第八十六話
今回はどこで区切っていいか分からず、少し長くなってしまいました・・・
タナカの使いと一緒に広場まで行き、2人でベンチに座る。
「で?公爵様からのお願いって何です?」
と俺が切り出すと
「実は・・・我が国周辺に時折飛来するエンシェントドラゴンがおりまして、そのエンシェントドラゴンの討伐にお力をお借りしたいのです」
と使いが言い出した。
思わず吹き出してしまうと
「どうかされましたか?」
と聞かれたが
「いや・・・」
と一応誤魔化した。
「因みにそのエンシェントドラゴンがアクレア公国に何か実害を及ぼしたとかは?」
と聞けば
「いえ、これといって実害はまだありませんが、相手はドラゴン。
いつ、どのような形で我が国に牙をむかれるかと思うと・・・」
いや、あのコンビは理由もなくそんな事をするわけがない。
「もう1つ聞いておきたいんですが、それは公爵様が直々に提案され実行しようとしている事なんですか?」
と再度聞くと
「はい。と言っても臣下達の色々な意見を1度吸い上げて、その中から選んだ1つがこの
<エンシェントドラゴン討伐計画>なんです」
はぁ~、何考えてんだ。あいつは。
前にアイに聞いたが(第28話参照)通常ドラゴンを相手にしようと思えば、国の総力を挙げてやっと勝てるかどうか。
それにスリングの街に来る途中に通り過ぎたが、国としての規模はキリアナ王国より全然小さい。
そんな国に、いくら有能な冒険者を集めた事が出来たとしても、戦力差をひっくり返すことは無理だ。
いやそもそも、有能な冒険者ならそんな無計画と言えるアホな計画に参加するわけがない。
「では、その計画を進める前に1つお願いがあります」
と切り出す。
「何でしょう?」
と返されると
「1度公爵様にお会いさせていただきたい。
そして2人きりで話をさせていただけないでしょうか?」
と提案した。
「それはどうして?」
と聞かれると
「以前、バルシス王国に滞在している時に同じ個体かは分かりませんが、エンシェントドラゴン飛来に遭遇しました。
誠に失礼に聞こえるとは思いますが、アクレア公国よりもバルシス王国は規模もとても大きかった。
なのにバルシス王国が取った行動は
(何もせず、住民は全て家屋の中に避難して外に出るな)
でした。
そのおかげかエンシェントドラゴンが街に降り立つことは無く、被害もまったく出ず、そのままドラゴンは国の外に飛び去って行きました。
脅威だから、怖いからと言って不用意にドラゴンに武器を向ければ、相手に返り討ちにされて全滅させられても文句は言えません。
だってこちらから仕掛けているのですから。
何も悪いことをしていない相手にただ(怖いから、いるだけで不気味だから)という理由だけで討伐を決定して本当に良いのか、公爵様にもう1度ご判断を私自身が仰ぎたいんです」
と柄にもなく熱弁を繰り広げた。
だってそんな馬鹿な事をしたら、巻き込まれたアクレアの人達の命が危険にさらされるし。
その熱弁をどこで聞いていたのか
「アイカワさん!」
とお付き、もといロイヤルガードの1人が後ろから声をかけてきた。
「貴方の御意見は聞かせていただきました。公爵様との1対1の会談を用意しましょう。
勿論、周りには誰も置かずに」
と言い出した。
「実は公爵様からも
(この計画にアイカワさんを誘うなら、実行に移す前にまずあの人の意見を聞いてから総合的な判断をしたい)
と言っておられたので、私共としては是非貴方にお越しいただいて、そのご意見を公爵様に進言していただきたい」
いや、ドラゴンにケンカを売って命を落としたくないだけだろ、なんて思っていると
「今からでも我が国にいらしていただきたいのですが、宜しいでしょうか?」
と聞かれ、予定も無かったので
「ええ、良いですよ」
と了承すると同時に馬車が目の前に到着する。
「本当の事を言うと、リックス王国と事前に打ち合わせをしておきまして、貴方の出国手続きはもう済ませておきました。
急ぎましょう」
と馬車に乗り込むと結構なスピードで発進する。
かなりの急ぎで走ったおかげか、そこまで時間がかかる事無くアクレア公国に到着した。
謁見の間に通され、中に入ると玉座にはタナカことアクレア公爵が座っていたが、俺を見るなり
「ようこそアイカワさん!」
と言って立ち上がり俺に近づこうとするが、臣下が
「ん”ん”んんッ」
と咳払いするとハッと我に返り
「良く来てくださった。会談の場を設けているのでまずはそちらへ」
といい、執事の案内で応接間に通されてそちらで話し合う事になった。
応接間の椅子にお互い座ると
「では、他の者達は外してくれ」
とタナカが言うと護衛に就いている兵士、臣下共に応接間の外へ出ていった。
「ふぅ、これで落ち着いて話し合える。では、始めましょう」
とタナカが言うが、探知魔法を使うと応接間の壁の向こうにちゃっかりと臣下と兵士が聞き耳を立てていた。
俺は急に立ち上がり壁に向かって
「会談を設ける条件が違いますよ~」
と叫びながら壁をドンドンとかなり強めに何回も叩く。
その後探知魔法をかけると、応接間付近からは兵士も臣下もいなくなった。
「では早速。話は部下から聞いたけど、エンシェントドラゴンを討伐しようとしてるんだって?
本気でそう思っているのか?」
と聞くと
「はい、実はそうなんです。
臣下達からまず何をすればよいか意見を募ったところ、そんな意見が出たので・・・」
と言うとすかさず
「バカだろう、アンタ。何考えてんだ?
この国の規模の兵力でドラゴンに立ち向かえば瞬く間に全滅するぞ。
それに何もしていないドラゴンに対して剣を向ければ、戦力を持たない一般国民まで犠牲になる可能性だってある。
そうなった時、アンタは亡くなった兵士や国民に対してどう責任を取るつもりだ?
ドラゴンがこの国を全滅させれば、責任も何もないんだろうがな。
少なくともアンタは愚かな国王としてこの世界で後世に名を残す事になるだろうよ」
と正直な意見をタナカに浴びせる。
「しかし、転生者の貴方のお力を借りる事が出来れば何とかなるかと思いまして・・・」
とまた素っ頓狂な意見を出すと
「そこも含めてバカだって言ってるんだろうが!
ここ最近、この付近にグリフォンの群れが出現して困ってなかったか?」
と聞くと
「はい。よくご存じで。
それがいつの間にかグリフォンの群れが全滅しているとの報告があって、それを機にお忍びでリックス王国に行ったり、会談の場を設ける事が出来たりと・・・」
と言い終わる前に
「そのグリフォンの群れを退治してくれたのは、お宅らが退治しようとしているエンシェントドラゴンだよ。
腹が減ったから食事のついでだったらしいがね。
それにあのエンシェントドラゴンの中には俺達と同じ転生者の魂が存在している」
と言うとタナカは
「え!?そうなんですか!?」
と驚いた声を上げると
「そうだよ!なんせ本人に会って直接聞いたからな。
今はエンシェントドラゴンの人格と、その転生者の人格が1つの体に同居している状態だ。
エンシェントドラゴン本人も腹が減らない限りは、魔物を襲ったりしないし、ましてや人間を襲う事などありえないと言っていたよ。
そんな人間にとって無害な存在をこちらが襲えば、返り討ちに遭うどころか、それをきっかけに人間に敵意を持つ可能性もあるかもだろ!」
とエンシェントドラゴンが無害な存在であることを説明する。
「つか寧ろ、グリフォンの群れがいなくなったからこそ、リックス王国との会談の場を設ける事が出来たんだろ!
理解できたなら、もう2度とそのエンシェントドラゴンを討伐しようなんて思うなよ。
アンタの命がどうなろうと知った事じゃあないが、そのバカな決定に付き合わされて命を落とす兵士やその家族、そして自国民達の命の事もちゃんと考えろ!!」
と机をドンと1回叩きながら説教ともとれる説明をする。
「じゃあ、私はこれからどうやって臣下達の信頼を勝ち得ていけばいいんですか?」
とボソッと言うと
「あ?」
と俺が聞き返す。
「私がこの国の実権を取り戻してからまだ日が浅すぎる!
下手をすれば、また臣下の一部が国の実権を取り戻そうと動くかもしれない。
何か成果を早く上げないと、国を平和にしようと取り戻した実権が・・・」
と下を向き、悔しそうに言うもんだから目の前まで行ってタナカの胸ぐらをつかみ
「テメェ、何言ってんだ?
実権を持った途端もう権力にしがみつこうとしてんのか?アァ!?」
と語気を強めた。
「そ、そんなつもりは・・・」
と否定するタナカに
「だったら、お前は国内の権力を自分の手に戻したら、まず先に何がしたかったんだよ?」
と聞くと
「わ、私はただ、この国の国民が飢えに苦しむ事無く、穏やかな時間を過ごしてもらう為の国を作りたいと思っています」
と弱々しい感じで言う。
「だったらまず臣下ではなく、国民が何に困っているかどうかを直接聞けばいいだろ。
それにスリングの街から帰還させた人々が住む場所の整備計画は進んでるのか?」
と聞くと
「はい、それは着実に進んでます。
何だったら家の建設には、手の空いている兵士にも参加してもらってますから、当初の計画よりは早く整備されるかと・・・」
と計画の進捗状況を説明すると
「ならそれでいいじゃねぇか!
分からないところがあれば隣のリックス国王に聞きにいけば良いだろ、親交を深めるついでによ」
と掴んだ胸倉を離して、自分の席に戻る。
「なにはともあれ、絶対にエンシェントドラゴンの討伐なんて実行するんじゃない。
すれば取り返しのつかない大きなしっぺ返しを喰らう事になる。
そうなれば自分がさっき言った
(国民が飢えに苦しまず穏やかな時間を過ごしてもらう為の国づくり)
どころじゃなくなるぜ」
と言うと
「分かりました。今後無茶な政策は絶対しません。
臣下ではなく国民に直接聞きます。
自分の為にも、何より国民の為にも」
なんかどこかの八代目将軍みたいな事を言ってるが、それが1番だろう。
「じゃあ、俺がここにいる意味はもう無いみたいだから帰ってもいいよな。
と立ち上がると
「え?今から戻るんですか?リックスの城下町まで?夜までには間に合いませんよ」
と驚かれたが
「この国の人達は他の国の人間にはあまり慣れてないんだろ?
なら俺がいても色目で見られるだけだ。
それはお互いに良い思いはしないだろ?
だからもうリックスに戻る。俺なら急げばなんとかなるしな」
と立ち上がり応接間の窓に向かう。
「ああ、検問所の兵士への通達は要らないからな。
どうせ間に合わないだろうし。
じゃあな、二度と国王としての選択を間違うなよ」
と言うと窓を開けて外に出る。
「さてと、出たはいいもののリックスはどっちだったか・・・」
と呟くと
「リックス王国へ向かうには、城を出て大通りを右に曲がり、検問所を抜けて真っ直ぐ行けば着きますよ」
とアイがアドバイスしてくれた。
「因みに肉体強化を発動しっぱなしでリックス王国まで走っても、大丈夫かな?」
と聞くと
「大丈夫ですよ。
スズキさんから頂いたスキルのおかげで、リックス王国までなら肉体強化の発動を持続し続けても翌日に疲労は残らないでしょう」
とOKが出たので
「ようし。じゃあ早速試してみるか!」
そう言うと肉体強化を発動させ、魔力を体の隅々までいきわたらせる。
そして、一気に走り出す。
驚くほどのスピードが出ているのを実感する。
自分が見ている景色の全てが止まって見える程だ。
当然だがアクレア公国に向かう馬車よりも早い。
一瞬で検問所を通り抜けて、アクレア公国を飛び出す。
集中して走っているとスリングの街が見えてきた。
寄る必要もないので、街の人に迷惑が掛からない様に大通りを避ける。
そして城下町が見えてきたので1度止まり、肉体強化を解除して検問所に到着する。
兵士に登録証を見せると
「え?アイカワさん?もう戻ってこられたのですか?
てっきりアクレア公国に1泊するのかと・・・」
と言いかけると
「いや~、あの国の人達は他国の人達にあまり慣れてないので、俺なんかがいたら迷惑になるでしょうから、話し合いが終わったらすぐ帰って来ちゃいましたぁ~」
とおどけて見せた。
入国手続きも終わり、お腹もすいたので宿に戻る。
宿に着く頃にはもう陽が暮れていた。
宿に入ると女将さんが
「あらアンタ!リップと一緒にキリアナ王国に行ったんじゃないのかい!」
と驚かれたが
「だから行きませんて!ちゃんと見送りましたよ!」
とツッコむと
「それより食堂で何か食べたいです。
お昼を食べてないからもうペコペコで・・・」
と言うと
「あいよ」
と言い、食堂に向かう。
食堂で料理を食べていると女将さんがやって来て
「あんたこれからどうするんだい?どこか行く当てでも?」
と聞かれたので
「それが無いんですよねぇ。
キリアナ、バルシス、コンラド、リックスと回ってきましたけど、次の国の情報が入ってこないんですよ。
情報が無いんじゃ動きようが無いし。
かと言ってまたキリアナ王国に戻ってもなぁって感じだし、もうどうしたもんかと」
と女将さんに助けを求めると
「だったらかなり遠いけど<ルブリス王国>って国があるよ」
お!待ってました!新たな国の情報!
「いったいどんな国なんです?」
と目を輝かせて聞いてみると
「何でも一時期鉱山で名を馳せた国らしいけど、今では鉱石の採掘量が減って来てるって噂だねぇ。
それにさっきも行ったけど馬車で行っても最低2日、歩いて行けば大体4日はかかるよ」
歩いて4日かぁ、結構あるな。
でも一応情報は得られたので
「ありがとうございました。参考になります」
と礼を言い、部屋に戻る。
部屋に戻ると装備を外し、ベッドに横たわる。
「全く、タナカは何考えてんだ。
スズキさんがドラゴンと知らなかったとはいえ、あのまま討伐命令を出してたら下手したらこの国までとばっちりを喰らってたぞ」
と言うと
「中々のお説教でしたね。タナカさんに対して」
とアイが言ってきた。
「ああでも言わないと分からないでしょ、きっと。
1つ救いだったのは、権力に固執してるんじゃなくて、功を焦ってただけって事だね」
もしあれでもう権力に囚われていたなら、俺があの場でタナカを・・・
いや、考えすぎか。
そんな事をしても俺に何の得も無いし、あの規模の国なら下手したらリックス王国にあっという間に・・・
ま、いいか。もう寝よう。
「もう寝るよ。おやすみ、アイ」
と言うと
「おやすみなさい」
との言葉と共にこの日は眠りについた。




