大きく手をふるオトコのヒト。

 ひとりぼっちのあたしをキョウカイクの家にすまわせてくれている。

 キョウカイクはカミサマのおしごとをてつだうヒトたちがすむダンチのこと。


「えー!

 ちゃんとおはかまいりに行くって言ったよー」

 あたしは口をとんがらかして言いかえした。

 お兄ちゃんはこまったようにわらった。

 ふと、あたしのむこうに目をむけた。

「ダレ?

 知ってるヒト?」

「え?

 あぁ、しらないオジサン。

 なんかね、あたしがしりあいのヒトににてるんだって。」

 むじゃきにわらった。


 なのに、お兄ちゃんは少しコワいかおをしていた。

「あんた、ライネージの関係者?」

 きいたことのない名まえをお兄ちゃんが言った。

 なんかおこってるようだ。

「ライネージを知ってるの?」

 オジサンもさっきまでのヒトのよさそうなフンイキがなくなっていた。

 二人を見くらべた。

「やっぱりこの子が、スコールの娘なのか…」

 オジサンはまたしらない名まえをつぶやいていた。


 お兄ちゃんがランボウにあたしの手をつかんでここからさろうと歩きだした。

「待って!」

 それでまつくらいなら、さいしょからにげないよ。

 ふりむいてオジサンを見て、そんなことおもう。

「明日、もう一度ここに来てくれないか。

 お願いだ。ディルサ。

 絶対来てくれ。」

 オジサンのさけぶ声がセミの声にかきけされ、だんだんととおざかっていく。


 つぎの日。

 あっつい夏の日。

 こわくて家からいっぽもソトにでなかった。

 お兄ちゃんがこまったように手をにぎってくれた。



 そして、サクラまう春。


 お兄ちゃんにつきそわれて、あたしははじめてがっこうに行った。

 ヒカリのカミサマがおりてくるシンデンのすぐとなりにある大きなタテモノが小がっこうだ。

「あれ?」


 白灰色のこうもんのまえで、あたしは立ちどまった。

 むこうからどっかで見たようなオトコのヒトが歩いてきた。

 となりにはあたしとおんなじカバンをしょったオトコの子がいる。


「…でね、」

 たのしげにかいわする父子に、すこしシットする。

 あたしのしせんに気づいたオトコのヒトも「発見!」みたいな顔をしてちかづいてきた。

「また、逢えたね。」

 オトコのヒトがやさしくほほえんだ。

 あたしは「こんにちわ」と小さくあいさつをした。

 で、目のはしっこでオトコの子を見た。


 せはあたしよりすこし小さいくらい。

 まっ白のシャツの上にこんいろのうわぎをきていた。ズボンもおんなじいろ。

 クツはピカピカのコゲちゃいろ。

 さらさらしたまっ黒のかみのけ。

 ちょっとながめのまえがみから、おっきなヒトミであたしを見つめていた。


「こんにちわ。

 お父さん、またって?」

 おんなじようにアイサツしたあと、オトコの子はフシギそうにトナリにたずねた。

「一回だけ遭ったことあるんだ。

 お墓参りのときにね。何才?」


 って、あたし?


「そのオトコの子のお父さんなんでしょ?

 だったら、6才だとおもうんだけど。

 ちがうの?」

 かおをまっ赤にしていた。となりのオトコの子が。

 そのオトコのヒトじしんは気にしてないみたい。

「六歳か…見つからないわけだよな。しゃべるのもやっとの三歳児を想像してたもんな。こんな美少女に成長してるなんてな。」


 このヒトには、はじらいってことばはないのだろうか。

 オトコの子はハズかしさをこらえるようにうつむいていた。

 なんだかカワイソウな気がした。


「あたしをさがしてたの?」

「僕の娘だもの。

 この手に抱きたいと願うことはおかしなことかい?」

 首をかしげた。

 なに言ってんだろうこのオトナは。

 トナリのオトコの子がひっしなかおでりょうてをあわせて、口にはださないであやまってなかったら、ゼッタイにげだしたはずだ。


 そのヤリトリをダマって見ていたお兄ちゃんが、

「遅れるよ、ディルサ。」

 と手をひいた。あたしは大きくうなずいてそのあとにつづいた。


 にゅうがくしきがあったヨル。

「ねぇ、お兄ちゃん。

 ライネージってだれ?

 あとスコールってヒトも。

 お兄ちゃん知ってるんでしょ?」

 夕ごはんのときもぜんぜんはなしをしてくれなかった。

 お兄ちゃんははなしたくないみたいだった。

 なんだかはなしたくなさそうだから、きかないつもりだった。

 でも、フトンに入ってもねれなそうだからきいてみた。


「気になるのか?」

 おこられるかとみがまえたけど、お兄ちゃんはしずかにきいてきた。

 うなずくあたしに一つタメイキをついた。

「ボクも直接は会ったことなかったけど、あのヒトはたぶん、いや、ぜったいキミの父親だよ。」

 お兄ちゃんの言ってることがよくわからない。


 首をかしげた。

「ホントの血のつながった家族。」

 フキゲンに、サミシげに言った。

「ふ~ん…」

「ふ~ん、ってそれだけ?」

「なにが?」

 こまったように見つめられた。

「あ、あぁ、べつに父オヤってことばをしらないわけじゃないの。

 父オヤっていわれても、なんだかじぶんのこといわれてる気がしなくて。」


 クスリやさんはあたしをそだててくれた。

 だいじなきもちとか、生きてくためみたいなこととかは、おばあちゃんがおしえてくれた。

 お兄ちゃんがかみさまにしょうかいしてくれたから、そして、そばにいてくれるから、しょうがっこうにもかよえることになった。


「あのヘンなヒトが父オヤ…」

 父がいる、いないはべつにかんけいない気がした。

 にゅうがくしきおわってからは、父とはあうことなかったし、あってはなそうなんてこともなかった。

 あのオトコのヒトがあたしのあたまをなでてくれるイメージがないから。



 ただ、そんなこともあって、ヘシアン・ヴィクセン、ヘスがあたしのたった一人の友だちになった。

 やすみの日まではあそんだりしなかったけど、がっこうではだいたいいっしょにいた。

 いっしょといっても、たいていとしょしつで本をよんでるだけだったけど。


「ヘスぅ、この本よんだ?」

 同じテーブルのむかいにすわる男の子に、よんでた本をつきだした。

「よんで…あ、よんだ。」

 ムズカシイかおをしてよんでた、いかにもムズカシイ本から目だけであたしを見た。


 ヘスはテンサイだ。

 ん? シュウサイ? どっちがあたまいいんだっけ? とりあえずとってもあたまがいい。

 学こうのテストはいつもマンテンだし、ムズカシイ字もいっぱいよめる。

 かくのはたいへんらしいけど。


「しゃかいのじゅぎょうでもやってたヤツでしょ?

 なんびゃくねん前のセンソウで王国をすくったエイユウたちのハナシ。」

「ホントなのかなぁ?」

「どうだろうね。

 ウチのお父さんはあったことあるみたいだけど。」

 ヘスはたまにウソみたいなことを、フツウのかおでいう。

「なんびゃくねんも生きて、なにしたいのかね。

 ヘンなヤツらだよね。」

 そして、そのナゲヤリなかんじもすきだ。

 クラスの友だちがクールだよね、って言ってた。

 クールがなにかしらない。


 そんなはなしでやすみじかんをつぶしている。

 あたしらにとってどうでもいいコトをカイワするジカン。

 でも、のんびりじぶんになれるジカン。


 と、そこへ

「その本って、プルートゥってヒト、載ってる?」

 ときれいなソプラノな声がきこえた。

 目をむけるとどうがくねんとおもわれる女の子。


 ダレ?


 とあたしたちはかおを見あわせて、首をかしげた。

 声に目をむけると、女の子がいた。

 とりあえずとなりのクラスの子だとまではわかった。

 その子の名まえをおぼえてないし。


 で、その子のいったヒトはダレだろう?

 プルートゥっていったかな?

 ちょっとモクジをめくってみる。

「んと…たぶんでてない、とおもう。」

「だよね。知ってる。」

 そくとうされた。

 なんかバカにされたようですこしだけムッとした。

「しってるのにきいたの?」

「えぇ。

 ちょっと確かめただけ。

 気を悪くしたなら謝るわ。」


 十さつちかくの本をかさねてもっていた。

 かかえた手がプルプルしてたけどひょうじょうはすずしげだった。

「おもくないの?」

「だいじょうぶよ。

 どーも。」

 そのあとは、なにもいうことはなかった。

 コンニチワもなければ、ニコリとしさえせずにほかのテーブルにいってしまう。


「…なに? アレ…」

 ヘスもニガワライで、かたをすくめた。

「タンケンセンソウのコトしらべてるみたいだったけど。」

「そうなの?」

「かかえてた本、ぜんぶソレ。」

 よくしってるなぁ。

 すなおにかんしんしてしまった。

「これよりはけっこうくわしく書いてるのばっかりだったけど。」

 わるかったね、おバカで。

 ペシリとあたまをたたく。



 シータス・ミアロート。

 その女の子の名まえ。


 あれいらい、2人してつい目でおってしまっていた。とくにとしょしつで。

 背のたかさは、3人ならんでもあまりかわらないくらい。

 ただ、白くすきとおったハダと、こしまでのびたまっ黒なかみは、目だっていた。

 見た目がソレで、あまりヒトとしゃべらないから、トナリのクラスでは「ユウレイ」とカゲグチされてるらしい。


「だからかな。

 近くまではくるけど、オレらに話しかけないの。」

「なんで?」

「子ども社会のザンコクさってヤツ。」

 また、ムズカシイこといって。

「ヘタになかよくしたら、ウチらまでひょうてきにされるから。」

 ヘスはいつもぼやかしたようなセツメイをする。

 きちんとコトバにしなさい、って先生におこられてるくせに。

 それはさておき、つまりはイジメってヤツか、と少しタメイキが出た。


「はなしかけてみようか?」

 あたしはヘスにきいた。

「なんでそのけつろんにいたるのさ。

 ディルはヒトのハナシりかいしてる?」

「もちろん。」

「だったらやめときなよ。」

 ヘスはきょうみなさそうなかおでシータスのせなかを目でおっていた。


 じぶんだって気になってるくせに。


「スナオじゃないなぁ、ヘスは。」

「…どういういみ?」

 くくくといやらしくわらうのをひややかににらんできた。

「でもさ、おもしろそうじゃない?

 トモダチになれないかな?」

 あたしはじぶんのよんでた本のひょうしをながめながらヘスにたずねた。

 はじめてシータスとあったときとちがう本。

『短剣戦争の英雄物語』とひょうしには書いてある。

「中のムズカシイ字ぜんぶよめたら、トモダチになれんじゃない?」

 そんなことをいうヘスがよんでるのは『神学』って本で、そのあつさもジショなみで、ムズカシイ字がいっぱいな本だ。


 ヒニクってヤツか。

 ベシリとヘスのおでこをたたいてやった。



 ガッコウでね…センセイがね…ヘスったらさぁ…

 そんなハナシを、お兄ちゃんにまいばんホウコクして、お兄ちゃんはそれをニコニコときいてくれていた。

「友達はできたかい?」

「ヘスがいるよ。」

「う~ん…彼じゃなくて、他には?」

 シブいかお。

 あたしはちょっとこまってうつむいた。

「ヘシアンくんがどうこうじゃないんだ。

 ほら、一応さ、彼はディルのお兄さんにあたるわけだよ。」

「そうなの?」

「だって、お父さんが一緒なんだよ?」

 首をかしげたらわらってた。


 ポンとあたしは手をうった。

「クラスのみんなともなかよしだよ。」

「そっか。

 休み時間に遊んだりするの?」

「しない。

 としょしつにいってるもん。」

 またシブいかおされた。

「でも、としょしつでヘスと本よんでるほうがすきなんだもん。」


 いじけるあたしのアタマをポンポンとたたいて、

「一日一日を大事にするんだぞ。」

 お兄ちゃんはセンセイみたいなことを言ってきた。

 あたしは「うん」と大きくうなずいた。

 また、ポンポンとやさしくたたいてくれた。



 つうがくろになってる川べのみち。

 タンポポの黄色がいっぱいだ。

 キラキラキラキラと水めんがかがやいている。


「もうすぐなつ休みだね。」

 あたしはヘスのナナメまえあたりを歩きながらぼやいた。


 とくにガッコウのべんきょうがすきなわけじゃない。

 カミさまのツカイの先生たちはすぐおこるし。

 でも、せっかくなかよくなった友だちと会えなくなるのが少しさみしかった。

 お兄ちゃんは、リッパなシンカンになるために、コウミョウシンデンのスコラっていう、小学校よりムズカシイべんきょうをするガッコウにかよってる。

 なつ休みもあまりあそべないみたいだ。


 それに、

「けっきょくミッションコンプリートできなかったなぁ。」

「ミッション?」

「シータスのこと。」

「まだ、そんなこと考えてたの?」

 ヘスは、あきれたような、さめたようなこたえをかえしてきた。

 バカにされた気がしてクチビルをとんがらかす。


 ミッションとは、なつやすみにはいるまでにシータスとなかよくなること。

 すれちがえばあいさつするくらいまではいけた。

 あと一歩。

 キラわれてないのだが、だからといって友だちとはいえないきょりだ。


「でもね、こないだちょっとだけおはなししたよ。」

「ふーん。どんなこと?」

「おはかのこと。」

「はぁ? なにそれ?

 女の子のはなすネタじゃないじゃん。」

 またあきれたようなこたえ。

「いいじゃん。べつに。」


 ダダダダ!

 うしろからダレかが走ってくる足おとがしたから、あわててみちをあけた。

「ディルサ! ヘシアン!

 まぁた、あしたね、バイバイ!」

 おんなじクラスの男子が、おおごえでわらいあいながら、あたしたちのよこを走っていった。

「バイバイっ! またねぇ。」

 あたしたちも大きく手をふった。

「シータともそんなかんじになりたいんだけどな。」

「ま、いつかね。」

 きょうもヘスと手をつないでつうがくろを帰る。



 で、夏休みにはいった8月のこと。

「やぁ。」

 父がかるく手をあげて歩いてきた。あたしはペコリとあたまを下げた。

「あ、ディルサ、ゲンキだった?」

 と、そのウシロからヘシアンがピョコンとかおを出した。

 この日ざしにやられたか、そのえがおは赤らんで見えた。

「まぁまぁかな。

 でも、アツいのニガテだから。

 ゲンキじゃない。」


 おハカマイリのシーズンだし、会わないはずとはおもっていなかったけど、きょ年とおんなじパターンに少しニガワライになってしまった。

「おばあちゃんに手を合わせていってもいいかい?」

 父がそうたずねてきた。

 ことわるリユウもないから、うなずいて一歩ウシロにはなれた。


 ヘシアンと父はなんとなくフンイキがにている気がした。

 あたしはどうなんだろ。

 父とオヤコに見えるのだろうか。


「父。

 そういえば2人って、ダレのおはかまいりなの?」

 父はダマってあたしをふりかえった。

 パパもお父さんもなんかちがう気がするから、父のよび名は父だ。


 ま夏のカゲロウがゆれた。

 父のすがたもゆれた。

 いっしゅんだけだけど、アクマが見えた気がしてみがまえてしまう。


 セミの声。

 木々のざわめき。

 とおくのばくはつ音。


「ディルサのお母さんもここに眠ってるんだよ。

 ヘスのお母さんとそのお姉さんと一緒に。」

 いつも見るやさしく、でもどこか、ものガナシイえがおにもどった。

 ホッとした。

「やっぱし、よくわかんないからいいや。」


 父が、あたしとヘシアン2人の父オヤであることは、しった。

 でも、母のほうはよくわからない。

 あたしの父はたんなるアソビ人だったのかな。

 そんなていどのおもいしかないから、とくにききなおす気もなかった。


「おばあちゃんのことおがんでくれたから、あたしも母のおはかに手を合わせる。

 どこにあるの?」

 とあえてヘシアンにたずねた。

 父はすこしムッとしたかおで、

「これから墓守と話さなきゃならないことあるから、2人でいってな。

 墓地脇の公園であと待ってろよ。

 それから、熱中症に気をつけて。」

 といいながら、バイテンで2人分のジュースをかってくれた。


 なぜか、ヘシアンはとくいげなかおで歩きはじめた。

「ありがと。」

 いそいで父に、ペコリとあたまを下げて、ヘシアンのあとにつづく。

「ねぇ、ヘス…アン?」

「なんだ?

 そのハンパなよび方。」

 べつに気マズイことがあったわけではないのだが、すうしゅうかん会わなかったら、きょりがわからなくなった。

「えっと、ヘスでいいの?」

 そんなあたしに首をかしげてた。

 ダメなの?

 むごんだけど、そう言っている。


「じゃあ、ヘス。」

「はい。」

「ヘスは、お母さんにあったことあるの?」

 あたしのといにヘスは首をかしげた。

 で、そのヘントウは

「生きてるとき?

 死んでるとき?」

 おかしなといかけだった。

「しんだら会えないでしょ。

 たしかにヘスよりはアホかもしれないけど、それくらいはしってる。」

 むつけてそっぽをむいた。

 ヘスはそしらぬ顔で歩きつづけた。


 けっこうじかんがたってから、

「ウソついてないんだけどな…」

 と言いだしたので、あたしはなんのことだったかわすれてた。

「死んでからも会えるんだよね。」

「また、バカにして。」

「…そうだね。あ、ココ。」

 ヘスはたちどまり、ミチバタの3つの石のまえにしゃがんだ。

「おれのお母さんのハカ。」


 フランシェスカ・ヴィクセン。

 その右にラクスアーサ・ヴィクセン。

 左にはスコール・ライネージ。


「これのせいでおとうさんは、おじいちゃんから絶縁されてんだ。」

「ゼツエン?」

「知らないならいいよ。」

 ムッとヘスをにらむけど、そしらぬかおされた。

 しかたないので、おハカをもう一回見た。


 たしかヘスはヘシアン・ヴィクセンで、父も、なんとか・ヴィクセンだ。

「だから、あたしはライネージってことなのかな?」

 なんカ月のジョウホウをせいりした。

「ねぇ、ヘスってあたしの兄なの?」

「いまさら?

 まぁ、血エン上はそうなんじゃない?」

「そっか。」

 いまいちジッカンがわかない。

「お兄ちゃんってよんでいい?」

「イヤだよ。」

「だよね。」

 モヤっとした気もちをかかえたまま、三つのおハカに手を合わせた。


 まだ父はようじがおわらないらしい。

 ひととおりおハカまいりもすんでしまったから、ヘスとさんぽすることにした。


「あれ? シータだ。」

「いや、なかよしケイカクしっぱいなんだから、きちんとシータスだろ。」

 いちいちツッコむな。


 5つの小さなボセキがならんだクカク。

 しゃがんで、手を合わせていた。

 シータスのアタマの上をおおうハルニレのエダハから、なん本もの光せんとなってナツの日ざしがふりそそいでいた。


「キレイ…」

 とあたし。

「セイボさま…」

 とヘス。


 ムイシキにもれたたんごなのだろう、よこ目にぬすみ見たヘスは、ひざまずいて、手をあわせて、今にもナミダをながさんばかりだ。

 まぁ、それはおおげさだけど。


「ありゃりゃ…」

 あたしはヘスにきこえないようにつぶやいた。

 好きだから気になってんだとおもってたんだけど、ヘスの気もちを少しばかりおもいちがいしていたらしい。


 また、どっかでばくはつおんがした。

 ヘスがトナリでワレにかえる。

 とどうじににげ出そうとするヘスをあたしがつかまえる。

 それに気づいたシータスがあたしたちに目をむけた。

「こんちっ!」

 ノリだけのアイサツを、かの女におくった。

 シータスは、あたしたちを見るといっしゅんおどろいたかおしたけど、すぐにニコリとほほえんだ。

「こんち…?」

 シジマがかぜとながれた。


 ちょっといいかんじ。

 このまま友だちになって、ヘスのカノジョにしてやろ。


 そんなことおもってたのに、

「いたぞ!」

 とどなる声。

 シンセイなクウキがやぶられた。

 なんていってるヒマなく、あたしたちは5人の男たちにとりかこまれた。

 その中に見しったかおがあった。

「クスリやさん…なんでいるの…」

 クスリやさんは、きょ年ワルいヒトたちにつかまった。あたしをにがして。

 そのワルいヒトたちをぼんやりとだがおもい出した。


 メガネのやせっぽち、うすわらいの男のかおをおもい出した。

 だとすると、クスリやさんをなにかでうった男やおいかけてきた男もいるのだろう。

 クスリやさんのやせこけたほっぺたとかぎらぎらした目がコワくて、ナミダがこぼれてきた。


「な、なんのようだ!」

 ヘスがあたしをせにりょううでを大きくひろげた。

 こんなとき、男の子はムボウだけど、カッコいいとおもう。

「勇敢なのは結構だが、用事があるのはそっちの女子だ。

 避けな。」

 黒めがねがつめたくわらった。


 そんなふうにわらうな。

 わらいにシツレイだ。

 わらうのはタノシイときだ。


 なんてしゅちょうは、ヒッシにナミダをこらえ、食いしばるハのスキマから、もれ出ることはない。

 むしろひざがわらってる。


「逃げて。」

 あたしたちのまよこに立ったシータスが言った。

「で、急いでふたりでお父さん、デルヴィさん呼んできて。」

「一人でのこる気?」

 ふるえる声でヘスが言うが、シータスは一歩あたしたちの前にでた。

「大丈夫。私は強いから。」

 そんなこと言われても、ためらうに決まってるじゃないか。

 いつまでもにげ出さないあたしらにイラついてる。


 足もとにおいていたボストンバックを手にとった。

「逃がさねぇよ。」

 じょじょにキョリをつめてくる。

 いっきにこないのは、シータスがなにかしようとしてるからだろうか。


 ピンクのドクロがウィンクしてる、ファンシーなボストンバックの中から古ぼけた木せいのハコをとり出した。

 どうじにハコのフタをはじいてイセカイのことばをとなえた。

 どこのせかいのことばかしらないけど、まったくりかいできないことばだった。


 しゅんかん、その手にはハコではなく、大がまがにぎられていた。


 おどろいたのは、あたしたちだけではない。

 アッチもおどろいていた。

 ただ、しっぽをまいてにげ出す三りゅうアクトウではなかった。

 シータスは大がまをマイチモンジにかまえた。

「急いで。」


「すぐもどる!」

 ヘスがあたしの手首をつかんで、シータスをのこして走り出した。

「いいの?」

 なんどもうしろをふりむこうとするあたしを、しかりつけてきた。

「だまって走って!」

 ビクリ。

 足がとまりそうになったけど、ムリヤリ足をふみだした。


 にぎるヘスの手のひらがふるえてたし、びっしょりとアセをかいてたから。

 夏のアツさだけでない、きょうふにたいするアセをかんじとったから。

「お父さんよんで来るから、ディルはココにかくれてまってて。」


 父が中でなんかのはなしあいをしているタテモノ。すべてのカミサマのシンカンがはいってよくて、すべてのカミサマじしんは入ってダメなばしょだ。

 チュウリツクだからってセツメイされたことあるけどよくわからない。


 そのもんのウラにあたしをしゃがませてヘスはタテモノにかけこんでいった。

 ギュっと目をつむって、なんどもしんこきゅうして、キモチをおちつかせる。

 なのに


「きゃあああああああ!」


 ノウミソの中のシータがオトコたちにつかまって、ヒドイことをされる。

 そんなマボロシがうかんで、目をつむってられない。


 大きく目を見ひらいた。


 茶色い土。

 ふみつけられてヨゴレた草色。

 さらに目にうつったのは、赤茶けた五十センチくらいのぼうだった。


 目をこらした。


 タンケンだった。

 サビついて、赤茶けて、ところどころこい緑色だった。

 キタナイなとはおもったけど、ソレを手にとった。

 ニギリも土でヨゴレて、カビていて、ベタッとイヤなかんしょくがした。

 それでも、ギュっとツヨくにぎりしめて、立ち上がる。

 そうぞうしてたよりはかるく、キレる気はしなかったけど、もしかしたらササるかもしれない。


「シータ、まってて。」

 しぜんにかけだしていた。

 さっきまであんなにコワかったのに、いまはたすけたいキモチでいっぱいだった。

「このタンケンは、タンケンセンソウでつかわれたタンケンだ。」

 あたしはそうジブンに言いきかせ、にげ水をおっかけるように走った。


 ビュンビュンとかぜをきる。

 白黒のおハカがつぎつぎとひっくりかえるオセロみたいだった。

 にげたときより早くついた気がする。


 1、2、3、2人いない。

 いや、シータスのウシロに1人いた。

 クスリやさんだ。

 いまにも立ち上がろうとしている。

「シータぁ! だいじょうぶ?」

 あたしがさけぶと、クスリやさんがおどろいたようにうごきを止めて、こっちを見た。

 おくれてシータスもこっちをふりかえった。

「何で戻ってきたのよ!」

 はんぶんかなきり声みたいになっていた。

「ウルサイっ!

 あたしもタタカうんだ。」

 どなりかえして、ひざ立ちのクスリやさんにタンケンをつきつけた。

「ヘスが父をつれてくる。

 それまであたしもタタカう!」


 キョウアクな大がまをふりまわして、シータスはニクラシげに、カナシげににらんできた。

「そんなモノで…」

 と口をひらきかけたクスリやさんにキッサキをつきつけた。

「コレはタンケンセンソウでつかわれたタンケン。

 シータがあんなブキもってんだ。

 あたしだってもってる。」

 とっさのウソだったけど、さんざんシータスにヤラれたのだろう、アクトウどもはあとずさり、クスリやさんはおびえたようにあたしを見上げた。

 シータスがうすくわらった。


「は、はったりだ。」

 黒メガネが言った。

 手には見てからにバクハツブツのようなもの。

「どっかで鳴ってた爆音はソレ?」

 けいかいしながらもかるいクチョウできいている。

 なげつけられたソレをひとつふたつとうちかえす。

 右左でバクオンがなりひびいた。こわくて目をつむりそうになる。


「ディルサ、私はだいじょうぶだから。」

「ヤダ。にげない。」

 したうちされた。

 またバクハツブツをなげてきた。しかもシータスの足元。

「ヤバっ! ディル、逃げて!」

 バクフウに大ガマをかいてんさせてボウギョした。 

 でも、そのすきをついて黒メガネのナカマがうごいてる。

「ディルぅ!

 逃げてよぉ!」

 なき出しそうな声。

 いっしゅんおくれたカマをよけてアクトウの1人があたしにおそいかかってきた。


 はを食いしばって、にげたい足をふんばった。

「かかってこぉい!」

「全解放!」

 あたしがさけんで、シータスもむこうでさけんだ。イセカイのコトバなのにりかいできた。


「あたしはにげない。」


 ジュモンのようにそんなコトバをくりかえす。

 ふりおろされる長いケンシンに、おもわず目をつむってしまった。

 それでもタンケンを前にかまえてはなさなかった。

 ツヨいショウゲキが…こなかった。


「よく言った。」

 父?

 いや、女のヒトの声っぽい。


 うっすらと目をあけたあたしの前に、せをむけて立ちふさがった、ぼんやりとすけたオトナの女のヒト。

 すけたむこうがわにアクトウのスガタ。

 ふりおろしたケン先が、あたしにとどくことなく、女のヒトの左手ににぎられていた。

 ゆらりと右下をむいた。

「薬屋さん。裏切ったね。」

 これをジゴクからひびく声というにちがいない。

 ニラむヒトミがほのおのように赤かった。

 たすけられたはずのあたしまで、せすじがさむくなる。

「あたしは信じてたんだけど。」


 クスリやさんとあたしをおそったアクトウがケンをすてて、あとずさった。

 あとずさった先で大ガマでナグられた。

 これでまともにいしきがあるのは、黒メガネとクスリやさんのみ。


「パパ。ナイスフォロー。」

 前に立っていたのは、いつの間にやら小さなカラダ。

 シータスだった。


「ユメ?」

 あたしのつぶやきに

「がんばったね。」

 とシータス。

 そして、あたしらのよこを大きなヒトが走りすぎた。


 そのヒトはじぶんのせより長いきょ大なジュウジカをふった。

 そのスピードたるや、さけることすらできずに黒メガネがふきとばされた。

 なんとか立ち上がってはんげきをこころみるも、そこからはイッポウテキだった。

 アクトウ4人がどんなにケンをふりまわそうがすべてジュウジカにはじかれていた。


 スゴイ。


 見とれているうちに父がゆっくりこっちに歩いてきた。

「父、ありがとう。」

 ナミダをこらえてあたまを下げた。

 そのあたまに大きな手のひらがのせられた。

「ヘシアンが警邏隊を呼びにいってるからね。」

 ケイラタイ?

 あぁ、アクトウをつかまえるヒトたちのことか。

 さいどじめんにはいつくばった4人をしばりあげてあたしにわらいかけた。で、シータスにもえがおでいちれいする。

「キミもありがとう。」


 カラカラカラカラ。


 ふとキミョウな音がきこえた。

「骨が啼いてる…」

 父がコシのポーチから、なにかをとり出した。

 それは、父の言うとおり一本のホネだった。

 たぶんオトナのヒトのにのうで?


「な、なんで、そんなのもちあるいてるの?」

 せっかくあんしんできたのに、こんどは父がコワくなる。

「昔預かった、短剣戦争のときの英雄の骨。」

 シータスのもつ大ガマをとりまいていた白いモヤがドウヨウするかのようにゆらいだ。

「プルートゥ、まだ生きてたか!」

 父からはっせられる、あきらかに父とはちがう声。

 女せいの、というよりむしろ女の子の声だった。


 シータスがしずかに父を見ていた。

 モヤがすこしずつシータスのからだにとりこまれていった。

 どうじに大きなカマもきえうせて、その手にはサイショに見た木のハコだけがのこされていた。

「だから会いたくなかったのよ。」

 シータスはニガニガしげにそう言ってさっていった。


 ぼんやりとシータのうしろすがたをみおくってホンキでなやむ。

 シータってナニモノなんだろう。

 と。

 そして、ヘスはそんなカノジョを見たらなにをおもうだろう。

 と。


 父と目があった。

 きこえてきた、ひとり言かとききのがしそうなシツモン。

「ミアロートの娘か…

 あの娘とも知り合いなのかい?」

 いっしゅん、ことばにつまった。

 でも、一どはせなかをあずけてタタカったんだ。

 かってにセンゲンしても、もんくはいわれないだろう。


「友だち。」


 父は、なにか言いたげに見つめていた。

 あたしは上目づかいに、それをうけとめた。


 間をおかずに、ケイラタイをひきつれたヘスがもどってきた。

 三人のケイラタイインがアクトウをひっぱっていった。

 クスリやさんがカナシげにこっちを見ていた。

 そのせなかが見えなくなるまで、なんどもこっちをふりかえった。


 クスリやさん、どうなっちゃうんだろう。

 つかまっちゃったから、わるいヒトだ。

 でも、ホントにわるいヒトになっちゃったなのかな? 父にきこうとおもったけどきけない。


 あたしたち三人だけになった。

 ヘスがあわあわとなにか父にほうこくしている。

「ケガしてにゅういんしたって。」

 ケガ?

「ディル。びょういん行くよ。」

「え?

 あたしケガしてないよ。」

 ふしぶしはイタい。

 でも、なんとかすりきずとだぼくですんだ。

 家にあるカットバンとかシップでだいじょうぶな気がする。


 ヘスが首をかしげたあたしの手をとる。

「おちついてきいて。

 ディルのお兄さんがおそわれた。」

「ケガってお兄ちゃんなの?

 ど、どこのびょういん?

 生きてんの?」

 とりみだしかけ出したあたしを父がせいしした。

「一緒に行くから。」

 と二人につれられてシンデンのとなりにたっているびょういんへと走る。


 ついたとどうじにあたしはかいだんにつっぱしった。

「へや、知らないでしょ!」

 とヘスの声。

 父がうけつけにかくにんしていた。

「3階。305だって。」


 へやに入って目に入ったのは、ホウタイだらけでベッドによこたわるお兄ちゃんのスガタだった。

「お兄ちゃん、だいじょうぶ?」

 なきつくあたしをうっすらと見た。


 小さく黒目がうごいた。

 あたしのしせんをさけるように。


 それを見て

「やけどはしてるけど、命に別状はないそうだ。」

 と父が後ろで言った。


 ないてる。

 イタイの?

 ってきいたけど、お兄ちゃんはこたえない。

 こたえられないんだよね。

 そりゃそうか。


「今までディルサといてくれたことは感謝する。

 しかし、もうこれきりにしよう。

 女を守れる男になったら、そのときはまた頼むかもしれないが、これからは私が、ヴィクセン家が育てることにするよ。」


 なに言ってんだ?

 このヒト…


 父はベッドのわきのテーブルに二つテガミをおいた。

 一つには『謝辞』もう一つには『絶縁状』とかかれていた。

 おかれたテガミをてにとる。

「なにこれ?」

 あたしのぎもんはスルーされ、父にむごんでとりあげられた。

 ふれた手は夏なのにすごくつめたい。



  数日後

 シータがスコール・ライネージのお墓の前で手を合わせていた。

 なんど見てもセイジョだ。


「アレはお母さんだったの?」

 こないだあたしの前に立ってたヒトのこと。

 そうきくと、シータはあいまいに笑った。


 みんな、なんであたしにおしえてくんないんだろ。

 あたしがコドモだからなのかなぁ。

 いや、それを言うならヘスだって、シータだってそうだ。


「あたしはお兄ちゃんとゼツエンしたんだってさ。」

「そっか…」

 土の上に木のえだで絶緑って書いてみた。

「それだとミドリをタツになるけど。」

「ん?」

 あわてて書きなおすがよくわからない字になった。


「エニシってなに?」

「絶縁の縁のこと?

 関係性ってことかな。」

 よけいにわかんなくなった。

「いずれにしてももう会うなってことよ。」

 つめたく言われてかなしくなった。


 さすがにかわいそうと思ってくれたのか、シータが一言つけ足した。

「縁あらばまた出会えるよ。」

 あたしはなんだかよけいにかなしくなった。


 だって、いままでエニシがふっかつしたヒトがいないから。

 きっとお兄ちゃんもいなくなって、もうにどと会えないんだ。

「あたしは父とゼツエンしたいよ。」

「そうね…」

  アツい夏の日、二人でぬけるような青空をあおいだ。


「ねぇ、シータスじゃなくシータってよんでいい?」

「いまさら?

 かってにそうよんでたじゃない。」

「いちおうキョカがひつようかなって思ったの。」

「ご自由に。」

 ヘスがシータのことをツンデレって言ってたけどデレるしゅんかんは見られるのだろうか。

「友だちになってくれる?」

「友達になるのも許可が必要?」

「じゃあ、とっくに友だちなの?」

「うん。

 まぁ、そのつもりでいたけど。」

 あたしはまんめんのえみでシータの手をにぎった。

 ちょっとだけ顔が赤らんでいた。

 そっぽをむいてるけどなんとなくうれしそうだ。


 もういちど夏空をあおいだ。

 かすかにふれるカタがベタベタする。

 でも、それがつながったショウコ。




 おばあちゃん、あたしはコドモです。

 ホントの父がいました。

 でも、あまりよく知らないヒトです。

 それでもあたしはこのみずしらずの父のところですごすことになりました。

 お兄ちゃんはいなくなりました。


 あたしは、おばあちゃんが生きてたら、おばあちゃんの子になりたかったです。



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