第六十八話
金貨輸送任務最終日
今日はアイに起こしてもらう前に目が覚めた。
「おはようございます。珍しいですね」
とアイに言われたが
「変に早く目が覚めたな~、なんか変な夢でも見たかなぁ。
何も覚えてないけど」
まあいいや。いつものように魔力精錬の修行の修行するか。
少しの間だけ魔力精錬の修行をした後、兵士が昼食を持ってきてくれた。
「あ、先にご報告しておくと、今日の輸送が終わった後に依頼完了の書類をお渡しします。
その後はお昼までこの部屋でお休み頂いて結構です。
帰る際は忘れ物にご注意ください。一度城を出ると何があっても戻れませんので」
と言って兵士が出ていく。
昼食を食べ終えると廊下のテーブルにプレートを置いて部屋に戻る。
そう言えば革の鎧の試作品は完成しているだろうか?
まあ、(腕は立つ)と言うくらいだから大丈夫なのだろうが・・・
気難しいというくらいだから、もし
(気に入らない作品が出来たら納得いくまで待て)
なんて言われないだろうか?
あ、でもそんな風景はテレビドラマでしか描かれないか。
気にしてもしょうがないので魔力精錬の修行を再開する。
休憩を交えながら続けているといつの間にか時間になっていて
「失礼します。時間です」
と兵士が呼びに来たので馬車に向かう。
馬車に向かうといつものメンバー。
今日が終わればこんな辛気臭い依頼も終わる。
そう思いながら夕食を受け取りマジックゲートに収めると、ローブを着て馬車に乗り込む。
今日も合図も無しに静かに馬車が動き出す。
向かう途中探知魔法をかけるとやたらと街に向かう馬車と遭遇する。
それを兵士に伝えると
「今日はラリムの街をあげて各店でキャンペーンがあるのでそれでかと。
年に2、3度あるイベントで、いつもより大金が集まるので一層気を引き締めてください」
と説明を受けた。
これでは仮に襲撃を受けたらすぐ囲まれてしまうぞ・・・なんて考えていると店の中に到着したのか馬車が止まる。
昨日より人の声が多く聞こえるな。
やはりいつもより盛り上がっているせいなのか。
昨日は酔っぱらいの声が偶に聞こえる程度だったが今日は素面であろうしゃっきりとした声もかなり聞こえる。
よくしようと思うよなぁ、ギャンブルなんて。
個人的にギャンブルをしたくない理由はたった1つ。
のめり込んでしまうと自制が効くかどうかわからなくなるのが怖いからだ。
前の世界では若い頃ゲームセンターに通っていた時期がある。
のめり込んでいたカード系のゲームがあったからだ。
ほぼ毎週色々な店舗を回り
(このカードを引きたい!全国対戦の相手に勝ちたい!)
とか思いながら夢中でプレイしていたが、稼働から3年後には全国から機械が撤去されてしまい、カードだけが残った。
隣県に唯一稼働している機械が残っているらしいが、わざわざそんな遠出してまで今更プレイする気はなかった。
・・・話が少しそれてしまったが、つまりはドハマりしてしまう傾向があるという事だ。
それが直接お金のやり取りになれば尚更怖い。
実際、駐屯地で出会ったボブもそんな感じがした。
まあ、ボブの場合は長い駐屯地任務でストレスが溜まっているせいかとは思うが・・・
夕食をマジックゲートから出してみんなで食べる。
食べ終わる頃に扉をノックする音が。
「失礼します。本日運んでいただく金貨を持ってきました」
いつもより早く持ってきたせいか、室内に緊張感が走る。
念の為心を読むスキルで箱を持ってきたディーラーの心を読んでみたが
(今日は忙しいなぁ。
これで特別ボーナス無しだからやってらんねぇよ、チクショーーー!!)
なんて意見が大半だった。
忙しくて特別手当無しって、それはそれで同情してしまう。
一応全員の心を読んだが、特によからぬ事を考えているディーラーはいなかった。
運び終わると
「もう1度持ってくるので少々お待ちください」
と言い、ディーラー達が部屋から去っていく。
まだあるのか、どんだけ儲かってんだよ。
普通なら(箱の中にどれほどの量の金貨が入っているんだろう?)
とか
(こ、これだけの金があれば一生遊んで暮らせることが!)
等と考えるのが普通なのだろうが、依頼を受けている身としては
(これだけ儲かってるって事は、それだけ夢破れて帰っていく人間達がいる)
と賭けに負けて帰っていく人間達の哀愁の方が容易に想像出来てしまう。
実際どれほどの数の人間達が今日という日にこの街に集まり、どれだけのお金を使い、夢を掴んだ人間、夢破れた人間がどれほどいるのだろう・・・
そんな想像をしながら待っていると、またディーラー達が金貨が入った箱を持ってきて馬車に積み込む。
こんなに積んでしまったら、襲われた時にちゃんとスピードを出す事が出来るのだろうかと思ってしまう。
一昨日、昨日と馬車1台につき2箱程度だが、今日に限っては1台につき5箱もある。
ディーラー達が積み込みを終えて部屋を去る頃には、いつも出発している時間になっていた。
だが、今日はいつもより客が帰る時間が遅いせいか
「今日はもう暫くしてから出よう。
あまりにも客の数が多くて今出るにはリスクがありすぎる」
との判断だった。
暫く待つと客達の声も無くなり、辺りはいつもの静寂に包まれる。
「念の為、出発前に馬車全体に魔法障壁をかけておきましょう」
と兵士に言われて指示通りに各馬車、及び馬にも魔法障壁をかけておく。
「では、出発しましょう」
との声と共に馬車が出発する。
昨日までなら街を出てから探知魔法をかけるのだが、今日に限っては街中を通っている時から探知魔法をかけて警戒する。
周辺の建物に人の反応はあるが、特に怪しい動きをしている反応はない。
このまま城まで何事も無く行ってくれ・・・
ゆっくりと進んで街を出ると
「ここからはいつもの倍の探知魔法をかけてください」
と言われた。
通常の探知魔法でもいけないだろうと精錬した魔力で探知魔法をかける。
今の所は何も引っかからない。
最初の中継地点の家を通過しようとしたその時
「走れぇぇぇーー!!」
と怒号にも似た声が響く。
全員がびっくりした後
「どうしたんです!?」
と俺が兵士に聞くと
「盗賊が待ち伏せしていた様です。
昨日まで通過する時は決まった合図をしていましたが先程通りかかった時その合図をせず、建物の中で剣を構えている様子が見えたので号令を出しました」
と説明された。
覗き穴から外を覗いてみると馬に乗った連中がこちらに向かって走って来る。
「貴方は攻撃で失った魔法障壁をかけ続けて。
アイカワさんは我々が合図を出したら、迫って来る馬に乗った連中をある程度弱い魔法で迎撃してください。
生かしたまま捕まえたいので!」
と言われた。
「次の中継地点も抑えられているとかなりまずいな」
と兵士同士でのやり取りが聞こえてくる間に2か所目の中継地点が迫って来た。
それぞれの馬車が照明弾の様な物を打ち上げると、それに呼応して中継地点も照明弾を打ち上げる。
「良かった。2か所目は制圧されてないぞ!」
と1人の兵士が言ったが
「まだわからないぞ。単にこちらのマネをしただけかもしれない。気を抜くなよ!」
ともう1人の兵士が注意する。
すると2か所目の中継地点の家の中から兵士と魔導士が出てくる。
緊張の度合いがピークを迎えようとしているのがひしひしと伝わる。
もし、この兵士達が裏切って自分達を攻撃してきたらひとたまりもない。
何時でも攻撃魔法が打てるように馬車の中から構えていると、馬車は3台ともあっけなく中継地点を通り過ぎていく。
どうやら2か所目の中継地点は大丈夫なようだ。
かなりのスピードで通り過ぎていく刹那、中継地点に張り込んでいた兵士達と盗賊達との戦いが見て取れた。
城に近づくにつれて馬車のスピードが徐々に落ちていく。
そして馬車からの照明弾を確認した城の兵士達が、馬に乗って戦闘地帯へ疾走していく。
この間にも周辺に盗賊が潜んでいないか、探知魔法をこまめにかける。
しかし街の人間達の反応しかしなかった為、城に着くなり兵士が
「違う馬車に乗り換えて中継地点の援護に行きましょう!」
と全員が違う馬車に乗り換えて2か所目の中継地点の中継地点に向かう。
現場に到着するとまだ戦闘は続いていた様で、兵士側が盗賊達を制圧しつつあった。
どうやら照明弾を見た城からの応援部隊が決め手となったらしく、数で盗賊達を圧倒していた。
中継地点には兵士だけではなく魔導士も一緒に張り込んでいた様で、雷魔法を受けて気絶している盗賊がそこら中にいた。
そしてなんと驚いた事に盗賊側にも魔導士がいるらしく、こちら側の魔導士がかけた魔法を魔法障壁で防いでいる場面にも遭遇した。
しかし数で圧倒されているせいか、魔法を防いだとしても他の兵士に捕まり、結局は生け捕りにされていた。
攻めて来た盗賊達、及び魔導士達は全員捕まり、そのまま城へ連行された。
城へ戻ると
「これで今回の輸送任務は終了になります。まずは部屋に戻って休んで下さい。
誠に申し訳ありませんが、襲撃が起きてしまった関係上依頼完了の書類は明日の昼食を食べて頂いた後にこの広間に集まっていただいた時にお渡しする事になりましたので、よろしくお願いします。では、解散!」
との声が響くと共に魔導士達はそれぞれの部屋に帰っていく。
部屋に到着して装備を外すと勿論ベッドに直行。
「はぁぁ~~、緊張したぁ~~」
と思わず呟くと
「良かったですね。直接戦闘に加わらずに済んで」
とアイが話しかけてきた。
「全くだよ。2か所目の中継地点も制圧されてたらと思うと、今でもぞっとするよ」
と返した。
一気に緊張の糸が切れたとはいえ、このまますんなり眠れる気がしなかったので
「アイ、申し訳ないけど今日は疲労軽減の魔法を久しぶりにかけてくれないかな?」
と聞くと
「わかりました」
と言うと同時にアイが疲労軽減の魔法をかけてくれる。
心がスッと軽くなったような気がした後、少しづつだが眠気が襲ってきた。
「ありがとう。これでよくねむれそうd・・・」
と言い終わる前に寝落ちしていた。




