二人のハンター・2
クリスティアン=フィンレーはアランに問うた。
「早く死にたいか?ゆっくりと死にたいか?」と。
フィンレーはじっとアランを見つめていた。アランの目に浮かぶのは恐怖、絶望、怒り、そして僅かな……「希望」。その僅かな希望の光の目が再びフィンレーを苛つかせた。
「てめぇ、俺を舐めてんのか?」
「いや、そうじゃない……。」
アランは答えて言う。
「ようやく、息子に会えることが嬉しいんだ。妻もお前に殺された私が一人で生き続ける理由などあろうはずがない……。すぐに後を追わせてくれるというのであれば僥幸。あの世で家族3人また仲良く暮らすさ。」
言ってアランは目を伏せた。如何に覚悟を決め、自ら死を望んでいるとはいえ、自分の刺される様を見るのは辛かったのだ。
……故に、フィンレーの背後に近づくモノに気づく者は居なかった。
「あぁ、申し訳ないがそれは無理だね。」
アランが聞いたその声はフィンレーのそれではなかった。
フィンレーが背後の声に呼応して振り向くやいなや“鋏”の切っ先が彼の目の前に現れた。
「やぁ、今をときめく殺人鬼様だ。」
その“少年”はどこかで聞いたような言葉を口にした。
・・・・・・
「僕の名前を騙っているのは君、だね。」
少年はフィンレーに鋏を向けたまま距離を詰めた。ようやく、我にかえったフィンレーが少年にナイフを突きつける。
「てめぇもコイツで殺してやろうか!!」
だが、そんな行為に意味などない。
「弱い、ね。」
少年は一言呟くと当たり前のように“鋏でナイフを切った。”
「何!?」
「その程度のなまくらで殺人鬼を騙るなどおこがましいにも程がある。」
「お、お前は誰なんだ!?」
「僕かい?僕の名は―――」
・・・・・・
その時、アランは異変を前に目を開けられないでいた。開いたら最後、死の覚悟が失われるような気がしたのである。
――しかし、その会話には目を開かずにはいられなかった。
「お、お前は誰なんだ!?」
「僕かい?僕の名は
―――アレック=バレット」
・・・・・・
次の瞬間、アランが見た光景は凄惨という言葉に尽きる。
アレックがフィンレーの首に鋏を当て裁ち切る様がアランの目に飛び込んだ。
「君には、痛め付ける価値もない。」
無感情にそう告げるとアレックは鋏で頭部と胴体を切り分けた。まさに、狩人が虎を仕留めるようにあっさりとフィンレーの命は断たれた。
そして――
「やぁ、父さん。久しぶりだね。」
「アレック……か?生きているのか?」
「この体が亡者のそれに見えるのなら父さんの目を疑う必要があるね。」
「何故、生きているんだ?」
「子の生を疑問に思う親がいるとはね。これは意外だ。」
「だって、殺人鬼に殺されたんじゃ……?」
無論、アランは分かっていた。
何故なら、自分の目で見てしまっているから。ただ認めたくないがために現実から目を背けようと必死だったのだ。
だが、現実は無情だった。
「それにしても父さん、母さんは残念だったね。」
「あぁ……そうだな。」
「何故、僕に殺される前に殺されてしまったのだろう。」
「っ!?」
「まったく、なぜ自分の親を他人に殺されなければならないんだか。まぁ、一人だけでも間に合ってよかったよ。というわけで……父さん、母さんによろしく。」
アレックは、自分の内に残るごくごく僅かな愛情でもってアランの胸部に鋏をつきたてて、心臓を切り開いた。痛みさえ感じない、即死だった。
「今まで心配をかけて悪かったね。せめて、あの世では母さんと穏やかに。」
・・・・・・
「あら、兄さん。何をしているのかしら?」
「ん?一応、両親だからね。僕なりに葬ってやろうかなと思ってね。」
「それが、鋏でバラバラにすることなの?」
「火葬をするわけにはいかないし、鳥葬や水葬じゃあんまりだろう?」
「……知ったことじゃないわね。」
「やれやれ、自分で聞いておいてその反応かい?つれないね。」
「で?バラバラにしてその後をどうするのよ?」
「……何処か誰にも見つからない場所に埋めておくさ。」
「そう。それならバラバラにしなくてもよかったような気がするわね。」
「別にいいじゃないか。こうして思い出に浸るのも悪くない。」
「あっそ。終わったら言ってちょうだい。そうして……親を殺したもの同士、その瞬間の感想を話し合いましょう。」
エミリアは楽しみで仕方ないといった様子で笑む。
「ふ、それはゾッとしないね。」
アレックもつられて笑う。
そうして、目標を成し遂げた二人の夜は更けていった。