第九十八話
シュルトに案内された部屋で一休みする。
「しかし、自分の立場がこんなにコロコロ変わるとはなぁ。
でもあのままダグバン達に洗脳されずにシュルト達に助けられたのは、不幸中の幸いかな」
とアイに話すと
「そうですね。もし仮に急進派に洗脳されたら、私でも洗脳を解くのが不可能だったと思います」
と返された。
「え?アイでも無理なの?」
いかに万能補助と言えど出来ない事もあるらしい。
それに以前アイがこの地底世界について言い淀んだ時があるのをふいに思い出す。
「ねえアイ。
こんな事を聞くのはアイに失礼かもしれないけど、実はこのラウドスの事やシュルト達の種族の事を知ってたりしなかった?
オリハルコンを発見した後、子爵の息子と兵士が実況見分をしている時に<紫色の円>が話題に上がった時に言い淀んだ時があったと思うんだけど・・・」
と聞いてみると
「・・・・・・本当の事を言うとデータとしては入ってました。
地上に関するありとあらゆるデータならインプットされているので、自信を持ってお伝えする事が出来ますが、ラウドスの存在やその種族のデータは僅かな情報ありません。
それに地上の人間との直接的な接触が今まで確認されなかったので、確証を持ってお伝えする事を避けていました。
たぶん今まで急進派の様なグループが存在せず召喚魔法陣が使用されなかった事、それに穏健派の方々が地底世界の記憶を消去してから地上に返している事から、ラウドスに関する情報が私の中にインプットされなかったのでしょう。
私に情報をインプットする作業を行うのは創生神様自身ですが、それはあくまでも地上で確認された情報のみになりますので」
AIの様に自動的に集約、精査する訳ではないのね・・・
「そんな事まで創生神様の仕事なんだ・・・もしかして創生神様の仕事ってかなり多岐にわたるの?」
と聞くと
「創生神様のいるあの空間には時間という概念は一応ありますが、神様ですので疲労が蓄積する事はありません。
その分あの特殊な空間の中で様々な作業をされているのです」
まあ、神様だからなぁ。
何もせず色々な世界を見守りながらふんぞり返ってるよりはマシか・・・
アイとの雑談をしている中で、ある事を思い出す。
「そうだ!思い出した!」
といきなり声を出す。
「どうしました?」
と落ち着いた声でアイが聞き返してくると
「ラウドスの人達の人相とか風貌、どこかで見た事があると思ったら以前夢の中で出て来た不思議な世界の人達そのものだ!」
確かリックス王国にいる時に見た夢で、リップがキリアナ王国に向かった日だ。
(第八十五話参照)
「ああ、確か面倒だから説明を省いたと言ったあの時ですか。
どんな夢だったんです?」
と返され
「あの時は・・・広場の様な場所にお立ち台みたいなのがあって、そこで何人かが演説をしていてその周りに沢山に人達がいたなぁ。
なんかすごく喜んだりしてた覚えがあるけど・・・」
もしかして急進派と穏健派の間を取り持つって事?
確かにさっきまでその間にいたことは確かだけど。
なんて考えていると扉がノックされる。
「失礼します。昼食をお持ちしました」
と男性が昼食を持ってきてくれた。
「わざわざありがとうございます」
とお礼を言うと
「食べ終えたら扉の外にあるテーブルに出しておいてください。
午後になったらシュルトが尋ねて今後の事を話し合いますので」
と言われた。
「分かりました」
と返し、男性が部屋から出ていく。
椅子に座り、早速食事を頂くことにする。
見た目は急進派で食べた内容とほぼ同じ肉や魚が無い精進料理。
いや、それにしても料理の色味が薄いものが多いな・・・
そう思いながら1口目を食べてみると、想像通り味が薄い!!
例えるなら一般的な病院に入院した時に出てくる所謂<病院食>と言えば分かってもらえるだろうか。
「久しぶりにこんな薄味の料理を食べた・・・」
最後にこんな薄味の料理を食べたのは、子供の頃短期間入院した時以来だ。
でもせっかく作ってもらったのでちゃんと食べなくては。
(まあ、この味付けの方が健康的といえば健康的なのだろうが・・・)
何とか食べ終えて食器を指定の場所に置いておく。
暫くするとシュルトが訪ねて来た。
「失礼します」
と部屋の中に入ると
「食事を持って来た者から聞いているとは思いますが、今後の事について話し合いに来ました。
どうされますか?」
と聞かれ
「実は、こんな事を言っても信じて貰えるか分かりませんが、ある日夢を見ました。
この世界に関する夢です」
と切り出す。
「夢・・・ですか?ラウドスの関する?どんな夢です?」
と返されると
「この世界のどこかの街の広場にお立ち台があって、そこで集会が行われていました。
その集会に大勢の人達が集まっていて、演説が始まると集まっている人達は喜んで叫んでいる人、歓喜の涙を流している人が入り乱れている夢です。
因みに私はその様子を建物の陰に隠れながら見ていました」
と見たままを正直に話す。
「集会に参加している人物の顔については覚えてませんか?」
と聞かれたが
「すいません。なにぶん朧気だったので、顔までは・・・」
と返す。
「そうですかぁ。では、貴方はどうしたいと?
もしかしてその夢を信じて我々に協力してくれると?地上の貴方が?」
ラウドスの人達の顔の判別はまだ出来ないが、これも何かの縁だし、命のやり取りに発展しない程度の戦闘なら俺にも出来る。
「命のやり取りに参加する事はしたくはありませんが、あなた方の間を取り持つ手助けくらいなら出来ると思います。
そうでなければこの世界に来る前にあんな夢を見る意味もないでしょうし、それに穏健派の皆さんは急進派との本格的な争いを望んていないのでしょう?
ダグバンと話した事も何度かありますが、分かり合えない程頑なな人だとは思えないんです」
たった数度会話をしたのみだが、前の世界で周りの友人や知人から(とっつきにくい性格)と揶揄されていた自分とあれだけ話せるのであれば、ちゃんと時間を設けて何度も話し合えばきっとわかってくれると思う。
(まあ勝手にそう思ってるだけだし、それが出来たら今頃こんな事にはなってはないだろうが)
そう思っていると
「う~ん、そう言われましても・・・。
確かにダグバンは話せば分かる性格なのは幼馴染の私が1番良く知っているのですが、あいつはあまのじゃくな所があるからなぁ。
過去にその性格が原因で長老達と揉めて話し合いもこじれた事があるし・・・」
あ~、よくある年長者と若者の意見が合わず的な事か?
「たぶん、ダグバンも心のどこかで自分が言っている主張が理にかなってないと分かっているとは思うんですけど、急進派のリーダーになった事で
(期待に答えなきゃ)
という部分で、引くに引けなくなっているのではないかと私は思ってるんです」
とシュルトが本音と思われる一言を発する。
てことは急進派の本丸はあのお付きの2人って事か?
「変な事聞きますけど、もし貴方のその考えが正しいとしたら、お付きの2人さえ何とかなれば急進派と穏健派の小競り合いは何とかなるって事ですか?」
と聞くと
「そう・・・なるのかなぁ・・・。
まあ、そう単純だったら良いんですけどねぇ」
とシュルトが苦笑いを浮かべる。
「だったらいっその事俺が悪役兼仲介役をかって出ましょうか?
例えば
(俺がこの村を脱走し、急進派に参加するフリをして、本当は貴方とダグバンをわざと引き合わせて話し合いの場を持たせる)
とか。
あ、けどそこから話し合いになってもまたこじれたら意味ないかぁ。
どうしたものかな・・・」
あまのじゃくな性格ってのがなぁ・・・と思っていると
「それなら私に考えがあります。
古い書物に載っていた魔法の中に
(一時的に別空間に閉じ込める魔法)
を見た事があります。
まだ試したことはありませんが、術者もその空間に移動できると書いてありました。
そこにダグバンと私が2人きりで行って説得してみます。
そこまで難しい魔法でもないので、ダグバンさえ連れて来てくれれば大丈夫です」
とシュルトが提案してくれた。
でも2人きりってのが不安だなぁ。
「その空間に俺も連れて行けませんか?
もし2人きりだとずっと平行線の可能性もあるし、第三者がいれば少し違うと思うんです。
何だったら、お付きの2人も一緒に連れていきます?
俺達がいなくなってる間に何かやらかすかもしれないし」
と言うと
「でも、あの3人の動きを封じるのは人間の貴方には中々骨ですよ?
大丈夫ですか?」
と返されたが
「動きを封じるくらいならなんとかなりますよ。
弱めの雷魔法を撃つとか、その程度ならさほどダメージはないでしょ?
その後はその(別空間に閉じ込める魔法)の中でとことん話し合えばいいんです」
と根拠の無い自信でシュルトを変に後押しする。
けど、ラウドスのこの状況を打開するには、もうこれしかない気がする。
「因みに穏健派と急進派の勢力ってこの村っていうか、周辺だけなんですか?
他の地域にも広がってるとか?」
とシュルトに聞いてみると
「今の所はこの地域だけですが、これ以上急進派を野放しにしておくと他の地域にまで広がってしまう可能性もあります」
よし、き~めた。
「じゃあ、ダグバン達の潜伏先にこれから俺1人で行ってきます」
と言うと
「え?これからですか?」
とシュルトは驚いたが
「どうせアジトの場所は分かってるんだし、俺がうまい具合に連中をおびき出してその
(別空間に閉じ込める魔法)
を発動してください。
では、早速そこへ至る算段を話し合いたいのですが、一応セグエルさん達と一緒の方が良いですよね?」
大事な事だからなぁ、長老達にも話を聞いてもらった方が良いだろう。
「そういう事なら食後の休憩を挟んでからにしませんか?
我々も先程昼食を済ませたばかりなので、少し時間を空けてからの方が・・・」
とシュルトが言いながら欠伸をする。
それにつられて俺も思わず欠伸をしてしまい、お互いに笑いが出てしまう。
「少し仮眠を取りましょう。
夕方辺りにもう1度長老達を連れてお伺いするので、続きはその時にという事で」
と言うと俺も
「分かりました」
と言うと、その言葉を聞いたシュルトは静かに部屋を出ていく。
「はぁ~、今日は朝から色々な事がありすぎるなぁ。
少し時間もある事だし、満腹だしベッドもあるから、シュルトの提案通りに昼寝をしよう」
と言いながらベッドに横たわる。
「もし寝てる間にシュルトさんが来たら起こします」
とアイが言うので
「うん、おねがい」
と言いながら目を閉じて眠りにつく。




