森を抜けた先は図書館
先程までは、視界に溢れんばかりの緑色。
そして今は、視界に溢れんばかりの本に囲まれていた。
部屋の広ささえ分からない程に所狭しと立派なタワーをこれでもかと作り上げている。
足の踏み場が全く見当たらない。
その中で部屋の主とおぼしき濃紺の長い髪の青年は、積み上がった本に腰掛け翠玉の瞳を細めてこちらに柔らかく微笑んだ。
「お疲れさま〜、クレナ。ちゃんと依頼通りゴブリンの一団は懲らしめてきてくれたかな?」
「おいホロ! 天啓と変なガキが居るなんて聞いてねーぞ!!」
クレナと呼ばれた金髪の青年はホロと呼んだ濃紺の髪の青年に掴みかかった。
先ほどまで抱き上げていた希美をその場に落として。
「ふぎゃっ」
受け身もとれずに希美は背中を強打した。
散乱した本の角が突き刺さって地味に痛い。
痛みに悶えながらここへ来るために通り抜けた裂け目の方を見た。
裂け目はもう閉じかかっており、かろうじて見えたのは裂け目を通ろうと鼻を押し付けている化物の姿。
遠目で見ても恐ろしかった容貌がすぐ近くにあったが、自然と恐怖は感じなかった。
閉じていく裂け目に比例して化物の唸り声は小さくなっていっている為だろうか。
裂け目が消えた時には完全に聞こえなくなった。
もう緑色は無く、裂け目で隠れていた場所にはやはり本のタワーが築かれていた。
――あの裂け目は一体何だったのかな。
希美は不思議に思い、裂け目のあった空中に手を伸ばしてみる。
一切の手応えはなく、種も仕掛けも見当たらない。
腕が消える訳でもなく、裂け目の裏にあったタワーの本に手が触れた。
「え」
途端にタワーがぐらりと揺れ、希美目掛けてタワーの本が落下してくる。
希美は避ける間もなく本の生き埋めとなってしまった。
「そう言われてもなぁ……。流石に、予言は専門外なんだよね」
「チッ」
「ハイハイ、舌打ちしない。で、依頼通りゴブリンは倒してきてくれたんだよね」
「ああ、楽勝だったよ」
後ろの悲劇に目もくれず会話を続けるクレナとホロ。
希美は本を掻き分けどうにか脱出を試みている。
こういうのは何度か経験があるので本人は別段焦っていないが、本を傷めてしまった事に罪悪感が募る。
「転移用の魔方陣を張ったままにしといて良かったよ。おかげですぐにココと繋げれたし」
「……そこは感謝してるっての。ってか、オマエだよオマエ!!」
「はいぃっ!?」
なんとか本の山から這い出した希美を指差してクレナが叫ぶ。
希美はビクッと肩を跳ねらせた。
「なんでオマエはロウロの森の、しかもあんな奥で、天啓に、殺されかけてたんだよ!!」
その問いかけはそっくりそのまま希美が訊きたかった事だ。
なんと答えればいいのかは自分が一番知りたい。
「こら」
ホロが傍に立て掛けていた木製の杖で、クレナの頭上を軽く叩いた。
クレナは叩かれた頭を擦りながらホロの方を振り向く。
「たぶん、訊いても分からないと思うよ?」
「は?」
「え?」
何故自分の心境が分かったのか不思議で希美もホロの方を見た。
「だって君、異世界人でしょ?」




