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俺たちの冒険はこれからだ!(五三周目)  作者: 厨二×武力=はた迷惑
第一章
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第六話:「多分そうだと思います」

 通路でしばらく立ち尽くしていると、僕が入ってきた方とは逆側から、獣人の男の人がこちらに向かってきた。

 僕を見つけると、驚いたように目を丸くして、


「見ない顔だな。新入りか?」


 と尋ねてきた。

 無視するのも何なので、無言で頷いておく。

 彼は近づいてきて、


「一応ここは部外者立ち入り禁止になってんだがな。何でこんなトコにいんだ?」

「あぁその、ここのギルドマスターに呼ばれたとか何とかで、待ちぼうけを食らっている状態なんですけど……」

「あぁ、そりゃ災難だったな」


 と言うと、僕に同情の視線を向けてくる。

 ここのギルドマスターは、相当面倒くさい人なんだろうか。


「まぁそれにしても、俺も仕事柄色んなヤツを見てきたが、中々綺麗な見た目してるな、お嬢ちゃんは」


 ……前に僕に絡んできた男もそうだったが、いくら僕が若く見えるからと言って、『お嬢ちゃん』呼ばわりは止めてほしい。

 この世界ではどういう扱いになるか知らないが、日本じゃ僕は、一応高校生をやってたんだから。


「……っと、自己紹介が遅れたな。俺はここのギルドの副長をやってるモンだ。これからよろしくな、新入り」


 そう言うと、彼は僕の肩をバンバンと叩いて、通路を過ぎ去っていった。

 そして、彼と入れ替わりで二人の女性がやってきた。

 一人は、受付をやっていた彼女だ。

 そして、彼女に連れてこられるようにやってきたのが、多分、彼女と同じエルフの女性だ。

 さすがに神様程ではないが、その女性も中々整った容姿をしていた。この世界では今の所、僕が見て来た中で一番の美人だ。

 しかし、その整った顔立ちは、心無しか青ざめているように見えた。


「後ろの女性は、どうかしたんですか? 具合が悪そうですけど……」

「お気になさらないで下さい、いつもの事ですので。ほら、マスターもしっかりして下さい」


 どうやら、その人がここのギルドマスターみたいだ。

 彼女は、僕を部屋へ入るよう促した。

 先に入って良いものかと迷ったが、向こうが勧めているならまぁ良いだろうと解釈し、中に入った。

 さすがに、椅子に先に座る程馬鹿なマネはしない。

 遅れて入ってきた女性は、挨拶をするのも億劫そうに、フラつきながら奥の長椅子へ腰掛ける。


「……」

「……」


 それからしばし無言が続いた。

 僕を品定めしているのかとも思ったが、どうやらそうではなく、単に体調を整えているだけらしかった。

 今まで何をしてたんだろう。


 途中で受付の女性が飲み物を運んできた。

 コップを机の上に二つ置くと、一度お辞儀をして部屋を出て行った。

 中身を口に含むと、麦茶のような味がした。まあまあの味だったが、生憎僕はほうじ茶派だ。

 一口飲んで机に戻すと、目の前の女性———、ギルドマスターを見る。

 彼女は、それを一気にあおっていた。

 お茶を飲み干すと、彼女はようやく落ち着いたのか、やっと口を開く。


「……お主が、噂の新人かの?」

「噂……というのがどういう噂かは分かりませんが、多分そうだと思います」

「ほぅ……」


 そう言うと僕を舐め回すように観察する。

 あまり気分の良いものでは無いな、と思いながら、


「あの……、何か?」


 と、遠慮がちに問いかける。

 すると彼女は、


「嗚呼否、お主が途轍も無く可愛い物でな。つい見蕩れてしまった」


 照れもせずにそう言う。

 見た目以上に度胸のある人なんだな、と感心する。


「どうじゃお主、儂の愛人に成らんか」

「嫌です」

「即答かいっ!」


 即答に対して即答でツッコんでくる。

 ツッコミの才能有りと見た。

 いやまぁ、僕にボケの才能は無いけどね。


「然う遠慮するな。昼と無く夜と無く可愛がってやるぞ?」

「お断りします」

「又も即答っ!」


 ……一人で何を盛り上がっているんだろう。

 正直テンションに付いていけない。


「とまぁ、冗談は扨措きじゃな……」


 絶対嘘だ。

 だって目が本気だったもん。


「お主が壊したと云うギルドカードを見せてくれんかの」

「まだ壊してはいないですけど」


 そう言いながら、僕はギルドカードを取り出す。


「ひびが入っただけです。あ、これ、修理するのにもお金がかかるんですか?」


 僕はカードを渡す。

 彼女はそれを受け取りながら、


「其の様な事は無い。と、言うより、修理する事自体が先ず不可能なのじゃ」


 と答える。

 どうしてですか、と僕が尋ねる前に、彼女は答えを言ってくれた。


「此のカードは特殊な物質で出来ておってな。耐熱耐水、防火防腐、其の他有らゆる現象に対して耐性がある。並大抵の事では、と云うより儂の知る限り、此れに罅どころか、傷一つ付けた者は居らん」

「成程、今までに壊れた事が無いから、それを修理する方法が分からない、修理する者もいない、という事ですね」


 然う云う事じゃ、と彼女は肯定する。

 そこで僕は、一つの疑問を見つける。


「あれ、じゃあこのカードはどうやって加工しているんですか? というか、そもそもどこから材料を調達してきているんですか?」

「知らん」


 と、彼女は簡潔に答える。


「足りなくなる度に、何時の間にか世界に補充されておるのじゃ。一説には、アースガルズの神々からの贈り物とも言われているが、真相の程は分かっておらん」


 彼女はそう言うが、僕は一つ、心当たりを見つけた。


「全く……、神様もきちんと仕事してるじゃないか」

「うん? 何か言ったか?」

「いえ、何でも無いです」


 慌てて誤魔化す。


「それで、僕を呼び出した理由は何なんですか?」

「ん? 嗚呼いやいや、もう本題は終わったわい」

「え? 備品代の請求がどうとかは良いんですか?」


 それが本題だとは僕も思わないが、これで終わりというのも拍子抜けだ。


「然う言えばそんな事も在ったの。まぁ彼れは別に良い。幾らでも替えは利くしの」

「いえ、でもそれは悪いですし……」

「ふむ、然うなのか? まぁお主が如何してもと言うなら、此方としては構わないがの」


 そう言うと、彼女はカードを僕に投げ返した。


「今回の目的は、儂等の顔合わせと、お主を一目見て於く事じゃったからな。元より、長く引き留めるつもりは無かったわい」

「そうですか」

「尤も、儂と二人きりで楽しみたいと云うのなら話は別じゃが」

「失礼します」


 バタン、と扉を閉める。


『来たくなったら何時でも来て良いからの〜』


 何か言っていた気がしたが、無視した。

 早い所お金を稼いで、借金を返す事にしよう。



 =================



 一人になった室内で、彼女は一人、ポツリと呟く。


「全く、どんな化物じゃ、彼奴は。此の儂でも気圧されてしまうとは……」


 彼女の背を、一筋の冷や汗が伝う。


「怪物が怪物の皮を被っている様にしか思えんぞ。御負けに、腹の中にも怪物をいくつも抱えて居る様じゃし」


 じゃが、と彼女は薄く笑う。


「其れでこそ、食べ応えが有ると云う物じゃよ」

あ、勿論性的にですよ?

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