第七十話
翌日。
目を覚まして今日何するかを考えてみる。
金貨輸送任務をこなしたのだから今日1日は何もせずにいようかと考えてはいるのだが・・・
「結局娯楽という娯楽がカリムの街には無いからなぁ・・・。かといってラリムの街なんかに行きたくないし。
でも、鎧が出来るまで2日かかるし・・・どないしよ」
と呟いていると
「もう1度カリムの街を散策してみてはいかがですか?
何か新たな発見があるかもしれませんよ?」
とアイに提案されたが
「でも、前に散策して直接入った店といえばアート、ハリー、あと3つの武器屋くらいか。
食べ歩きしようにもお総菜のお店がメインで、あとは店の中に入って食べる形式の飲食店しかなかったから個人的に外れだと思う店に入るのも何かなぁ・・・」
俺はグルメという訳ではないが、やはりお金を出して食べるからにはハズレと思う店には入りたくない。
それにあり得ないとは思うが、キリアナ王国の時やミハイル親子等、ある程度理解のある人間なら良いが、下手に王族との繋がりが出来て何か面倒くさい事に巻き込まれる可能性もある。
ギルドでも言われたが
(ギルドを通さず私的に依頼を受けると、最悪の場合登録証のはく奪)
という説明を思い出す。
何か権力者が絡むトラブルを助けて
(個人的に依頼を受けてくれないか?)
と上手い事丸め込まれてしまえば、折角イーサンに推薦状まで書いてもらい取得出来た<魔導士>の登録証も失いかねない。
そんなのはまっぴらごめんだ。
色々な事を頭の中で堂々巡りをしていても意味が無いので、取り敢えず散歩がてらギルドに向かう事にする。
ギルドに到着して中に入ると、相変わらずの人の混み様。
だがピークは過ぎていた為か、比較的建物内は落ち着いた雰囲気が流れていた。
受付の女性が
「おはようございます、アイカワさん。依頼を受けに来たんですか?」
と挨拶される。
「いや、今日は依頼を受ける気はないんです。散歩がてらちょっと寄ってみただけですから。
それにしても毎度の事ながら凄いですね。」
と苦笑いを浮かべながら返すと
「その落ち着き様だと、ラリムの街でギャンブルには手を出してはないみたいですね」
と言い出し
「私、ギャンブルに手を出す人って苦手なんです。
そういう人って殺気立ってるっていうか、態度が悪いというか、とにかくアタリが強い人が多くて・・・」
と表情を曇らせながら話す。
まあ、昨日までその殺気立ってる人達が店に支払ったお金の一部を、お城に運び入れる仕事をしてたけど。
日頃から色々な鬱憤が溜まってるんだろうなぁ。
そうだ、ここであれに関する事を聞いておこう。
「ちょっと聞いておきたい事があるんですけど、いいですか?」
と話題を変える。
「なんですかぁ?デートのお誘いですかぁ?私こう見えて面食いなんですよぉ?」
なんだそのリアクションは。なんでそんな昭和くさいんだよ・・・
「違いますよ。
アクレア公国について何か知っている事があれば聞いておきたいと思って」
と話すと
「あの国ですかぁ。
あの国は周辺の国との国交がないらしいので、名前を知っているくらいでどんな国なのか、ほとんど聞いたことがありませんねぇ。
唯一知ってるのは
(料理人達が挙って修行をしに来る)
ってことくらいですかねぇ」
やっぱりそれくらいか・・・
確かアイもそんなことを言っていたよな。
「この街の料理屋さんに聞いてみたらどうです?
他に何か情報がつかめるかもしれませんよ?」
うーん、ハリーの店主なら何か知ってるかな?帰りに聞いてみるか。
「あと、アクレア公国に行く手段は馬車だけですか?
その場合ってやっぱり馬車をギルドで雇う事になるとか?」
と聞くと
「それでも構いませんが、個人で馬車を頼むとなるとそれなりにしますから、出来れば他の誰かと相乗りで頼んだ方が費用は抑えられますよ。
それに、あの国に直接行く人なんて料理の修行以外でいませんから、そもそも観光で入国出来るかどうか・・・」
と説明された。
観光目的で入国が難しいって、どんな鎖国的な国なんだよ。
「そうですか。ありがとうございます」
とお礼を言いギルドを後にする。
行く当てもなく商店街のエリアに到着する。
当然ながら店はまだどこも開いてはおらず、まだほとんどの店が仕込みすら始まってない。
この場にいても何もすることが無いし、何かが起こる訳でもないので別の場所に移動する。
ある程度飲食店が集まっているエリアに到着する。
どの店に入って聞くか悩んだが、ある程度店構えが良さそうな店を選んで中に入る。
適当に食事を頼んで食べ終えた後
「あの~、ちょっとお聞きしたいんですが」
とアクレア公国について聞いてみると
「なんだい、料理人にでもなりたいのかい?」
と聞かれたが
「観光?あの国にか?やめとけやめとけ。
あの国は料理人を目指す奴にはいい国だが、観光で行こうって奴にはかなり冷たい目で見られるぞ?」
と言われた。
店主によると
「俺が覚えてるのは修行が休みの日に街中に出かけた奴が、街中の人間全員に冷たい対応をされたとかで怒って帰って来たのを見た事があるくらいだから、よそ者は快く思ってないんだろう」
との説明。
「それに朝と午後になんやら街中から祈りの儀式っぽい声が聞こえてきたのを覚えているから、かなり宗教色が強い国なんだろうな」
よそ者に冷たい反応?宗教色が強い?
「そうですかぁ。何か理由でもあるんですかね?」
外部の人間にそこまで冷たい態度を取るとなると、余程の事があるのか?
「流石にそこまでは分からんなぁ。
あ、一つあるとすればあの国は変わった宗教を信仰していて、それが関係してるんじゃないか?
まあ、料理の修行に来ている俺達からすればそんな事柄を気にしている余裕なんてなかったし、あちら側もそういう人間達には普通に接してくれていたが、悪いことは言わないから辞めといた方が良いぞ」
変わった宗教?なんか話がキナ臭くなってきたな。
「思い出した!あの国は<公国>だから、大公様が国のトップなんだ。
その大公様一族の当主を神様扱いしてるような国だったな、確か」
うわぁ、行ったらヤバい感じの国やん!良く帰って来たな、この人。
「そうですかぁ、色々とありがとうございました」
と代金を支払い店を後にする。
「かなり話が怪しい感じになって来たなぁ」
と周囲に誰もいない街中で小声で呟くと
「アクレア公国についてですか?」
とアイが聞いてきた。
「あの話の内容だと、次の目的地に設定するのはかなりのリスクが考えられるからね。
もしかしたら、アクレア公国を通り越して、野宿しながら次の街を目指すって選択肢も個人的には出てきてるよ」
幸い<土魔法を応用して簡易的な小屋を作る>スキルも取得している事だし。
まあ、食事の問題をクリアすれば何とかなる可能性が高いか。
でもアクレア公国を通り過ぎるとなると、どこまで歩くことになるのか想像もつかない。
「こりゃぁアクレア公国の先にある国の情報も仕入れなくちゃいけなくなったな。
でもそんな世界地図は、アイが出してくれる地図以外にはこの世界に無いんでしょ?」
街中を歩きながらアイと雑談していると広場に出てベンチを見つけたので、一旦座って雑談を続ける。
「はい。
貴方が前にいた世界の様に、陸地や島が1つの国として成立しているわけではありません。
それにそんな地図が存在すると仮に国同士の戦争になった際には、その地図が元となり裏切りなどが起こる可能性もありますから、どの国も作りたがらないんですよ」
そうかぁ、そういう事情もあるのかぁ。
「だとすると、アクレア公国の先に別の街や国はあるの?」
と聞いてみると
「そうですねぇ、アクレア公国からもっと先になると<スリングの街>があります。
少なくともアクレア公国の様なミステリアスな感じの国ではないですよ」
と返答が来た。
「アクレア公国からどのくらい離れてるの?」
余りにも離れすぎているとこれまたテンションが下がってしまう。
「アクレア公国とスリングの街までは大体歩いて1日程度でしょうか。
食糧の問題は、この街でお惣菜を買い込んでマジックゲートに収めておけば何とかなると思います。
後は野宿と言う選択肢が吉と出るか凶と出るかです」
う~ん、まあ、その辺はスキルで何とかなるかも・・・いや、楽観的過ぎるか?
雑談している内に陽も傾いてきたので、ハリーに向かい夕食を食べる事にする。
ハリーに到着して中に入る。
注文した料理を堪能した後、お会計を済ませる前にハリーの店主にアクレア公国について別の情報が聞ければと思い聞いてみるが結局昼に入った店の店主の内容は変わらなかった。
お代を支払いアートに戻る。
アートに到着して中に入ると部屋に戻り、椅子に座った後今日集めた情報を色々と整理してみる。
1. アクレア公国はミステリアス過ぎて冒険者は行かない方が良い
2. アクレア公国の先にスリングの街があるが、野宿は避けて通れないがこの街 に行く以外選択肢がない
「ま、次はスリングの街に決定かな。
目的は今の所何もないけど、行ったら行ったで何とかなるでしょ」
と呟くと
「来た道を戻ってキリアナ王国のその先へ向かうという選択肢は考えないのですか?」
とアイに聞かれたが
「いや、それだと2度手間じゃない?
安全性で言えばその選択肢もアリだけど、なんかぁ。
勿論自分の実力を過信なんて微塵もしてないよ?
ただちょっとワクワクする方を試してみたいんだよ」
と説明した。
「分かりました。
そこまで言うなら止めはしませんが、いざとなれば私が貴方の体を操ってでもお助けしますので」
と言われた。
「ありがとう」
と礼を言うと色々と考えていたせいか眠くなってきた。
装備を外してベッドに横になると
「少し早いけどもう寝るよ。おやすみ、アイ」
と言うと
「おやすみなさい」
との言葉と共にこの日は眠りについた。




