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居候はエルフさん  作者: ムク文鳥
第7章
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これからですか?


 赤塚家のリビングには、沈黙が鎮座ましましていた。

 リビングの食事用のテーブル。そこのいつも席に康貴とエルは対面するように腰を下ろしている。

 二人の顔に浮かぶのは、どこか気不味そうな、それでいて擽ったそうな表情。

 そう言えば、いつかもこうやってリビングに面と向かって座り、沈黙に耐えたことがあったっけ。

 と、逃避行動の一種でそんなことを頭の片隅で考える康貴。

 そう。あれはエルが初めてこちらの世界に来た、次の日のことだ。

 浴室で偶然にもエルの裸を見てしまった後、場をリビングに移してこうやって互いに気不味そうにしていたなぁ、と康貴は半年ほど前のことを思い出していた。




 あれから。

 康貴がプロポーズ紛いの告白をしてから。

 温かい涙を流しつつ康貴の胸に飛び込んだエルだったが、いつまでも道端で二人で抱き合っているわけにもいかないので、場を家の中のリビングに移したのだ。

 気づいた時、隆とあおいの姿はなかった。

 きっと彼らのことだから、自分たちに気を使ってそっと姿を消したのだろう。

 後で二人にはお礼のメールでも打っておこうと考えつつ、康貴は目の前に座るエルへと目を向ける。

 と、そこでエルの視線と真っ正面から衝突した。

 途端、改めて真っ赤になって視線を逸らすエル。エルのその反応に、康貴も自分の顔が熱を帯びていくのを自覚する。

「あ、あの……ヤスタカさん……」

 いかにも意を決したといった表情で、エルが口を開く。

「あ、あの……さきほどはごめんなさい……電話越しとはいえ、ヤスタカさんとアオイさんのお話を聞いてしまって……」

「あ、い、いや、あれは……う、うん、あれは隆の策略だろ? だったらエルには何の責任もないよ」

 必死に笑顔を浮かべて誤魔化そうとする康貴。

 実際にエルがどこから聞いていたのかは分らないが、自分が他の女の子に告白されたところを聞かれたというのは、やはり恥ずかしい。しかも、その相手が自分が好意を持っている女の子であれば尚更だ。

「そ、それで…………ですね……?」

 ちらり、とエルがやや上目使いで康貴を見る。

「……先程の……ヤスタカさんの言葉ですけど……」

「う……」

 改めて、康貴の顔が赤くなる。

 あの時は隆の言葉に背中を押されて、半ば勢いで自分の希望というか本音をエルにぶつけてしまった。

 彼自身もあの時に言ったように、あれは康貴の我が儘以上のなにものでもない。エルがそれを完全に否定してしまっても、それは仕方のないことだろう。

 だから、康貴は半分は諦めの境地で居住まいを正した。

 半分しか諦めていないのは、エルが彼の言葉を聞き、そのまま彼の胸に飛び込んできてくれたからだ。もしもエルが康貴に家族としての愛情しか感じていなければ、あのような態度は示さないだろう。

 期待半分、諦め半分。実に複雑な心境で、康貴はエルの言葉を待った。

「そ、その……私……帰りません……」

 ちょっぴり上目使いに、そして、顔を真っ赤にしながら。それでもエルは康貴に向かって確かにそう言った。

「え、エル……ほ、本当か……?」

「はい。ヤスタカさんが天寿を全うするまで……私は……エルルーラ・ザフィーラ・フィラシィルーラは、あなたの傍にいたいです…………いいですか……? 私、あなたの傍にいてもいいですか……?」

「も、もちろんだよっ!!」

 何とかそれだけ答えると、そのまま康貴はへなへなと崩れ落ちるように姿勢を崩し、フローリングの上に倒れ込む。

「や、ヤスタカさんっ!?」

 驚いたエルはテーブルを回り込み、慌てて康貴を抱き起こした。

「だ、大丈夫ですかっ!? も、もしかしてどこか身体の具合が悪いとか……?」

 エルは慌ててぺたぺたと康貴の身体に触れて、彼の様子を確かめる。

 エルの小さな手が身体中に触れ、その感触が恥ずかしいやら嬉しいやらで、康貴もどうしていいか分らずそのままされるがままでいた。

「あ、うん、その……エルがこれからもこの家にいてくれると分ったら……安心して思わず腰が抜けた」

「へ…………?」

 間近で互いに見つめ合いながら。やがてどちらからともなく吹き出し、二人でくすくすと笑い合う。

「ヤスタカさん」

 エルは康貴の前で床に正座し、居住まいを正す。

「これからも……よろしくお願いします」

「ああ。こちらこそ、よろしく」

 康貴も同じようにその場に正座すると、改めて互いに見つめ合って幸せそうに微笑み合った。




「そうか。上手くいったんだな」

「良かったわね、康貴。エルがこっちの世界に残ることを選んでくれて」

 翌日。

 学校で隆とあおいと会った康貴は、あれからのエルとのことを昨日の礼も兼ねて報告した。

「だけど、分っているだろうな、康貴?」

「え? 何を?」

 にやりと笑った隆は、首を傾げて疑問顔の康貴をじっと見る。

「あれだけのことを言ってエルちゃんを引き止めたんだ。当然、それ相応の覚悟はあるんだろうな、ってことだよ」

「う……そ、それは、まぁ……が、がんばる……」

 顔を真っ赤にしながら、ぼそぼそと小声で囁く康貴。そんな彼を見て、隆とあおいはくすくすと楽しそうに笑った。

 そうしながら、隆は隣にいるあおいの様子をそっと窺う。

 昨日の今日だ。今のあおいはきっと相当無理をしているに違いない。それでもこうして康貴に笑顔を向けていられるのだから、やっぱりあおいは強いなと隆は内心で彼女を改めて評価する。

「これから年末に向けて、クリスマスや正月とイベントが続くからな。せいぜい、エルちゃんと仲良く、そして楽しくやってくれ」

 だけど、と隆は表情を真面目なものへと変えた。

「想いが通じ合い、しかも同じ屋根の下で二人っきり……康貴の気持ちは同じ男としてよーっく理解できるが、あまり先走るなよ? 急いてはことを仕損じるって言うし、勢いに任せてエルちゃんを押し倒したりするな?」

「す、するかっ!!」

「うむうむ。真面目な康貴センセイのことだから大丈夫だとは思うが……念のためにな?」

 意味有りげにぱちりと片目を閉じる隆と、顔を真っ赤にさせつつ憤ってみせる康貴。

 そして、そんな二人のやりとりに屈託のない笑い声を上げるあおい。

 今までずっと一緒だった三人。もうしばらくは、今まで通りの関係を続けられそうだった。




 しんと静まり返った夜の町。

 車も人もほとんど通らない暗い道を、康貴とエルは寄り添いながらゆっくりと歩く。

 冷たい北風が吹き抜け、しっかりと身を寄せ合いながらも二人は小さく震えた。

「はぁ……寒いですねぇ。私、温暖な気候の国の出身なので、こんなに寒いのは初めてです」

 そう言いつつも、彼女の表情は明るい。息が白く染まるのがおもしろいのか、何度もはあと息を吐いてはくすくすと笑っている。

 そうやって歩いていると、再び強い風が吹き付け、二人はぎゅっと身を固くする。

 今、エルの右腕は康貴の左腕にしっかりと通され、エルは康貴の腕を抱き締めるようにして北風に耐える。

 康貴は黒いダウンハーフコートに、ボトムは厚手のジーンズ。エルはダークブラウンの裏起毛のファー付きコートに、グレーと黒のバイカラーのスキニーパンツ。

 ちなみに、エルが着ているダークブランのコートは康貴のお下がりだったりする。成長期である康貴は、二年前に購入したコートでは少々サイズが合わないのだ。

 男物でエルにはちょっと大きいかと思われたが、元々タイトな造りのコートだったのでエルが着てもそれほど大きすぎるという印象はなく、丈もハーフコートぐらいのサイズで意外とエルに丁度いいサイズであった。

 康貴が以前に愛用していたコートとあって、現在ではエルの最もお気に入りのコートである。

「やっぱり寒いなぁ」

「寒いですねぇ」

 二人ともコートの中にセーターなども重ね着をしているが、やはりこの時期のこの時間帯はかなり寒い。

 小さく震えながら歩む二人の足取りは、ゆっくりではあるが決して重くはない。

 今日は大晦日。そして、新しい年を迎えるまであと数時間。

 康貴とエルが目指しているのは、近所の神社の境内にある集会所だ。

 康貴たちの住む町では、大晦日は年越し前に神社の集会所に集まり、そこでご近所や親しい者たちが集まって一騒ぎして、年が明けたら改めて初詣でをするという風習がある。

 今から康貴たちが向かう集会所には、隆やあおい、その他にも親しい連中が既に集まっているだろう。

「エルの世界でも、やっぱり新年はお祝いするのか?」

「はい。私がいた世界……特に私が暮らしていた国では、新しい年を迎えると皆一斉に年齢がひとつ増えるので、その祝いも兼ねて新年祭というお祭りが開かれます。この新年祭と作物の収穫時期に行われる収穫祭が、私がいた国では最も大きなお祭りですね」

「え? エルのいた国では、個人個人で誕生日を祝わないんだ?」

「個別に誕生日のお祝いをするのは、王族とか貴族の方たちだけですね。私たち平民は年が変わると、全員一斉に一つ年齢を重ねます」

 それぞれの世界、それぞれの国の様々な風習や文化。

 まだまだ、二人の間には理解しきれないことがたくさんあるだろう。

 でも、それはきっと時間が解決してくれる。

 今の二人のように、こうしてお互いに寄り添いながら、ゆっくりとその差を埋めていけばいいのだから。

 二人の時間はまだまだこれからだ。

 康貴とエルは、ゆっくりと歩きながら互いに理解を深めていく。

 もうすぐやってくる新しい年も。そして、更にその次、そのまた次の年も。

「さて、少し急ごうか。きっと隆たちが待ちくたびれている」

「そうですね。急ぎましょう」

 しっかりと身を寄せ合いながら、それまでより少し早足で。

 康貴とエルは、親しい仲間たちが待つ場所へと、しっかりとした足取りで歩いていった。




 『エルフさん』更新。


 残すはエピローグのみっ!! そのエピローグも、この話と一緒にアップする予定です。

 あと一回だけおつきあいください。


 よろしくお願いします。


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