走馬灯
――どうして、私はこんなにも鈍臭いのだろうか。
五十嵐希美は人生何度目となるのか分からない自己嫌悪に陥っていた。
走っても歩いても何も無くても躓くし、手に持っているものは必ずと言っていいほど落とすし、自分の周囲の物的被害は相当なものだ。
そのうえ、対人関係が苦手で人見知りの口下手。まともに友達を作れた覚えがない。
だから、いじめの標的になったって仕方のないことだと思っている。
鈍臭いとか、邪魔とか、居ても居なくても変わらないとか、正論過ぎて反論なんて出来やしない。
勿論、そんな自分を変えようと努力はしていたつもりだが、生まれ持った悲しき業とでも言うのだろうか。
生まれてから今年で十六年目、少しも好転する気配はなかった。
進展するのはいじめとネガティブ思考だけ。
「ノミ」という、少し前までは陰口止まりだった不名誉なあだ名は、公然と使われるようになった。
両親や先生に相談しようにも、何と言えばいいのか分からない。
いじめっ子の言い分は正論で、短所を克服出来ない自分に非があって。
そもそもこんな自分があからさまな被害者面をするなんて許されるわけない。
既に自信は消えて、人の視線や表情が怖くて見れなくなり、自分の視線はいつも斜め下。
自分の顔を見られるのも怖くなり、伸ばしっぱなしの前髪でいつも隠し続けた。
視界が悪くなった分、鈍臭さに拍車がかかるのではないかと今更ながら思ったが、そうでもなくて安心した。
これ以上悪くはならないが、これ以上良くもならないらしい。
いっそのこと死んでしまえばいいんじゃないのか、と囁く自分がいた。
けれど残念な事に、いや有難い事にとも言えるが、死ぬ勇気など持ち合わせていない。
生きていれば何か良いことがあるさ、とこういう時にだけ働く前向きを言い訳にしている。
みっともなく生きる事にしがみつく自分に嫌気を感じながら。
――ああ、結局嫌な事しか思い出せないんだなぁ。
気付くと鬱蒼とした森の中にしゃがみ込んでいた希美は、黒い外套の男が自分へと振り下ろす剣の切っ先を呆然と見つめながら、そう短い人生を振り返っていた。