第一話:「元々気にしてませんから」
目を開くと、見慣れた町並みが広がっていた。
「見慣れた」と言っても、今までに来た事があるという意味ではない。
異世界としてはよくある風景、あるいは、妄想の中でイメージする光景と大差ない。そういう意味での「見慣れた」だ。
状況を認識すると、今度は周りから声が聞こえ始める。
勿論、今のままでは何を話しているのかは理解出来ない。
なので、神様からもらった能力その一、『翻訳』の出番だ。
頭の中で「翻訳」と唱えると、途端に周りの言葉が意味を帯びて聞こえてくる。
ちなみに、能力その一とあるが、これは神様からもらった順番ではなく、その世界で使った順番だ。
何故ならその方が分かりやすいから。
話している内容が分かるようになったら、しばらくは情報収集に専念する。
僕の能力の一つに、『全知』という物もある。
文字通り、全てを知る事が出来る能力だが、僕はその能力はあまり使いたくない。
その理由は、ゲームをプレイする時と同じ理由だ。ゲームを自力でクリアするのと、攻略サイトを見ながら進めるのとでは、どちらが楽しめるかという問題だ。
そして、その答えは言うまでもないだろう。つまりそういう事だ。
情報収集の結果、この世界は概ね、異世界テンプレ通りだと言える。
この世界には、ヴァナヘイム、ミズガルム、ムスペルヘイム、ニヴルヘイム、アルフヘイム、スヴァルトアルフヘイム、ニダヴェリエール、ヨトゥンヘイムの八つからなっており、それをアースガルズという、神々が住む世界が管理していると言われている。
ヴァナヘイムには魔族が、ミズガルムには人族が、残りはそれぞれ、様々な種類の亜人族が暮らしている。
魔族と人族は対立しており、過去に何度も大きな戦争が起こっている。
亜人族は基本的に中立であり、種族差などはあるが、どちらにも友好的である。
魔族と人族の仲が悪い理由については諸説あるが、一番有力なのは、それぞれを管理している神様の仲が悪いから、それに影響されていると考えられているそうだ。
そして現在、魔族領を統治しており、世界の終末を引き起こそうとしているのが、悪名高き悪神ロキなのである。なお、この『悪神』というのは自称であり、実際は魔王のような位置づけだそうだ。
……見事にピッタリだ。
ちなみに、僕が今いるのはアルフヘイムという、比較的人族よりの場所らしい。
まぁいずれにしろ、僕はその『ロキ』を倒せばそれで役目は終わりなので、あまり関係がないと言えば関係がない。
とにかく、突っ立っていても始まらないので、ギルドに向かう事にする。
さすがテンプレ通り。そういう施設もちゃんとあるようだ。
ギルドへ向かう道中、そこら中からじろじろと視線を感じた。
最初は人族が珍しいのかと思ったが(周りは殆ど亜人だったので)、どうやらそうではなく、単純に僕の見た目らしい。
確かに、美形が多いと言われるエルフより整った造形をしている人族がいれば、注目が集まるのも仕方ないとは思うが、それにしたって見過ぎだと思う。
補足させてもらえば、エルフより整った造形をしているというのは、自惚れではなく、客観的評価によるものだ。
そんな訳で、ギルドに着くまでの居心地は、すこぶる悪かった。
お金が出来たら、まずフード付きのローブを買おうと決心した。
ギルドに着いて扉を開けると、ここでも一斉に視線が集まった。
ただし、この視線は町で出会った視線とは種類が違った。
勿論、いくつかはそういう視線もあったのだが、殆どは嘲笑と侮蔑がこもった視線だった。
幸いにも、そういう視線の方が慣れているので、臆する事無くカウンターの方へ向かう。
と、僕の行く手を阻むように、数人の男が立ち塞がった。
「何か?」
出来る限り鬱陶しさを込めたつもりだったが、男達には通じなかったようだ。
「何か、たぁ随分な言い草じゃねえか。そっちこそ、何の用か知らねえが、ここはお嬢ちゃんみたいなのが来る場所じゃねえぜ」
男が下卑た笑みを浮かべると、その横の男達もつられて笑う。
周りを見ると、殆どの人間が笑っていた。
「そうですか。ご忠告ありがとうございます」
それだけ言うと、男達を躱してカウンターの前に立つ。
カウンターにいたのは、見た目二〇歳程のエルフの女性だった。
まぁ、エルフの外見年齢は当てにならないので、深くは考えない事にする。
「冒険者登録はこちらで良かったでしょうか?」
「えぇ、合ってますよ。冒険者登録なさいますか?」
言った瞬間に、周りが一段と大きな笑いに包まれた。
「おいおい、その年で冒険者は早過ぎんじゃねえか?」
「家ン中でママにあやしてもらうのがお似合いだよ」
どんどん笑い声は大きくなる。少し耳障りだ。
「あ、あの、彼らも本気で言ってる訳じゃないので、お気になさらないで下さいね?」
「問題ないですよ。元々気にしてませんから」
困ってる顔も可愛いな、と思いながらそう言った瞬間、水を打ったように周りが静まり返った。
「あれ? 僕何か———」
———不味い事言いました? と、問いかけようとした言葉は、途中で被せられた言葉にかき消された。
「おい、ガキ。調子に乗るなよ」
言葉と共に肩に手を置かれ、振り向いた所で、男の大きな拳が僕の顔面に突き刺さった。
男が振り抜いた拳の動きと連動するように、僕の軽い身体は宙に浮き、派手な音を立ててカウンターの中に突っ込んだ。
どうも、何をトチ狂ったか二話目です。今回は注意事項を少し。
作者は小説初心者ですので、「あれ、この部分、前に書いてあったトコと矛盾すんじゃん」や、「いやいや、この理論は絶対おかしいだろ」という事がこれから多々あるかと思いますが、どうか生暖かい目で見守ってやって下さい。
発見し次第、出来る限り修正いたしますが、どうしようもない場合は放置しますので、ご了承ください。
また、訂正箇所を見つけた場合は、変更する場合のアイデアも頂けたらありがたいです。