鍵を持っていた少女は行ってしまったから。
僕は部屋から出る事が出来ない。
そこには向日葵が咲いていた。
真っ白な向日葵が風のように、ゆるやかに佇んでいた。
ゆら、ゆら、誇るように、囁くように、風もないのに揺れていた。
そこは無機質な壁で囲まれていた。
向日葵の話し相手に成り得ない無機質さは、部屋の透明度を高めていった。
繋ぎ目も、壁紙も、傷跡もない壁はその部屋の象徴とも言えるだろう。
まるで何も無い事が全てのような、まるで吸い込まれてしまったような。
天井もまた何も無い。
梁もライトもついていない。
窓もない部屋なのに暗くもないのは何故だろうか。
何もない部屋である事が分かるのは何故だろうか。
そもそも、ここが部屋である事が分かるのは何故だろうか。
この場所にはドアがある。
壁にスリットが入り、ノブが付き、鍵穴が開いたドアがある。
鍵を持っていた少女は行ってしまったから。