第八十四話
翌朝。
恒例の魔力精錬の修行をリップとしていると、ふと気づいたことがある。
ほんの少しづつではあるが、リップが魔力を出来ている時間が長くなっている気がする。
ちゃんと成果は出ていて、教えてる自分も少し笑顔になる。
その様子をリップにばれないように修行の時間を終了する。
軽めの朝食を食堂で済ませた後、ギルドへ向かう。
ギルドの中に入り
「おはようございま~す」
と受付の人達に挨拶しながら掲示板へ向かう。
待合所には兵士が数人とパーティーが2組、椅子に座ってくつろいでいた。
色々と依頼書が貼られている中、気になる依頼書が目に止まる。
<教徒が集団で生活している施設の引っ越しの警護>
・・・何だこりゃ?
気になったので手に取って、受付で内容を聞いてみると
「ああ、それですか。
アクレアの教徒達が集団で生活している施設がスリングの街にあって、アクレア公国に向かう途中までの護衛をお願いしたいそうなんです。
万が一、魔物や盗賊から身を守りたいからって。
あと1組パーティーが足りないので受けてみたらいかがですか?」
と言われた。
「途中って、どういう意味です?」
と返すと
「アクレア公国とリックス王国との丁度中間に草原があって、そこにアクレア公国の兵士達が待機しているので、そこで護衛を引き継ぎます。
その為、無事引継ぎしたのを確認する為この国の兵士も数名同行するそうです」
という事なのでリップに
「どうする?」
と聞くと
「受けよう?私達を入れて3パーティーなら中々の数だし、兵士も数名いる事だし」
というので
「分かりました。受けます」
と依頼を受ける事にした。
「では、他の3パーティーはそちらの方々になるので、一緒にスリングの街のギルドで依頼した教徒の方々が待っているので、一緒に行ってください」
と待合所の集団が紹介されると
「よろしくお願いします」
と挨拶された。
「では時間の余裕もそんなにないので、こちらで用意した馬車で早速スリング街に行きましょう」
と兵士に促され、馬車に乗りスリングの街に向かう。
スリングの街のギルドの前に到着すると、かなりの数の教徒が待っていた。
「あ~、アイカワさん!久しぶりですね~」
とよく話していた受付の女性が出迎えてくれた。
「お久しぶりです。今回この依頼を受ける事になったので来ました」
と言うと受付の女性がリップをチラッと見て
「城下町で彼女作ったんですかぁ?なかなかやりますね~」
とからかってきたが
「バルシス王国での知り合いです。そんな関係じゃありませんよ」
とリップと笑いながら否定する。
少し話し込んでいると
「では、これより出発します。
護衛を担当している魔導士の方々は、定期的に探知魔法をお願いします。
お願いするタイミングは同乗する兵士が言うので、何か引っかかったら兵士に知らせてください。
では、出発します」
と言うと一団が合流地点に向けて出発する。
順当に道を進んでいる中ゴブリンがいるとかの報告は回ってきたが、盗賊がいるとか、強力なモンスターがいるとかの報告は来なかった。
ワンチャン、エンシェントドラゴンことスズキさんと出くわさないかとワクワクしていたが、流石にそんなことは無かった。
探知魔法をかけながら進んでいると、教徒達の雑談がそこかしこから聞こえてくる。
「やっとスリングでの生活が安定してくるかと思えば、今度は帰還命令か」
とか
「公爵様が実権を握ってた大臣達を全員追放したんだろ?
財産のほぼ全てを没収して、それを俺達が住む為の資金に充てるんだろ?」
とか
「居住地拡大の為の開拓に参加すれば、1家族につき金貨を毎月金貨5枚貰えるらしいぞ」
とか聞こえてきた。
へぇ~、ちゃんとまともな政策を設定してんじゃん
出発前に少し聞いたが、この集団は第1陣で同じ規模のグループがもう1組いるらしい。
つか、毎月金貨5枚とはいえこの規模の2グループに支給できるって・・・
どんだけ長い期間不正を働いてたんだ?追放された大臣達は・・・
「そろそろ合流地点に到着します。
到着する前に煙幕弾で合図を送ります」
と兵士の説明が終わると
「何も起きないね~」
とリップが暇そうに呟くと
「何も起きないに越したことないでしょ」
と苦笑いをしながら返すと
「お二人はどんな関係ですか?付き合ってるとか?」
ともう1人の兵士が雑談に参加してくる。
「違いますよ~。
前にいた街で何度かお世話になっただけですよ~」
と笑いながら否定する。
そんな雑談をしている最中にも探知魔法をかけると、遠くの方に人間の集団が引っかかる。
その瞬間他の護衛の馬車から
「盗賊だーーー!!」
と大きな叫び声が聞こえる。
「補助魔導士の方は教徒の馬車に魔法障壁を!
攻撃魔導士の方は奴らの迎撃を!」
と兵士から指示されて、その通りに動く。
「もちろん生け捕りが前提ですよね?」
と兵士に聞くと
「出来ればそれでお願いします」
との返答。
盗賊の中に布を巻いた様な装いの人物がいたので
(もしかしたら盗賊の中に魔導士がいるかもしれない)
と一瞬身構えたが、雷魔法を当てていっても相手の盗賊の中で魔法障壁が発動はしなかった。
盗賊達が次々と雷魔法で気絶して捕縛されていく中、合流地点で待機していたアクレア公国の兵士達も駆け付けた。
捕縛されている盗賊の何人かが何もない草むらをチラチラ見ているので、気になってその方向へ確認しに行ってみると草むらの中から
「ひ、ひゃぁぁ~~!見つかった~~~」
と情けない叫び声をあげる痩せ細った3人の男性を見つける。
一見、制服風のちゃんとした服を着ていたがよく見ると所々破れたり、汚れていた。
取り敢えず戦闘能力が全くなさそうだったので、弱い雷魔法をかけるとあっという間に気絶してしまった。
その3人を1人は肩に担いで、残り2人を片手にそれぞれ持って襲撃現場に戻る。
「あの~、少し離れた所でこんな連中を見つけたんですけど」
と3人を地面に置くと
「あ、こいつら!手配書に書かれていた追放された筈の大臣達じゃないか!」
と兵士達が声を上げる。
あ~この服、どこかで見た事があると思ったらリックス城の門で揉めてた連中と同じ服だ。
「何処にいましたか?」
と聞かれ
「あっちの草むらの中に隠れてこちらを覗いていました。
目の前まで行くと(見つかった~~)と情けない声を上げてたので、弱い雷魔法をかけて気絶させて連れてきました」
と説明すると
「じゃあ、盗賊をそそのかして襲撃させたのは、コイツらなんじゃないのか?」
と兵士達が話していると兵士の一団が俺達の所に歩いてくる。
「ご苦労様です。アクレア側の責任者ですが、何かトラブルですか?」
と偉そうな声で同じ班の兵士に話しかけてきたのは、タナカのお付きをしていた2人の内の1人だった。
そのお付きの兵士が俺の顔を見るなり
「貴方も参加されていたのですか!」
と言うと
「こんな奴らを向こうで見つけました」
と3人に対して指をさすと
「あ!こいつら!じゃあこの襲撃の首謀者はこいつらか!!」
と声を上げる。
その声に反応したのか、3人が目を覚まし内1人が
「ひぃぃぃ~~~!おゆるしを~~~!!」
と泣き叫ぶと
「愚か者共め!公爵様が温情を与えて命だけは助けてやったというのに!
恩を仇で返すようマネをして!!!」
と剣を抜いて3人に切りかかろうとするそいつをいったん止める。
「あのさぁ、それに関してはそっちの国の中で処理してくれない?
こいつらがどれだけの不正を長年していたか知らないけど、俺達はさっさと依頼を終わらせてとっとと帰りたいんだよ。
連れて帰ったら煮るなり焼くなり好きにしていいからさ~」
とめんどくさそうに言うと
「そ、そうですね。取り乱して申し訳ない」
と引き抜いた剣を収める。
盗賊達と教徒達をアクレア側に引き渡し、俺達はリックスに引き返す。
「そっちは何もなかった?」
とリップに聞くと
「いいえ?
誰かさんがバッタバッタと盗賊達とその首謀者達まで捕まえたものだから、もう暇で暇で」
と皮肉ともとれるセリフを言う。
「でもまさか元大臣が盗賊をそそのかすとはなぁ。
盗賊も盗賊で国に引き返す教徒を襲っても意味が無いとは思わなかったのかな?」
と俺が言うと
「これは想像ですけど、戦力になりそうな人間を従わせて、ゆくゆくはアクレア公国に攻め入ろうとしたんじゃないんですかね?
例えば戦力にならない女性や子供を人質に取ったりして。
このグループがあともう1つあるのでそのグループと今回のグループを合わせると結構な人数になりますからねぇ」
と同じ班の兵士が言う。
確かにそうかもしれない。
今回の教徒達があと1グループあるから、それを加算して盗賊達と合わせるとそれなりの人数になる。
その戦力でアクレアを・・・
いやいや!いくら何でも国1つ攻めるのにその程度で落とせるはずないでしょ!
「まあ、なにはともあれ犠牲者が出なくて何よりですよ!」
と無理矢理その場をまとめると
「そ、そうだな。そういう事にしよう!」
と帰りの馬車の中は笑いに包まれる。
リックスの城下町に到着すると馬車がギルドの前に止まる。
中に入り、受付で依頼完了の手続きを済ませて依頼料を貰う。
「あ~、お腹空いた~。お昼食べてないからもうペコペコだよ~」
とリップが待合所の椅子に座り込む。
「そういえばそうだった。改めて言われると俺もお腹が空いてきた~」
と俺も椅子に座る。
一緒に参加した2組のパーティーが俺達のそんな様子を笑顔で見ながら
「では、お先に~」
と言い、ギルドを出ていく。
「俺達も宿に戻ろう?そんで少し早いけど食堂で晩御飯食べよ?」
と何とか立ち上がる。
「そうね~。そうしよ~」
とリップも若干ふらつきながら立ち上がり、一緒に宿に帰る。
宿についたら真っ先に食堂に行き、早めの晩御飯を食べる。
いつもは1人1品しか頼まないが、お腹が空いていたせいか今日は1品ずつサイドメニューを追加。
お腹がいっぱいになった状態でそれぞれの部屋に戻る。
装備を外すと椅子ではなくベッドに直行。
「ふはぁ~、久々にこんなに食べたぁ~」
と呟くと
「少し無理をしましたね。動きがだいぶ緩慢になっていますよ?」
とアイがツッコミを入れる。
「そりゃ、あんなに食べたらね。
あ、思い出した。明日はリップがキリアナ王国に行く日か。
もしかしたらエヴァン達とパーティー組んだりして」
と冗談を言うと
「あながちあり得ますね。エヴァンさん達がDランクに昇格していればの話ですが。
そこにあと1人剣士か攻撃系の魔導士が加わると完璧なパーティーになりますね」
ああ、確かに。
そうなれば連携さえ上手くいけば、かなり強いパーティーになるはず。
「明日馬車が発つ前に、さりげなくエヴァン達の事を言っておこうかな?」
とアイに提案すると
「その方が良いと思います。
そうなればキリアナ王国内でのリップさんの生活も安定するかもしれませんし」
と賛同してくれた。
「じゃあ、そうするよ」
と返して、ひとしきりアイと雑談をしていると日も暮れて、暫くすると眠くなってきた。
「じゃあ、もう寝るよ。おやすみ、アイ」
と言うと
「おやすみなさい」
との言葉と共にこの日は眠りについた。




