第四七話:「……どうしてこうなった」
……どうしてこうなった。
落ち着け、まずは状況を整理しよう。
今は昨日のあれから一夜明けて朝。
場所はいつもの宿屋のベッドの上。
そこまでは良い。
そこまでは良いんだけど……。
……どうして僕のベッドに彼女達二人も寝てるんですかね。
まず向かって右側には半裸の王女。
僕の右腕を抱え込むようにして気持ち良さそうに眠っている。
はだけた寝間着の下からのぞく未成熟な肢体は、一部の熱狂的な方々からすれば目の保養だろう。(あるいは目の毒とも言える)
アウトかセーフで言うなら少年誌でギリギリ描写が許されるぐらいのライン。
……よし、勝ってる。いや、この年齢の娘に負けてたら軽く泣けるけどさ。何がとは言わないけど。
まぁこちらはまだ良い。
限りなく黒に近いグレーだけど、左側に比べればまだ良い。
ではその左側はと言うと、こちらは少年誌なら普通にアウト。
深夜帯ならまぁ大丈夫だろうけど、良い子の皆が起きてる時間帯なら放送局に苦情が来るレベル。
何故かと言うと、腕を抱え込むとかそういう次元じゃなくて、思いっきり僕に抱きついてる。
首に手を回し肌を密着させ、両脚を僕の太ももに絡ませながら、時折「ん……」と色っぽい嬌声を上げている。
けどまぁ一番の問題はそこじゃなくて、彼女が全裸という事だ。
一糸纏わぬ生まれたままの姿。
いやあなた、前は普通に寝てましたよね?
いつもの黒装束はどこへやった!
というか意外と着やせするタイプなんだな、彼女。
若干負けてる気がしなくもない。何がとは言わないけど。
まぁそんな訳で、現在僕は身動きが取れずにいる。
力尽くなら外せない事もないけれど、それも何だかなぁと。
最悪それでも良いけれど、彼女達の幸せそうな寝顔を見ていたらそんな気も失せてくる———はずがない。
何が嫌だって、この状態だと非常に暑いのだ。
体温は直に伝わってくるし吐息はかかるしで結構限界。
誰が役得だ、誰が。何度も言っているように、僕はノーマルだ。
どうしてこんな事になったのか、事は昨夜に遡る。
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無事に宿まで戻って来れた僕は、顔色の悪さをおかみさん達に心配されながらも泊まっている部屋に辿り着いた。
その前から薄々分かってはいたが案の定と言うか何と言うか、どうやら完璧に風邪を引いたようだった。
やっぱり雨に打たれ続けるのは良くなかったか。(当たり前だ)
せめて木陰で倒れるべきだったなぁ、などと考えながら、部屋の扉の前に立つ。
そのまま何の気無しに扉を開けると、音に反応したのか部屋の隅に蹲っていた王女が丁度顔を上げる所だった。
自然目が合う事となった僕らは、お互いに数瞬硬直する。
先にそれが解けたのは王女の方。
寂しさと哀しさと嬉しさと、ほんの少しの怒りを混ぜたような複雑な、けれど彼女が思った感情は全て理解できる。そんな表情を王女は見せ、そして———、
「どこ行ってたのよバカっ! 心配したんだから!」
一直線に突っ込んできた。
「ぐふっ!」
不意打ちプラス熱で意識が朦朧としているため避ける事が出来ず、結果図らずも受け止める事になってしまった。
幸いなのは、当人が体格に比して体重も軽いため、そこまでのダメージにはならなかった事だ。
まぁそれでも充分効いたんだけど。
よろめきながらも何とか体勢を立て直すと、目に涙を滲ませている王女を分からないように引き剥がしながら尋ねる。
「ところで、もう一人の方はどこに行ったんですか?」
「そんな事より、心の中で遠回しに小さいって言われた気がしたんだけど」
……鋭い。
「気のせいですよ。それより僕の質問に答えて下さい」
「アナタを捜しに行ったわ。別に気を回さなくても、どうせすぐにアナタを察知して戻って来るわよ」
何それ怖い。
果たして王女の宣言通り、ものの数秒と経たないうちに彼女は現れた。
「お待たせしました我が主、ご無事でしたでしょうか」
「いや、全然待ってないですけど……。まぁ無事と言えば無事ですよ」
「……主の危機に傍にいる事が出来ないなど、奴隷失格です。罰としてこの役立たずに、何でもお申し付け下さいませ。水責め拘束磔火焙り串刺し、私のこの身体で良ければ如何様にも」
「しませんから……」
何それ普通に怖い。
一体僕はどんな人に見られてるんだ……。
ていうか後半普通に死ねるよ。
「そういえば、どうして僕が帰って来たって分かったんですか?」
「我が主の匂いがしましたので」
何それ凄く怖い。
あなたの嗅覚は野生動物並みなんですか。
「というのは冗談です」
「ですよねー」
「ずっと跡を付けておりましたので」
何それ死ぬほど怖い。
ストーカーだよ? 犯罪行為だよ?
今更な気がしないでもないけど。
「それも冗談です。本当は本当にただ何となく、勘のようなものです。そう、言うなれば恋する乙女の———」
「あーはいはいそうですねぜひともそうであってほしいですよ……」
後半は無視するとして、もし仮にそれが嘘でも、真実がどうだったとしても、これ以上聞いてはいけない気がしたので追求は控えておいた。
「あぁまぁそれより、何でもするっていうなら———」
「お仕置きですか!?」
「違います」
何でそんなに嬉しそうなんだ……。何なら僕の事を姫とか呼び出しそうなレベル。
「とりあえず寝かせて下さい。死にそうなので」
「? どうしたの———って凄い熱じゃない! 何で言ってくれなかったのよ!」
「出来れば見た目で察してほしかったんですけど……」
「とにかく早く安静にしないと……。黒装束、アンタはベッドに連れてってあげなさい。その間に私は氷を貰って来るから」
「貴様が私に指図するな。私に命令できるのは我が主だけだ」
「何でもいいから早くしなさい! あぁもう、何でこんな事に……」
王女が階下に降りて行ったのを確認した所で、僕の意識は途絶えた。
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そして時系列は戻って朝。
確かに看病してくれ的な事は言ったけどさ。
誰がその身で温めろと言ったし。
自分にうつるかもしれないとかそういう事は思わないの?
あなた達の純粋な善意は分かるけれどもさ……。
まぁそう考えれば、気持ちだけならありがたいか。
とは言え、いつまでもこのままでいる訳にもいかない。
という事で、まずは比較的自由に動く左腕の方を抜く事にする。
半ば黒装束(今は全裸だけど)の彼女の抱き枕と化している左腕をゆっくりと引き抜く。
若干痺れはあるものの、問題無く動く。
自由になった左腕で僕の首に回された腕をずらし気道を確保すると、今度は右腕をがっちりホールドしている王女を外しにかかる。
こちらも多少苦労はしたが、何とか外す事に成功した。
これでとりあえず上半身は自由になったので、身体を起こして調子を確かめる。
気怠さは少し残っているが、熱は大分引いたようだ。
最後に絡められている脚をフリーにすると、彼女達を起こさないようにベッドの先から這い出る。
半日動いていなかった(と言うか半強制的にロックされていた)からか、身体の節々がピキピキと音を立てる。いや年じゃなくて。ぴちぴち(死語)の女子高生だから。
身体をほぐすためにその場で柔軟をしていると、
「おはようございます、我が主」
いつの間に起きたんですかあなた。
しかもいつもの黒装束をきっちりと着て。
「お体の方は大丈夫ですか? 顔色はまだあまり優れないようですが……」
「まぁ一応熱は引いたみたいですし、とりあえずは問題無いと思いますよ」
「でしたらよろしいのですが」
そう言いながらも顔は心配そうなまま。
そりゃそうだよね。
口だけで安心しろって方が無理な話だ。
「食事はどういたしますか? 召し上がるようでしたら私がお運びいたしますので」
「いや自分で行けますって……。あなたは僕を何だと思ってるんですか」
「? ご主人様ですが?」
「……質問の仕方を変えます。あなたは僕の何なんですか?」
「我が主第一の奴隷です」
「……聞いた僕が馬鹿でした」
頭が痛くなって来る。
風邪がぶり返したかな。
「王女を起こしてあげて下さい。そしたら全員で食事にしましょう」
「承知しました。おい起きろ小娘、我が主がお待ちかねだ」
「う〜ん、あとちょっとだけ……」
……僕も人の事は言えないけどさ、仮にも一国の王女に対してその態度はどうなの。
普通取るべき態度は逆じゃないかな。
これであらぬ誹りとか受ける羽目になったらどうする気よ。
……現状と大して変わらないね、うん。
王女を叩き起こす黒装束の彼女と、叩き起こされる王女。
見ていて楽しい関係ではあると思うけど、頼むから平和的なままでいて欲しいと願うのは間違っているだろうか。
数千文字使って作者は何を書いてるんでしょうか……。




