第七十八話
翌朝。
昨日寝る前に決めた通り、少し早めに起きてギルドへ向かう。
この時間にギルドに行っていつもと同じような内容の依頼しかなかったら、城下町へ移ろう。
そう思いながら歩いていると、街中でタナカを見かけた。
相変わらずお付きの部下を2人引き連れて、俺とは逆方向へ向かう。
確かあっちはアクレア公国へ行く道だったはず。
どうやら昨日の言葉通りに、1度国に帰る様だ。
気づかれない様に、人混みに紛れて通り過ぎる。
仲が良ければ話しかけたり激励したりするのだろうが、昨日会って話したばかりで共通点と言えば転生者という事だけ。
特段、こちらからべたべたしに行く必要は全くない。
そう思いながら歩いていると、ギルドに到着する。
中に入り早速掲示板を確認しに行っても、結局内容は変わらず。
「こりゃあダメだな。よし、城下町へ移るか!」
と呟きながら受付へ向かう。
「あの~、リックス王国の城下町ってどう行けばいいんですか?」
と受付の女性に聞くと
「城下町だったら目の前の大通りを真っ直ぐ行けば着きますよ。
一応、教徒でない事の確認作業がありますけど」
と言われた。
また、あの確認作業があるのか・・・
「城下町には教徒を入れない様にしてるんです。
1度入国を許可してしまうと、この街みたいにどんどん入って来るので」
大変だなぁ、などと他人事みたいな感想を思いつつギルドを後にする。
教えて貰った通りの道を進んでいくと、ほどなくして城下町に到着する。
検問所で教徒ではない事の説明を何とか終えて、入国が許可された。
時間にしてお昼手前くらいだろうか、何も食べずに出てきたのでお腹が空いたので早めに食堂に入り、昼食を食べる。
お会計を済ませる時にギルドの場所を聞いて、食堂を後にする。
ギルドに到着して中に入る。
早速依頼書が貼られている掲示板に向かうが、お昼を過ぎたこの時間帯に残っていたり、追加されている依頼なんてない。
「まあ、そりゃそうだよな」
なんて小声で呟きながら受付前を通り過ぎようとすると
「アイカワさん!」
と声をかけられた。
なんだ?と思いながら声の方を振り向くと、バルシス王国で知り合ったリップが立っていた。
「リップ・・・、リップじゃないか!なんでこんなところにいるの!」
思わずびっくりして声を上げると
「良かったぁぁ~~、やっと知り合いに会えたぁぁ~~」
と泣きながら抱きつかれた。
ひとまずリップが落ち着くまで待って、待合所の椅子に座りここにいる理由を聞く。
「実はね、アイカワさんがバルシス王国を出てから少しして、ソフィアが王国の専属魔導士の試験に合格してパーティーを抜けたの。
その後ダンカンが冒険者を辞めるって言いだして・・・」
と説明し始めた。
「え?急に?どうして?」
と俺が聞くと
「ソフィアが抜けた後は3人で何とか頑張ってたんだけど、なんかパーティーのバランスみたいなのが崩れたみたいで、連携がうまくいかなくなってきたの。
そこからパーティー内がギクシャクしだして。
何とか仲直りして続けたんだけど、限界が来ちゃってね。
解散した後ダンカンは剣士を辞めてマオと結婚して、マオの家に婿養子に入ったの。
あの2人は元々付き合ってたから。
私も冒険者を辞めて、どこかで働いて、ダンカンとマオの幸せを見守ろうかななんて思ってたんだけど、魔導士としての自分も捨てる事が出来なくてね。
それで1人になった私は、キリアナ王国経由でリックス王国に来たの」
それでここにいたのかぁ、思い切った決断だなぁ・・・
「私とダンカンは孤児で、両親がいないの。
だからダンカンは婿養子になったんだけど、私は孤独になっちゃって。
マオとダンカンは私が王国を出るのを必死に止めてくれたんだけど、あの2人を見てると何だか私だけ取り残された気がして、時折たまらなくなるの」
何だか分かる気がする。
たまに会う親戚家族の幸せな風景を見ていると、たまらなく孤独感に苛まれる時がある。
(まあ、自分の意思で孤独になっているから当たり前なんだが)
だがあの
(自分1人だけ無人島に取り残された感じ)
と言えば理解してもらえるだろうか、目の前にいるのにその親戚家族と自分の間に絶対に乗り越える事が出来ない壁があるあの感じは、時折とてつもなく心を締め付けられる。
「新たな仲間を見つけようとは思わなかったの?
或いはリップも専属魔導士の試験を受けようとか・・・」
と聞いたが
「まず専属魔導士の線は無いわね。
実技試験だけではなく学科試験もあるから、事前準備無しに受かる程甘い内容ではないの。
ソフィアが前々から努力してたのは知ってたから、何も努力していない私がいきなり一緒に試験を受けても何か悪い気がして・・・
それに新しい仲間を見つけようにも、補助魔法の魔導士なんてそこまで重宝される存在ではないから。
環境を変えれば何とかなるかと思って、資金の殆どを使ってここまで来たはいいものの、私1人じゃ受けられる依頼なんてたかが知れてて途方に暮れてたの。
そんな時にアイカワさんを見て、安心して思わず泣いちゃって・・・」
とリップが苦笑いをする。
「これからどうするつもりなの?この街に留まるの?まさかまた別の街に移ろうとか?」
と聞くと
「いいえ、もう少しお金を貯めてキリアナ王国に戻ろうと思うの。
あっちの方が何となく私に合っている気がするし、もしかしたら有名な元魔導士のダンさん夫婦に会えるかもしれないし」
いや、動機が有名人に会いたいって・・・
「じゃあお金が貯まるまでの間、俺とパーティー組む?
この街に今さっき来たばかりだから、どんな依頼があるか分からないけど」
と言うと
「いいの?だったら是非そうしたい!」
とリップが歓喜の声を上げる。
「じゃあそうしよう。あ、泊る宿をまだ見つけてなかった。
別々の宿だと合流するのは面倒だし・・・」
どうせ一緒に行動するなら一緒の宿の方が良いが、どうしようかな。
「だったら、一緒の宿に泊まろうよ!食堂も隣にあるから便利よ?」
と言われた。
「お、良いね!じゃあそこにしよう」
そんなこんなでリップが宿泊している宿に向かう事になった。
「着いたわ、ここよ」
と言いながら扉を開けると
「いらっしゃ・・・おや?もう仲間を見つけて来たの?
まさか、アンタのコレかい?」
と女将さんらしき女性が親指を上げてからかう仕草を見せる。
いや、男性を見て親指で表現って・・・昭和か!!
「もう女将さんったら~、違いますよ~。
前の街にいた時に一時期仲間だった人で、今日ギルドに行ったら偶然会ったんですよ~」
と明るそうな声でやりとりをする。
ついさっきまで孤独感に苛まれていたとは思えないほど明るい。
この女将さんに救われているのか、無理しているのか・・・
「晩御飯食べるんでしょ?」
と女将さんに聞かれて
「ええ、いただきます。食堂へ行きましょ!」
とリップに腕を引かれて食堂に向かう。
食堂で晩御飯を食べた後
「じゃあ、貴方は隣の部屋ね」
と言われ部屋に案内される。
部屋に入り装備を外して、椅子に座る。
「まさかこの国でリップと会うとはなぁ」
と呟くと
「そうですね。私も驚きました」
とアイが話しかけてきた。
「でもソフィアが抜けた程度でバランスが崩れるものなのかなぁ・・・」
補助系の魔導士が1人抜けても、さほど問題はなさそうだけどなぁ。
「いえ、この世界でパーティーを組もうとすると
(剣士、攻撃系魔導士、補助系魔導士2人)
というのが基本なんです。
補助系魔導士が1人でも抜けると、他の3人が抜けた1人をカバー出来る程実力な上がらないと、リップさんが言った通り連携が取りづらくなってしまうものなんです。
貴方は1人で出来るので苦には感じてはいないでしょうが、大抵のパーティーは色々と大変だと思いますよ」
と説明してくれた。
「へぇ~、そうなのかぁ。大変なんだなぁ」
とリップには申し訳ないが、半ば他人事の様なリアクションしか出ない。
「明日からどんな依頼を受けようかなぁ。
リップがいるとなると、変に重力魔法とかは使えなくなるけど・・・まあいいか。
明日、依頼を見つけてから考えよ」
とベッドに寝転ぶ。
「それに俺と再会して泣き出すって事は、余程精神的にギリギリだったんだろうなぁ」
俺の顔を見た途端だったもんなぁ・・・
「慣れぬ土地で女性魔導士が1人でやっていくのは、かなり大変だという事です」
だよなぁ、あの泣きっぷりを見ていると大変なのは想像するのは容易だ。
「とりあえず、もう寝るよ。おやすみ、アイ」
と言うと
「おやすみなさい」
とアイの言葉と共にこの日は眠りにつく。




