美少女盗賊推参
結局クレナハーツはホロのととどまる事を知らない言葉の波と勢いに負け、希美がカルディア城で働けるように仲立ちをしてくれる事となった。
クレナハーツが了承するや否やホロはカルディア城へと繋がる空間の裂け目を魔法で作り上げ、戸惑う希美と苛立つクレナハーツを無理矢理そこへと押し込んだのである。
そして希美は押し込まれた際に足がもつれて、裂け目の先にある風景を見る暇もなく顔面から地面へ倒れ込んでしまっていた。
「……オマエ、鈍臭っ」
「あうぅ……」
土や砂ではなく、舗装された地面であるのが唯一の救いだ。
最も痛む額を手で押さえ起き上がると、そこにあったのは荘厳な雰囲気漂う立派な門。
外国の文化遺産でしか見た事のないような白い城壁に囲まれるようにして佇む、これまた白を基調とした清廉な城に、額の痛みも忘れて希美はそれに見入った。
「す、すごい……」
思わず感嘆の声が漏れる。
「すっごいでしょ? カルディア城って豪華絢爛とまではいかないけど、こう、なんていうの? 質素倹約? 違うなぁ……質素の中に漂う気品、みたいな? そーゆーのがあるよね~」
「わ、分かる、気がしま……す?」
同意の言葉を述べようとして希美は一体誰と話しているのか分かっていない事に気付いた。
恐る恐る声のした背後を肩越しに伺い見る。
が、人は居なかった。
おかしいな、と希美は思い周りをぐるりと見渡してみる。
「ひゃっ!?」
「だーれだっ☆」
突然希美の視界が何者かの手で遮られ、誰も居なかったハズの背後から明るく元気の溢れる声が問い掛けた。
その声の持ち主に希美は当然心当たりなどない。
「ほらほら~、ボクはだれでしょーか!」
「えぇっと……えっと……えっと……クレナハーツさん?」
「んなわけあるかっ!!」
「ご、ごめんなさいぃ!」
この世界で知っている人の名前など二つしかない為、駄目元で一緒について来てくれた方の名前を呟くと、当然の結果としてクレナハーツの怒号が響く。
もしかしたら他に出会っていて自己紹介も済んでいる人が居たのではないかと必死に記憶を掘り起こしていたら、視界を遮っていた手が離れた。
慌てて後ろを振り向くと、そこにはクレナハーツに襟首を掴まれ不貞腐れた表情を浮かべるキャスケット帽を被った少女がいた。
「暴力はんたーい」
「うるせぇ、スティ」
むすっと唇を尖らせる少女は希美の視線に気付きパッと表情を一変させて笑みを浮かべた。
「残念ハッズレー。正解はボク、天上天下唯我独尊、最強キュートで超絶プリティー、愛らしき笑顔はチャーミング☆ 天下無敵な美少女盗賊☆スティちゃんでーす!!」
襟首を掴まれたまま、テンション高く自己紹介をした少女スティを希美は唖然と見つめる。
「自分でプリティーとか言うなよ、気持ち悪ぃ」
クレナハーツが溜め息混じりに呟いた言葉にスティは苦々しい表情をする。
「ハーくんの口から出る"プリティー"の方が気持ち悪いよ……」
"ハーくん"とはクレナハーツの事を指しているのだろう、希美はスティの意見に心の中で同意した。
「そもそも! なにが"美少女盗賊"だ! お前は男だろ!」
スティの言葉に苛立ったクレナハーツが言い放ったあまりの爆弾発言に希美の思考は一旦凍結し、しばらくしてから徐々に活動が再開されていき、信じられないと言いたげな目でスティを見た。
「いやーん、ハーくんひどーい。そんなあっさりバラさなくてもいーじゃん」
言葉では文句を言っているものの声の調子からしてスティは面白がっている。
確かにスティの容姿は女と言われれば美少女に見えるし、男と言われれば美少年に見えるぐらい中性的な上に、声までもが少女らしい声にも声変わりをしていない少年の声にも聞こえる。
服装も、勝手な思い込みかもしれないが盗賊と言う割には肌の露出は少なく、どちらかといえばボーイスカウトやレンジャーに近い格好をしている為、服装や身体面から性別の推測は出来ない。
キャスケット帽から覗く透き通った青色、まさに水色と称するに相応しい髪の纏う神秘性が中性的な顔立ちに磨きをかけている。
「え……おと、おとこ……男!?」
「ノンノン」
ちっちっち、と人差し指をスティは振る。
「男でも女でもなく、そう、ボクは美少女盗賊スティちゃん!」
――え、やっぱり女性?
混迷を極めている希美をよそにスティは言葉を続ける。
「で、キミは?」
「ふえ!? あ……えと……希美、と言います……えぇっと、異世界、人、です」
「ふむふむ。だいたいの話はホロホロから聞いてるよー。ヨロシクね、ノッちゃん!」
ホロホロはもしかしなくてもホロの事で、ノッちゃんは恐らく希美の事だろう。
「そしてボクは、美少ぐえっ」
「くどい!!」
スティが三度目となる自己紹介をしようとした瞬間、クレナハーツが未だに掴んだままだった襟首を思いっきり引いた。
おかげで蛙が潰されたような声を出す羽目になったスティはクレナハーツの足をゲシゲシと蹴り、ようやく襟首を掴む手を離され盛大に咳き込んだ。
希美は慌ててスティに駆け寄り背中をさする。
「おおお……ノッちゃんの優しさがボクの傷付いた心に染み渡る……」
「図太さと頑丈さが取り柄のクセに」
「むー……。ハーくん、それが魔王退治を手伝った、それはそれはやっさしーオトモダチに対する言葉と態度かっ!」
「あーハイハイ。その節はたいへんお世話になりましたー」
「おおっ、見事なまでに心が込もってない!」
先程まで涙目で咳き込んでいたのが嘘だったかのようにケラケラと楽しげに笑う。
こういったどつきあいが出来るのも、共に魔王討伐を果たした仲間だからなのだろう。
しかし仲間に対しても容赦のないクレナハーツを見て、この世界の勇者観は一体どうなっているのだろうかと希美は不安を覚えずにはいられなかった。
「さーて、ノッちゃん」
一頻り笑い終えたスティは軽く咳払いをして希美に言う。
「ちょっと立ち話に付き合せちゃったけど、そろそろ行こっか! 王様にはボクが取り次いどいたからさ」
「え、あ、ちょ、待……」
スティはぐいぐいと腕を引っ張り、厳粛な雰囲気漂う門構えに萎縮してしまっていた希美を強引に城内へと連れて行った。
「ごーごーれっつごー!!」