第八十七話
翌日、次の街の情報を手に入れた事で少し元気が出た。
<ルブリス王国>・・・歩いて4日程か。
かかる期間はコンラド共和国~アクレア公国~スリングの街の時の2倍。
いや、ゆっくり行けばもっとかかるだろう。
前回の野宿で土魔法を使ったスキルがかなり役に立つ事が分かったので、それほど不安はない。
(まあ、襲ってくる魔物の程度にもよるだろうが)
そんなこんなでいつもの魔力精錬の修行を終えた後、女将さんにルブリス王国に向かう事、そしてお世話になったお礼を言い、宿を後にする。
ルブリス王国についての情報についてもっと情報があればと思い、ギルドに向かう。
到着して中に入り受付に向かう。
「おはようございます。ちょっと聞きたい事があって・・・」
と受付の女性やその場に偶然いた所長に話しかけると
「おはよう、アイカワさん。どんな事かね?」
と返されると
「次の目的地をルブリス王国に決めたので、これから向かおうかと思ってるんですが、どんな場所か知っている方がいたら教えてもらおうかと思いまして・・・」
と言うと
「ルブリス王国!?そんな遠くまで行く気か?
途中、立ち寄って休めそうな街や国など無いぞ!?」
と驚かれた。
「はい。宿の女将さんからそれは聞きました。
歩いて行けば4日ほどかかる事も。
でも、このまま行く当てがなくてここに留まるのも、かと言ってキリアナ王国に戻ってもなぁって」
と言うと、その場にいた皆が呆れているのが表情から見て取れる。
「どうしても行くというのなら止めないが・・・まあいいだろう。
確か、一時期鉱山で財を成した王国だが、ここ最近は採掘量が減ってきていると聞いた事がある。
使われてない鉱山に魔物が住み着いて、魔物討伐が頻発しているともな。
だから依頼に困る事は無いと思うが・・・」
と表情を曇らす。
「え?どうしたんです?顔を曇らせて・・・」
と聞くと
「実は、あの国のギルドで依頼を受けた冒険者の一部が、依頼を遂行している最中に行方不明になるという事案がいくつかあってな。
無事生還してはいるのだが、行方不明になっている間の記憶が一切無いというんだ。
それを気味悪がって冒険者の間では、ルブリス王国には行かない方が良いという噂まで出ている」
討伐依頼の最中に行方不明?なんだそりゃ?
中の構造が複雑だから迷って外に出られなくなるとかか?
「でも、いくら放棄された鉱山だからと言ってもそこまで複雑な構造ではないですよね?
今まで何か対策は講じなかったんですか?
例えば、ルブリス王国の兵士を同行させて、出口までの間に待たせておくとか」
と言うと
「その方法も試したらしいが同行した兵士が言うには
(討伐の為別れて一番奥の部屋に行かせた途端、煙の様に冒険者達が消えた)
そうだ。
それから1~3日するとルブリス王国近くの草原に、行方不明になった冒険者パーティーが無傷で気を失って倒れているそうだ」
なんだか神隠しみたいだなぁ。
この世界にもそんな怪奇現象的なものがあるのかな?
しかし、今更他の街の情報を探すってのも骨が折れるしなぁ。
まあいいや。
「それでも行きますよ。
コンラド共和国からだってここまで来れたんだから、行けない事は無いと思うし」
と言うと
「しかし、馬車を手配していくには費用もそれなりに・・・」
と受付の女性の1人が言いかけると
「いえ、野宿しながら行きます」
と話すと
「ええぇぇ~~~!?」
と受付にいた全員が驚いていた。
そんなリアクションを気にも留めず
「それでは、今までお世話になりました。失礼しま~す」
と笑顔でギルドを去る。
いつもならもっと立ち寄る場所があるのだが、この街での挨拶回りは宿とギルドしかない。
という事で商店街に寄って、お惣菜を買い込む。
前回は1日3食を2日分買い込んだので、少なくとも今回はその2倍は買っておかないと。
まあ、朝飯を食べなければその分は節約はできるが。
時間的に丁度お昼のお客さんに向けて料理が出来上がって来た頃で、色々な店に沢山の総菜が並んでいた。
どれも美味しそうだったので、想定よりも多くの総菜を購入する。
最後にパン屋でパンを1斤分を8枚に切ってもらう。
マジックゲートに収めるついでに松明の補充をする為、道具屋に寄って松明も購入。
念の為広場に立ち寄り、テントに不具合が無いか等をを確認し終えて検問所に向かう。
検問所で手続きを終えて、リックス王国を後にする。
「しかしギルドの人達、凄く驚いてたなぁ。
まあ、歩いて4日もかかる場所に馬車も護衛も無しに単独で行こうとすれば、当たり前か」
と言うと
「それは当然の反応でしょう。
このような世界で4日も単独で野宿しながらというのは、相当な実力を持っている冒険者でも中々いませんから」
と返された。
「パーティーでそれをするならともかく、単独だもんなぁ。そりゃそうか」
と笑いながらアイとの雑談を繰り広げる。
アイと雑談をしながら進んでいると
「そういえばずっと不思議に思っていたのですが、貴方はどうしてタナカさんと話すとあそこまで不機嫌というか、熱が入るのでしょう?」
と唐突にタナカの話題になった。
「あ~、そう言われるとアイツと話すと何故かイラつく自分が出てくるな。
何でだろう?気にした事ないや」
思い返してみると、確かにタナカとは何故か関わりを避けようとしている自分がいる。
変に絡んできたり、無謀な事をしようとして周りを巻き込もうとしているからなのか。
しかし、何故か奴と話していると変なイライラが出てくる。
「まあ、良いんじゃないか?
奴も国王としての実権を手にした事だし、王としての仕事は山積みだろうから。
少なくとも俺としてはもう2度と会う事は無いね」
出来れば奴とは2度と関わりたくない。
そんな雑談を繰り広げつつ、順当に道を進んでいく。
念の為探知魔法をかけながら進み、魔物は引っかかったが敢えて戦闘は避けた。
そしてリックス王国を出て初めての野宿。
開けた草原にテントを張り、その周りに土魔法のスキルで小屋を作る。
外の松明に火を点け松明置き場に置いた後、ランタンに火を点けて小屋の中に入り、入り口を塞ぐ。
テントの中に入り、マジックゲートからクッション、寝袋、それにお惣菜とパンを取り出し晩御飯を済ませると、ランタンの火がテントの中をじんわりと照らす中、どのタイミングでキリアナ王国に戻るかを想像してみる。
「どのタイミングでキリアナ王国に戻ろうかな・・・」
と呟くと
「まだまだ行ってない国は沢山ありますが、どう考えていますか?
やはりリップさんの事もあってですか?」
とアイが聞いてくる。
「それも無いと言えば嘘になるけど、自分の魔導士としてのピークだったり、キリアナ王国に戻るタイミングがね。
前にも話したかもしれないけど、いくら創生神様から大魔導士の素質や10歳若い肉体を貰ったといえど歳を重ねればどこかで限界は来るだろうから・・・
そこを想像すると、どうしてもね。調子に乗って遠くに行きすぎた挙句
(キリアナ王国に戻る事が出来ませんでした)
なんて、みんなに対して格好がつかないからね」
と返す。
「そうですね。貴方なら以前話題に出た
(日本に似た文化の大陸)
に行きたいなんて言い出しかねないので、少し心配していました」
あ~、あったなそんな国があるって話。
「流石に言葉が通じないかもしれない国に行ってみたいなんて思わないよ。
そこまでのリスクを負う気には流石になれないしね」
と笑う。
そんな雑談を繰り広げていると眠くなってきたので
「もうそろそろ寝るよ。おやすみ、アイ」
と言うと
「おやすみなさい」
との言葉と共にこの日は眠りについた。




