第九十三話
兵士2人と共に急いで城へ戻り、大体の内容を兵隊長に伝えると兵士を10人程を引き連れてとんぼ返りで炭鉱へ急いで向かう。
炭鉱に到着して早速連れて来た兵隊長達に見せると
「し、信じられん。夢でも見ているのか・・・
ハッ、急いでこの事を国王様に知らせるのだ!」
と兵隊2人に命令し、城に向かわせる。
「貴方がオリハルコンを発見された方ですか?お名前は?」
と聞かれ
「アイカワ ユウイチと言います」
と返すと
「発見した状況を説明していただけますか?」
と今度は俺が実況見分される側になってしまった。
「この炭鉱で起きた行方不明事件の調査の護衛依頼をギルドで受けて兵士の方々と同行し、調査を開始する前に内部にいる魔物を討伐した後、興味本位で他の部屋を調べてみようと別の部屋を入ったんです。
すると光り輝く鉱石が部屋中にあった訳でびっくりしたのなんのって。
で外で待っている兵士の皆さんと、行方不明になった冒険者達と当時一緒にいた子爵の息子さんと一緒に炭鉱中の部屋を確認してもらった後、この状況を城に伝えようという事になり来ていただいたという流れです」
と言うと兵隊長は最初に同行した兵士達に目を向ける。
すると兵士達は(うんうん)と首を縦に振る。
「一応聞いておきますがオリハルコンを見つけた後、一部を採取してなどいませんよね?」
と言われたが
「そもそも鉱石自体を見た事が人生で初めてで採取の仕方なんか分かりませんよ。
それに叫んだ後すぐにこの兵士さん達2人が走って駆け付けて来たので、時間なかったし」
とその時の状況を正直に話すと
「分かりました、信じましょう。
但し、オリハルコンを見つけた事は他言無用でお願いします。
良いですね?」
と念押しされ、俺は首を何度も縦に振る。
「よし!国王様が到着され鉱石を確認され次第、王国直属の炭鉱夫が採掘を開始する。
それまでの間はここにいる人数でこの炭鉱に待機だ!」
と兵士達に命令を出す。
「あの~、すいませんが1つだけ良いですか?」
と兵隊長に。
「何でしょう?」
と返されると
「討伐したゴブリンの亡骸が最初の部屋と2番目の部屋に放置しっぱなしなので、外に出して焼却処分した方が良いと思うんですけど、大丈夫ですか?」
と聞くと
「はい、それは大丈夫です。
では申し訳ありませんが、監視の意味も含め兵士を3人付けます。
ゴブリンの亡骸がある部屋に行ってもらい外に出した後、焼却処分をお願いします。
あ、あと国王様が到着されたら一緒に出迎えをお願いしたい。
紹介もしたいので」
と言うと近くにいた兵士を3人選び、ゴブリンの亡骸がある部屋に向かう。
なんかキナ臭くなってきたな~。
面倒な事に巻き込まれないと良いけど・・・
それぞれの部屋に到着してゴブリンの亡骸をマジックゲートに収容した後外へ出て、街から来た方向とは逆の位置にゴブリンの亡骸を取り出して、焼却を開始する。
国王が乗った馬車の進行を妨害しない様にと思ったからだ。
亡骸が完全に炭になろうかという頃に、1台の馬車が多くの兵士を引き連れてこちらに向かって来る。
炭鉱の入り口に到着する少し前に兵隊長が中から出てきて、国王を迎える。
念の為の消火をした後俺も一緒に出迎える事になっているので、隊列の真ん中辺りで並んでいると兵隊長が
「アイカワさん、隣へどうぞ」
と小声で呼び出され、隣に並ぶように促される。
兵隊長の隣に立つと同時に国王が乗った馬車が兵隊長の前に静かに止まる。
「気を~~付け~~!!」
と兵隊長が叫ぶと国王が馬車の中からゆっくりと出てくる。
兵士達は皆敬礼をしているが、俺はどうしていいか分からないので取り敢えず直立不動でいた。
国王が兵隊長を見るなり開口一番
「オリハルコンが大量に見つかったというのは本当か?」
と言い
「はい。
こちらにいらっしゃるアイカワさんという方が、炭鉱の調査依頼に同行した際に偶然見つけたそうです。
我々も中に入り確認しましたが、確実にオリハルコンが2部屋分確かに存在します」
と言うと
「早速確認させてくれ。アイカワさんとやら、貴方も一緒にお願いします」
と言われ国王、兵隊長、俺の順番で炭鉱の中に入っていく。
中に入りオリハルコンがある部屋に到着すると
「おお~、これはまさしくオリハルコン!この部屋ともう1部屋あるのか?」
と国王が兵隊長に聞くと
「はい。もう1部屋に同じくらいの量が存在します」
と言うと
「有難い。
それほどの量のオリハルコンがあればかなり財政的には潤う事になる。
国民の生活に回す分もある程度余裕を持って確保する事が出来るな」
と今にも泣きだしそうな程表情も緩ませると
「ありがとう、アイカワ殿。これも貴方のおかげだ。
今夜は是非我が城に迎えたい」
と言い出したので変に断ると俺の横にいる兵隊長に目を付けられかねないので
「そういう事であればお言葉に甘えさせていただきます」
と言い、城に招待される事になった。
もう1部屋のオリハルコンを確認した後、一団と共に入り口に戻ると炭鉱夫の集団が入り口で待機していた。
炭鉱夫達に対して兵士長が
「これから皆さんには鉱山の中に入って頂き、昼夜を問わずいくつかの班に分かれて、交代制で貴重な鉱物の採掘をお願いする事になります。
大変な作業になると思いますが、国の財政に関わる重要な作業になるので集中してお願いします。
では王様、一言どうぞ」
と兵隊長が言うと国王が
「いきなり招集して申し訳ない。
兵隊長からもあったように、国の財政に関わる重要な作業になる。
くれぐれも細心の注意を払って作業をしてもらいたい。以上!」
と言い終わると
「では、我々は城に戻りましょう」
と言うと、また国王、兵隊長、俺の順番で炭鉱に入り口に向かう。
外へ出ると兵隊長が兵士の1人と軽く打ち合わせをした後、国王の馬車に兵隊長と一緒に乗って城に向かう事になった。
その中でも結局俺の身の上話になり、今までと同じように取り敢えず体裁を繕っておいた。
城の中庭に到着して馬車を降りると
「ひとまずお疲れになったでしょう。
部屋を用意させておきましたので、そちらでゆっくりしてください。
ギルドへは城から使いを出して、手続きを済ませておくのでご心配なく」
と国王が言うと城の中へと戻って行く。
出迎えていた執事が
「ではお部屋へご案内します」
と言われ部屋に案内される。
「こちらでお待ちください」
と部屋の中に入ると、取り敢えず椅子に座り一息つく。
(どの国の城の部屋も豪華すぎて落ち着かないなぁ)
なんて思いながら待っていると扉がノックされて
「お待たせしました。こちらへどうぞ」
と執事が迎えに来たので、後について行く。
謁見の間に到着すると国王が玉座に座って待っていて
「いや、待たせたね」
と言われると
「とんでもありません」
と返す。
「本来ならあんなに大量のオリハルコンを見つけて頂いたのだから、それ相応の謝礼金を出さないといけないのだが、恥ずかしながら今現在この国の財政は鉱物の採取不足で徐々に収益が下がってきていてな。
そこで提案なのだが、わが国の特別専属魔導士として従事してはくれないだろうか?
他の専属魔導士より、給金は上という条件で」
と提案されたが
「そのお言葉は大変ありがたいのですが、辞退させていただきます」
と断った。
「やはり、こんな財政が不安定な国の専属魔導士は選びたくないのかな?」
と聞かれたが
「いえ、そういう事ではありません。
私はただ偶然あの現場に遭遇しただけですし、そんな私が特別待遇で従事すれば他の専属魔導士の方々と摩擦が生まれるのは必定かと思います。
それに1番の理由なのが、ここで条件を吞んでしまうと気ままな1人旅が続けられなくなってしまいます。
それは避けたいです」
と正直に話すと
「ハッハッハ!そうかそうか。いや、変な提案をしてしまい申し訳ない!」
と笑いながら謝る国王。
「暫くこの国に留まるのかね?」
と聞かれると
「はい、まだこの国に来て3日目なのでまだ滞在するつもりです。
次に向かいたいと思う国の情報もまだ手に入れてませんし」
と返す。
「そうか、それは安心した。
貴方の様な冒険者がいてくれればこの国にもっと明るい出来事をもたらしてくれるだろう」
ん?なんか変な方向に話が進んでる気がする・・・
「ああ、誤解されたなら申し訳ない。だからといって
(貴方は神に選ばれた勇者だ!)
などと世迷言を言うつもりは無いから安心してくれ」
と言われた。
内心ホッとして表情が緩みかけて目線を下に向けたが次の瞬間、えっ?と思い国王の顔を見る。
「もう聞いてるかもしれないが、私はこの街から数名の冒険者を勇者に任命して旅をさせた。
だがこんな事をしたのは、私が血迷ったからとかでは全くないのだ」
と言い出した。
「実は勇者に仕立て上げたあの冒険者達は、王国直属の剣士や魔導士になりたがっていた若者達だったのだが、熱意が強すぎてなぁ。
何度も城に来ては(国王様に会わせてくれ)(自分達を採用してくれ)と嘆願する始末で。
それでこのままでは兵士達の仕事にも支障が出ると思い、変わったアザがある事を理由に勇者に仕立て上げ、この国から出て行ってもらったのだよ」
いやそれならもっと他の方法があったのでは?
「その冒険者達ならこの国に来る途中で出会って、その変わったアザを見せて貰いましたけど、全員同じ形のアザでしたよ?それはどういう事なんです?」
と聞くと
「実はな、あの4人は異母兄弟なのだよ。
父親にその変わったアザがあって、それを単に受け継いでるだけなんだ。
だがあの4人は全員血が繋がっている事を知らん。
父親は既に亡くなっていて、それぞれの母親はお互い面識もない。
まあ、同じ形のアザがある事を聞いていれば、内心気づいているかもしれないがね」
事情が事情とは言え、その事で国民全体から国王としての信頼が下がりかけてるけど・・・
「何はともあれ、この国にしばらく滞在するのならオリハルコンを見つけて頂いた事に対する謝礼は、いつか必ずしようと思っているので、楽しみに待っていてくれ」
と言われた。
まあこの国の財政状況がどんな感じなのか分からないが、貰えるなら貰っておく事にしよう。
「では、何もないのなら私はこれで失礼させていただきます」
と言うと、執事がギルドから預かった依頼料を貰いお城を後にする。
城を出てリンクルに戻ってくる。
もう陽は暮れていたので、食堂で晩御飯を食べてから部屋に戻る。
部屋に入り装備を外して椅子に座り一息つく。
「しかし、凄い光り方だったなぁ。オリハルコンって。
鉱石ってあんな光り方してるのかな?」
と呟くと
「いえ、オリハルコンが特別なだけです。
それにしてもあの量だとかなりの額の収益が見込めますね。
たぶんこの国の規模だと、少なく見積もっても向こう10数年分の利益は確実かと思います」
とアイが話してくれる。
「10数年分!?たった2部屋分で!?
そこまで貴重な鉱石なの?オリハルコンって」
と返すと
「当然です。この世界全体でも今回見つかった採掘場所はこれで4か所目です。
炭鉱の中でも話しましたが、少量でも高額で取引されるのですから」
何じゃそりゃ。
つか、そんな鉱石で出来た武器や防具を装備する冒険者って一体どんな連中なんだよ・・・
色々な事を想像している内に少し眠気に襲われてきたのでベッドに移動する。
「少し早いけどもう寝るよ。おやすみ、アイ」
と言うと
「おやすみなさい」
の言葉と共にこの日は眠りについた。




