第六十七話
金貨輸送任務二日目。
アイに起こされて目が覚める。
窓のカーテンをを開けて太陽の光を浴び完全に目を覚ます。
「おはよう、アイ。今どのくらいの時間帯かな?お昼近く?」
とまだ少し眠気が残っている声でアイに話しかけると
「おはようございます。
そうですね、貴方がいた前の世界の時間だと午前11時くらいでしょうか」
と答えた。
「そうかぁ、それくらいか。ならまだ昼食は運ばれてはないか」
そう言いながら扉を開けて顔を出して確認しても昼食は置いては無かった。
扉をそっと閉じて部屋に戻ると
(することも特に無いから魔力精錬の修行でもするか)
と思い、修行を開始する。
暫く修行をしていると扉をノックする音がして
「失礼します。起きてますか?」
と兵士の声が聞こえた。
「はい、起きてます」
と答えると
「では、昼食を廊下のテーブルに置いておきますので召し上がってください」
と返って来る。
「はい、ありがとうございます」
と言い終わる時にはもう兵士の反応はない。
廊下に出て昼食を部屋へ持ち込み、有難く頂くことにする。
起きてしばらく経ってないだろうという配慮なのか、献立の内容はそこまで豪華ではない。
「まあ、起きてからすぐだとこれくらいがちょうどいいんだよなぁ」
なんて独り言を呟きながら食べ終わると、プレートを置いてあった廊下の机に戻しておく。
さて、昼食(朝食?)を食べ終えたは良いがこの後何をするか・・・
昨日は初日とあって夜に備えて睡眠時間に当てたが、先程起きたばかりでしかも食事を終えたばかり。
流石にまた寝るという選択肢はあり得ない。
どうしようかな・・・なんて考えていると
「では、次に訪れる街について考えてみるのはどうでしょう?」
とアイから提案があったので
「そう言えばそうだね。
確かミハイルが言っていたのは<アクレア公国>だっけ?一体どんな国なの?」
とアイに聞いてみると
「この国から北西にある国です。
山間にある国で、国内で自給自足がほぼ完結している珍しい国です」
へぇ、自給自足をほぼ完結かぁ。珍しいな。
「なのでサリムの街の様にほぼ一大農産地が殆どで、観光地の様な派手さはありません
その代わり、周辺の料理人が挙って料理の修行に来ます。
なので料理に関しては他の国よりは楽しめるかもしれません」
んん~~、料理が美味しいのは良いけどなぁ~。
なんかこう、今一つ行きたいという興味が湧かないなぁ~。
「それにこの国へ行く道筋はどこかで見覚えがありませんか?」
とアイに言われて
「へ?道筋?」
画面と睨めっこして少し経つが思い出せない。
「エンシェントドラゴンのスズキさんに教えてあげたルートです」
とアイに言われると
「あ~、あのルートか!そうか思い出した。確かにこのルートだ」
そうか、あのルートか。
「スズキさん。あれからどうなったかな?
誰にも遭遇せずに元のねぐらに帰る事が出来たのかな?」
と言うと
「きっと大丈夫だと思いますよ。
そもそも山脈を通るルートを提示しておいたので、人間はおろか魔物すら遭遇しないで帰れるでしょう」
とどこか誇らしげにアイが言うと
「もしかしたらアクレア公国に行く途中でスズキさんに会えたりして」
と言ってみると
「そうですね、ありえるかもしれませんね」
と返される。
そんな雑談をしている内に時間になったらしく
「失礼します。もうそろそろ時間ですので集まってください」
と兵士が呼びに来た。
「わかりました。今行きます」
と言って鎧と剣とローブを装備して馬車へ向かう。
馬車に到着すると殆どのメンバーが集まっている。
少し経つと残りのメンバーも集まり夕食を受け取りマジックゲートに収めると
「では、昨日と同じ馬車に乗ってください」
と言われ、各々乗り込む。
やはり出発の号令すらなく、静かに馬車が出発する。
馬車は問題なく進み、ラリムの街の建物の中に到着した。
途中、探知魔法に魔物が引っかかったが、こちらに向かってくる気配もなく人間でもなかったので報告だけしておいた。
食事を終えた後、全員無言のまま時が過ぎていく
ただ1つだけ違ったのは昨日と違い、少しだけ外部の音が漏れ聞こえてくる事。
とはいっても、通り過ぎていく人の足音や、酔っぱらいが戯言を言いながら通り過ぎていく時の声くらい。
それでも昨日よりは少し気が紛れる。
偶に興味本位で人の心を読むスキルを発動して、他の馬車のメンバーの心の中を読んでみるが
(早く時間がすぎないかなぁ)とか(ああ、こんな任務受けるんじゃなかった)
とかだった。
みんな考えている事はさほど変わらないんだなぁと思いつつ、俺も時間が過ぎていくのを待っていると
「失礼します。荷物を持ってきました」
と扉の向こうから黒服のディーラー達が昨日と同じく金貨が入っているであろう箱を持ってくる。
積み込みが完了すると
「では、お願いします」
と言い、ディーラー達は去っていく。
そしてまたしばらく待った後、馬車が出発する。
帰りの馬車の中で探知魔法をかけていると反応があった。
魔物の反応ではなく人間で数は3人だけ。
どうやら別の道で馬車に乗っている様だ。
「反応あり!人間で数は3人。こちらに向かっては来ません!」
と報告すると、俺が報告した方向の覗き穴から兵士達が覗く。
遠くの方に微かに灯りが見えるか見えないか程度。
一瞬緊張が走ったが、馬車を操っている兵士が持ってきておいた望遠鏡で確認すると、どうやら向こうも馬車で移動しているらしく、脅威無しと判断され馬車もそのままの速度で城へ向かう事になった。
馬車の中のメンバーも緊張が解けたのか、それぞれがついたため息が聞こえる。
1日目では異様な空気間で気が付かなかったが、2日目の今日は中継地点を2か所程通って兵士達が手話の様な仕草でやり取りをしているのが、覗き穴から見て取れた。
その後も探知魔法に引っかかるものは何もなく、この日も無事に城に到着した。
そして到着するとすぐに部屋に戻される。
部屋に戻り装備を外して一息つくと、カーテンを閉めて椅子ではなくベッドに直行する。
「相変わらず誰も雑談しないんだなぁ。よくみんなあの沈黙を長時間耐えられるなぁ」
ほんと、任務とはいえここまで徹底していると尊敬すら覚えてくる。
よく男性と女性ではああいう空間だと女性は雑談したがると言うが、女性冒険者が参加していた場合どうなるのだろう?
やはり沈黙を保つものなのだろうか?
まあそれすら守れない様な性格だと判断されれば、はなからこの依頼は回っては来ないだろう。
そんなことを思いつつ、次にどんな依頼を受けるか想像してみる。
まあ、実際にはギルドに行ってあの争奪戦に参加してみない事にはどうにもならないが・・・
「次はどんな依頼を受けてみようかなぁ・・・。
普通の(魔物を退治してくれ)とかだったら有難いんだけど・・・」
と呟くと
「そうですね。そんな依頼を勝ち取れれば良いですが」
とアイが言ってきた。
そうだよなぁ、あの争奪戦はオークと対峙するより面倒そうだ・・・
そう思うとなんだか眠くなってきた。
アイマスクを取り出して装着した後
「もうそろそろ寝るよ。おやすみ、アイ」
と言うと
「おやすみなさい」
の声と共に眠りについた。




