三行半 ~過去の自分とカレへ
三行半~過去の自分とカレへ
十六歳・ロムールにて
「どんなことがあったって、キミのもとへと駆けていくよ。」
カレが言った。
「キミを傷つけるようなヤツは絶対に許さない。」
カレが言った。
じゃあ、独りぼっちでここに居るアタシはダレ?
アタシはカレにキズつき、カレに見捨てられた。
いや、カレはキズつけたと見なしていない。
自分がキズつけたヒトにカウントすらされていないし、見捨てたつもりもないんだろう、きっと。
そんな現実にようやく気づいた。
B級な捨てゼリフでも叩きつけて、後ろ足で砂をぶっかけるように去ってやろうと思ってた。
苦しいまでの決意。
大好きな、大好きだったカレへ三行半をつきつける。
なのにだ。
その機会は突然に、しかし永遠に失われた。
大好きなカレが何度も訪れ、何度も愛を語りあった小さな六畳一間のアパート。
窓を全開にしたように壁に大きく開いた穴。
昼下がりの晩夏は抜けるような青空だった。
まるでアタシの心に開いたみたいだ。
なんてね。
そんなB級な未練はいらない。
シニカルに笑むアタシの視界に広がるは、真夏の太陽をギラギラと照りかえす屋根、屋根、屋根…その一つひとつに生きるヒト。
そして、死んだヒト。
ミントメントールのタバコに火をつけ、穹を見上げた。
蒼く眩しく過ぎゆく夏の日に想いを馳せた。
吐きだす煙に蒼穹は白くけぶる。
指ではじいた吸殻が薫風に流されながら、コワれた聖者の街に落下していった。
ゆらゆらゆらゆらゆらゆら…
消えてった。
おばあちゃん。
アタシは後悔ばかりです。
おばあちゃんに謝れなかったし、カレにアタシの気持ちを伝えられなかった。
家族は大事にしたいです。
けどすべてのヒトを信じきることはできないみたいです。
せめて、心許せるトモダチは裏切らず、傷つけず生きていきたいと思います。
おばあちゃんの「一期一会」の話が、身に染みて解りました。
おばあちゃんと話がしたいです。