第九十五話
翌日。
この日も当然ながら魔力精錬の修行から一日が始まる。
駐屯地の任務の時は色々あって出来なかったが、何でもない日の朝に
(1日くらいやらなくても良いかなぁ・・・)
なんて考えが出てくると何故か頭の中でダンさんのにこやかな顔が出てくるし、尚且つアイから
「今日も当然修行をしてから行くのでしょう?」
とツッコミが入る。
まあ、多少飽きっぽい性格の自分からしたら、アイというお目付け役がいるので長続きしている方だ。
いつもとほぼ同じ時間修行をした後
「よし、ギルドに行くか」
と呟きながらリンクルを後にする。
ギルドに到着して中に入る。
掲示板に行って依頼書を確認しても
「相も変わらず魔物討伐しかない・・・」
ボソッと呟きながらどの依頼を受けるか眺める。
どれも似たような内容なので
「えぇい、これだぁ」
と適当に1枚だけ依頼書を手に取ってみる。
<炭鉱に巣食っている魔物の討伐>
やっぱりこれかぁ・・・まあいい、何もしないよりは。
受付に依頼書を持っていき、手続きをしてもらう時に
「そういえば掲示板の依頼が一向に減っていないんですけど、他の冒険者はどうしてるんです?
まさか俺しかいないって事ではないんでしょ?」
と受付の女性に冗談交じりに聞くと
「そういう訳ではないんですけど、他の冒険者が依頼を受ける頻度は確かに減ってますよ。
行方不明事件がかなり効いてるせいで。
依頼を受けて炭鉱に入ったはいいけど、行方不明扱いされてしかもその間の記憶が無いなんて体験すれば、いくら体は無事でも依頼を受ける側が気味悪がって、魔物討伐の依頼書が減るスピードが極端に遅くなっているんです」
と両手を上げてやれやれといった表情で語る。
「依頼が完遂されないとギルドに手数料が入らなくなって、しいては私達のお給料にも影響してくるので困ってるんですよ。
だからアイカワさん!どんどん依頼を受けて手数料をこのギルドに入れてくださいね!」
と力強く語ると後ろにいる他の職員達も期待に満ちた表情で俺を見る。
「はは、勘弁してくださいよ」
依頼を受けたくない訳ではないが、流石に依頼を受けるかどうかは俺のペースでさせてくれよ。
苦笑いを浮かべながら手続きをお願いすると
「この依頼は兵士の同伴無しでも良いみたいですね・・・
討伐が終わってからお城の兵士に確認作業を呼びに行って一緒に確認してください。
場所は裏に書いてあるので、炭鉱へ直に向かってもらって大丈夫です」
と言われた。
そういう事ならとっとと行ってちゃっちゃと済ませるか。
ギルドを出て依頼書の裏の地図を頼りに、目的地に向かう。
目的地に到着すると、入り口前で探知魔法をかける。
面倒な類の魔物もいないみたいだし、部屋の数も多くない。
「松明に火を点けてっと、じゃあ、行きますか」
といつもの如くゆっくりと中に入る。
中に入り最初の部屋の魔物をひとまず討伐。
マジックゲートに収容するのは兵士達と確認した後なので、そのままにしておく。
2つ目の部屋の部屋の魔物もサクッと退治する。
3つ目の部屋は空っぽで何もない。
そして最後の部屋の前に到着して中に入り、部屋の中央まで来ると急に床が光りだした。
「う、うわ!なんだ”!?」
あまりの眩しさに両腕で顔を覆う。
覆う前に一瞬見えたのは紫色の円。
こ、これってもしかして子爵の息子が見たって言ってたあの・・・
そう思っている内に、あっという間に全身が、そして部屋全体が謎の光に包まれる。
光が消えたかと思うと体がふわっとした感覚に襲われ、そして目の前は地面が無かった!
「な、なんでぇぇぇ~~~!!」
と叫びながら下へと落下していく。
そうだ!こんな時の為の!
両手両足を落下方向へ向けて風魔法を発動させると、落下スピードは一気に遅くなり遂には落ちる事なく空中に留まる事に成功する。
取り敢えずこのままという訳にもいかないので、風魔法を徐々に弱めてゆっくりと地面に近づいて行く。
慎重に地面に着地すると、一旦周りを見渡す。
誰もいないように思えるが念の為探知魔法をかける。
すると遠くの方から魔物とも人間とも違う今まで感じた事のない物体が引っかかった。
「なんだ?形は人間だけど・・・」
とまだ少し混乱していると
「とりあえずその場所の近くまで行ってみませんか?
ここでじっとしていても仕方ないですし」
とアイが言うので
「そうだね」
とその意見に賛同し、移動する。
移動している途中、周囲に注意しながら落ちてきた上空を見る。
「でも一体何なんだろうな、この空間。
落ちて来たスピードから想像するとかなりの広さがあるはずで、それなのにも関わらず中は意外と明るい。
あの太陽みたいなやつのおかげなのかな・・・」
空、いや空洞と思われる内部の上空には太陽に似た大きな球体状の物体が浮いていて、空洞の中を昼間と同じ明るさで照らしている。
そのおかげもあってか松明で明るさを確保するといった事をせずに、空間内を進む事が出来る。
「それにこの空洞内といっていいのか、広さが尋常じゃないぞ」
風魔法でゆっくりと地面に着地する迄の間に見た光景を思い出してみても、ほぼ地上にいるのと変わらないくらい広いのではと思う程の空間だった。
それにしても空洞内の空気の流れはどうなっているのだろう?
こんなにドデカい空間の中、新鮮な空気の流れが無ければ生物も植物も生きていけないはず。
しかし、この空間の中はまるで息苦しさを感じない。
どこかに出入り口、或いはここからは確認はできないが、上空に通気口の様な穴でもあるのだろうか・・・
「もうすぐ到着します。警戒してください」
とアイが言う。
探知した場所には住居らしき建物が建っていた。
到着した場所に大きな岩があったので、そこに隠れて改めて周囲に探知魔法をかけて自分の周りの安全を確保した後、ほんの少しだけ肉体強化を発動してその方向を見てみる。
すると建物の前に1人、そしてもう1人が眠そうな顔をして建物の中から出てくる。
姿形は人間にそっくりだが、顔つきがどこか変だ。
肌の色は赤く、口からは牙らしき物が出ていた。
(あれ?どこかで見たなぁ・・・どこだっけ?)
なんて考えていると
「さっき魔法陣が発動しなかったか?上空が光った気がするが」
と1人が言うと
「そうかぁ?昼寝してたからわからなかったよ」
ともう1人が欠伸をしながら言う。
「取り敢えずボスには俺が報告してくる。いくら休憩中だからって気を抜きすぎるなよ?」
と最初の1人が別の建物に向かい歩いて行く。
もう一度探知魔法をかけるが、建物の中に戻って行った1人しか確認できなかったのでさらに歩いて近く。
(言葉が認識出来るって事は通じるって事だよな?)
なんて考えながら建物の中を覗いてみると、男性?らしき人物が椅子に座りながら
「第一、どんなに地上から人間を召還したってどうせ俺達より身体能力すら低いんだから、引き込む必要は無いって~。
またひと眠りするか~」
と独り言を呟き机に突っ伏しながら寝始めた。
(地上から人間を召還?じゃあ、ルブリス王国で起こっている行方不明事件はこいつらが犯人なのか?
でも一体何の目的でそんな事してんだ?)
一旦ここから離れるか、なんて思っていると後ろに何者かの気配を感じた瞬間
「アイカワさ・・・」
とアイの声が聞こえた刹那、首に痛みを感じ目の前が真っ暗になった・・・




