第六十二話
翌日、朝目覚めて魔力精錬の修行を終えた後応接間に通された。
そこにはサリム子爵と娘のヒルダが座っていた。
「おお、アイカワさん。おはよう。
朝食の前にそれぞれ自己紹介しておいた方が良いかと思ってね。
改めて紹介しよう、娘のヒルダです」
とミハイルに紹介されたヒルダがお辞儀をすると
「ヒルダ・サリムです。よろしくお願いします」
と聞こえるか聞こえないかくらいのか細い声で挨拶をした。
人見知り感ハンパないなぁ。
ちょっとだけ親近感が湧いてくる。
「アイカワ ユウイチです。こちらこそよろしくお願いします」
とこちらも自己紹介をすると
「初めに聞いておきたいのだが、今日と明日行っていただく訓練の流れをお教えいただけるかな?」
と聞かれ
「訓練といいますか、まず初日は椅子に座ったまま目を閉じて頂き、精神を集中していただきます。
それを休憩を挟みながら何度か繰り返していただいき、何か自分の中で感覚を掴んできたら、次の日の終わり間際に両の掌を上に向けた状態にしていただき、同じく精神を集中してもらい魔力が目に見える状態で発生したら、例えば両手が光ったりすれば素養があると判断されます。
但し、ある一定のレベルと言いますかその時本人の中で発現出来た魔力の量によっては魔法の使用、及び以降の訓練をオススメ出来ない可能性もあるので、その辺りはご了承いただければと思います」
前日、寝る前のアイとの雑談の中で魔力があるかどうかを確かめる訓練の内容は予め聞いておいた。
「なるほど。では、家の中でもその訓練は可能という事ですな?
では、訓練を行う際はこの部屋で行う事にしましょう。
あとこんな事を言うのは何だが、訓練の際に男性の執事と侍女を1名ずつ同席させてもらっても構わないかな?」
と聞かれ
「はい。大丈夫です」
と答えた。
大事な一人娘にちょっかいを出させない為なのだろうが、俺はそんな風に見られてるのか?
いや、経済的に余裕がある親なら大概はそうするか。
「皆様、朝食の御準備が整いましたので食堂へどうぞ」
と初老の執事が言うと
「おお、そうか。では行くとするか。アイカワさんもどうぞ」
と全員で食堂に向かう。
朝食は比較的軽めの内容だったが、個人的にはお腹がいっぱいになる程だった。
こんなに食べて、訓練中俺も含めて眠くならないかなと少し心配した。
食後の休憩を挟んで、先程の応接間で早速訓練を開始することにした。
応接間に戻ってくると、別の若い男性の執事と若い侍女が1名ずつ待っていて、俺とヒルダはテーブルを挟んで向かい合うようにソファに座る。
「では、早速始めましょう。
とは言っても朝食の前に説明した通り、目を閉じて意識を集中するだけですから。
あと私が教わったのは立った状態で行うんですが、変に緊張したり、体に力が入るとなかなか上手くいきませんから、このまま座った状態でこまめに休憩を取りながら行いましょう」
と言うとヒルダは返事をせず、(うんうん)と2度程頷いた。
「では、目を閉じて意識を集中してみましょう。
どんなに小さくても構わないので、自分の体の中に丸い光の玉を作り出すイメージをしてみてください」
と俺が言うとヒルダは目を閉じて、じっとした状態になる。
魔力の素養があるかどうかは分からないが、1発目から出来る事はないだろう。
様子を見ていると緊張しているせいか、体が少しこわばっているように見える。
こんな感じじゃ望み薄だな、と思いながら休憩を入れて、再開してを繰り返しているとお昼になる。
昼食を食べて少しした後、再開した。
食後の休憩が終わり再開すると、慣れてきたおかげかこわばりが無くなった様に見えた。
流石に訓練に集中している間中ヒルダをじっと見ているわけにもいかず、執事の方達と雑談をする訳にもいかないので、下を向いてみたり、とにかくヒルダへ目線がいかない様にしていると、少し違和感を感じる瞬間があった。
あれ?今一瞬ヒルダの体が光ったような気が・・・
窓から入って来る逆光で見間違えたかな?と思ったところで休憩を兼ねたティータイムに入る。
「何か掴めてきましたか?」
と俺が聞いてみたが
「い、いえ。集中することに必死で何も・・・」
と相変わらずか細い声で答える。
やっぱりあの時の光は見間違いだったかな?
と思いながらティータイムを終えてまた訓練を再開するが、その後もあの時見た光を見る事は無かった。
「では、お疲れさまでした。今日の訓練はこれで終わりです。
お部屋に戻ってゆっくりお休みになってください」
と言うと、ヒルダと執事と侍女がお辞儀をしてヒルダを先頭に部屋を出ていく。
そして俺も自分の部屋に戻った。
部屋に戻り椅子に座って一息つく。
椅子に座って暫くまったりしていると
「失礼します。夕食の準備が整いました。食堂へどうぞ」
と執事の男性が来たので
「分かりました。ありがとうございます」
と言って食堂へ向かう。
俺が食堂に到着すると同時にサリム親子も同じタイミングで食堂に到着する。
3人がほぼ同時にに着席すると料理が運ばれてきた。
食事が運ばれる間、ミハイルが
「どうかな?ヒルダ。なにか今日は何か掴めたかな?」
とヒルダに問いかけると首を横に振って否定した。
俺は苦笑いをしながらそのやり取りを聞いている。
やっぱり空振りかな。だが実際ミハイルはその方が安心するだろう。
食事が終了した後、先にヒルダが部屋に戻る。
俺とミハイルの2人になった後
「アイカワさん、今日はどうだったかな?
ヒルダは魔法が使えそうな気配はありましたかな?」
と聞いてきたが
「いや、流石に1日では何とも言えません。
それに本来2日と言わず、もっと日数をかけて判断する事なので。
明日の終わり間際に1度子爵様にご同席頂いて簡単な試験を行います。
それで何もなければ、ひとまずそれまでという事になると思います」
と正直な感想を言うと
「そうですな。そうしていただけるとありがたい。
それに、例え魔法の素養があったとしても、領主の父親としては手放しに喜べる事ではないですしな」
そりゃそうだ。
何不自由ない暮らしをさせている大事な一人娘が、魔法の素養があるとはいえ魔導士にさせたいなんて親は、そこまで多くないだろう。
「ごちそうさまでした。では今日はこれで」
と言い席を立ち、部屋に戻る。
部屋に戻る。すると
「少しよろしいですか?ヒルダさんについてですが」
とアイが話しかけてきた。
「どうしたの?」
と椅子に座りながら返すと
「午後の訓練で逆光と見間違えた瞬間がありましたね?
あの時間違いなくヒルダさんから魔力を感じ取れました」
と驚きの発言が出た。
「マジで!?」
と驚くと
「はい。
ただ本当に微かな反応だったので攻撃魔法にせよ、回復魔法や補助魔法にせよ、これから本格的に修行したとしても魔導士として実戦に出るまでには至らないと思います」
マジかよ・・・あの光は本当に魔力だったのか・・・
「それならそれでいいんじゃないか?
魔法がほんの少しとはいえ使えると分かれば本人も喜ぶだろうし。
それ以上は俺の出番は流石にないでしょ」
ミハイルも父親として魔導士になってほしくないだろうし、あんな引っ込み思案な性格なら
(世に出で冒険者になりたい!)
なんて思わないだろう。
「まあ、何にせよ全ては明日さ。
それにもし魔導士になりたいなんて言い出したら、アイが言った
(実戦に出るまでの範囲ではないし、これから修行しても実力は伸びない)
の一文を俺が言うしかないし」
そうしないとミハイルさんがショックで気絶しちゃうよ」
と言うと
「そうですね。それが1番かと思います」
アイが返す。
「もうそろそろ寝ようかな。何となく気が重いけど」
と言いながらベッドに横たわる。
「おやすみ、アイ」
と言うと
「おやすみなさい」
のアイの一言と共に眠りについた。




