第九十一話
翌朝。
起きてから暫くまったりした後、魔力精錬の修行をしてからギルドに向かう。
建物に到着して中に入る。
掲示板を探していると、所々補修されている箇所が見受けられた。
補修こそされ内部はきれいにはなっているものの、その補修跡を隠そうとはしてはいない。
そんな部分を敢えて気にしないふりをして、Dランクの掲示板を見つけ目の前まで行く。
(結構魔物討伐の依頼書が貼られてるな・・・)
掲示板には魔物討伐の依頼書がかなり貼られている。
これだけ貼られていたら冒険者達は仕事にあぶれる事はないだろうが、ギルドの中を見回してもそこまで多くの冒険者はいない。
(取り敢えず今日受ける依頼を選んでみるか)
と思い、掲示板に目を向ける。
目に留まった1枚を手に取る。
<放棄された鉱山に住み着いた魔物の群れの討伐依頼>
依頼書の隅々まで見てもこれといって特殊な内容は書かれておらず、シンプルな内容だったので
「これでいいか。他も同じ物ばかりだし」
と呟きながら受付に依頼書を持っていく。
「お願いします」
と言いながら依頼書を出すと
「初めての方ですか?」
と聞かれ
「はい。昨日この国に着いたばかりです」
と答えると
「どうりで。初めて見る方なので」
軽い雑談をしながら手続きを進めている中で
「毎日こんなに依頼書が出ているんですか?」
と率直な疑問をぶつけてみると
「いえ、ここ最近起きている行方不明の事案が影響して、鉱山に関する魔物討伐依頼が減らないんです。
結果溜まりに溜まってあんな量に・・・
放棄された鉱山の数は決まっているので一気に依頼書が増える事は無いんですが、行方不明の件が知れるとこの国に立ち寄る冒険者が少なくなってしまい、結局減らずに・・・」
と小声で受付の女性が説明してくれた。
ああ、なるほど。と思いながら依頼書を受け取り
「一つ聞いておきたいんですけど、鉱山の中って結構複雑なんですか?」
と聞くと
「いえ、そこまで複雑ではありませんよ?
確かによくあるダンジョンと違っていくつかの部屋の様な場所は存在しますが、分かりやすい構造になっています。
例えば1つの大きな通りに通路が枝分かれして、その先に部屋があるといった構造になっています」
と依頼書の端の方に簡単な図を書いて説明してくれる。
なるほど、これなら迷う心配はなさそうだな。
そう思いながら
「ありがとうございます」
と言い、ギルドを後にして城に向かい討伐終了の確認する兵士と同行する為城に向かう。
城に到着して門番の兵士に依頼書を見せて、目的地まで同行してもらう。
目的地である鉱山の入り口に到着すると
「夕方までに戻らない場合、申し訳ありませんが我々は城に戻ります。
あと、討伐を完了して入り口に戻ってきた際に、私達と違う兵士がいたらそれはシフトで交代した兵士ですのでお気になさらずに」
と言われた。
「分かりました」
と言いながらマジックゲートから出した松明に火を点けて、鉱山の中に入る。
中に入り奥へ慎重に進む。
受付の女性が説明してくれた通り、大きな1本道に幾つかの道が枝分かれしており、その先に部屋の様な場所がいくつか分かれていて、それほど複雑ではなかった。
取り敢えず部屋ごとに探知魔法をかけるのも面倒だったので、精錬した魔力で探知魔法をかけて一気に鉱山内を簡易的に調べてみると
「ああ~、受付で聞いた通りだ。思った程複雑じゃないな~。
各部屋ごとに何体かの魔物がいるって感じか」
確認できた部屋は6部屋。
その内4部屋で魔物が複数確認できた。
「地中を移動するタイプの魔物もいない様ですね」
とアイが話しかけてくる。
良かった~。
アークスコーピオンの様な地中を移動する魔物がいればこんな広い鉱山の中では厄介極まりない。
ひとまず最初の部屋に到着すると、恐る恐る中に入る。
探知魔法でこの部屋には魔物がいない事は確認出来ているので、中を松明で照らしながら簡単に調べる。
当然ながらこれといって何もなく、次の部屋に向かう。
2つ目の部屋。
ここには3体の魔物が確認できている。
松明を通路に置き、肉体強化を発動させてから中を覗くと魔物が3体いた。
いつも通り氷魔法で3体纏めて動きを封じた後、近くまで行って雷魔法でトドメを刺す。
マジックゲートに亡骸を収容して、次の部屋へ向かう。
歩いて行く内に面倒になって来たので魔物が探知できた部屋のみ行って魔物を倒して、魔物が探知できなかった部屋にはその部屋に続く通路に落ちている石で矢印を作り、入り口に戻るついでに調べる事にした。
魔物が探知できた部屋を2つ巡り魔物を討伐して、最後の4つ目の部屋の魔物を討伐する。
全ての亡骸をマジックゲートに収容して、再度広範囲の探知魔法をかけたが魔物は探知されなかった。
戻る際に魔物が探知されなかった部屋に向かい、中をざっと調べたが結局何もなかった。
最後の部屋を調べ終えると
「おや?」
とアイが呟く。
「どうしたの?」
と聞くと
「この部屋だけほんの僅かに魔力の痕跡が感じられます」
と言ってきた。
「え?俺が鉱山全体で使用した魔力ではなくて?」
と聞き返すと
「はい。全く別の、しかも少し異質な魔力です。不思議ですね」
と冷静に説明する。
「誰かが前にこの鉱山に来て討伐を断念する前に魔力を使ったからとかじゃないの?」
と少し緊張しながら疑問を口にするが
「いえ人間が放つ魔力とは少し違います、それで異質と表現しました。
でも、トラップがかけられているという訳ではないです。
その異質な魔力もほぼ消えかけていますし、今の所は心配する必要はありません」
(心配する必要ない)ねぇ・・・
「まあいいや。心配する必要が無いのならさっさと兵士を呼んで確認してもらおう」
と言い、鉱山の入り口に向かう。
そこまで時間が掛からなかったからか
「お?もう終わりましたか。早いですねぇ~」
と来た時と同じ兵士が待っていて、一緒に各部屋を確認する。
当然ながら兵士は魔法を使えないので、アイが言った<異質な魔力>の話題は出なかった。
「この鉱山って、俺が今日来る前に誰か入って攻略を断念したとかありますか?」
と念の為兵士に聞いてみたが
「いえ?それはありません。
この鉱山の依頼は昨日出されたもので、当時の炭鉱夫以外ならここに入ったのは貴方が初めての筈ですよ?」
と返って来た。
「そうですか・・・」
と返答する。
何の気はない質問だったので普通に流されて、各部屋の確認が終わると兵士達と一緒にギルドに戻る。
ギルドに到着したのはまだ陽が暮れる前。
受付に戻り兵士に報告してもらい、解体所に行って討伐した魔物の亡骸を出す。
「この量だと少し時間が掛かるが待合所で待つか?預けて明日にするか?」
と聞かれたが
「待ちます。まだ明るいし特にこの後用事も無いし」
と言うと一旦待合所に戻り、椅子に座って待つ事にした。
Dランクの掲示板を再度見てみたが、朝と比べて少ししか減っていない。
本当にこの国に立ち寄る冒険者が少なくなってるのかな・・・
なんて思いながら待っていると
「アイカワさ~ん、解体終わりましたよ~」
と受付の女性に言われたので、解体所に向かう。
預けた魔物の亡骸は11体、買取金額は金貨38枚。
まあ、こんなもんだろう。
「暫くこの国にいるのか?」
と雑談の中で聞かれ
「はい。
次の街や国の情報が手に入ればそちらに行くかもしれませんが、昨日来たばかりなので暫くは滞在しようかと思ってます」
と答えた。
「一つ聞きたいんですけど、武器を作る為の鉱物ってまだこの国の鉱山で採れてますか?」
と聞いてみた。
「う~ん、そうだなぁ。
一応採れてはいるが国内に出回るのはほんの僅かで、殆どは輸出に回ってるからなぁ。
新しい武器でも探してるのか?」
と言われたが
「いや、色々な国の名産が目当てで旅をして回っていてそれで・・・」
と答えた。
「そうなのかぁ。
まあ、残念だが鉱物以外この国には名物と言える物が無い。
それに今装備している剣は見た所ほとんど使ってないみたいし、アンタは魔導士だろう?
武器なんていらないんじゃないのか?」
身も蓋もない事をズバッと言われて返す言葉も見つからないが
「まあ、興味本位ですよ」
と苦笑いをしながら何とか返答する。
依頼の報酬と買取金額を合わせると合計で金貨50枚。
それを受け取り受付で手続きが終わると、リンクルに向かう。
リンクルに到着する頃には日も暮れ始めていたので、中に入るとすぐさま食堂に向かう。
食堂で晩御飯を済ませると、他にする事もないので部屋に戻る。
装備を外して椅子に座り一息つく。
「しかしあの依頼書の数は今までのどのギルドよりも多かったな~」
とギルドの様子を改めて思い出す。
「行方不明という出来事が他の国にもかなり伝わっているようですね」
とアイ。
「訪れる冒険者が少なくなってるらしいし、まるでコンラド共和国とは真逆だね」
とコンラド共和国との違いをまざまざと感じる。
「流石にコンラド共和国と比べると国の状況が何もかも違いますが、確かにそうですね。
あれだけの依頼書があれば、あの国の冒険者達も喜ぶでしょうね」
と俺の冗談にアイが付き合ってくれる。
「でも気になるなぁ。アイが言った(異質な魔力)。
一体何なんだろうなぁ、行方不明事件と何か関係があるのかな」
と言うと
「私にもわかりませんが、トラップの類なら発動する前に探知魔法をかければ分かりますから心配はないと思います」
とアイがアドバイスしてくれた。
「へぇ、探知魔法ってトラップも見抜けるのか。それは知らなかった」
初耳だな、そりゃ。
「今までトラップがあるダンジョンや屋敷に入りませんでしたし、魔法によるトラップはこの地上には存在しないので」
ん?この地上には?どういう意味だ?
まさかこの世界にはもう一つの世界でも存在してるのか?
んなわきゃ無いか。
それこそ自称勇者一行の(魔王存在説)が現実味を帯びてくる事になる。
(この世界に魔王など存在しない)
とアイも言っていたし、少なくともそんな事を匂わせる事象や事件には出くわしてはいない。
そんな重要な事柄があるなら、この世界に来る前に創生神様が教えてくれる筈だ。
「まあいいか。もうそろそろ寝ようかな」
と言いベッドに移動して寝ころぶ。
「おやすみ、アイ」
と言うと
「おやすみなさい」
の言葉と共にこの日も眠りについた。




