表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

In English,please!!

作者: 生野

 突然だが、私は数年前までアメリカ人だった。正しくは二重国籍。親の仕事の都合でアメリカで生まれた日本人である。四歳までをニューヨーク州のH地区で過ごした。

 親の仕事が何なのかとか今の国籍はどうなのかとかは、この話には一切関係ない。重要なのは『日本語と英語が入り混じる世界で暮らしていた』の一点に尽きる。


 さて。

 随分前からテレビで見るコマーシャルがある。某英会話教室のもので、いきなり家庭内の公用語が英語になるという筋書きのものだ。母親に「おかわり」と言った少年が「In English,please!」と言われ「オカワーリ!」と元気よく言う。多分、見たことがある人も多いだろう。

 このCMは我が家では大変評判がよく、しかし私は大嫌いだ。あんな形で黒歴史が掘り返されるなんて!

 そう、あれは今から二十年以上も前のこと。私がニューヨーク州のS地区にあるH教会の幼稚園に通っていたときのことだった……。




 当時の私は親の付き添い無しでは幼稚園に行けない子供だった。

 ある日、私が所属していたクラスで『色の名前を英語で答える』という授業があった。実はS地区、さまざまな人種がいる区域で、そのため英語と英語以外の言語をごっちゃに話す子供が結構多かったのだ。私は日本語と英語のちゃんぽんだったし、仲良しのクロエはフランス語なら話せた。それで会話が成立していたのはいまだに謎だが。


 それはともかく、授業である。

 私は問われるままに色の名前を答えて言った。「white,yellow,blue,red,green」……。そこそこ順調に答えていったが、途中でふと固まってしまった。

 茶色、である。

 いうまでもなく茶色はbrownだが、当時の私(確か三歳になったかならないか)は知らなかった。

 しばし考えた挙句、私は元気よくこういったそうである。



「チャイロゥ!」




 あのときのことを母はこう語る。

「なんていうのかな、ばっちり日本語なんだけど言葉的は英語なの。Rの発音がやたら正確だし、アクセントが『チャ』についてたしね。そのとき……っていうか保護者同伴で幼稚園に通ってたのアンタくらいだけど……笑いを共有できる仲間がいなくて、必死に笑いをこらえたわ。あたしが笑いをこらえてるのを、先生も不思議そうに見ていたしね。あの時は説明に困ったなー」


 さらに、あのCMを見てこう付け加えるのだ。

「このCM作った人、現実にはこんなことないって思ってたんだろうね。実際にありますよって教えてあげたいわ。ハーフリンガルってほんとにいますよって!」


 ハーフリンガル。歯列矯正のことではない。

 しいて言うなら『出来損ないのバイリンガル』だ。バイリンガルは『どちらもできる』だが、ハーフリンガルは『どちらも中途半端』になってしまう。



 そう、あのCMは英語教育に潜むハーフリンガルの危険性を示唆している……わけがない。

 本当、日本語教育をしっかりしてから英語を教えて欲しいものだ。じゃないと、私みたいのがそこらに溢れかえる未来が見えてしまう。



 ……とりあえず、はやく新しいCMに入れ替わってくれないかな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あるあるですな。これも。 私は英語は中途半端どころか全く喋れないんで(6年間英語習ってきたのにですよ)、というか海外研修でアメリカ行った時に入国審査で固まった人なんで、英語が出来ない恥ずかし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ