第六十九話
金貨輸送任務が終了した翌日。
まあ正確に言うと日付は変わっていたので数時間しか経ってないが・・・
昼前に起きて少しぼーっとしていると、いつもの如く昼食が運ばれてきた。
「昼食を食べて貰った後再度呼びに来ますので、それまでに荷物をまとめておいてください」
と兵士が言い部屋を出ていく。
昼食を食べてプレートを廊下に出した後暫くアイと雑談していると
「失礼します。時間になりましたので広間へお越しください」
と兵士が迎えに来た。
いつもの広間に行ってみると参加した兵士達はほぼおらず、魔導士のみがいた。
「では、これより依頼完了の書類をお配りしますが、その前に再度この依頼に関する注意点をご説明します」
と兵士から今後の注意点について再度説明があった。
と言っても内容はこの城に到着した時に受けた内容とほぼ変わらなかったが、ミハイル親子を襲撃した盗賊が今回の一件で壊滅した事、また盗賊側に魔導士達が数名加わっていた理由がギャンブルにのめり込み過ぎて借金を抱えて、どうにもならなかったと主張していた事などが説明された。
そうか、あの盗賊のグループは壊滅したのか・・・
「最後に1つだけ。昨晩の襲撃には魔導士も数名参加していた事はお話ししましたが、ギャンブルを楽しむのは個人の自由です。
しかし、犯罪に走らざるを得ない程のめり込まない様にどうかお願いします。
この3日間、任務を共にした我々の手で皆さんの中の誰かを捕まえる等という事が無いよう、切に願って今回の依頼の締めとさせていただきます。
本当にご苦労様でした」
と兵士からの説明が終わると共に、それぞれに依頼完了の書類が配られた。
最初に配られた白いローブを返却した後、出口から帰る。
城を出たその足でギルドに向かう。
建物に入って中を見回すとちょうど所長がいたので呼び止めると
「おお、アイカワさんか。丁度良かった、所長室へ来てくれ」
所長室に入ると
「では、依頼完了の書類を」
と言われて、マジックゲートから取り出すと
「うむ、確かに本物だな。
惜しまれるのは今回の盗賊達の中に魔導士が複数名参加していたと聞いてる。
またこのギルドから魔導士資格をはく奪される者が出てしまった。
そこまで追い込まれているのなら、助けを求めてくれれば何か出来たかもしれないのになぁ」
いや、そうかな・・・
「いや、寧ろ本当に助けが必要な時だからこそ、自分の周囲が見えなくなりすぎて
(助けてくれ!)
って言えないんじゃないんですかね?」
と思わず言葉が出てしまった。
「と言うと?」
と聞かれ
「本当に追い込まれてる時って、他の手段を考えたり、一旦落ち着いて周りを見てみるっていう余裕がなくなってしまうと思うんです。
その人が真面目な性格であればある程、弱音は吐けないし。
まあ、今回盗賊側に加わった事は決して褒められた行為ではありませんけど・・・」
個人的な事を言えば、俺も前の世界にいた時はほぼ同じ様な状況だったから追い詰められている人の気持ちは良く分かる。
周囲に自分の本当の状態を知られるのが嫌だし、尚且つ知られた後
(なんでこんな状況になるまで黙っていたんだ!)
と怒られるのも本人としては嫌だろう。
この世界に来る前の俺の状況は一番最初<プロローグ>で書いた通りだが、じゃあその親戚達が俺が相続した使えない畑、或いは売りたくても買取拒否されるような土地を買い取って少しでも俺の負担を軽くしてくれるのか?と聞いても結局
「そんなもんは知った事か!お前がしっかりすればいいだけの話だろ!」
と言われて、頭ごなしに怒られ続けるだけだったろう。
詰まる所自業自得だと言われればそれまでだが、たぶん親族達の心の中では
(負債にも似た土地をこんな奴のせいで背負いたくない)
と考えているのかもしれない。
(まあ、考えすぎかもしれないが)
そんな状況だった俺に限らず、人間追い詰められて周囲が見え無くなると一歩間違えれば誰だって犯罪に走ってしまうかもしれないのだ。
「そうだな、難しい問題だな。
ギルドに出入りしている同じ冒険者とはいえ、少し様子がおかしくても相手が事情を話してくれない事には何も出来ないしな。
それに依頼を承諾する前に少し様子がおかしいからといって
(ギャンブルで追い詰められてないか?)とか(何か悩みでもあるのか?)
とか聞く訳にもいかんしな・・・」
と所長室の中が少し微妙な空気になる。
「取り敢えず依頼料を受け取ってくれ。ギャンブルなんかに使うなよ~」
と冗談のつもりで言っているのだろうが、先程までの空気では苦笑いをするのが精いっぱいだった。
ギルドを後にして注文していた革の鎧の調整のためにあの武器屋に向かう。
到着して中に入ると
「おう、待ってたよ。午前中に試作品が出来上がったんだ。
早速調整してみよう」
と言われ、店の奥へと入っていく。
奥の部屋に入ると、テーブルの上にその試作品とやらが置いてあり
「これがお前さんのデザインを元に作ってみた試作品なんだが、どうかな?
こんな感じか?」
と言われ
「凄い!これです、これ。こんな感じのを探してたんです!」
と思わず歓喜の声を上げてしまった。
「じゃあ、最終調整のために試着してみてくれ。
右わき腹の辺りにあるボタンを外せば、装着しやすいはずだ」
このデカ目のボタンかと思いながら外して装着してみる。
うん。サイズもぴったりだし、両肩を動かしても鎧自体はまだ少しかさばる。
「まだ若干かさばると思うが、残り2日の最終調整で革を少しずつ柔らかくしていくから安心してくれ」
と言うと
「分かりました。しかし凄いですね。
あんな簡単な説明でこれだけの物を作ってしまうなんて」
流石職人!とばかりに褒めると
「本当はこの辺の武器屋はこのくらいの芸当は出来た筈なんだが、代が変わっちまって効率化だのでオーダーメイドを辞めちまってな。
まあ、時代の波ってやつかな」
と店主が少し寂しそうな表情を浮かべながら苦笑いをした。
試作品を外して
「じゃあ、2日後に来てくれ。バッチリ仕上げておくからな!」
と気合十分といった感じで見送られる。
店を出ると夕方になりかけていたのでハリーに寄って、夕食を食べる。
料理を堪能して久しぶりにアートに帰る。
「いらっしゃい。また長期の依頼だったんですか?」
と相変わらず女将さんが優しい笑顔で迎えてくれる。
「はい。なかなか大変でした」
と苦笑いを浮かべながら部屋の鍵を受け取る。
部屋に入ると装備を外して椅子に座る。
前の世界の事を思い出して、少し気が滅入ってしまった。
天井を見上げてぼーっとしていると
「大丈夫ですか?」
とアイに話しかけられた。
「ああ、うん。大丈夫。また前の世界の時の事を思い出しちゃって・・・」
と正直に話しながらベッドに横になる。
「いつもありがとう。気にかけてくれて」
と言うと
「いいえ、礼には及びません。貴方をサポートするのが私の役目ですから」
本当にアイには感謝している。
もしアイがいなかったら、例え大魔導士の素質を持ってこちらの世界に来たとしてもどうなっていたか想像がつかない。
下手をしたら、折角創生神様から与えられたチャンスをあっけなく潰してしまうかもと考えてしまう。
そう考えながら目を瞑って眠る前に
「おやすみ、アイ」
と言うとアイは疲労軽減の魔法をかけてながら
「おやすみなさい」
と言われてこの日は眠りについた




