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オーバードリーム  作者: 左ノ右
第一章 
7/14

1-6 隠された真実


 璃々に指定された場所、四日ほど前にキマイラと戦った場所でもある公園に、夢依は一人で立っていた。


 その身には、ペンダントもブレスレットも付けておらず、靴はいつもと違う別のスニーカーを履いていた。


 約束通りに、なんの魔具も装着していない無防備な丸腰状態で、夢依は璃々を待っていた。


「どうやら――約束通り、来ていただけたようですね――」


 何もない空間から、璃々の声が聞こえた。


 そして、声からワンテンポ遅れて、目の前の景色が徐々に揺らいでゆき、風景とは明らかに違う色が見えたと思った瞬間――突然眼の前に璃々が立っていた。


 夢依は彼女が能力を使って現れたことを知っているので、特に驚きもせず璃々に語りかける。


「うん、来たよ。もう璃々ちゃんがあたしたちの味方じゃないってことも理解した。――だから……理恵の所へ連れてってくれる?」


 璃々を敵とまだ言葉で言い切れない所に、夢依の甘さが残っていたが、その表情は覚悟を決めたのかキリリと引き締まっていた。


「……はい、分かりました。では――わたしの体のどこでもいいので触れていただけますか?」


 璃々の声は事務的で、まるで感情を無理矢理無くしているかのような冷たい声音だった。


 夢依は彼女の手に触れようとして、璃々に初めて出会った時のことを思い出し、一瞬顔を悲しそうに歪めたが、すぐに表情を再び引き締めて、璃々の手をギュッと握った。


 璃々は、夢依が自分の手を握ったことを確認すると、無表情のまま自身の能力を発動させた。




 夢依が瞬きをして再び眼を開けた時、一瞬にして景色が変容していた。


 璃々の転移能力で転送されたその場所は、暗闇に浮かぶ不気味な魔城であった。


 草や樹が生い茂っていたはずの公園が、どこか中世ヨーロッパを思い起こさせるような荘厳な城に変わっていた。振り返ってみると、そこには暗闇が広がるばかりで、その空間にはその城以外なにも存在していなかった。


「ここが、悪の本拠地ってワケか……雰囲気出てんじゃん……?」


 どこか現実離れしたその光景を見て、夢依が思わずそう呟くと、


「わたしの主を侮辱するような発言は控えてください。それに、ここはわたしにとっては家でもあるんです」


 無表情だったその顔に、初めて怒りの色を乗せながら、璃々が夢依に言う。


「ああ、ごめん。そうだったね――でも、この中に理恵が居るんでしょ? 早く中に入りたいんだけど」


 夢依は努めて冷静に、璃々に対して素っ気ない態度を取りながら、そう言った。


 それは、彼女なりの最大限の敵対者への対応だった。


 だが、心の底ではまだ彼女は璃々を友人だと思っているので、完全に非情には徹しきれない。


 その一方で璃々は、夢依のそんな態度に対してあくまで敵として、冷静な態度で対応する。


「……わかりました。けれど、まだ理恵さんをお返しするわけにはいきません。まずは夢依さんには、我が主――ブライトメア様とお話をしていただく必要がありますから」


「どうせ話聞いたからってすぐに返してくれるワケじゃないんでしょ? はぁ……ま、それじゃ行きますかっ!」


 溜息を吐きながらも、決して眼前の敵に怯えるような夢依ではない、たとえそれが罠だと分かっていても、夢依は真っ先に勢い良く城の中へと入ってゆく。


 眼前の大きな扉を開けると、そこはどうやらエントランスホールになっているようだった。


 薄暗く、体育館のように広いそのホールを璃々と共にしばらく歩いてゆくと、奥に誰かが居ることが分かった。


 おそらく、おぼろげに見えるその人影こそが、理恵を攫い、魔獣を盗んだ全ての元凶なのだろう。


 夢依は、ごくりと唾を飲み込むと、勇気を出してその人物の前に出る。


 すると、奥に立っていた男――ブライトメアが、両手を大仰に広げながら、


「どうやら、役者が揃ったようだな――ようこそ、我が城『夢幻城』へ――」


 夢依を歓迎するように、尊大な口調でそう言った。


「アンタが理恵を誘拐した犯人ね。なーにが夢幻城よ、悪人の癖にカッコ付けてんじゃねぇっての」


 璃々に対する態度とは全く違う、完全な敵対心を持った言葉で、夢依はブライトメアを挑発する。


「フン――随分な嫌われようだな。まぁ当たり前と言えばそうなのだろうがな」


 余裕ぶった態度のブライトメアに、夢依はいまにも噛みつきそうな態度で、


「アンタの要求通り、こっちは丸腰で来てやったわよ。だからさっさと理恵を返せこのキザ野郎」


 ブライトメアを睨みつけながら、子供のようなそんな悪口を言った。


「やれやれ、聡明な友人と違って、君は随分と粗暴な性格をしているな。友人想いなのはけっこうだが、まだこちらの目的を話していないのでな、まだ返すわけにはいかない」


「ま、やっぱそうだよね。でもさ、アンタの目的ってアレでしょ? あの『ドリームライブラリ』の力が欲しいんでしょ? で、璃々ちゃんに『物語』の魔獣を盗ませてたみたいに、今度はあたしになにか魔獣でも取ってこいっての?」


 アルヴァスとの話し合いで、ある程度ブライトメアの目的の予測が出来ていた夢依は、自信たっぷりな態度で、そうカマをかけるように言った。


 しかし、言われたブライトメアはなんの動揺もせず、


「なるほど、さすがに今までの行動からある程度の予測は出来ているということか……だが、残念ながら私の目的はあの『夢の図書館』ではなく――君のほうにある」


 夢依を指差しながら、泰然とした態度と口調でそう言った。


 そのブライトメアの言葉に大きな勘違いした夢依は、


「な、なに……まさか、あたしの体が目当てってんじゃ――」


 自らの身体を抱きながら、若干恥ずかしそうな態度でそう言った。


 その予想外の反応に、ブライトメアはさすがに面喰ったのか、初めて表情を崩して呆れたような表情を見せてから、


「――それだけはないから安心しろ。下衆な勘繰りしか出来ないのか君は?」


 思いっきり間違った解答をした生徒に、呆れた口調で答えを返す教師のようにそう言った。


 それでようやく自分の考えが間違っていたことを理解した夢依は、


「うっさいなっ! そう言われたら誰だってそー思うでしょうがっ!」


 間違えた気恥かしさで顔を赤くしながら、そんな言い訳をする。


「君の友人はもっと理解が早かったのだがな……」


 ブライトメアはそう言って、少しの間夢依を憐れむような眼で見ていたが、若干なごやかな雰囲気になった場を元に戻すように、固く重い口調に戻すと、


「まぁいい。解らないのなら教えてやろう。端的に言えば、私は『十年前の真実』を知っているのだよ」


 抱えていた爆弾を投下するように、意気揚々とした態度でそう言い放った。


「……?」


 そして、夢依が一瞬その意味が分からないという風な顔を浮かべると、ブライトメアは、さらなる決定打となる言葉を紡ぎ出す。


「言っている意味が分からないと言った顔をしているな――。だが、君は知っているはずだ、君が十年前に、いったい何をしたのかを……」


「――っ!?」


 その言葉で、ブライトメアの言わんとしたことを完全に理解したのか、夢依はその顔を驚きで引きつらせる。そして、その額にはいきなり汗が流れ始め、ブライトメアの言葉にかなり動揺したのだということを判らせた。


 急に焦り出した夢依を見て、ブライトメアは少しだけ口角を上げながら言葉を続ける。


「――十年前と言えば、この世界に『IEM』が出現した時期だ。その時期から世界は混乱の極みとなり、そして混乱はやがて戦争を引き起こした――」


 だんだんと真実を明かしてゆくように言うブライトメアに対して、夢依はそれを聞きたくないという風に耳を塞ぎながら、


「――止めて……止めてよ……それ以上言わなくていい……」


 今までの強気な態度から打って変った、かなり狼狽した辛そうな顔で懇願する。


 だが、ブライトメアはそんな夢依を無視するように、むしろ夢依を追い詰めるような口調で、


「今現在、戦争は表向きには終結してはいるが、未だに各地でゲリラ的に戦いを続けているIEMも存在する。だが、彼らは一つの事実を知らずして戦っている。自らが突然に授かったIEM能力が、たった一人の少女から始まったことを――」


 雄弁に語り続けるブライトメアに対して、


「もういい……分かったから……」


 すっかり弱気になった夢依は、どこか泣き出しそうな顔でそう言うのが精一杯だった。


 しかし、ブライトメアはそれでも語るのを止めずに、真実を暴露する快感に引きずり込まれるように、


「そう――その少女こそが『特異点』すなわち『篠森夢依』であるということを彼らは知らない。全ての争いの元凶が、その少女の無知さから引き起こされたということをなっ!」


 それは、にわかには信じられない衝撃的な言葉だったが、夢依はブライトメアの言った言葉をを否定もせず、かといって肯定もせずに、唇を強く噛み締めてなにかを耐えるように黙っていた。


「どうした? まさか私が憶測でそのようなことを言っているのだと思っているのか? ならばもっと詳しく教えてやろうか? お前がどうのようにしてIEMを作り出し、この世界を破壊と混沌の渦巻く世界に変えてしまったのかをな――」


 長い髪を振り乱しながら、勝ち誇った口調で言い放ったブライトメアに対し、さすがに夢依の怒りも沸点を越えたのか、


「――ッ! ……いい加減に――止めろって言ってるだろっ!」


 その眼から少しだけ涙を流しながら、夢依はブライトメアに殴りかかる。


 しかし、ブライトメアは殴りかかってきた夢依の腕をあっさりと掴むと、そのまま自分の方へグイッと引き寄せ、近くに来た夢依の顎を手で掴み、狂気の混じった瞳で夢依を捉えながら叫ぶ。


「そうだ……私が欲しいのはな篠森夢依。君の持っている力。他者に強制的に異能の力を与える能力『オーバードリーム』なのだよっ!」


 夢依は余裕ぶった態度を止めて本性を現したブライトメアに、若干の恐怖を覚えながらも、


「くッ――……離せっ!」


 そう言って、自らの顎を掴んでいるブライトメアを、腕で振り払う。


 ブライトメアは、その夢依の一撃を回転しながら避け、サッと遠くに逃げながら、


「――私は君を責めているわけではない。だが、IEMを作り出したのが君だというなら、君には全てのIEMを救う義務があるとも思っている」


 元の真面目な口調に戻って、夢依を獲物を見つけた猛獣のような獰猛な眼差しで見ながらそう言った。


「それは……どういうことよ………」


 ブライトメアの態度に軽い怒りを覚えながらも、夢依は一応そう確認しておく。


 それは、自分の能力を知った相手が何を考えているかを知る義務が彼女にはあるからである。


 もし、相手が夢依の能力を悪用するつもりならば、夢依は全力で抵抗しなければならない。それが、『世界』を変えてしまった彼女の使命であり、宿命だからだ。


 ブライトメアは、そんな夢依の覚悟など知ってか知らずか、あっさりと自分の目的を夢依に語る。


「多くのIEMが住むこの『ユグドラシル』だが、こんなものによって作られた平和などかりそめのものに過ぎない。この平和が人間の管理によってもたらされているのならば、それを壊すのもまた人間なのだよ。君は理解しているのか? 自分が『箱庭』の中に居るということをっ!」


「箱庭……?」


「そうだ。まさか自分達が持っている能力を人間が恐れていないとでも思っていないだろうな? 能力によっては、たった一人で国一つ滅ぼすことが出来るIEMを、ただの人間が心から信用出来る筈がない。そして、恐怖に駆られた人間達によって、いずれこの都市は攻撃される。この都市は、多くのIEMが住んでいるにも関わらず、その住民は平和ボケしていて、狙いやすいことこの上ないからな」


 勝手な推測でそう語るブライトメアに、夢依は的確な反論をする。


「そ、そんなもん、アンタの憶測でしかないじゃん? 大体、箱庭だからなんだってのよ。この街より安全に暮らせる場所がどこにあるってのさ?」


 言われたブライトメアは、気に入らないという風に軽く鼻を鳴らすと、


「フン――確かに今現在ではIEMが平穏無事に過ごすならば、この場所しかないだろうな……だが、その場所が無いのならば作ってしまえばいい。どのようなIEMでも安全に暮らせる場所をな――」


 まるでとんちのような、そんな荒唐無稽な言葉を吐いた。


「作るって……どうやって……」


 疑問に思った夢依がそう聞くと、ブライトメアは口角を上げて笑いながら、衝撃的な言葉を吐く。


「簡単なことだ。再び人間相手に戦争を仕掛け――勝ち取ればいい。そして、IEMの住む都市ではなく、IEMだけが住む国を作るのだよ。前の戦争ではIEMの人数が足りずに惨敗してしまったが、それも君が居れば解決できる問題だ――そう、無限にIEM能力者を作り出せる君が居ればな?」


「………」


 夢依は、そんな危険思想を持ったブライトメアを、絶句しながら猛獣でも見るかのような眼で見つめる。そして、同時に夢依は確信する――この男は確実に自分の力を悪用する人物なのだと――。


「というわけで、どうだろうか? 私の計画に君も加担してくれないか? IEMの真の平和を勝ち取るために――」


 夢依の目線をまるで気にせずに、まるで詐欺師のような笑みを浮かべながら、ブライトメアはそう夢依に言って、右手を差し伸べる。


 もちろん夢依は、その手を取らずに、信じられないという風な口調で、


「……アンタ、それであたしを勧誘出来ると本気で思ってんの?」


 嫌悪感たっぷりの眼で、ブライトメアを睨みながら言う。


 しかし、ブライトメアもまた、夢依のその反応を予想していたのか、あっさりと差し出していた右手を引いて、


「いや……思ってはいない。だからこそ君の友人を誘拐し、協力しなければどうなるか――と脅しをかけている。人質の効果はいつまでも使えるものではないが、私の能力は魔獣を操ることが出来る能力だ。人にはまだ使用したことはないが、時間を掛ければ人一人ぐらいならば操れるだろう」


 夢依のことを、まるで道具かなにかのように思っているような気軽な口調で、そんな外道な台詞を吐く。


 普通ならば、自分の能力を敵に簡単に明かすなどの行為をブライトメアはする男ではない。だがそれは、人質を取られている夢依が抵抗できないと知っているからこその余裕な態度だった。そして、それによって心の底から相手に馬鹿にされているように感じた夢依は、


「……やっぱアンタ悪人じゃん。人攫って脅して挙句の果てには洗脳するなんて、いくら凄い志があろうと許されることじゃないでしょ?」


 そう言って、ブライトメアを責めるように言い返す。


 しかし、ブライトメアはそれにも余裕な態度で、


「私は自分自身が善人だとは少しも考えてはいないさ。それに……だ。それぐらいの覚悟がなければIEMの国など出来る筈がない。国を作るには領土が必要であり、その領土を得るにはその場に居る原住民を何らかの形で排除する必要がある。国の執政者が必ずしも善人ばかりでないことは、賢人ならば誰でも知っていることだ」


 まるで言い訳でもするように、取ってつけたような理屈を並べる。


 それは、表面的に見れば、そう間違った考え方ではないのかもしれない。実際にそういうやり方で領土を勝ち取った国は存在するし、敗者は勝者に何も言うことは出来ないというのも真理だ。


 だが、それでも――それがたとえ世の真実だったとしても、夢依は彼の考えを認めなかった。


「ハッ――そうやっていくら理屈で固めても、アンタの行いは許されることじゃない。あたしから見ればアンタはただ戦いたがってるだけにしか思えないし、この『ユグドラシル』に住んでる人達は決して戦争なんか望んじゃいない。つまり、アンタのやってることはただの独りよがりなんだよっ!」


 毅然とした眼差しで睨みながら、夢依はブライトメアに吠える。


 ブライトメアは、自身の考えを全否定するその言葉に、さすがに冷静ではいられなかったのか、その声に怒りの色を乗せながら、


「それこそが平和ボケだということに何故気付かないのだ貴様等は! ……まぁいい、どのみち君は私に手出しは出来んのだ。君の意志がどうであろうと、君は私に従うしか選択肢は無いのだよ」


 そう言って、夢依の意志がどうであろうと無理矢理従わせるつもりのブライトメアの言葉に対し、夢依はあくまでその強気の態度を崩さない。


「……アンタは、自分の計画によっぽど自信があるみたいだけどさ。ちょっとアンタはあたしの友達をナメ過ぎてるよね。理恵は、いつまでも囚われのお姫様やれるほど大人しい娘じゃないわよ」


 それは、あまりにもハッタリじみた言葉だったが、


「……どういう意味だ?」


 強気すぎる夢依の態度に押されてか、ブライトメアはついそう聞いてしまう。


「さぁね。自分で確かめてみれば? あたしもホントにここに理恵が捕まってるのか分かんないし、ちょうどいいからちょっと見せてよ。ここに捕まってるはずの理恵の姿をさ?」


 自信満々の夢依の言葉に、どういう意図があるのかとブライトメアは少し考える。


(何故だ――何故この娘は人質を取られているにもかかわらずここまで強気でいられる? いったい、なにがコイツをそこまで強気にさせるというのだ?)


 だが、人質がそう簡単に逃げられるはずが無いと冷静に判断して、


「……まぁいいだろう――璃々、正面モニターに人質の部屋を写せ」


 とりあえず人質の存在を夢依に判らせる為に、監視カメラの映像を夢依に見せることにした。


「……わかりました」


 今までの状況を、ただ黙って見ていた璃々は、ブライトメアの言葉に従い、パネルを操作して理恵が居る部屋の映像を、エントランスホールの巨大な絵を模したモニターに映し出す。


 互いの死角を補うように設置されたカメラの、四方向からの部屋の様子が映る――しかし、その部屋に理恵の姿は無かった。


「――ッ!?」


 ブライトメアは、そのありえない事実に、信じられないという風に画面を食い入るように見つめる。


 それに対して夢依は、強気の態度に笑顔すら浮かべて、


「……あのさ。どこに理恵が居んの? 見た感じ、この部屋には誰も居ないんだけど?」


 まるでその展開を予想していたかのようにそう言った。


 ブライトメアは、夢依の言葉に悔しそうに歯をギリリと鳴らして、すぐさま璃々を見やり、


「どういうことだ璃々。あの部屋の監視はお前に任せておいたはずだが――」


 言われた璃々は、僅かに動揺するような態度を見せてから、


「分かりません。もしかしたら、わたしたちが知らない能力を彼女が持っていたのかも……」


 璃々のその言葉に、ブライトメアは初めて狼狽するような表情になり、


「おのれあの小娘が――璃々、お前はあの娘を捜索しに行け。こちらは私がなんとかする」


「はい――少しお待ちください。すぐに探し出してみせます――」


 そのやり取りの後、璃々は転移能力を発動させ、その場から消える。


 一人残されたブライトメアに、夢依は勝ち誇った表情で、


「だから言ったじゃん。あの子をナメんじゃないってね……理恵はどんなときだって冷静で、そして諦めが悪いんだから。さ、アンタの頼みの人質も居なくなっちゃったけど、どうすんの?」


 余裕ぶった態度でブライトメアを挑発する。


 ブライトメアは、そんな夢依を苦々しい表情で睨みながら、


「フン、想定外の事態を予想していなかったわけではないさ。策は二重三重と練るのが基本だからな……来いっ! 魔獣よっ!」


 腕を上に突き上げ、その指をパチンと鳴らした。


 すると、上が見えぬほど暗い天井から、一体の魔獣がドスンと降りてくる。


 それは、見たところただの鳥にしか見えない魔獣だった。


 だが、その大きさは既存の鳥とは比べ物にならないほど巨大で、二メートルほどの小山ぐらいの大きさがあった。しかも、その魔獣の本当の恐ろしさはその大きさではなく、その能力にあった。その魔獣は、相手を石化することが出来るブレスを吐くことが出来るのである。


 その恐るべき魔獣の名は『コカトリス』、やはり『ドリームライブラリ』から盗まれた魔獣である。 

「わーお。さっすが悪党だね。手下はいくらでもいますってこと?」


 おどけるようにそう言って見せる夢依に、形勢逆転したブライトメアは、


「いくらでもいるわけではないがな――それより君こそどうするつもりだ? なんの魔具も装着していないのに、どうやって魔獣に対抗する? もはや余裕を見せている場合ではあるまい」


 そう言って、夢依の不安を煽るようにコカトリスを夢依の前に立たせる。


 しかし、夢依はそのプレッシャーをものともせず、むしろその顔に笑みを浮かべながら、


「魔具が無いって? さぁ――それはどうかな? 来なさい風迅っ!」


 何も居ない暗闇に向かってそう叫ぶ。


 だが、その身には一切の魔具を身に付けておらず、その声には誰も答えない――その筈だったが、


「ほいほーいっ! ようやく呼んでくれたねぇ姉ちゃん? あんまりにも遅いんでオイラのこと忘れちゃったのかと思ったよ」


 その声と共に一陣の風が吹き――そして、その一瞬の後に、夢依はその身に二つの魔具を身に纏っていた。


「――ッ!?」


 ブライトメアは、いきなり魔具を呼び出した夢依に、驚愕の色を見せた。


(馬鹿な――この城に入る時に、璃々に確認をさせていたはず……それは私も確認していたというのに……)


 ブライトメアが見る限りでは、夢依の自身にもその周りにも魔具の姿は確認できなかった。


 ではどうやって夢依はこの城に魔具を持ち込んだのか――。


 それは、『一刀』の能力である。自身の不可視化効果を使ったトリックであった。


 一刀は、自身だけではなく、自分の身体に装着された魔具も透明にすることが可能で、それを利用して最初から隠れるようにして夢依にくっついていたということなのである。


「あのね……人がせっかくキメてるのに軽口叩かないでくれる?」


「そう格好付けた所でたいして変わらぬのじゃから、別にかまわんじゃろ?」


「そーそー、あんまし慣れないことはしない方がいいよ姉ちゃん」


「ぐぐぐ……アンタらねぇ。仮にもご主人様に対しての礼義ってもんがないのか……」


 そう楽しそうに魔具と会話する夢依、しかし、その中には肝心の不可視能力を持った一刀の姿が見えなかった。


 実は、一刀はこの城に入った時から理恵を救出する為に単独行動をしており、薄暗い室内に風迅と鋼玉は今まで隠れていたのである。だからこそ、夢依はブライトメアに対して強気な態度でいられたというワケであった。だが、それは同時に眼の前の敵に対して、攻撃手段が無い危険な状態でもあった。


「……なるほど、強かだな。どうやってこの場所に連れて来たのかは知らんが、流石に罠と分かっている場所に丸腰ではこなかったというわけか……」


 夢依が魔具を隠していたことに驚きはしたものの、ブライトメアはその冷静さを取り戻すようにそう推測する。


「理恵が捕まってる間は出すつもりはなかったけどね。さて――これで戦えるわよ!」


 心強い二つの魔具が装着され、夢依はさらに強気な態度でそう言って、これからの戦闘に備えて構える。


 たとえ直接戦う武器が無くとも、夢依は状況を諦めるということはしないのである。


 そして、ブライトメアもまた、強気な姿勢で夢依を迎え撃つ。


「いいだろう。だが、魔具があったとて私の魔獣がそう簡単に倒せると思うな――」


 その号令と共に、ブライトメアはコカトリスを夢依に向かってけしかける。


 こうして、夢依と魔獣コカトリスの戦いが始まるのであった――。



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