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俺たちの冒険はこれからだ!(五三周目)  作者: 厨二×武力=はた迷惑
プロローグ
1/84

第初話:「いい加減にして下さい」

「いい加減にして下さい、神様」


 何も無い真っ白な空間で、僕はそう言った。

 目の前には、腰まで届く長い黒髪をたなびかせ、所謂、『巫女服』に身を包んだ女性がいる。

 顔立ちはとても整っており、一〇人とすれ違えば一〇〇人が振り返る程の美貌の持ち主だ。

 服の上から窺える肢体は、それだけで男性の情欲をかき立てる。顔の造形と相まって、彼女の外見は完成の域にあるだろう。

 神様だから当たり前と言えば当たり前、なんて言ってしまえばそれまでだけど、神話を紐解いてみれば意外とそうでもなかったりするのだが。閑話休題。

 とにかくそんな彼女は僕の目の前で、驚いたような、慌てたような、そんな表情を浮かべる。


「ちょ、ちょっと待ってよ! なんでそんな事言うのよ?」


 涙目になったその顔は、世の男性全てのハートを一撃で撃ち抜けるだろう。

 かくいう僕も、一瞬グラッと来てしまった。

 それを必死に振り払うと、


「今まで散々やって来たじゃないですか。どれだけ僕をこき使えば気が済むんですか?」

「そ、そんな事言わないで! あと一回、あと一回だけで良いから!」


 と言うような押し問答を、さっきから一時間程続けている。

 そんな美人の頼みを断ろうとしている僕は、どれだけ幸せ者なんだ、とこの場に人がいれば石を投げつけられそうな状況だが、断る理由はいくつもある。

 それは即ち、彼女が僕にさせようとしている事だ。それは、


「あと一回で良いから、世界を救ってあげて!」


 こういう事だ。

 それだけなら、別に僕も断りはしない。思春期の男子ならば、一度はそういう妄想をする事はあるだろう。

 社会の裏側のドタバタに巻き込まれたり、ある日突然超能力に目覚めたり、地球を侵略しようと企む悪の組織と激闘を繰り広げたり、あるいはミステリーでもラブコメでも何でもいいけれど。

 問題は、この頼みが初めてではない、という事だ。

 僕はこれまでに、いくつも世界を救っている。

 いくつ()ではない。いくつ()だ。

 何十回と世界を救わされれば、いくら異世界でも、目新しさは無くなり、飽きてくるだろう。


「前回も前々回も、その前もその前の前も、何十回とその台詞は聞いてきましたよ。聞き飽きましたよ。あなたは学習しないんですか?」

「わ、分かってるわよ。でも、あなたに頼むしか無いのよ。なんたってあなたは、歴代勇者の中でもダントツの適合者なんだから」

「それも聞きました。とにかく僕は、元の世界で静かに平和に暮らしたいんです。そんなに世界が大事なら、自分で救えば良いじゃないですか」

「私だって、出来るものならそうしたいわよ。でも私が出来るのは『管理』まで。世界への『干渉』は出来ないの。それに、他にも何千個も管理してるから、一つの世界だけに構っていられないの。だからこうしてあなた達勇者に頼んでるんじゃない」


 いつものやり取りだ、と僕は思う。

 いつもの流れでここまで来た。ならばここから先も、いつも通りになるだろう。


「ハァ……、分かりましたよ。やります、やれば良いんでしょう」


 投げやり気味に僕はそう言う。

 こういう所が友人に、「お前はお人好しだ」と言われる所以なのだろうか。

 僕が言った瞬間に、彼女はパアァと満面の笑顔となる。

 きれいな女性はどんな顔も美しいと言うが、全くその通りだと僕はこの時確信した。


「ありがとう、さすが私が見込んだ勇者だわ。それで、あなたが今回行く世界だけど……」


 はいはい、何ですか、と僕は適当に相槌を打つ。


「世界の名前は『ユグドラシル』。現在は悪神ロキによって支配されていて、その悪神は世界の終末(ラグナロク)を引き起こそうと———」

「ちょ、ちょっと待って下さい」


 僕は慌てて話をぶった切った。


「? 何かしら?」

「い、いえ、僕の記憶が正しければ、僕の世界にあった某神話と、固有名詞が全く同じなんですけど……」

「あら、そうなの? ちょっと待ってね」


 そう言うと彼女は、何も無い虚空にウィンドウのようなものを展開させた。

 そして、何度かキーボードを叩くような仕草をすると、


「あ、あったあった。成程、どこかで見たような名前だと思ったらこれだったのね」

「……あの、神様?」

「え、いや、これはその、違うのよ? 偶然、偶然被っただけであって、決して新しく名前を考えるのが面ど……、付ける手間を惜しんだ訳じゃないのよ?」


 この神様は自分で墓穴を掘っている事に気付いているのだろうか。


「……神様も忙しいんですね」

「そ、そうなのよ。やる事がいっぱいあるから、これぐらいは仕方ないのよ」


 まるで、我が意図を得たりといったような満足げな表情。

 ……触れないであげるのが、人としての優しさというものだろうか。


「それじゃあ今回のチートだけど……、あら、丁度良いのがあるじゃない」

「要りませんよ」

「お願いだから! 受け取ってくれないと、私が最高神様におこられるのよ」


 ……本音が出たな。

 とは言え、これもまた、いつものやり取りだ。


「どうせまた、ろくなモノじゃないんでしょう」

「そ、そんな事無いわ。今回は本当に凄いわよ!」

「その台詞も聞き飽きましたよ。最初の頃は、『無限の魔力』とか『不老不死の肉体』みたいなまともな物でしたけど、最近は、『媚薬体質』だとか『一級フラグ建築士』だとか。絶対世界を救うのに必要無いですよね?」


 ちなみに、僕は元の世界では平凡と言って差し支えない容姿だったのだが、二〇何回目だかの時に、「私並みのルックスにしてあげるね」と言われ、顔で売っている俳優が全裸で土下座するぐらいの域まで達せられた。


「今回はホントにまともな物だから! あなたも、見たらきっとびっくりしちゃうんだから」


 この前座も何回やるんだろう。

 僕はもう、とうの昔に飽きているのだけど、この神様は一向に止める気配を見せない。

 その理由の一部は、僕がこの過程を半分は受け入れているからだと思うけれど。


「聞くだけ聞きますよ。それで、今回はどんながらくたですか?」

「ふっふーん、聞いて驚け見て驚け。今回のアイテムはこれだーーー!」


 彼女は胸元に手を入れると、ゴソゴソと中を探る。

 どうでもいいが、「がらくた」発言はスルーなんだろうか。

 そう思いながら見ていると、どこにそんな物を入れるスペースがあったのか、彼女が取り出したのは長大な槍だった。

 だが、僕はこの程度の事ではいちいち驚かない。

 彼女の奇行……もとい彼女の起こす現象は、もう嫌になる程見て来た。今の僕なら、万国びっくり人間ショーをフルコースで見ても、一ミリも表情を変えない自信がある。


 ……話が逸れたね。

 まぁそんな訳だが、僕は彼女の取り出した槍の正体も、大体予想がついた。

 今までの話の流れを見れば、僕で無くても大方の人は分かるだろう。


「この槍はね、なんとなんと、あの伝説の———」

神殺しの槍(グングニル)でしょ」

「そう、グングニ……って何で言っちゃうの!? 私の一番の見せ場はここでしょ!」


 彼女が何か言っているが無視だ。

 答えを知っている物を、ドヤ顔で説明される事程退屈な事は無い。

 なお、空気を読むなんて面倒な真似はとっくの昔に放棄した。(僕にそういうスキルが無い訳ではない)

 槍を受け取ると、空間を叩いてひびを入れ、その中に押し込んでおく。

 彼女はそれを気に留める事も無く、


「うぅ……。いいわよ、あなたなんかもう知らない! 地球でもどこでも好きな所に行っちゃえばいいじゃない!」


 と、膝を抱えて蹲ってしまった。


「……あなたが飛ばしてくれないと、僕はどこへも行けないんですけど」


 僕は困り顔でそう言う。

 勿論これもいつもの事なので、僕の対処も慣れた物だ。


「ほら、顔を上げて下さい。今回は僕が悪かったですから、謝ります。だから、ね?」


 返事は無いが、僕は構わず続ける。


「そんな泣いてばかりいると、綺麗な顔が台無しですよ。笑って、その顔をこっちに見せて下さい」


 耳がぴくりと動く。

 もう一押しだな。


「あなたがいないと、僕は何にも出来ないんですから。毎回何だかんだ言ってる僕ですが、これでもあなたの事、結構頼りにしてるんですよ?」

「……ホントに?」

「ホントです」


 即答してやる。

 これで攻略は終了だ。

 彼女はスッと立ち上がると、


「も、もー。そこまで言うならおねーさんも頑張っちゃうんだから。素直にそう言ってくれればいいんだからー」


 チョロい。攻略難度Cぐらいだろう。

 ただ、このあと少々鬱陶しくなるのだが、それは我慢する事にしよう。


「今日はおねーさんに、いっぱい甘えていいんだぞー」


 そう言いながらも、彼女は僕を抱きしめてくる。

 全く……、甘えるのはどっちだと言いたくなる。


 余談だが、僕と彼女の身長について説明しよう。

 彼女の身長は、女性としてはかなり高い部類に入る。

 対して僕は、年相応程度しか無い。

 つまり、彼女と僕の身長差を分かりやすく言うと、抱きしめられた時に丁度、顔が胸の谷間に沈む位置だ。

 僕の言いたい事を、察してもらえただろうか。

 感触やその他云々については、ここでは割愛させてもらう。


 しばらくそうしていた彼女は、不意に僕を解放すると、


「それじゃあ頑張ってね。いつでも私は見守ってるから」

「それはちょっと重いですね」


 僕は苦笑する。


 彼女が一歩離れると同時、僕の足下に魔法陣が展開した。

 彼女を見ると、再びウィンドウを出して何かをしていた。

 作業を終えた彼女は、僕の視線に気付くと、僕に向かって微笑み、


「いってらっしゃい」


 と言った。

 僕も彼女を見ながら、


「いってきます」


 と言う。

 そして、段々と意識が薄れていく中で、彼女の笑顔を見ながら僕は思う。



 ———あぁ、意外と僕も、この生活を楽しんでるんだな。

何を血迷ったか、小説を書いてみようと一念発起した身の程知らずです。

読んでくれただけで土下座モノの感謝ですが、感想を頂けるとさらに最大級の感謝をします。

ただ、作者のメンタルは紙クズ以下なので、そこはよろしくお願いします。

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