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狂気の鋏  作者: 平遥
11/23

この自由はある種の罪悪

バーナードが職を辞したのは警察のやり方に疑問を感じた故である。

彼は、生来、人の事を考えて行動する事に関しては人一倍長けていたが、こと自分の事に関しては人一倍向こう見ずであった。


「何の考えもなく警察を辞めてしまったがこれからどうしようか?」


しかし、警察を辞めたこと事態が間違っているとは思えなかった。確かに捜査権こそなくなったが、自由になったことは間違いなく自分にとってよい選択なはずである。


「もっとも、『捜査権がなくなった』事。それこそが問題なのだが。」


いや、そうじゃない。――アレック。彼を捕まえる為には、まだ「アレック」という名前すら知らない警察に奴が殺される前に捕まえなくてはならない。そういう意味では自分は非常に有利である。何故なら自分は一度、奴と会っている。そして個人的な調査で出生地区も分かっている。だから先立ってやることは決まっていた。捜査権など(、 、 、 、 、)知ったことか(、 、 、 、 、)


・・・・・・

貂国 第3地区


アレックの生まれ育った地であり、恐らく最初の被害者、もとい被害猫のいた地である。


「とりあえず時間だけはあるんだ。無駄に捜し続けるのも悪くない。」


先ずバーナードが訪れたのは黒猫の死体が見つかった場所だった。


「ふむ、流石にもう何も無いだろうが。」


何せこの件の捜査担当は自分自身だったのだからそれくらい分かる。


「あの時はまさか数ヵ月後に自分が警察をやめるだなんて思いもしなかったな。」

――そしてまさかここまでの大きな事件になることなど誰が予想できただろう。

もし、予想できていれば王のご息女が亡くならなかったと思うとやはり悔やまれる。


「それでもアレックを殺させる訳にはいかぬのだ!」


殺させるのではなく、しっかりと断頭台ギロチンに送ってやらなければならぬ。バーナードはそう考えていた。だからこそ彼は上司に階級章と辞表を叩きつけたのだ。


次にバーナードは「バレット家」。すなわちアレックの生家を訪ねた。

息子を亡くした、切り裂き魔に殺されたと考えているバレット夫妻は既に引っ越してしまっていた。今残っているのは廃墟のごとき建物だけである。鍵も開けっ放しで自由に出入りできる。


「……お邪魔しまーす。」


バーナードは「こういうとき小声になってしまうのは人間の性かな。」と暢気な事を考えた。

正直言ってこんな廃墟に何の期待もしていないのである。

捜しても何も無い。全てバレット夫妻が第4地区に全て持っていっただろうから。そうバーナードは思っていた。しかし、その考えは外れることとなった。

・・・・・・

バレット家 2階 旧子供部屋

「おや、これはこれは。君は確か……バーナード警部、だったかな?」


突然、室内から聞こえた声にバーナードは身を固くした。その声に聞き覚えが有ったから。そしてその声は聞こえてくるのが不思議だったから。


「お前は、アレック!?何故こんなところに!?」


我ながら愚問も良いところだと思った。


「何故こんなところに、か。それは寧ろこちらの科白だと思うけどね。バーナード警部。いや、何。過去と訣別しておこうと思ってね。親を切るというのも親孝行さ。いつまでも子が戻るのを待つというのは苦痛だろうからね。救いに来たのさ。」


救いに来た――それはつまり殺しに来た、ということだろう。


「アレック。お前に幾つか伝えておくことがある。先ず、私はもう警部じゃない。警察を辞めたんだ。それからお前の親はもうここに居ない。既にお前の事を諦めて切り替えて引っ越した。」


実際は諦めがついているのか分からない。もしかすると、辛い現実から逃げただけかもしれない。だが、今ここに居ない。その事実だけで十分だ。


「そうだったのか。道理で家具が少ないと思ったよ。だけどその事を教えてよかったのかい?僕が両親を殺しに行くかも知れないよ。」

「構わんさ。お前はバレット夫妻が何処にいるのかさえ分からぬだろう?ところであの少女は何処にいる?」

「さあね。たまには二人別れるのもいいと思ってね、どこかで切り回ってるんじゃないかな。」

「そうか。」

「止めにいかないのかい?」

「私はもう警察じゃない。暴れている所に私が行っても徒に被害者を増やすだけだ。」

「そうかい。……と、噂をすれば外に来たね。」

「なら、さっさと行けばいい。捕まえたりしない。」

「……何が目的だい?」

「何も。これはお礼だ。」

「お礼?」

「あぁ、私はあの少女を人質だと思っていた。だが、今お前のおかげであの少女も共犯だとわかった。それで十分だ。」

「そうかい。それじゃ、遠慮なく。」

・・・・・・

アレックを見送った後バーナードは思った。

「自由な捜査は素晴らしい!」と。

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