第六十六話
案内された部屋で休んでいると
「失礼します。昼食です」
と言いながら、兵士が昼食が乗っているプレートを持ってきてくれた。
「わざわざありがとうございます」
とお礼を言うと
「いえいえ。本来なら城の中にある食堂にご案内するんですが、何分今回の依頼の内容が内容なので」
と言いながらテーブルに置く。
「食べ終わったら、扉のすぐ近くにあるテーブルに置いといてください。
大体陽が傾き始めるくらいになったら呼びに来ます」
と言いながら部屋を出ていく。
昼食を食べ終わりプレートを持って廊下に出てみると小さいテーブルが置いてあったので、その上に置いておく。
ふたたび部屋に戻ると
「そう言えば、今時間で言えばどれくらい?午後1時くらいかな?」
とアイに聞いてみると
「はい。そのくらいです。
呼びに来るのは陽が傾き始める頃と言っていたので、あと3~4時間くらいかと思います」
う~ん、どうしようか・・・
「まだそこそこ時間があるので、少し寝ておいてもいいかもしれませんね」
と言われ
「そうだね。じゃあ、ひと眠りするか」
と言いながらベッドに横たわりひと眠りする。
暫くした後、アイに起こされる。
「お目覚めですか?2時間ほど眠ってましたよ」
と言われ、目をこすりながらベッドから起き上がる。
大きく背伸びをして深呼吸すると、暫く椅子に座りまったりしたりアイと雑談したりした。
そして昼食を持ってきてくれた兵士が言った通り、陽が傾き始めた頃扉がノックされ
「失礼します。もうそろそろ時間です」
とお呼びがかかったので、部屋から出て兵士の後について行く。
ついて行った先には3台の馬車と複数の兵士、魔導士が待機していた。
「まず先に、あちらに到着した後食べて頂く夕食をお渡しします」
と言われ、馬車毎に人数分の食事が渡される。
それをマジックゲートに収めると
「それと身元がバレない様にこれを身に着けてください」
と渡されたのはフードの部分が変わった形をした白いローブ。
「今は羽織る程度でも大丈夫ですが、ラリムに到着した時、仮に戦闘になった時、馬車の外に出る時は頭まで被って口元が見えない様にお願いします」
と説明されて、各々ローブを身に着けて馬車へ乗り込む。
俺は3台目の馬車に割り振られた。
同乗する兵士は駐屯地で治療したあの兵士含めた2名と俺の他に魔導士がもう1人。
出発の号令も無く静かに馬車が動き出す。
馬車の中は誰も雑談などせず、ただひたすら静かな時間が過ぎていく。
まあこれだけ秘匿性を帯びたような任務なら、お互い雑談などで気を紛らわすなどしない方がいい。
変に仲良くなって兵士から疑われても面倒だし。
アイと雑談しても良かったが、流石にそんな気にもなれなかったので敢えて話しかけなかった。
魔物との遭遇も考慮して念の為探知魔法をかけながら進むが、人の気配も魔物の気配もない。
時間の感覚が分からないせいか少し飽き始めているが、暫く進むと外が賑やかになってくる。
どうやらラリムの街に入った様だ。
変に外を見たりすると<田舎者>と思われるのが嫌で気にしないふりを決め込んでじっとしていた。
大きな門が開く音がして馬車が止まると
「目的地に到着しました。まだ外部との接触はないので口元は隠さなくて結構です。
夕食を食べて暫くした後、金貨が入った箱を搬入するのでその際はフードを被り、口元を隠してください」
馬車を降りると既に建物の中にいて、複数のテーブルと椅子、それに簡素な焚き火台が置いてあった。
マジックゲートから夕食を取り出すと、馬車に乗っているメンバーと一緒に夕食を食べる。
歓楽街と聞いていた割には外からの声などは聞こえてこない。
意外だな・・・もっと賑やかでどんなに離れていても外部の音なども聞こえてくると思っていたがそうではないらしい。
食事を終えて出た紙などのごみを焚き火台で焼却した後、暫く休憩に入る。
ずっと会話が無くあまりにも暇なので以前取得した<人の心が読める>スキルをこのメンバーに使ってみた。
同じ馬車のメンバーの兵士達は
(緊張するなぁ。何もなければいいけどなぁ)とか(どれくらいの金額を積み込むんだろうなぁ)等任務に忠実なようだ。
一方魔導士の方は
(あ~、早くこんな任務終わらせてまたギャンブルに行きたいなぁ~)
・・・ってアカンやん!
それに“また”って事は、アンタがここで使ったお金の一部を城に献上する為に運んでる事になるやん!
この街でギャンブルを楽しんでる人間がこの依頼に参加したらダメなような気もするけど・・・
人選は本当にこれで大丈夫か?
まあいいや。このスキルはここで止めておこう。
少しすると扉をノックする音が聞こえた。
休憩中、既に全員がフードを被り、口元も隠している状態だったので兵士の1人が扉を開ける。
「お疲れ様です」
と扉を開けた男性が一言言うと、如何にもカジノの<ディーラー>みたいな恰好をした男性数人が、木箱を何個も大事そうに抱えて持ってきた。
それぞれの馬車に木箱を積み込むとディーラー達は
「ではよろしくお願いします」
と言い、去っていく。
「積み込みは終わりましたが、まだ朝まで時間があるのでここで待機します。
もう暫くしたら街から人がいなくなるので、その時に出発します」
まだ、待機なのかよ。
こういう場合、雑談すら出来ないのが一番辛い。
と言うより、外部の音や変化がなく時間が過ぎていくのが辛い。
何かしら外部からの音などが入って来るだけでだいぶ精神的には違う。
前の世界で派遣の仕事をしていた時にそれに近い体験をしたからだ。
あれ程キツイものはない。
なんなら体を動かしているよりある意味辛い。
派遣先の現場に朝行ったはいいものの、取引先で荷物を積んだトラックが午後まで到着せず、ひたすら待っていたという記憶がある。
(あの時は本当に辛かったなぁ)
なんと思い出しながらひたすら時間が過ぎていくのを待っていると
「では、そろそろ出発しましょう。
魔導士の方は街中でも探知魔法をかけて頂き、変に集まっている集団や、この馬車をつけてくる集団がいたら報告をお願いします」
と兵士が言い、それぞれ馬車に乗り込む。
馬車が出発すると来た時に聞こえていた賑やかな人の声や音は、ぱたりと聞こえなくなっていた。
どうやらすべての店は閉店して、街からも人はいなくなっている様だ。
指示通り街中であっても探知魔法をかける。
変に大人数で集まっている集団や、こちらに向かって移動してくる集団は確認できない。
定期的にその事を報告しながら、馬車は城へと向かっていく。
一先ず何事も無く馬車が城へと到着すると出発した場所と同じところで降りる。
「では、魔導士の方々はこれで今日の任務は終了です。
各自自分の部屋に戻っていただきお休みください。
昼時になったら食事を扉の外にあるテーブルに置いておくので、召し上がっていただければと思います」
と言われ、俺達魔導士は自分の部屋に帰っていく。
部屋に到着して装備を外すと、それまで張っていた緊張の糸が切れて一気に気が抜ける。
「はぁぁ~~、やっと終わったぁ。これをあと2日間もかぁ~~」
と呟くと
「お疲れさまでした。だいぶ辛かったようですね」
とアイが話しかけてきた。
「ほんとキツかったよ。なにせ雑談したり、不用意に外を覗けないのが何よりキツイ。
まあ、依頼の特性上しょうがないんだけど・・・」
と外を見るともう夜が明けていた。
「もう夜明けか・・・カーテンを閉めても眠れないだろうから、久々にアイマスク使うか・・・」
マジックゲートから久しぶりにアイマスクを取り出し装着してベッドに横たわる。
「ごめん、アイ。お昼近くになったら起こしてくれないかな?」
と聞くと
「分かりました」
流石に自分で起きれる自信はないのでアイに起こしてもらう事にした。
「おやすみ、アイ」
と言うと
「おやすみなさい」
と言い終わる前に寝落ちしていた。




