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ネガティブ戦線  作者: 楽夢智
前編 「もう終わりにしよう」と闇が囁いた
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ネガティブ日和

綺麗で可憐な花々が整然と咲き乱れた、広いカルディア城の庭園。

穏やかな空気と暖かな日の光に照らされた庭園に、希美から不似合いな一つの重く暗いため息が零れた。

伸ばしっぱなしの髪は仕事の邪魔にならないようアーニャによって後ろで一つに結われたが、微妙な長さの前髪はそのままにしてもらっている。

さっきまで落ち葉集めの為に動かしていた箒を止め、それにもたれかかる様に項垂れて、もう一度ため息をついた。


異世界へ来て、カルディア城で働く事になって、もう一週間が過ぎようとしている。

最初は厨房で食器洗いを任されたが、食器は割るし、その破片で怪我はするしでその日の内に担当から外された。

次は城内の掃除を任されたが、被害は食器洗い時と同じなので省略する。

希美の教育係であるアーニャが見せたあの呆れきった顔を忘れる事はないだろう。

一体どの仕事をさせればまともに使えるのかと議論され、とりあえず一通りの事をしたが結果は言うまでもなく凄惨だった。

その過程の末に辿り着いたのが、現在の庭掃除の仕事である。

庭園ならばこれといった装飾品もなく、花壇にさえ近付かなければほとんど物損は起こらない。

起こるとすれば、自身が躓いて転ぶか、その拍子に箒が折れるか、のどちらかだろう。

――物を壊すより、マシなんだけどなぁ……。

本当ならば最初の時点で解雇されて当然なのだが、"異世界人"である事や"身寄りのない"事からか解雇されずに済んでいる。

メイド内でもそこまで厳しい風当たりはないが、こちらはどうにも"勇者一行とお近づきになれるかもしれない"という打算からだろう。

女性が集まれば自然と色恋沙汰で盛り上がるのは世界共通なのかもしれない。

残念ながら初日以降、希美がクレナハーツと会う事はほとんどない為、お近づきにはなれないと思うが。

話題の人であるクレナハーツらは世界を救った英雄として現在、国賓扱いとなっており城内の一室に招かれているらしい。

メイドとしての手腕からアーニャが概ねの世話を担当しているがそれだと他の同僚からいらぬやっかみを買ってしまうので、お茶出し等の仕事はくじ引きで毎日決めている。

希美はそのくじ引きに参加していない。

自分がお茶出しなどしようものならどんな失敗をするか目に見えているというのも理由の一つだが、人との交流に消極的な事とあまり目立ちたくないという自分勝手な理由の方が大きい。

変えたいけれど変えられない、なりたくてなった訳じゃない、自分の嫌いなところ。


ぶんぶんと希美は頭を横に振りネガティブに走り始めた思考を振り払う。

――とにかく掃除だ。掃除をしよう。

箒を握り直して掃除を再開する。が、何もないところで足がもつれ顔面から地面へ転んでしまった。

ボキッ、と嫌な予感しかしない音が響く。

慌てて箒の無事を確認するが、転ぶ際にどうにか踏み止まろうと力を込めた所為で、柄の真ん中辺りで無残にも折れていた。

修復、出来る程の技術を希美は持ち合わせていない。

希美は三度ため息をつき、そのまま地面に突っ伏した。

――情けないなぁ……。

仰向けになると嫌味なぐらいの晴天が視界一杯に広がる。

視界の中に入らない太陽は、まるで自分なんか照らす価値は無いとでも言いたげだ。

皮肉な空から視線を逸らし、寝転がったままいつもより格段に低い位置から庭園を見回す。

目が合った。

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