表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
董卓の孫娘はお爺ちゃんを救いたい!【関西版!】〜悪役令嬢、竹簡の予言で超・三国志改変〜  作者: 雨咲 しゆみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/3

#2 え、うちお嬢さまなん?

 ***


「……って、仲穎さま?」


 その名前──聞いたことがある。多分、なんか三国志で有名な武将が同じ名前だったと思うけど、たくさん居るから思い出せない。


(というか、何? ここどこ? うち、誰?)


「お爺さまのお名前まで!? ああ、ダメだダメだ。もう私はお終いだ……この“蔡邕(さいよう)”。仲穎さまの信にお応えできませんでした。かくなる上はこの命……」

 蔡邕はブツブツと何やら物騒な独り言をいっているが、その名前──知ってる。


 『蔡邕』。三国志の物語序盤で登場する、漢の学者であり文豪だ。数々の著書を執筆して世に名を轟かせたけれど、その功績を妬んだ者たちに諮られて僻地に追いやられた──って、講談社の三国志入門書には書いてあった。

 そんな彼を救ったのが、確か……。


「──董卓」

 自然と、その名が口を吐く。


「いま、なんと!?」

 蔡邕がばっとこちらに向き直る。その眼は恐々として輝き、涙さえ浮かんでいる。


「え。えと……うちのお爺ちゃんは、董卓……さんですか?」

 恐る恐る、私はその名を口にする。


 『董卓仲穎』、時の皇帝を毒殺し、擁立した幼い帝を補佐する名目で自ら相国(当時の官職の最高位)に就くと、その私利私欲を満たすためにあらゆる暴政を敷いた。

 殷の時代の愚帝、紂王を真似て『酒池肉林』の宴を何日も催したなんて逸話もある。

 その全盛は僅か数年ほどだったが、それでも二千年先の現代にまでその悪名が轟く……三国志にして最狂最悪、稀代の大悪党だ。


「はい! ええ、そうですとも。小紅さまのお爺さまは董卓さまでございます。そしてわたくしは──」


「蔡邕」

 被せ気味に答えると、今度こそ蔡邕は安心しきったように大息を吐いた。


「ぶっはあ〜〜。あっぶねぇぇぇ! いやいやいやいや、焦りますよ小紅さま! ダメです五徹なんて! まだ五歳なんです、五歳!! どこの世界に徹夜で文字を書き続ける五歳児がいますか!? ええ、居ませんよ!! 養育係の私の身にもなってください!! あやうく責任者として処罰されるところでしたよ!!」


(めちゃくちゃ怒ってるやん。え、キャラ変わり過ぎてて笑うねんけど? っていうか五徹……?)


 確かに、覚えはある。でも私がやってたのはゲームで、書き物をしていたのは“この娘”だろう。いったい、それだけ熱心に何を書いていたのか。


(そういえば、さっきの少女が必死に読んでた竹簡。……もしかして、あれがそうなん?)


「まあ! お父様いけませんわ! 小紅さまはまだ病み上がりなのですから、大きな声を出さないで下さい!」

 

 そこで、水をとりに行った少女が帰ってくる。名前は確か──


「小紅さま。この文姫、もっと強くお止めするべきでございました。ここ数日の小紅さまのご様子は、確かにおかしかったのです。それに気がついておきながら……どうか私を叱って下さい」


 ふるふると、頭を下げて謝る少女。文姫、この名にも覚えがある。


 『蔡琰』、またの名を確か……『蔡文姫』。蔡邕の娘で、女性ながら数々の著書を残した文学者。


(確かに賢そうな顔してる……っていうか、思い出した! この娘、幼馴染の『文姫(ふみき)』の小さい頃に瓜二つやん! 読み方は違うけど名前も同じだし、これってつまり……どういうこと? でもとにかく、こんな小さな子が謝る必要なんてない。っていうか、勝手に夜更かししたの小紅(コイツ)やん!!)


「文姫ちゃんが頭下げる必要なんかない。だって、ただの夜更かしやろ? それ、完全にうちのせいやん。それに、全然へーき、へーきやって」

 私が話し始めると文姫は顔を少しあげ、目を丸くしたまま固まった。


「いまは何か、その……ちょっと記憶が曖昧なんやけど、たぶん休んだらすぐに良くなると思う。そしたらそん時は、またうちとお話してくれる?」


 そう言って、私は差し出された頭をそっと撫でる。サラサラとした水色の髪が気持ちいい。私の手も小さかったけど、幼稚園児ほどの相手に対して、こうする他に接し方がわからなかった。


「ええっ!?」

 急に我に帰ったように、文姫が大きな声を上げる。


「お父様! 小紅さまが、やっぱり何か変!」


「こら文姫!」

 蔡邕は文姫の頭をぽかりと叩いた。でも文姫の話は止まらなかった。


「まず、話し方が変! いったい急にどうされたんです!? その言葉づかい!? どこ!? どこの人!?」


(え? あ、そう? 変かな? 極めて標準的な美しい関西弁……ですよね?)


「ちょ、文姫!?」


「それに、いつもの小紅さまなら私を蹴っ飛ばして『この愚図、もういいからあっち行って!』って言うわ! 蹴飛ばされても良いように、お水は少なめに入れてきたのに!」


「だ……こら、ほんとダメ! それ以上はいけない!」


 蔡邕と文姫は揉み合いながら、何やら言い合っている。この二人、仲が良いのか悪いのか……。でも、そんな様子を見ていると、なんだかおかしくなって笑ってしまった。


 ──くすっ


「「ええっ!?」」


 私の笑い声に、今度は二人揃ってこっちを見た。あまりに揃った動きとよく似た驚き顔に、私はまた可笑しくなって──


 あははは!


 ついに声を出して笑ってしまった。

 

「小紅さまが──むぐっ! むむむ〜〜」


「さあ小紅さま、今日はもうお疲れでしょう。夜分ゆえ、このままお休みになって下さい。お水はこちらに置いておきます。また明日の朝、起こしに参ります」

 蔡邕はその身体に似合わぬ機敏さで文姫の口を塞ぐと、その身を抱えたまま入り口まで下がる。


「うん、そうさせてもらうわ。蔡邕、文姫──」


「はい」


「お休みなさい。貴方たちも、ゆっくり休んで」

 そう声をかける。すると一瞬、蔡邕の眼が今日一番大きく見開かれ、すぐに優しく細まった。


「ありがたきお言葉」

 そう言って、蔡邕は文姫を連れて部屋を出る。

 静かに扉が閉じられると、またふわりと風が吹いた。月明かりが照らし出す鏡には、やはり見知らぬ金髪赤眼の少女が映り込んでいる。


「って、結局うちは誰やねん!?」


(わからへん。うちの知っとる三国志列伝に、こんな娘はおらん! 董卓の──孫娘!?)


 ***

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ